蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH ~まだ私は、ここにいる~ 作:鳳慧罵亜
しょっぱなから絶望フラグおっ立ててくれましたね皆城くんは。そこがいいんです!
明日第2話放送ですね。あの映画と変わらないクオリティは本当に流石だと思います。
美しい夕焼けを背景に海を漂う空母ボレアリオス。
それはフェストゥム達の巣になっていた。
管制塔のあった場所は、白いドーム状の物質に包まれており、空母の周りにはまるで巡回をするかのように真紅のフェストゥム達が漂っていた。
突然、なんの前触れもなく、漆黒のファフナーが姿を現す。いや、漆黒というよりは、紫暗の色の巨人だった。
そう、マークザインとともにワームスフィアに飲まれ、消滅したマークニヒトと来栖操だった。
来栖は、顔を伏せ今にも泣きそうな声で弱々しくつぶやく。
「・・・・・・君たちには、消えて欲しく・・・・・・無かったのに・・・・・・」
来栖の体はマークニヒトから消えた。それと同時に彼の手を縛っていた結晶も砕ける。それは彼が一時的にマークニヒトから解放されたことを表した。
そして、現れたのは空母の内部。かつては真紅の水晶に包まれた、砕けたコアの片鱗が眠っていた場所。
現在その水晶は砕け、中にいたと思われる、フェストゥムですらない「何か」が苦しそうに蠢いていた。
「やっぱり、何も・・・・・・生まれない」
彼の眼前にあるドーム中央の部分から光の柱。そこにはひとりの女性らしきものが浮かんでいた。
彼女、かつての一騎の母であり完全に独立したフェストゥム。マスター型と呼ばれる、現時点で世界にただ一つのフェストゥム。
ニョルニアは閉じていた目を開いた。今の彼女は、頭上に浮かぶミールの破片に囚われていた。
「私は役目を終えた。ここに捉えていてもいかなる可能性も生じない」
感情のない声で淡々と告げるニョルニア。それに来栖はこう返した。
「でも君は戦う方法を知っている」
「私は争う術を捨てた」
彼女は一度言葉を切り、上を見上げる。そこには自身を捉えているミールがあった。
「あのミールの状態は、本来求められた可能性ではない」
ミールの下。ニョルニアを捉えている光の筋へとすがるように這い蹲る何か。ズルズルと体を引きずり、その下に流れている赤い液体は彼らにも分かることはない。
「ぐうぅ・・・・・・!」
来栖は自分の体を抱きしめるように押さえ込んだ。その表情も、苦しそうに歪む。
「痛みばかり増えてる・・・・・・みんなの痛み、俺が背負えたら、いいのに・・・・・・っ」
光の筋へと縋る何かはその数を増やしていった。
「皆城総士なら、出来たのかな・・・・・・?ごめんよ」
来栖の言葉。誰に大しての謝罪なのか、それすら彼には解らない。だが、自然とそんなことが漏れたのだった。彼女は淡々とした口調で語る。
「痛みは皆城総士の祝福だ。命は皆城乙姫の祝福だ。お前はどう世界を祝福する?」
「なんで俺にそんな事きくんだよ!!」
彼女の言葉を、来栖は激昂したように叫び、遮った。その様はまるで、もう止めてくれと懇願しているようにも見えた。だが、彼女は言葉を続けた。
「おまえは、ミールが不在のまま存在を選んだ初めての個体だ」
「お前はなぜそこにいる?」
ニョルニアの問いに来栖は顔を伏せた。その口から漏れた言葉は彼の紛れもない本音であり、願いだった。
「俺はただ・・・・・・空を見て居たくて・・・・・・」
伏せた顔の前に出した手に一つ、また一つと雫が落ちる。来栖の目には涙が流れていた。
「でももうダメだ・・・・・・痛みばかりで、自分の存在に耐えられない」
悲痛な言葉にニョルニアはただ黙ったまま彼の言葉を聞いていた。
「みんなの痛みを消したら、総士も一騎も」
それは彼の悲しい独白だった。まだ、彼には一騎の言葉は届いていなかった。
「俺の存在も、消すよ・・・・・・」
――――
ファフナーブルグ。カノンはファフナーから逸早く降り自機の正反対、現在ナイトヘーレ2番に搭載されている漆黒のファフナーから降りてくる人物を待った。
戦線復帰を果たしたレイ。彼の表情は優れているとは言い辛いが、それでも回復を果たしているようだった。
「レイ!」
カノンはレイに走る。レイはいつもの、やや困ったような笑顔を見せた。
彼の体を抱きしめる。体温は全快とはいかないからか、まだ少し熱がない。でも、しっかりと彼を感じることができた。
「カノン……」
レイは彼女に抱きしめられながら、彼も優しくカノンを抱きとめる。
彼女の名を読んだ。ずっと名前を読んで欲しかった。彼が倒れてから自分の隣に空虚が走っていた。
言いようのない不安に駆られていた。逸早く、彼が回復するように戦った。それが、今叶ったのだ。
ふと、レイがふらついた。顔を上げると、彼は苦笑を浮かべている。顔色も少し悪かった。
「すいません。まだ、完全には治っていないもので、医務室に行かせてください」
そう言い、カノンから離れると彼は足早に医務室の方へと向かっていった。
カノンはは少し戸惑ったが、既にレイが見えなくなってしまったので、また後で行こうと思い一歩目を踏み出したとき
「カノンさん」
呼ばれた声に反応して振り向くと、千鶴が立っていた。彼女の表情は少し暗く、悲しそうだった。
「少しお話があるの。いいかしら」
「……わかりました」
カノンは千鶴の表情に言いようのない不安を覚えた。そして、彼女のあとをついていった。
着いた場所は、アルヴィス内部の千鶴にあてがわれた部屋だった。彼女は基本的にこの部屋は使わないのか、ほとんど使用した形跡が見られない。
「ごめんなさい。あまりこの部屋は使わないから」
「いえ、お気遣い無く。それで、話ってなんですか」
彼女はあまり回りくどいことは好きではない。早速に彼女から本題を求めた。
「そうね……話というのはほかならない、レイ君のことよ」
「……ッ」
息が詰まる。予想していたことだが、いざ面と向かって言われるとくるものがある。
だが、レイは回復したのではなかったのか。その疑問は自然とカノンの口から出てきていた。
「レイは……回復したのではなかったのですか?」
半ば祈る様な問い。その問に千鶴は少し目を伏せた。そして白衣のポケットから、あるものを取り出した。
「これは……」
注射器。液体の色から薬品は「アクティビオン」だと思われる。登場可能年齢がギリギリのパイロットや、何らかの影響でファフナーの戦闘力が低下しているパイロットに投薬することで一時的に、ファフナーとの一体化を促し、同化現象などで身体が麻痺していた場合、それを回復させることができる薬だ。
2年前は、効果が切れたときに深刻などうか現象を引き起こす可能性があったがニョルニアにもたらされた情報により、改良が加えられその問題が解決されている。
たしか、島の住民に起きている被害もこの薬で一時的に症状を和らげることができたはずだ。無論レイにも投薬していた。
それにより、今まで寝たきりといっても深刻な症状が起きることはなかった。
「彼はこれの原液、つまり本来薬用としている20倍に希釈したものではない状態でこれを使っています。効果はあなたも見たとおり、普段と同じように戦闘が可能な状態にまで身体機能を回復させています。ですがそれは一時的なもの。薬の効果が切れると、フェストゥムの毒による症状が通常より激しいものになる恐れがあるものを彼は使っているの」
「ッ!?」
思わず息を飲んでしまう。つまり、今薬が切れた状態のレイは―――
――――
「ガハッ!ッハア!―――ッハア、ハァ、ハァ」
薬の効果が切れた今、激しい症状に襲われ激しく咳き込み血反吐を吐きそうになるが、吐かなかっただけ床を掃除しなくて済む。
いや、その前に床に倒れふすかもしれない。
脂汗が額からにじみ出てくる。早めに彼女と別れて正解だったようだ。こんな姿を彼女に見せたくはないし、今は立っているのもやっとの状態だ。いや、最早立っていられない。
壁に手をついて足がガクガクと震え、壁についた手も震え力がうまく入らない。
だが、あと数歩でアクティビオンに手が届く。一歩、一歩今にも崩れそうな、震える足で机に近づく。
そして、かろうじて動く左手で椅子の背もたれをつかみ、杖替わりにした。
右手で原液のアクティビオンが入った注射の握り手を掴んだ。本来希釈された水色の液体は原液なため、暗く、濃い藍色になっていた。
「ハァッ……ハァッ……はぁ……はぁ……」
震える手で、なんとか首筋に注射器を持って行きトリガーを引く。通常の薬品は、もっと水に近いものだが、原液となれば話が別だ。ジェル状のどろりとした液体が、血管の中に入っていくのは生理的嫌悪感をもたらす。だが、その嫌悪感とは裏腹に、体はまるで憑き物が取れたかのように楽になっていった。
体の震えも止まり、徐々に力が入るようになっていく。
十数秒もしたら、椅子の背もたれからも、手が離れ、普通に歩けるようになっていく。
「……はぁ……」
一息ついたところで医療室のベッドに腰掛ける。薬に頼っているとは言え、身体状態が回復したのは喜ばしいことだ。カノンの心配も減るだろう。しかし、この薬に頼った状態ではいつ不慮のことが起きた時に何があるかわかったものではない。
でも、ファフナーに搭乗していない普段のレイは冷静かつ頭の回転も早い。この現状を覆せる方法があることは知っているし、その手段も現在手にしている。
本当なら使いたくないものではあるが―――
彼は上着の内ポケットから、「あるもの」を取り出した。それは先ほどのアクティビオンが入っていた注射器。だが、入っている薬品の色が先ほどのものとは違う。
紅色
「カノンが知ったら、絶対に反対するでしょうね。それこそ殴ってでも止めかねませんし……」
思わず苦笑いがこみ上げる。これを投薬して、うまくいけば彼はこれから起こりうるであろう、フェストゥムの毒に耐えうる体を手に入れる。
そればかりか、現状のシナジェティック・コードもより強固なものになり、ファフナーでの戦闘能力の向上も求められる。
もともとレイのコード形成率はノートゥングモデルに搭乗可能なほどに高い。その状態でこれを打てば、より強固なコード形成率を手に入れられる。それこそ一騎を退けて黄金率に限りなく近いほど強固なものが。
だが、失敗すれば―――
――――
「それは……どういう……」
カノンはさっき以上に衝撃的な事実を知らされた。先ほどの最早無茶としか言い様のない、薬により無理やり安定させている身体状態も怒り心頭ものであったが、それ以上にこの話は衝撃的だった。
「そのままの意味よ。レイ君は『フェストゥムゲネ』を自分に投薬するか迷っているの。それも2年前から」
フェストゥムゲネ。それは本来ならばこの島の子供たちが全員持っているフェストゥム因子。それを後天的に体内に定着させるための因子である。成功すれば、フェストゥム因子のない、10代の少女でも一騎立ちと同じように、フェストゥムに対抗できるシナジェティック・コードと同化耐性を手に入れることができる。だが、失敗すれば最悪死亡する程の劇薬だ。
死亡の仕方は様々だが、一番多いのは拒絶反応を起こしての発狂死。だが、それは「一般の因子を持っていない人物」に限られた話。レイは違っていた。
「レイ君は、一般の人とはかけ離れたシナジェティック・コードの形成数値を持っているわ。それこそ一騎君たちに敵わないまでも、ファフナーを動かすには十分なくらいに」
千鶴は一旦言葉を切り、「でも」と言葉を続けた。
「そのシナジェティック・コードの高さが仇になるの。コードが高いと、因子が必要以上に定着しすぎてしまい同化耐性の低いレイ君なら、良くて身体麻痺。悪ければそのまま同化現象で『消滅』してしまう」
「そんな……」
成功しても、身体の麻痺は避けられない。そして失敗すれば、同化現象での消滅。そこまでして彼が戦おうとする理由。カノンにはすぐに解った。
いや、解ったのではない。思い知らされたのだ。
「私の……ために」
レイの行動原理は、その大半が「カノンを守る」ということだ。それのためなら彼は利用できるものは利用し、そのためなら人死も厭わないだろう。その結果、彼女が悲しむことになっても彼女が生きていけるなら、そんな一時的感情を持たせることすら厭いはしない。そんな男だ。
「いま、彼は医療室にいると思うわ、カノンさん。それからのことは、あなたに任せるわ」
千鶴の険しくも優しい瞳に、カノンは頷く。千鶴は言葉を続けた。
「本来なら、私はみんなの命を預かる者として、レイ君を真っ先に止める義務がある。でも、だからこそ今回のことは、あなたに任せたい。レイ君を止めるのか、それとも見守るのか」
「……わかりました」
カノンは椅子から立ち上がり、千鶴にお辞儀をする。そして、駆け足で、部屋を後にした。扉が締まり、千鶴はひとり残される。
部屋から出ていった彼女の姿を見て、思わずつぶやいた独り言。
「『誰かを想う気持ちを大切に……その気持から目を背ければ、取り返しのつかないことになる』。これでいいのでしょうか?茜音さん……」
感想、意見、評価、お待ちしています
さて、どうするか。EXODUS一話を見た限りだと、カノンは本編とあまり変わらないようでしたので・・・・・・殺すのもアリだと思うのですが、H&Eのハッピーエンドの雰囲気を壊すのも気が引ける・・・・・・。
どうしよう。