蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH ~まだ私は、ここにいる~ 作:鳳慧罵亜
カノンは自分の家に到着すると、門を開けて中に入る。家の前まで走って帰ってきたのに息切れ一つ無いのはさすが元軍人というべきか。
家のドアを開けると、そこに待っていた人に向け、こういった。
「ただいま、母さん」
彼女は2年前、人類とフェストゥムの最大にして最後になるであろう決戦、蒼穹作戦の決行前、ある人物にこう言った。
―――生きて帰ってこれたら、母と呼んでもいいか―――
そう羽佐間容子、今の自分の母に訊いたのであった。彼女は見事、それを成し遂げ、6年前に失った大切な物の一つを取り戻したのだった。
「お帰りなさい。準備、できてるわよ」
羽佐間容子はそう返事をした。「準備」とは、今日の祭りのメインと言うべき物である。
今日の祭り、すなわちU計画では、亡くなった人の名前を記した灯篭を海に流し、その人の冥福を祈るのである。
ちなみにU計画とは、盂蘭盆の頭文字を取って「U計画」である。こうした風習は昔に廃れているため、アルヴィスでは文献などからの復元が試みられているのだ。
では、羽佐間家では誰が亡くなったのか?カノンがリビングに行くとその机には、灯篭と綺麗にたたまれた着物が置かれていた。
灯篭に書かれていたのは、「羽佐間翔子」かつて、羽佐間容子の娘だった人物である。
彼女は、遺伝性の腎臓病の持ち主で、学校に行くことも少なかったが、とある理由から真壁一騎に思いを寄せていた。だが、ある時、フェストゥムトの戦いで、島を……いや一騎のいる島を守るために、ファフナーに搭載されている最終手段。
気化爆弾「フェンリル」を使い、フェストゥムもろともに消滅したのであった。
カノンは着物を抱きしめ、ゆっくりと頭を伏せ今は亡き自身の姉に黙祷をささげたのであった。
――――
此処は要邸。要咲良と言う人物の住まう場所である。彼女は今、中庭の池で鯉を眺めながらある人物を待っていた。
「咲良」
自分を呼ぶ、その声に咲良は顔を綻ばせつつ立ち上がり、振り向く。そこには予想どおりの人物がたっていた。近藤剣司。彼女の恋人である彼は、つい先程までカノンたちと同様、生徒会長の仕事で祭りの会場に行っていたのであった。
「おそい!」
「わりぃわりぃ、大丈夫か?立ってて」
剣司の言葉はそのままの意味で、咲良は2年前は柔道が得意で男勝りの道場娘として有名だったが、フェストゥムとの戦いが激化していたころ、同化現象に倒れたのだ。
現在はだいぶ回復してきているが、後遺症で病弱な体になっっており、車椅子が必要な生活をしていた。
「うん、調子が良い見たい。今日は歩けそう」
「でも、無理は駄目だろ。ほら乗った乗った」
「はいはい」
何気ないやり取りだが、咲良は剣司の何気ない優しさが好きだった。そして、車椅子に座り剣司が押そうとしるが、次の瞬間剣司は言ってはならないNGワードを言ってしまった。
「咲良、重くなった?」
「ッ!!」
ズンッ
剣司の腹に拳がめり込む。病弱になっていても男勝りなところは変わらない彼女である。剣司の今の失言は見過ごせないのだろう。
祭りの日も彼らは平和であった
――――
「さて、そろそろ大丈夫でしょう」
あたりは暗くなりつつあるこの時間に、レイは一人家に向かって歩いていた。それはもちろん、カノンとの接触を避けるためである。
レイにとっては、カノンとは祭りの会場で、そして大体のメンバーが揃っている状況での接触が最上だ。だが、こうして家に帰ってきているのは理由があった。
「やっぱり、せっかくですので着物には着替えたいですからね」
そう言いながら、家の前まで着いた。
レイは一人暮らしなので基本的には家の中には誰もいない。だが、家事は基本的に出来る彼はあまり不自由を感じたことは無かった。そして鍵を開け、ドアを開くと―――
「お帰り、レイ」
本来聞こえないはずの声、そして見えないはずの赤が彼を迎えた。
――――
夜、にぎやかな祭り会場。その中に一際賑やかな二人がいた。
「次はこっちだ!早く行くぞ!!」
「ま、待ってくださいカノン。急がなくてもお店は逃げたりしません」
「だが、景品は逃げる!」
そこにいたのは、絶賛カノンに振り回され中のレイであった。こっそりカノンが家の中にいるであろう時に帰ったはいいものの、いざ鍵を開けてドアを開けば、無人のはずの家の玄関にいたのは、着物姿のカノンだった。
カノンの着物姿にレイは一瞬見蕩れてしまったが、それが命取りとなり瞬く間にカノンに捕縛されてしまい、今に至る。
―――道生さん、カノンの向かい側に家を決めたことを今だけは怨みます。
そう、レイの家は羽佐間邸の、ちょうど向かい側であり、徒歩で約6歩の距離である。決めたのは今は亡き日野道生。人類軍にいたときは彼らの元上官であり、よき兄貴分だった。
だが、振り回されているレイもまんざらではないのか、成すがままに付いていっている。だが、一つだけ問題点が……。
―――さっきから当たってるんですが、これは当てているのでしょうか、当たっているのでしょうか……。
いま、カノンはレイの腕に抱きついている様な格好なのだが、どうしても当たってしまうのだ。ファフナー隊のなかでも抜群のスタイルを持ているカノンの豊満な胸部が。それを知ってか知らずか、カノンは首をかしげ、
「どうした?レイ」
とレイに訊いてきた。
「いえ。さっきから当たっているのですが…。」
「いやなのか?」
「いえ、嫌ではないんですが―――って当てているんですか!?」
レイはカノンの言動に驚きの声を発するが、カノンは気にした風も無く、より押し付けるように、腕を抱きしめる力を強くする。
「ちょ、ちょっとカノン!?」
「普段かまってくれない仕返しだ」
「いえ、恥ずかしいですって!」
「顔が真っ赤だぞ?りんご病か?」
「誰の所為だと思っているんですか!?」
「フフッ」
普段誰にも見せないようなカノンの着物姿と甘えてくる様子に、レイは「可愛いなー」と思いつつもその行動にしどろもどろになる。
カノンも自分の行動に少し羞恥を感じるが、それ以上に普通は絶対に見せそうに無い、レイの表情に愛しさを覚えていた。
「そ、そろそろ灯篭流しの時間ですよね?」
「ああ、もう少し楽しんでから行くとしよう。次はあの射的だ!」
「え、まだやるんですか?」
彼らも平和であった。
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