蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH ~まだ私は、ここにいる~   作:鳳慧罵亜

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祭前 ~ひみつ~

 竜宮島地下、アルヴィスのファフナーブルグ。

どこか、遠いところから来た敵、フェストゥムに対抗するために作られた巨人が佇む場所。

 

そこからはキーボードを打つ音が延々と聞こえている。

彼、レイ・ベルリオーズは一年と半年に渡り進めてきていたプロジェクトの最終確認を行っていた。

ある人物のために製造しているファフナー、それがもうすぐ完成を迎えるのだ。

 

「もうそのへんにしておけよ、もうすぐ祭りがあるんだぞ」

 

 整備士の一人が彼に声をかけるが、レイは「もうすぐ終わるんです」とだけ言い、また作業に戻る。

 

彼女のために、一年と半年を掛けて造り上げたファフナー。それがもうすぐ完成を迎える。今の彼はそれが嬉しかった。

 

「……これで、終わり」

 

最後の確認を終え、画面を切り替える。そこに映し出されたデータはすべてがグリーン。つまり機体の完成を告げていた。

 

上を見上げる。目の前に佇むのは深紅の巨人。

周りに佇んでいるいくつもの巨人と似ているようで、その実かなり違っていた。

 

背部にある2基の大型ブースターをはじめとして、大腿部のブースター。腕部や脚部に設けられた追加装甲。全体的に細長いシルエット。

 

これはどちらかというと、一番左の1番の右、2番格納庫にあるファフナーに特徴は似ている。

 

レイはそのファフナーを嬉しそうに見上げる。その赤いカラーは彼にとって特別な色でもある。この島に来る前、人類軍にいたときよりも前、まだタブリンにいたころから彼の傍にいた赤い髪の少女。

 

「……さて、そろそろ祭りもあることですし、名残はつきませんが」

 

そう言い残し、彼はエレベーターに乗る。また生徒会サボった事怒られるかな、と考えながら。

 

―――

 

「まったく、あいつはいつもいつも、この前だって―――」

 

そう言いながら夕暮れの道を歩いている彼女は羽佐間カノン。彼女が怒っているのは他でもない、レイのことだ。

 

彼女はレイが生徒会の仕事をサボっているのは自分の為であるとは知らない。レイが教えていないし、他の人にも伏せてもらっているのだ。何故伏せてもらっているのはとても単純で、どうでも良いような理由である。

 

「はあ……」

 

カノンは溜息をつき、少し自嘲気味に笑う。飼い犬のショコラが首をかしげているのは気にしない。

 

「あいつにも、事情があるのも分かっているつもりなのに、何を怒っているんだろうな」

 

 顔を伏せながらそこまで言った後、ぱっと顔を起こし少し大きな声で空に向かって宣誓する。

 

「今日あいつに会ったら、思いっきり甘えてやる!!」

 

そう大声で空に宣誓し、家に向かって走り出す。

ショコラは一瞬遅れた後、「ワン、ワン」とほえながら走り出す。

 

そしてその影、カノンの後ろにある曲がり角では……。

 

「今日はなるべく会わないほうが良いかもしれません……」

 

レイが少し顔を引きつらせながら出てきた。

ああいった後のカノンは別の意味で怖いのだ。

 

まだタブリンにいたころ、祭りの日にレイはデレデレのカノンに振り回され、次の日に、過労で体調を崩し、学校を休んだ記憶がある。

 

「……前途多難ですね」

 

そうつぶやくレイの前を、自転車で溝口がヒーヒー良いながら通り過ぎていった。会議が終わって、大急ぎで祭りの準備をしに行くところだろう。

 

――――

 

喫茶『楽園』

祭りがあるため、何時もより早く閉店した楽園では二人の少年少女が机に付していた。

 

「やっと終わったー」

 

先ほどまで片づけをしていた遠見真矢はこれから祭りがあるというのに既にぐったりしていた。

 

「何で今日に限って客が多いんだよ」

 

同じく真壁一騎も机に突っ伏していた。

祭りの前に彼らは燃え尽きてしまいそうである。

 

そんな彼らに追い討ちを掛けるためか、意外な来客が来た

 

「今日はお祭りもありますから、景気づけに来たのでしょう。もっともこの後が本番ですが」

 

「……レイ君、もう閉店だよ」

 

真矢がだるそうに言うがレイは「コーヒー一杯くらい出してくださいよ」と苦笑し、カウンターに入りコーヒーを入れる。

 

「レイ、この時間に外にいるって事は、終わったのか?」

 

一騎の質問にレイは

 

「はい、ようやく完成を迎えました。あとは試運転と微調整だけです」

 

と答え、真矢の隣に座る。このときに二人の分も入れるのがレイの優しさだろう。

 

「まだカノンには話してないの?」

 

真矢の質問に対し、レイはコーヒーを啜りながら答えた。その表情は少し恥ずかしげでもある。つまり、彼がカノンに何も言わないのはそういう理由であるのだ。

 

「そんな恥ずかしいこと、できませんよ。それに真矢さんこそ、言わないのですか」

 

レイの反撃に真矢は顔を赤くしながら「な、なんのこと」と噛みながら言った。

真矢が一騎に好意を寄せているのは周知の事実だが、当の本人は

 

「?」

 

である。

 

「フフッ、じゃあ僕はこの辺でお暇しましょう。ではお祭りの時に」

 

いすから立ち上がり店から出て行こうとしたレイは、ドアを開けたとき、ふと思い出した様に、振り返り「あ、そうそう」と言った。

 

「真矢さん」

 

「な、なに?」

 

レイの微笑から嫌な予感がした真矢はいぶかしげに聞き返した。

 

「頑張ってくださいね」

 

「な!?」

 

「ん?」

 

突如のレイの応援から、真矢は耳まで真っ赤にし驚きの声をあげ、一騎は不思議そうに首をかしげるのであった。

 

「フフ、やはり面白いですね貴方達は」

 

「も、もうレイ君!」

 

「何のことだ?遠見」

 

「か、一騎君には関係ない」

 

2人のやりとりに満足したのか、レイは「それでは」と言い残してドアを閉めた。

そして、顔を赤くしながら2階に駆け足で上がっていく真矢を見送りながら、一騎は変わらず首をかしげたまま、ゆっくりと椅子から立ち上がったのだった。

 

今日も島に流れる平和な一時、だが、それは確実に崩壊を迎える。

 

太平洋を進む一艇の潜水艦。

 

その内部に赤く輝く水晶。

 

そしてその中に浮かぶ人影。これが何をもたらすのか誰も知る由も無い。




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