Entrance~剣の章~   作:Boukun0214

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彼女の名前は『フィル』。
異界から武力の世界へとやってきた。
少女と呼ぶには、少し大人びてるかもしれない。

これは、そんな"彼女"の物語。


この世界について
とある少女


 

 

さて。そろそろ寝ようか。

 

そんなことを考えていた。既に私は寝巻きに着替えており、あとは眠りにつくだけだ。

 

いや。まだ日記を書いていなかった。

せっかく貰ったんだ。書いておこう。今日で、七日目。いや、もしかしたら、日記というよりは"見聞録"の方が正しいかもしれない。それほど大層なものでもないか。

本当に突飛な話だ。私が異世界に行ってしまうとは。正直、未だに実感はない。魔法がない世界だそうだ。ここは。しかし、技術のレベルは非常に高く、夜でも火ではない灯りが町を照らし、町では時々、馬に引かれなくても走る乗り物を見かける。魔法もないのに、大したものだと思う。いや、魔法がないからでこそ、なのかもしれない。

さて、と。

ペンでまだ白いページを突っつく。

今日は・・・特になにもしていないな。

この世界に慣れてそこそこ落ち着いてきて、特に出掛けることもなかったので目新しいものもない。それにしても、七日目にして話のネタに困ることになるとは。早過ぎやしないか。まあ、この家の主、今私が世話になっている人がとてものんびりしているというか、まあ、旅人でもないし、当然なのだが。出掛けない日の方が多いと思う。

当然、いつかは帰りたい。そのためには、情報が少しでもいいから必要だ。しかし彼には彼の都合があるだろう。私はただでさえ厄介になっているのだし、我が儘を言うのも筋違いだ。身の程知らずもいいところだ。

 

「・・・起きてる?」

 

ふいに、部屋のドアがノックされた。

例の、"彼"だ。

 

「起きてるが。」

「うーんとね、お茶いれたんだけど、飲むかなあって。」

 

青髪黒目の青年が部屋の戸を開けた。彼がこの家の主であり、私を置いてくれている、恩人だ。名前は、"ライカ"という。

 

「あ、日記帳、使ってくれてるんだ。なんか嬉しいな。」

 

この日記帳は、ライカが私にくれたものだ。

「とりあえず、記録するのは大切だよね。」

だそうだ。彼がこれをくれなければ、私は日記を書くことなんて人生ですることはなかったかもしれない。

 

「とは言うものの、何を書こうか悩んでしまってて。日記を書くのは難しいな。」

「ふふっ。そうかな。慣れれば結構楽しいよ。」

 

そういうものなのだろうか。彼は全体的にのんびりとしていて、見た目は若いのだが、中身は結構老けてる印象がある。いや失礼な話だが。

ライカが持ってきてくれた紅茶をすすった。少し渋い。彼の淹れるお茶は、いつも濃い。多分、彼はそのくらいが好きなのだろう。私も嫌いではないが、いつもはもう少し薄いものを飲んでいた。

 

「紅茶のことでも、書くか・・・?」

 

日記で紅茶のことを書くのも可笑しな話かもしれないが、生憎、本当に何も思い付かない。彼が一緒に持ってきてくれたお茶菓子をつまんだ。

ふと、なんとなく、頭に魔方陣を思い浮かべた。

 

風魔法(ウィンドスペル)斬撃(スラッシュ)

 

ぼそっと呟く。

そのとき、淡い緑色をした魔方陣が手元に現れ、一迅の風と共にクッキーが真っ二つに切り裂かれたのだ。正直、使えるとは思わなかった。

この世界でも、魔法は使える。これは、かなり大きな発見かもしれない。この世界でも、私のもといた世界と共通のものがあるということは把握していた。

第一に『眼の力』。私の世界では魔眼と読んでいたが、この世界では"武眼"と呼ぶらしい。やや語呂が悪い。

第二に『属』。主な住民は属と呼ばれ、天使、悪魔、獣人、人間、鬼、妖精、竜人。この七つで成り立っており、この世界では、どうやら属ごとの国に固まっているらしい。

 

この世界の特徴は、ここの住民が"武器"と呼ぶ道具だろうか。形状は所謂殺傷能力があるものだけでなく、懐中時計や本などの日用品も武器になるらしい。そして、この世界の住民は武器を一人1つ、一生使い続けるそうだ。人生の相棒といったところだろうか。

余談だが、ライカの武器は弓矢だった。

その形状は持ち主が戦闘意識を持つことで変化し、様々な効果をもたらす。魔法の無い世界、というよりは、不思議な武器がある世界、武器が生きている世界といった方が良いのかもしれない。生きているかどうかは、まだ推測の域だが。

 

私は、日記に魔法が使えたと言うことを書いた。忘れることはないだろうけれども、念のため。まあ、他に何も書くことがなかったと言うのが本当のところだ。

私は、ペンを置いて日記を閉じた。まだほとんどのページが白紙だ。この日記が埋まる頃には、私は元の世界に帰れるのだろうか。

 

なんにせよ、私には情報が必要だ。

どんなものでも構わない。私は、この世界にいつまでも居座る気はない。

異世界に行けたのだから、帰る道も、絶対にあるはずなのだ。


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