蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH ~まだ私は、ここにいる~   作:鳳慧罵亜

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序章 ~にちじょう~

西暦2148年。平和はここに訪れたのだった。

2年前のあの日、勝ち取った平和。

 

4人の若すぎる戦士たちとと、1人の少年が命懸けでもたらし、手に入れたもの。

それは尊く、誰もがいつまでも続くと信じ、続いて欲しいと願った、僕らの勝利の証。

 

それは、この日静かに、そして唐突に音をすら立てずに、崩れていったのだった。

 

――――

 

日常。

 

いつもと同じ日常。

 

いつももと同じ風景。

 

いつもと同じ生活。

 

それには何一つ例外は無く此処、喫茶『楽園』も同じであった。正午を周り、客入りがピークを迎える時間帯。この店に働くの店員は3人。なんとかギリギリで回しているのだった。

 

「お待ちどう様、一騎カレーです」

 

そう言いながら訪れた客にカレーを渡している彼女、遠見真矢も同じいつもの風景の一コマである。1年ほど前から、この喫茶でアルバイトをしている。2年前、島に平和をもたらしたあまりにも若き戦士の一人だった。

 

「ヘイよ、米茸2セット」

 

キッチンで作り終えた料理をカウンターに置いた溝口恭介。この喫茶楽園のマスターである彼も同じである。

 

「溝口さん、追加ね」

 

真矢はそう言うと、溝口が「えぇ!?」と驚くのをよそに、品を客人へと持っていく。

 

そして一騎カレーの「一騎」の由来である人物は、溝口の隣で瞳を閉じながら、手探りで目当ての品を探している。

 

「一騎カレー2セット追加ぁ!」

 

溝口の声に一騎は呆れながら「やめてくださいよ」と言うが、溝口は笑いながら、「お前がウチの看板なんだよー」と言う。彼こそが真壁一騎。島を守るために戦い、島を守った親友の帰りを待ち続ける少年だった。

 

そして確かに一騎は、家の事情から料理が得意である。が、一騎をからかう溝口の余裕は真矢の一言で脆くも崩れていった。

 

「溝口さん出前。アルヴィスに」

 

後ろで電話を取りながら無情にもはっきりとした口調で言った真矢に溝口は先ほどよりもさらに驚いた表情をして振り返った。

 

「えぇー!?」

 

だが、出前ではしょうがないのか、しぶしぶ「今日は祭りもあるってのにー」と言いながら、店をあとにし自転車をこいでいく。

 

―――――

 

「待ってましたよ。溝口さん」

 

アルヴィス……楽園の内側にして真実の場所へと出前を届けた溝口を待っていたのは一人の少年であった。

中性的な顔立ちをしていて、年齢は先ほどの真矢や一騎達とさして変わらない。彼はアルヴィスの特徴的な白い制服に身を包んでおり、柔らかな表情で溝口を迎えている。

 

彼もまた本来はいつもの風景の一コマでなければならない人物だが、いっそそれにふさわしくない場所にいる。その理由は溝口もすでに承知していたのだった。

 

「出前をよこしたのはお前かよ」

 

げんなりした表情で溝口はそう言いながら、肩にかけた出前のカレーを降ろす。

 

「緊急会議だそうです、おかげで仕事をサボる羽目になりましたけど」

 

「お前は何時もサボってるじゃねえか」

 

少年の言葉に溝口は呆れたような口調で返したが、彼は「サボっているんじゃありませんよ」と返した。

 

「ちゃんと「こっち」の仕事をしています。まあ、何はともあれきてください。全員、集まっていますよ」

 

少年。レイ・ベルリオーズと溝口は表側からは想像もつかないような、機械的な明るさの通路を歩いて行った。

 

―――――

 

溝口が出前に行った後の楽園。溝口と入れ違いになり、その中のいつもと同じ人影が何時もの様に、何時もの場所へと歩いていく。

 

「今年度U計画の最終確認を行う」

 

その中にいる4人の中で、最も凛とした雰囲気を持つ少女、羽佐間カノンはいつもと同じようにいつも仕事をサボる人物を待ちながら、いつももと同じ人たちと、いつももと同じ場所でいつももと同じ仕事をしていた。

 

「今年は盆踊りに、若干の変更がある」

 

此処は竜宮島。彼女たちが住んでいる家であり、楽園である。

 

「と、その前に……」

 

此処でカノンは言葉を区切り、目の前にやってきた人物を見た。そのあとカノンを先頭に、何時ものメンバーである堂馬広登、姉弟の西尾里奈、西尾輝も続く。

 

「メロンソーダと一騎ケーキ」

 

「レモンティーと一騎プリン」

 

「一騎カレーセット。番茶で」

 

「一遍に言わないの」

 

真矢はそう言いながら、受けた注文を全部紙に書いていく。

 

「忙しいのに、学校でやりなよ」

 

ピークを過ぎたばかりの喫茶店をそう表する真矢。だがカノンは「生徒会は此処でやる決まりだ」と一蹴してしまった。

 

「近藤君とレイ君来て無いじゃん」

 

ジト眼の真矢の発言にカノンは得意げに

 

「議事は副会長の私に一任されている。」とかえした。

 

「ウチの会長は、何時もの所ッス」

 

広登もそう付け足すが真矢は「レイ君のフォローはしないの?」とカノンにたずねた。

 

「あいつのサボり癖は何時もの事だろう。」

 

と少し寂しそうに言った。レイと言う人物は溝口をアルヴィスへ呼んだ少年である。カノンとは2年前くらいから、交際をしているのだが彼のサボりには少し呆れている。

 

カノンとレイは同じアイルランドのタブリンで生まれた、いわば幼馴染でお互いのことは知り尽くしているつもりだった。

 

故郷が滅び、それからずっと人類軍として戦ってきたカノンに対し、レイは最初はメカニックとして、ある人物に師事しそこからパイロットとして戦ってきたのだ。

 

そして2年前、ある作戦で彼女たちはこの島にやってきた。

そこから、彼女たちはずっとこの島で、島民たちとともに過ごしてきたのだった。

 

彼女、羽佐間カノンもまた、しまに平和をもたらした若すぎる戦士のひとりでもある。

 

そして、実のところ彼がずっと生徒会の仕事をサボっているのはカノンのためだったりするのだが、彼女は知らない。

 

そして、レイが会議中にくしゃみをしたのは、知る由も無い。




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