蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH ~まだ私は、ここにいる~   作:鳳慧罵亜

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想い ~さいかい~

真壁一騎は来栖操と、共に水中展望室を訪れていた。理由は簡単。来栖が見たいと言ったからである。

 

来栖はガラスに手を当てて、食い入るように見ている。

 

幾許かの時間がたったとき、椅子に座っていた一騎は来栖に声をかけた。

 

「なんで、お前は総士を助ける」

 

その問いに、来栖は振り向き、一騎に一歩歩み寄る。そして、無邪気な笑顔を浮かべ、こう答えた。

 

「ずっと探してたんだ。俺意外に、空が綺麗だって想う存在を」

 

そこまで言うと、一旦言葉を切る。そして、また笑顔を浮かべ、

 

「そうしたら、彼がいた」

 

そういった。その言葉に一騎は戸惑ったような口ぶりで、「お前は想うのか?」と言った。

 

「空が綺麗だって」

 

「うん」

 

来栖は頷き、両手を広げた。

 

「君もそう想うでしょ」

 

そういう来栖の顔は活き活きとしている。まるで、それが生きがいだと言わんばかりの表情だ。来栖の言葉を聞いた一騎は、少し、顔を伏せる。

 

「俺には、もう空が見えない」

 

「……え……」

 

「もうじき、何も見えなくなる」

 

そこまで一騎は言うと、顔を上げ、と右手を前に翳す。

 

「代わりに俺の指は、ソコにあるものを伝えてくれる」

 

その口ぶりは、以前自らの存在を、"指”にたとえた来栖に言い聞かせようとしているようでもあった。

 

「…………」

 

来栖は口を開けて、何も言わなかった。目を丸くし、驚いているようにも、困惑しているようにも見える。

 

「ずっと考えていたんだ」

 

一騎は言葉を続ける。

 

「総士がお前に望んだのは、何だったのかを」

 

其処まで言った一騎は、椅子から立ち上った。

 

「お前が、お前達のミールに伝えるって事なんじゃないか?」

 

「伝える?なにを」

 

来栖は、一騎が何を言おうとしているかが判らないといったそぶりで一騎に訊いた。

 

「お前達に平和なんて、作れない。痛みから逃げて。全部、誰かのせいにして……!」

 

一騎の脳裏には、過去の出来事が鮮明に写っていた。

 

―――フェストゥムと共に自爆した、黒髪の病弱な少女―――

 

―――自らもフェストゥムになってまで、俺達を助けてくれた茶髪の少年―――

 

―――自分の大切なものの為に、その命を散らしたバンダナの青年―――

 

―――今の平和があるのは、あいつらの命と引き換えに、仲間達と痛みを分けて、手に入れたものだ。それをお前達は知らない。

 

「本当に痛みを消そうなんて、考えてない」

 

一騎の言葉に、来栖は少し、怒ったような、戸惑ったような口調で、こういった。

 

「俺の、役目は君たちに選ばせることだよ!」

 

それにも一騎は臆することなく、一歩前に踏み出す。

 

「お前は何を選ぶんだ?」

 

「!?」

 

一騎の言葉に声を詰まらせる来栖。彼の胸、心の蔵がある位置に、一騎の指が置かれた。

 

染色体を持たない、人を模した人形。それでも、その鼓動を、一騎ははっきりと感じた。

そして、その口を開く。

 

「『おまえは、そこにいるのか?』」

 

その問いは、フェストゥムの問いと重なった。それは、来栖に大きな衝撃を与えたのだった。

 

「おれ、は……」

 

――――

 

日を追うごとに、戦いは激しさを増していった。激しくなればなるほど、消耗も激しくなる。もはや島には、戦いが始まる前の半分以下の自然しか残されておらず、地形も変わっていった。

 

マークツヴォルフの射撃で、金色の敵は崩れ落ちる。其処に、広登の駆るマークフュンフが駆け寄ってきた。

 

「大丈夫か!?芹!」

 

広登の掛け声にも、彼女は応じず、芹は呆然とした表情で、虚空を見つめていた。

 

「なんていってるか、やっとわかった……」

 

「芹……」

 

芹は、以前よりフェストゥムが、ダメージを受けたときに発する、声にならない声を聞き取って、何を言っているのかを知ろうとしていた。剣司やカノン、真矢を含めたパイロット全員が築いていない中で、彼女はただ一人、それを聞こうとしていたのだ。

 

「いたい。たすけて」

 

『いたい。たすけて』

 

芹は、その声を訊き、独り言のように半濁する。その目には涙が浮かんできていた。

 

「なら……楽にしてやれよ!」

 

広登はまだ、ぼろぼろになりながらも、消えない敵に止めを刺す。それは苦しんでいるものに対する慈悲なのか、傲慢なのか。

 

「あ、あああ……あああああああああ!!」

 

消滅するフェストゥムを見てか見ずか、時をおかずに芹は事線が切れたような泣き出した。

 

「な、泣くなよ……」

 

いきなり泣き出した芹に戸惑う広登。それでも、芹は泣き止むことはなく、その声は大きくなってゆく。

 

「蒼い穹が見たいよぉ……!」

 

それは、この島にいる全ての人間が想うことであった。一分、一秒でも空を被う、雲を振り払い、真っ青な大空を夢見るのだ。

 

はたして、その空を見ることが出来るのはイツなのだろうか―――




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