蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH ~まだ私は、ここにいる~ 作:鳳慧罵亜
「―――これいじょう俺に何を伝えろって言うの!?」
「戦いたくないって言う、お前の気持ちは伝えてるのか?」
アルヴィスの最下層、ウルドの泉。ワルキューレの岩戸と、背中合わせに存在しており、北欧神話に登場する浄化の泉が由来で、「フェストゥムとの戦いに終止符を打ち、地球を清める」という願いが込められている。
その中を、来栖と一騎は歩いていた。
「無理だよ、ミールは君たちで言う、神様なんだ。神様には逆らえない……」
いつかと同じように諦観の言葉を吐く来栖は
一度、足を止め、こういった。
「ねえ、コアが死んでしまうよ」
それを聞いた一揆は振り返り、足を止める。
「俺達は、人とは戦わない。お前達と一緒に世界中と戦うなんて、望まない。そんなことをしたら、それはもう俺じゃない!」
人とは戦わない。それは彼の父親、真壁史彦が言ったことと、同じであった。彼の信念は、一騎に受け継がれていたのだ。
「俺だって……」
来栖は一騎の言葉に顔をそらし、
「君のいうとおりにしたら、もう俺じゃなくなるよ……」
そういったのだった。
――――
戦いが終わり、朝を迎えた竜宮島。雲に覆われ、日は見えず、ただ時だけが、朝と夜を伝えてくれるだけで、島ももはや、見る影が無いほどに朽ちている。
――――
現在戦闘区域から外れている向島。自然も殆ど残っているその山に、一人の少女がいた。
彼女は立上芹。彼女は森が割れ、ちょうど海が見える位置で、土で出来た山の頂上に石を挿したようなものを作っていた。芹が立ち上がると、彼女の周りには同じようなものがいくつも並んでいた。その土の山の形と数は、とある場所を連想させる。
それを眺める彼女の顔は暗いものだった。
「驚いたな」
「え……」
芹はその声に驚き、振り向いた。彼女の前に立っていたのは、真壁史彦だった。史彦は土の山を見て、こういった。
「敵との対話を望んだものは知っているが、敵の墓標を作ったものは、初めてだ」
そう、芹が今まで作っていたのは敵、フェストゥムの墓だった。彼女は、今まで自分が倒したフェストゥムの墓を作っていた。
史彦の言葉に、芹は顔を伏せた。
「乙姫ちゃんは敵にも伝えようとしてました。みんなの悲しい気持ちを……」
そういって彼女は、さらに顔を伏せる。
「でも私は、何も出来なくて」
そして、史彦と同じようにフェストゥムの墓を見て、言った。
「変ですよね。こんなの」
「いや」
史彦は芹の言葉を否定した。そして驚いたような顔をする彼女をみて、口を開く。
「見方の市は背負うことが出来る。だが、敵の死は、刻み込むしかない」
そこで一旦史彦は言葉を切り、もう一度、墓標を見る。
「永遠に」
「真壁指令……人間とも戦ったんですよね」
芹は顔を上げ、史彦を見た。
「あの、私に用があってきたんですか?」
「おそらく君にしか、出来ないことだ」
――――
ワルキューレの岩戸。島のコアが眠る場所。そして、芹にとってはなじみのある場所でもあった。
その中を歩む、白い布を羽織った芹。その後で、彼女から生えているコードを持つ、堂馬広登、西尾里奈、西尾輝。その後に遠見千鶴と真壁史彦。そして、剣司を初めとするファフナーのパイロット。
―――私、怖くないよ。乙姫ちゃん。
芹の脳裏にあのときの記憶が浮かび上がる。島の存亡をかけた、蒼穹作戦。その折に、自分達の目の前で、ワルキューレの岩戸の中で消えた親友、皆城乙姫。いまは、彼女は生まれ変わり、皆城乙姫とは違う、同じ存在となっている。
コアが眠る本体の傍で、カプセルの中に入る芹、彼女が身に纏っているのは、あの時、乙姫がつけていたものと、同じ装具だった。
「代替者がコアの負荷を軽減できるのは、数週間が限度です」
カプセル内の、芹の足元から、コアを被うものと、同じ液体が入り込む。それはあっという間に、彼女の全体を被い始める。
「ッ!」
剣司は自ら危険を犯す後輩を、見ていることしか出来ない自分に、思わず顔をそらし、歯噛みした。
芹は、ゆっくりと目を閉じる。全身が液体に覆われた感触と共に、ゆっくりと意識が遠のいていった。
――――
島の何処かに彼女はいた。場所からして、向島の山だろう。彼女は、木々が感じている風や、命の息吹が、まるで自分の事のように感じ取ることができていた。それはまるで、自分がこの島の一部になったかのようでもあった。
彼女は、ふと現れた気配に振り向く。其処にいたのは、2年前、別れを告げた親友の何も変わらない姿が在った。
皆城乙姫は布に包まれた赤ん坊を抱きながら、芹を見て、昔と変わらない、無邪気な笑顔を浮かべる。それを見た、芹は思わず、なきそうになりながら、乙姫と同じように、笑った。
「また逢えたね、芹ちゃん」
「うん。また逢えたね、乙姫ちゃん」
それは、たった数週間しかないとわかっていても、いずれまた、分かれるときが来ると知っていても、芹には今のこの瞬間が、この再会を何よりも嬉しく想った。
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