蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH ~まだ私は、ここにいる~   作:鳳慧罵亜

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序章 ~にちじょう~ Ⅱ

「乙姫ちゃん、今日の取れたて」

 

アルヴィスの中枢、島のコアが存在するワルキューレの岩戸の中に響く声、彼女は立上芹。以前アルヴィスでCDCを勤めており、皆城乙姫の親友でもあった。

 

2年前、彼女が新たなコアに生まれ変わったあとも、こうして夏や秋になると、いろんな昆虫を捕まえては訪れているのである。

 

「ノコギリクワガタ、ミヤマクワガタ!、クワトラムシ!!」

 

彼女の趣味は昆虫採集で、乙姫ともよく虫のことについて話し合って、時には体が弱い彼女に変わっていろんな虫を捕まえてきて見せていたのであった。

 

「皆待ってるよ、乙姫ちゃん。」

 

彼女は、島のコアがまた成長し会えることを待っている。それだけ乙姫の親友であったのだ。

 

たとえそれが何年後であろうと、また会えると信じている。

 

「たくさんお話しようね、いろんなことを教えてあげる」

 

心なしか彼女、いや彼かもしれないが、芹の言葉が聞こえているのか、その赤子のような存在の表情は、少し笑っているようにも見えたのだ。

 

―――――

 

島にある唯一の銭湯「竜宮城」の中で、一人浴場のタイルを掃除している少年がいる。

彼の名前は近藤剣司。竜宮島の高校の生徒会長を勤めている。

 

先ほど喫茶「楽園」で出てきていた「うちの会長」とは正しく彼のことである。

 

以前のお調子者だった彼は今は責任感の強い立派な青年に成長していた。今もこうして親友の住んでいた家の銭湯を掃除に来ているほどである。

 

「保さーん。祭りの準備、始まってるよー。飲まないって言ったろー?」

 

掃除が終わった剣司は家の中で、苦言を言いながら酒の瓶を片付けていた。

普段はこうして仕事をせずに保と言う人物や、俗に言う恋人関係であるの要咲良の世話などをしている。

 

「いやー、剣司君。飲んでないよー」

 

と言いながらべろんべろんになっているのは、小楯保。アルヴィスのメカニック・チーフである。

 

欠番機を除くノートゥングモデル全機の修復をなし遂げるも、妻子を失った傷心は未だ癒えず、現在は酒浸りな生活を送っており、剣司達から心配されている。

特に剣司は親友の父親ということもあって、こうして毎日のように通っては世話を焼いていた。

 

―――――

 

「っしゅん」

 

アルヴィスのブリーフィングルームで行われている緊急会議。その途中で彼、レイはくしゃみをしていた。

 

「すいません。続けてください」

 

彼は誰かうわさでもしているのかなと思いつつ、会議の儀談を聞いていた。

彼はレイ・ベルリオーズ。元人類軍のパイロットで現在は島の住人の一人だ。彼も学校の生徒会に所属しているはずなのだが、普段はこのようにアルヴィス内での仕事に従事している。

 

そして自分が担当する、ファフナーのパイロット適正、敵戦力の調査に関することを話し始める。

 

彼はパイロットの指令が不在の今、ファフナーのパイロットの代表として各パイロットの状態や、フェストゥムの解析データなどの報告を行っている。

 

「今現在のファフナー11機のうち戦闘可能なのは5機ですが、これからの戦闘において、真壁指令の仰った通りフェストゥムが襲撃来る可能性がある分心許ない数です。パイロットは自分を含め5人とも申し分ない能力を持ていますが、これからの戦闘では

やはり数を増やし、戦力増加を図るのが先決かと。その候補者はこちらになります」

 

そう言い、ファフナーのパイロット候補を映像に出す。

 

メンバーは堂馬広登、西尾里奈、西尾輝、立上芹、の計四名であった。

 

「その四人を選んだ理由は?」

 

溝口がレイに尋ねるとレイは

 

「至極単純です。この四人は、ファフナーへの適正が高く、西尾里奈、及び立上芹はCDCを勤めており、フェストゥムとの実戦経験こそありませんが、CDCでの経験は決して実戦に生かせないものではないからです」

 

「なるほどねぇ」

 

溝口は納得し、背もたてにもたれる。

 

「それで、彼らの両親たちはどうなのだ?」

 

質問をしたのはこのアルヴィスの指令、真壁史彦である。苗字で解るとおり、真壁一騎の父親であり、一騎が料理を含め家事が得意な理由でもある。

 

彼の質問はそのままの意味で、ファフナーに乗るということは、その人物は何時神でもおかしくない状況に陥るためである。それを、その子達の親は懸念するだろう。

 

「彼らの両親からは、一応の賛同を頂きました」

 

「そうか……」

 

史彦はそうつぶやくと少し後ろを向いた。だが、そこには会議室の入口があるだけでほkには何もない。

 

少し前から、真壁史彦はこうして時々後ろを振り返ることがままあるようになってきていた。

 

「――――」

 

そして、何かをつぶやいたようだが、それは誰にも聞こえなかった。

 

「真壁指令?」

 

「ッ!?」

 

レイの言葉に史彦はこちらに向き直る。

 

「我々、元人類軍含む人員のシステム操作錬度も、規定値に達しています」

 

そう報告をするのは、ジェレミー・リー・マーシー。カノンやレイと同じ元人類軍の女性兵士。レイ達と同じ境遇で、彼同様島の住人として生活している。 アルヴィスではオペレーターを担当している。

 

そして島に受け入れられ、島の防衛任務に就く事でその恩返しをしようとしている。

 

史彦は頷き、ある人物を見た。

 

「問題は、ブリュンヒルデシステムか」

 

その視線の先にいる人物は遠見千鶴。遠見真矢の母親である。

 

44歳という年齢に反して顔立ちは異様に若いが、弓子の娘、美羽にとっては祖母にあたり、 パイロット達の命を預かる者としての責任感が強く、現在も同化症状の治療薬開発に力を入れている。

 

実年齢よりもかなり若く見られたり童顔に思われたりする事を気にしているらしく、史彦に淡い想いを寄せているらしいが、真実は定かでない。

 

「はい。島の環境維持システムとも呼べるコアが、成長期に入りました。コアが成長に力を注ぐため、生態系や食料システム、島民の健康など島全体に乱れがあると予測されます」

 

千鶴がそういうと、史彦は頷き正面に向き直った。

 

「一方でソロモンに反応の兆しがある」

 

ソロモンとは、本来レーダーに映らないシリコン生命体であるフェストゥムの襲来を予測するシステム。

 

今は亡き剣司の母親、近藤綾乃が作り上げた物である。

 

「北極のミールを破壊したのに、まだ活動を続けるなんて」

 

カノンの母親であり、整備クルー兼教官の羽佐間容子は驚きを隠せない表情で言う。

 

「敵のミールも別の物に変化をしたしたのかもね。島のミールが大気になったように」

 

それに答えるのは、西尾行美。西尾姉弟の祖母である。

里奈と暉の祖母にして育ての親。

 

元アルヴィスの技術者で、ゼロファフナーを設計し建造したが、起動実験時の事故で娘夫婦を失い、開発職を退いた過去を持つ。

 

現在は駄菓子屋を経営する傍ら、アドバイザーとして史彦達に助言を与える形で出席している。

 

「フェストゥムにも、ミールに等しい物が生まれた、と?」

 

レイの言葉に史彦は「未知数だ」と答える。

 

史彦は「ソロモンの解析を続けてくれ」と続け、

 

「今は、この平和が守続くことを祈ろう」

 

そう締めくくった。




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