Entrance~剣の章~   作:Boukun0214

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潜入、誘導

目が覚めたのは、丁度、彼が戻ってきたときだった。

 

「ごめん。起こした?」

「いや。大丈夫だ。」

 

ライカは背中に膨らんだ袋を背負っており、食料の確保には成功したことがわかった。出るときにかけた魔法は、既に消えている。やはり、一晩もたせるのは私では無理か。

「アンタか。お帰り。・・・どうだった?」

「一通り探したけど、民家みたいな入りやすい場所には人は居なかったよ。食料はある程度手に入れた。」

「・・・そうか。」

怪我をしている彼は、立ち上がらずにライカと会話をする。子供達はまだ起きてはいないが、直に起きるだろう。

「フィル、一度ここを出よう。」

ライカが子供達の方を確認して、荷物を担いだ。

「子供達には僕らのことは伏せておきたい。」

「わかった。」

「そうか。・・・何かあったら、ここを拠点にしても構わないからな。」

「ありがとう。食料は多目に置いておくから、もう出歩かないように。」

ライカは礼をして、地下牢の戸を開けた。

重い錆の音が響く。私も立ち上がり、後をついていく。少し身体の節々が痛い。石よりも土や木の方が幾分か寝心地がいい。次はもう少し工夫して寝よう。

 

 

 

「フィル、とりあえず、これからのことを話そうと思う。」

 

祠を出てから、彼が口を開いた。

「僕らの目下の目標は、この状態の元凶を取り除くこと。君もそれを望んでいる。ここまでは大丈夫?」

「ああ。」

「よし。それじゃあ、本題の前に、拠点に行こう。夜に見付けておいたんだ。」

ライカが、祠から離れて木の多い方へと歩いていく。その途中、数匹の死喰鬼(グール)の死体を見付ける。見ると、どれも頭に何かが刺さったような傷がある。

 

「・・・ライカ、死喰鬼(グール)は?」

「昨日の夜に、粗方殺して回ったよ。」

本来、彼等はかなり、かなり死ににくいモンスターのはずなのだが。しかし彼が一発で頭を撃ち抜き、その命を奪っているのを目の前で見てしまったからきっと、事実なのだろう。

「それにしても、妙な生き物だね。あれは。」

「・・・妙?」

「うん。胃の中が一杯なのに、まだ襲ってくるし。殺気で脅しても野性動物みたいに逃げない。生きるために行動してない、機械みたいだ。」

「・・・機械みたい?」

「ああいや。下手な例えでごめんね。でも、そう感じたんだ。」

はて、死喰鬼(グール)はそのような行動を取るようなモンスターだったか?満腹になれば無理してまで獲物を襲おうとはしないと思ったのだが。それに、彼等は警戒心が強かったはずだ。死の危険を感じてまで戦うような習性はあるとは思えない。

「・・・例の、男は?」

「ああ。言ってなかったね。怪しいのを見つけたよ。」

「もしかしたら、死喰鬼(グール)は操られているのかもしれない。」

「なるほど、ね。」

もしそうなら、相手も私と同じ、つまりはあちらから来た魔導師。おそらくはソイツが、この町を一種の結界にしている。

問題は、結界にすることで何を行うつもりなのか、ということだ。つまりは、外からの侵入は可能な反面、外部への脱出を不可能にしている理由がなんなのか、ということだ。

ただ死喰鬼(グール)を使った虐殺がしたいのなら、別に密室にしなくても良い。何か理由がある。しかし、大規模な魔法にする、というのも考えにくい。その場合は殺すのではなく、何かしらの方法で生け捕りにしなければ意味がない。一度肉体から離れた魂を回収するのは困難だ。それに死喰鬼(グール)をわざわざ操ってまで利用する理由がわからない。

「その、例の男は、何か特徴はなかったか?」

「うーん、・・・暗かったからな。ごめん。あんまりよく見えなかった。」

「・・・そうか。」

何か少しでも情報が欲しいが、そう上手くいくものでもないか。

「いや、でも、魔法、フィルの使ってた魔法みたいな魔方陣はあったよ。・・・紫色に、光ってた。」

「なるほど。ありがとう。」

なら魔導士なのはほぼ確定だ。紫色ということは、恐らく死霊魔法(デッドスペル)だろう。

「・・・ここだ。」

 

林を少し進んだところに、先程、青年と子供達がいたのと同じような、しかしより古びたように見える祠があった。

この村には何か、信仰の対象でもあったのだろうか。

「以前、ここに来たときによく来てたんだ。」

ライカは目を細めた。

「中は昨日調べたから、危険はないよ。あそこよりは快適とは言い難いけど。」

彼の後ろについて祠の中に立ち入った。錆の臭いがして、眉間に皺を寄せる。

「足元、気をつけて。」

「あ、ああ。」

床の石はあちこちが砕けて剥がれていて、老朽化以前に手入れがまったくされていないことがよくわかる。

「フィル。この建物に、僕ら以外が入れないようにする魔法って、使える?」

「すまない。そういった類いの魔法は使えないんだ。物理的に封鎖することならできるのだが。」

やるとしたら氷魔法(アイススペル)で壁を造るのが一番手っ取り早い。その時の気候にもよるが、分厚くすれば物理的に破壊することは困難だ。

「わかった。じゃあ、これから僕らがやるべきことを話そう。」

 

 

 

 

彼の作戦を要約すると

私達の最終目標はここからの脱出で、その為には死喰鬼(グール)と、外に出れない仕掛けが邪魔だ。その両方の解決はこの状況を引き起こした張本人、つまり魔導師を倒すことになる。問題は方法だ。

「・・・先に言っておきたいのだが、恐らく、私がその男を倒すのは無理だと思う。」

「どうして?」

「もしも、相手の使ってる魔法が死霊魔法(デッドスペル)、つまりは死者を操る魔法、死喰鬼(グール)の死体を操っているならば、私の魔力とは単純に桁違いだ。」

「つまり、魔法勝負では勝ち目がない、と?」

「そういうことだ。・・・肉弾戦も、自信はない。」

「うん。大丈夫。最初から元凶は僕がやるつもりでいたから。フィルには、別のことを頼みたい。」

「別のこと?」

ライカは頷き、懐から紙を取り出して広げた。何かの地図か。

「これは昨晩に僕が書いた見取り図。敵の拠点のね。」

それは住居というにはあまりにも大雑把な構造をしている。正方形の建物に、対極方向にひとつずつ入り口があり、そして内部はだだっ広い空間が広がっている。その中央には何かがあるようだが、これはなんだろう?

「・・・この建物は、本来は儀式の場として使われるものだ。中央にあるのは祭壇。本来は贄を捧げる場所だよ。」

「かなりの人数が入れそうだな。ここ。」

「うん。それもそうなんだけど、多分、周囲にはそれなりの数の敵がいると思う。」

「周囲の見張り、ということか?見込みは?」

「おそらく、32人だ。」

「細かいな。」

「分隊を組むのに便利だからね。この人数は。いろんな数で分けられる。しかも常に偶数だから、ペアを決めておけば欠員が誰だかわかりやすい。」

そしてライカは、地図の、建物の周辺に丸を書き込み、矢印で結ぶ。

「フィルには、このポイントにある小隊を無力化、ないしは僕の侵入経路に来ないように誘導してもらいたい。・・・多分、意思みたいなのはないから、行動パターンがわかれば簡単だと思う。」

思う、ということは、不確定な要素だということ。しかし私には戦略を組むことはできないので、彼の作戦に乗る他はない。

「了解した。私の役割は、周囲を囲む兵隊の足止め、ということだな?」

「うん。合ってる。ただし無理は禁物。僕の見立てではフィルの魔法を使って対応できる相手は一度に四人まで。そして仮に相手が学習能力を有していれば一度に二人が限界だと思う。そこは工夫をして対応して欲しい。基本的には攻撃を避けつつ、ある程度引き付けてくれるだけでいい。僕が反対側から入れる隙が作れればそれでいいから、ほんの十数分を稼いでくれればそれで。無理だと思ったらすぐに撤退をして。撤退先は今の祠の地下で。相手が追ってこないのは確認済みだから安全は確保できると思う。」

「ああ。決行は?」

「今日の晩に。」

 

 

 

* * *

 

 

 

日が暮れて、星明かりもさほど届くことのない暗い林が私の待機場所。私の役割は陽動。ただし、戦闘はなし。命を最優先に立ち回る。

手には、あの地下室で貰った光氷石を入れたランタンを持っている。光は結構明るく、足元と周囲を照らせるくらいには強い。ただ、光る石は少しずつ、少しずつ溶けて透明な、水のような液体になってしまう。不思議なことに、何かで包んで光が漏れないようにするとある程度の保存が可能だとか。その為の遮光用の布ももらった。

「・・・・。」

前方の林が途絶えた。

この先に、数名の見張りがいるはずだ。気を引く、・・・少し、やってみよう。

「ピィィィィィ…」

指を口に入れて、笛を吹く。静かな林で音が響く。

カシャン、と。薄い金属の擦れるような音がした。

カシャン、カシャン、カシャン、カシャン・・・

少しずつ近付いてくる。足音のように。数は二つ。二人一組か。明かりの届く範囲まで影が近付いた。

氷魔法(アイススペル)射出(ショット)

青い魔法陣が収縮し、氷の礫となって正面に飛んだ。かなり近くで金属にぶつかる音がする。見なくてもわかる。鎧を装備している。おそらく、今の魔法の威力ではほぼダメージはない。ついでに腐臭。例の男が死霊魔法(デッドスペル)を使っていることを考慮すれば、十中八九相手はゾンビだろう。肉体的に破壊しても生者を襲い続ける化け物だ。

だが、これならどうだろうか。さっきの音で、鎧が振動する音は覚えた。なら、同じ音で衝撃を与える。物が震えたときの音は、その物自体が最も震えやすい音。手を鎧に添え、それを再現する。

撃音(パルス)

ギィン!と、重々しい音が響いた。ガチャガチャと音を立てながら鎧が振動し、一人目の影は倒れる。視界の端で、何かがランタンの光を反射した。咄嗟に転がる。地面を抉るような、大きな剣だった。

「・・・!」

地面が砕け、土埃が舞った。

あんなのに当たったら真っ二つだ。本当に戦闘は避けた方が良さそう。そう思っているうちに、再び剣が振り上げられる。

風魔法(ウィンドスペル)竜巻(トルネード)!」

相手の手に竜巻を発生させ、指を抉じ開ける。剣を取り落とした。地面に刺さった剣は細く変化した。・・・この剣の特性だろうか?大きさを変化させることができる剣、と言ったところだろう。

空間魔法(ヴォイドスペル)収納(チェスト)

剣に飛び付き、空間にしまった。これは没収しておこう。振り回されると危険だし、持っておけば何かの役に立つかもしれない。

「・・・悪いな。」

武器を戦士から奪うのはあまり誉められた行為ではないが、こっちだって命がかかっている。死者に奪われる命じゃない。

さて、ゾンビに物理攻撃はほぼ効かないと考えて良い。大抵の場合、肉全体に術者の魔力が染みており、頭部を欠損させようが命令を遂行させるために動く。スケルトンなら、大抵は頭蓋の空洞に魔力の核ができるからそこを破壊すれば無力化ができる、のだけど、今は関係ない。ゾンビを無力化する手段は大きく分けて三つ。ひとつは解呪(ディスペル)。魔法そのものを解除する。これが一番有効だが、非常に難易度が高く、解きたい術以上の魔力が無いと無理なのでおそらく、私には無理だろう。ふたつめは体が残らない方法で片付けること。これは要するに、高火力で消し飛ばせば良い。そしてこいつはできなくはないが、大人一人を消し飛ばせるような魔法は燃費が悪く、すぐに私の魔力が底をつくので最終手段とする。ではみっつめ、物理的に身動きを封じる。これは罠にかけたり、凍らせたり、確実性は低いが工夫次第で誰にでもできる。一時的なものだが、時間稼ぎなら丁度良い。つまり、採用するのはみっつめ。

「・・・まだ数が少ないな。」

聞いた話では見張りはもっといるはずだ。できれば沢山引き付けて、一網打尽にしたい。だがこう暗いと知覚強化(センサー)で位置と数を確認するしかない。だがあれは、かなり集中力を消耗するし、自分の身の回りへの注意が疎かになってしまう。

「どうするか・・・」

鎧を着て起き上がるのは大変なのか、思ったよりも時間が稼げている。だがそれもそろそろ終わりだろう。姿勢が整ってきている。

・・・・とりあえず、逃げる。

引き付けながら逃げたいがそんな器用な真似はできない。偶然着いてきていれば儲けものとしよう。こうして各所で騒ぎを起こしていれば、警戒はこっちに来ると思うし。

そうと決まれば、早速実行だ。ランタンに布を被せ、光を遮る。視界が完全に真っ暗になる。直に慣れるだろうが、それを待たず、私は一目散に駆け出した。

ぼんやりと、視界にある障害物を認識して、避けながら走る。後方から、ガシャンガシャンと音が聞こえた。結局ついてきている。逃げろ。追い付かれたらどうするか考えてないことに気が付いたが、追い付かれなければ問題はない。

風魔法(ウィンドスペル)装着(ドレスアップ)

右足に風を纏わせ、少しだけ浮かせる。

左足で地面を蹴って、滑るようにして進む。スピードが出るので少しばかり危ないが、暗さにも慣れてきたから平気だろう。物の位置くらいは視認できる。

普通に走るよりも速度は倍以上違う。それに、魔力は消費するが体力は消費しないので基本的にインドアの私にはかなり使い勝手が良い。普通に走るのでは体力が持たないから。

と、前方にまた、ふたつの影を確認した。ボンヤリとしているが、シルエットは今私の後ろにいるゾンビのものと近い。甲冑の形が少し簡素だ。・・・もしかしたら、階級はあっちのが低いのかもしれない。

「どうでもいいな・・・それは。」

そうだ。どうでもいい。死者を縛るものはあってはならない。死者は身分など関係ない。

氷魔法(アイススペル)氷結(フリーズ)

地面に手をつき、氷魔法を展開する。周囲、少なくとも、私を中心にゾンビ四体が範囲にはいる程度の広さの地面を、内部まで凍らせる。パキパキと音を立てて、氷が地面を侵食し、ゾンビを巻き込み、その動きを封じる。氷魔法(アイススペル)は、凍らせるのではなく、氷を創り出す魔法。魔力を込め、氷を厚くすればするほど、物理的な拘束力を増していく。

「・・・よし。」

これで四体。本当はもう少し沢山一度にやりたかったが、慣れないことをするのだし慎重にいこう。

結果として、歪な氷の塊が四つ、その中にゾンビが一体ずつ、という、趣味の悪いオブジェが出来上がった。氷の厚さは大体・・・目測で十センチほどか。全身にこれなら中からの力だけで簡単に出てくることは無いだろう。まだ魔力にも余裕はある。これで、氷が溶けるまでは四体を無力化できる、のだが。

「・・・・・解呪(ディスペル)。」

物は試し。凍らされているゾンビの一体に近付き、手をかざす。魔力を込めると、紫色の魔法陣が現れた。

「まず、は、術式、解析・・・」

魔法陣は基本的に、中心にその魔法の属性を決めるシンボルがある。そしてそのシンボルを囲む円には魔法がどのように発現するか、という詳細が書かれている。解呪(ディスペル)の基本は、それらを解析して、端から魔法陣を自分の魔力で上書きして、魔法の主導権を乗っ取ってしまうこと。そうすればあとは魔法陣を閉じれば解除が可能だし、その魔法を習得しているのであればそのまま自分の魔法として使うことも可能だ。魔導師であれば誰だってその基本は理解している。ただ、このときに元々の使用者の魔力と自分の魔力がぶつかる。より強い、多くの魔力を込めれば相手の魔力に打ち勝ち、コントロールを奪えるが、負けると自分の使った魔力がそのまま暴発して自身に戻ってくるので相手が高等な魔導師であるほど、危険な行為だ。ちなみに膨大な魔力があればいちいち術式を解析しなくても魔法を掻き消せるとか。私には無理だ。それが出来るとしたら、それこそ化物級の魔力タンクだろう。

で、肝心なのは私がこれを解呪(ディスペル)できるかどうかなのだけど。

「・・・・ッ」

無理だ。魔力量が足りずに弾かれてしまった。

魔法陣が消え、指先にビリッとした衝撃が走る。痛い。普通に結構痛い。確実に、相手の方が私よりも、少なくとも魔力量は格上だ。

「・・・次、行くか。」

 

私は辺りを見回した。やはり暗い。

このままでは再びの探索は難しいし、危ない。なので、ランタンの遮光を取ろうとした。

 

そのとき、地面が揺れた。

「・・・!」

遅れて轟音が響く。近くに雷が堕ちたような、そんな音。耳が壊れそうだ。音の方向は、ライカが潜入すると言っていた建物の方から聞こえた。

「何・・・?」

 

取り落としたランタンの中から、淡く輝く石と、光を失った液体が、溢れ落ちた。

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