蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH ~まだ私は、ここにいる~   作:鳳慧罵亜

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悲劇 ~かべ~

「止めを刺せ!!」

 

島を襲来したフェストゥムの最後の一体が消滅する。だが、ファフナーの搭乗者や、CDCにいる大人たちは、顔色が優れる気配を見せない。

 

生い茂った木々は焼け野原と化し、どこか懐かしさを感じさせる町並みは、もはや見る影もなく勝利と言うにはいえない、そしてまたフェストゥムは来襲するのだから。

 

「っく……!?」

 

一体のファフナー、マークヌル。右腕にはたいした損傷は無いが、左腕に裂傷があり、背部のスラスターが曲がったり、凹んだりしている。だが、何よりその搭乗者に異変が起きていた。

 

―――目眩、頭痛に平衡感覚の乱れ……一時的なものであれば良いのだけど―――

 

レイ・ベルリオーズ。彼は、自分の身に起きた異変に戸惑いを覚える。なぜなら、他のメンバーは、自分のようにめまいに襲われたようなそぶりを見せないのだから。

 

それは、1つの悲劇へのプレリュードであった……。

 

――――

 

「敵の消滅を確認!」

 

「敵の攻撃時に生じる物質が、システムに重大な負荷をもたらしたとの報告が」

 

「コア殺しの敵か……」

 

ジェレミーの報告に、溝口は唸りながらそういった。システムへの負荷は、成長期に入ったコアに負担をかけて行き、しに至らしめることは容易に想像できる。

 

「―――ッ!?」

 

不意に真壁史彦は後を見た。そして、

 

「あの子?」

 

そんなことを呟く。ソレが何を意味するのかはその言葉を放った史彦にすらわからない。

 

「―――ッ!?ゴホッゴホ……!」

 

「真壁!?」

 

史彦は急に口に手を当てて、むせたかのように「せき」をした。

 

「SCコード……島に等しい存在……」

 

血に濡れた手を放し、言葉を紡ぐ。その額には脂汗がにじみ、史彦がどんな常態化を無言のうちに語っている。

 

「島に生かされたイノチ……ッ!!」

 

 

 

―――ガタン―――

 

 

 

「要さん!!」

 

突然、要澄美が椅子から、倒れこむ。ジェレミーが駆け寄るが、要は「大丈夫」と』答えた。

 

だが、異変は続く。

 

――――

 

ファフナーブルグ

 

 

「母さん!!」

 

ブルグにカノンの悲痛な声が響く。彼女の母親、羽佐間容子が倒れたのだ。

 

「意識が無い!誰か、すぐに救護班に連絡を!」

 

整備班の一人が、駆け寄り、救護を求めた。カノンは口元に手を当て、おびえるように母を見つめることしか出来なかった。

 

―――だが、響きだした序曲はやむことは無い。

 

カノン、はある違和感に気づいた。

 

―――レイは!?―――

 

本来なら、彼が倒れた容子に真っ先に駆け寄り救護を求め、カノンに励ましやら、何らかのアクションをするはずだが、今は声すら上がらない。

 

「レイ!!」

 

カノンは彼の名前を呼ぶ。なぜ、肝心な時にいないのか。今、彼の傍にいたい。出ないと心が押しつぶされそうに―――

 

 

 

 

            

      どさっ

 

 

 

 

 

その音は、カノンに新たな悲劇を宣告したのであった……。

 

――――

 

「…レ……イ…?」

 

カノンが目にしたのは、マークヌルの前で倒れこむ人影。

カノンは嘘だと思いたかった。嘘だと、これは夢なのだと、だが、ファフナーの搭乗者の証である、シナジェティックスーツに淡い金色の髪が、カノンに真実を告げ、その身の高鳴る心の臓の鼓動が、夢ではないとささやくのだった。

 

「レイ!!」

 

カノンはレイに駆け寄り、彼を抱き寄せる。彼の額には脂汗がにじみ、どこか中性的な顔立ちは、苦痛にゆがんでいた。

 

「レイ!しっかりして、ねえ!」

 

救護班は、現在手一杯で、容子を搬送したりも含め、来るにはもう少し時間が掛るだろう。だが、カノンにはそんなことはどうでも良かった。

 

ただひたすらに、涙を流し、彼の名を呼び続けた。

 

 

――――

 

医務室

 

医務室には真壁史彦と遠見千鶴が向かい合って、座っていた。

 

「フェストゥムが、発する物質には、核と同じ毒素が含まれており、ソレは今後、島民の多くに発祥すると考えられます。また、フェストゥムの因子を持つ子供達やファフナーのパイロットに発祥の傾向は見られなく、逆に因子を持たないレイ君は例外的に、発祥したものと思われます」

 

千鶴はいったん言葉を切り、注射器のようなものを取り出す。

 

「本来、ファフナーとの一体化を促すために、意図的に同化現象を起こす薬ですが、今はこれ以外に症状をとめる術はありません」

 

千鶴の言葉は段々小さくなってゆく。だが、史彦はひるむ様子もなく

 

「お願いします。千鶴さん」といった。

 

その目に、迷いはなく、その目を見た千鶴は顔を伏せ

 

「貴方が生きられるのなら、いっそ、あのフェストゥムの言うとおりにしたほうが言いと、思ってはいけないのに、どうしても……ッ」

 

そういう千鶴の声は震えていた。注射器をもつ手も震えている。その手にもう1つ別の手が添えられた。真壁史彦である

 

「希望はあるはずです」

 

史彦は言った。

 

「我々のコアの導きに、従いましょう」

 

その目の先には、一人の少女の写真が移されていたのだった。

 

――――

 

医務室

 

―――ピ―――ピ―――ピ―――

 

機械的な電子音が響く中、カノンはベッドに横になっている人影を見つめていた。

 

だが、彼は布団の上で眠ったままである。頬は青白くなり、呼吸器はつけられていないものの、その呼吸は不安定であった。

 

 

 

『カノン』

 

出撃前の会話が、カノンの脳裏を横切った。

 

『カノン。調子はどうですか?』

 

『好調だが、どうかしたのか?』

 

『いや、悪くないんならいいんです。……それじゃ、行きましょう』

 

――――

 

あの時はただの発進前の普通のやりとりに感じた。だが、今思えばあの時、レイはおかしかった。

なにかこう、けがを隠しているような、そんな感じで。

 

「……っ」

 

なぜ、もっと早くにかがつかなかったんだ!私が早く気が付いていれば、出撃させずに医務室に行かせ、検診を受けさせることだってできたはずなのに!

 

……なぜ……

 

今のカノンには自責の念が強くのしかかっていた。自分がもっとよく見ていれば、と。だが、そんなことをしてもレイの調子が良くならないのは分かっている。だが、理屈と感情は違った。

 

「くそっ……」

 

そんな中、個室のドアが開いた。

 

「カノン?」

 

「カノン!此処にいたのかよ」

 

それは剣司と咲良だった。その様子から、先ほどからずっとカノンを探していたようである。

 

「レイは……まだ悪いみたいだね」

 

「この野郎……。体調管理は怠るなっていつも俺たちに言っておきやがって……っ」

 

二人も、レイのことが心配なことは見て取れた。剣司は拳を握りしめ、咲良は車椅子に座りながらも顔を伏せている。カノンは二人を見て、ぎこちなくだが笑った。

 

「二人とも、心配かけて済まない。私も、少し休むとしよう。レイが起きた時に何を言われるか解らないからな。」

 

カノンはそう言って、医務室を後にした。それを見ていた剣司と咲良は心配そうに見つめていた。そして、ベッドに横たわる人物を見る。

 

「レイ……起きるといいね」

 

咲良の言葉に、剣司はこう返す。

 

「起きるさ、俺たちがこの戦いを終わらせればな、その時には散々文句を言ってやるさ・・・・・・」

 

剣司の言葉は決意に満ちていた。仲間を失う辛さは、あの時だけで十分だ。そのために力をつけてきたのだから。




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