Entrance~剣の章~   作:Boukun0214

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目が覚めると、すべてが終わっていた。

荷物の回収の為に祠の地下に向かうと、子供達の姿は無く、一人には少し多すぎる荷物だけが置いてあった。

食料は村中を探して、当面分を確保することはできた。その間、人影は見掛けていない。あるのは死喰鬼(グール)の死体だけだ。荷物は空間魔法で収納しているので身軽さの上では問題がない。

一応、地図は頭の中にあるが城下町に帰るのにはどれだけかかるだろうか。

気にしても仕方ないので、死喰鬼(グール)の死体だらけの村から立ち去った。

来るときは盗賊団の縄張りだった森も、静かなものだった。もしかしするとだが彼らもまた、生け贄にされてしまっていたのかもしれない。

何にせよ、二人でいたのが一人になり、そして帰り道も随分と静かになってしまったもので、心細さというよりは絶望感が大きかった。

森を抜けて、夜になり、草原で眠って、朝になり、不思議なことに何もトラブルが起きず、淡々と、人ともすれ違わず、何日も過ごしていき、この世界そのものが死んでしまったような錯覚に陥る。

正直、あの後の記憶が曖昧だ。けれど自分は敗北し、そしてライカを失ったことは確かだった。もしかするとこんな世界に来ていることも含めて長い悪夢かもしれないと思いもしたが、そんなことはなさそうだった。

 

七日ほど、歩いた。

休みながらだし、あとどの程度歩けば良いのかわからないが。その日は、雨が酷くて、どうにか雨を凌ごうと、近くにあった木に、水の染みない布──これは糸のように加工できる鉱石を編んだものらしいが──を引っ掛けて屋根のようにし、その下で休んでいた。空腹感はあったが、食料も余裕があるとはいえ限りもあるので、何もせずに待っていた。

雨の音だけが聞こえていた。ここに来て、こんなに酷い雨は初めてかもしれない。ああ、けれども、故郷の雨季ではこんな感じだった。そう思うと懐かしくも感じる。目を閉じていると、水の音だけが聞こえる。草に跳ねる音。布に溜まる音。幹を伝う音。地面を流れる音。そして、何かが水を踏む音。それは、少しずつ此方に近付いてくる。

───撃音(パルス)

その足下で音を弾かせる。

直後、背後の木に何かが刺さる音がした。

「・・・貴女は。」

ゆっくりと、目を開ける。見覚えのある顔。一度語り合った顔だ。

「君は、エレナ、か。」

この国で最も(つよ)い者。その手で振り下ろされたのは、華奢な身体に不似合いな大鎌。

「どうして、・・・こんなところに。城に居なくていいのか。」

「貴女こそ・・・。」

彼女の口から、疑問が出てくることはなかった。あるいは雨に消されたのかもしれない。

「いえ、そうですね。その辺りも含めて説明をしましょう。向こうにテントを建てています。ついてきてください。」

やや体も冷えてきたので、ここは素直に従うことにした。少し歩くと、草むらの奥に緑色のテントがあった。一応保護色になっているのだろう。意外と、遠目からでは見えなかったりする。

「姫様、ただいま戻りました。」

入り口の布を、雨が入らないように慎重に捲る。

それは、あまりにも質素なものだった。

「お帰りなさい。エレナ。」

黒くて真ん丸とした目がこちらを捉え、すぐに駆け寄ってきた。

「フィル!」

「久しぶり。シオン。」

本当に、こんなところまで来てどうしたというのだろうか。こんなところにキャンプに来た、なんてことではないだろう。少なくとも、ついこの間までここは治安が悪すぎた。

「・・・何か、あったのか?」

嫌な予感が首筋を伝う。

「ええ。端的に言うと、城と城下町が壊滅しました。」

あまりにも事務的に伝えられたもので、実感が情報に追い付かない。

「それは・・・」

どういう状況なのか。

「今からちょうど、八日前・・・になりますね。突然、人を喰う異形の鬼が出現しました。」

エレナの口から語られたのは、恐らくは最悪の結果だった。

いくら国民が全員戦士だろうと、対応には限度があった。理由は、まず一つに数が多かったこと。死ににくいことは問題ではなかったが、二つ目は、同時に各地に"穴"が多発したこと。それは次々と国民を飲み込み、戦いによる被害ではなく、"穴"による行方不明者が深刻だった。

"穴"は以前から確認されていた。突然、空間に出現してはその場にあるものを文字通り消して、跡形もなく"穴"自体も消えてしまう。国民の行き先には心当たりがある。きっと、私の存在()た世界だろう。私はその"穴"に落ちて、こちらの世界に来たのだから。

「戦力の低下に次ぐ低下。更に相手は無尽蔵と、五日としないうちに事実上の全滅となりました。」

「・・・そうか。」

けれど、彼女たちの様子は随分と落ち着いている。そりゃあ、数日あれば整理をする時間もあるだろう。だがそれにしても割り切っているというには何でもなさそうにモノを言う。

「まあ色々ありましたが、今はこうして避難がてら旅をしています。」

びっくりするほど、その姿勢は気楽なのだ。

「こう毎日歩くのも疲れるし、天気が悪いのも気分上がらないけどね。」

びっくりするほど、能天気なのだ。

「それに、私には、姫様をお守りするという使命が残っていますからね。」

さて、この二人は、特に問題がなかった。そこで、私の中に生じた欲求を口にする。

「・・・その、私も、旅に同行させてくれないだろうか。」

できるだけ、簡潔に。

理由はいくつかあるが、一番は多分、一人が辛くなったこと。それに自分では使い方のわからない装備があるし、それが彼女達にとって有益であるかは不明だが少なくとも悪くは働かないだろう。

「・・・失礼ですがその、組合への技能登録は済ませていますか?」

確か、冒険者へのフリーの依頼を紹介する組合のことだろう。基本的に国に属していたはずだ。

「ああ。少し前になるが、ライカに。」

「そのときのクラスは?」

クラス、とは要するにその当人の技能によって大まかに分類したものを指す。私の場合は魔法を使う。しかし、それを語るわけにもいかず、代替案として決めたものだ。

奇術師(マジシャン)を。」

「前衛は行けますか?」

「・・・やろうと思えば。」

肉弾戦能力は極めて低いので、できれば後衛が良い。遠距離攻撃はあるし。

「わかりました。では、基本的には私が前に出ているときの姫様の護衛をしてください。」

「・・・随分と、信頼されてるな。」

彼女にとって私は、前に一度しか会ったことの無い相手だ。まさかこんな大役を与えられるとは思わなかった。

「ええ。姫様の御友人ですから。今日から、よろしくお願いします。フィル。」

「ありがとう。よろしく。エレナ。」

差し出された手を軽く握った。

私には、向こうの世界へ帰る前にやるべきことができた。それをこの二人が協力してくれるかはわからないが、それまでは当面、世話になろう。

折角の、友人なのだから。

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