歩き続けて一週間、そこそこ大きな街に到着した。
名前をカーリルと言うらしい。由来は不明だ。
歩きながら、当面の方針を色々と話した。原則、彼女らの身分は伏せる。英雄扱いされるであろうエレナはともかく、シオンは立場上腐っても王族な為、悪用を考える輩も出ないとは限らない。ただシオンは一般には容姿が知られていないのである程度人前に出たことのあるエレナだけ気を付ければ問題はない。エレナの黒髪碧眼という組み合わせは人間属としては珍しいが、別にいないというわけでもない。一応変装はするので、自ら名乗らない限り平気だろうとの事。現状の短期的課題は路銀の確保。また、城下町を滅ぼした者を見つけて対処するのが当分の長期的課題となる。こちらの手掛かりはほぼ皆無に等しい。
「この街はあまり治安がよくないので、二人とも気を付けてください。」
「はーい。」
物取りには十分な警戒を、ということだがすぐに取り出さないといけない武器やサブの財布等の荷物以外は全部私の空間魔法で収納している為あまり問題はない。
だからといって、サブの財布にもある程度のお金は入っている為、盗まれて良いというわけではないのだけど。
「それにしても、人間が多いな。」
というより、前の都市の例に漏れずやはり人間属しかいない。文献では多種属を見下すような記述が多かったがやはりそういった文化なのだろう。私には馴染めそうにない。
「ここも人間の領土ですからね。」
「私、鬼か獣人くらいしか見たことないかも。」
確かこの二種属は隣国だったか。鬼の国とはあまり仲が良くなく、獣人の国とは中立同盟を組んでいるのだとか。
それにしても人が多い。これははぐれたら大変そうだ。
「今日は何か催しでもあるのか?」
「ああ、確か闘技大会の季節ですね。」
「エレナが昔出たヤツでしょ?賞金あるんだっけ。」
「賞金?」
「ああ、はい。上位四名には順位に応じた賞金がありますよ。折角ですからそれで路銀の確保しましょうか。」
成る程。でもこちらには勇者のエレナが居る。優勝とはいかなくとも上位入賞はできるんじゃないか。
「まあ私は出れませんが。武器を使ったら身分がバレるので。」
「・・・そうなのか。おっと。」
話ながら歩いていると、人にぶつかってしまった。
「はい。あと、フィルさん、物盗りには気を付けてくださいね。」
そしてそのぶつかった人は、目の前でひょいっと、エレナに地面に転ばされた。この間数秒。流れるような瞬間だった。
「さて、今盗ったものを返してもらいましょう。生憎、私達にも余裕があるわけではないので。」
エレナが、真っ黒いフードつきローブで全身を隠した人物の腕を掴み、地面に組伏せたまま言う。周囲の人が一定の距離で私達から離れ、なんだなんだとこちらの様子を気にし始めた。
「・・・くぅっ。」
何度かもぞもぞと身体をくねらせた後、物盗りは観念したのか、私の財布を懐から取り出した。
どうやらぶつかった瞬間にスられたようだった。全く気付かなかった。
「さて、少し場所を変えて話しましょうか。」
碧眼の勇者は、真っ黒いローブごと身体を持ち上げて肩に担いで、路地裏の方へと歩き出した。無抵抗のローブの中身から、ぐぅっと、空腹を告げる音が聞こえた。
現在の状況。
路地裏に合計四名。うち三名が袋小路の奥で壁を背後にした一名を囲っている。多分、第三者から見れば脅しか何かの現場に見えるのではなかろうか。
───
「・・・食べるか?」
真っ黒ローブに差し出すと、こくんと頷いた後に受け取って、ガツガツと食べ出した。
「フィル、人が良すぎじゃない?」
シオンに文句を言われたが、このくらいは見逃して欲しい。財布丸々ひとつよりはずっと安いのだから。甘いのは重々承知である。
食事が終わり落ち着いた後、ローブから少女の声がした。私と同じか、少し幼いくらいの印象の声。
「・・・ありがとう、ございました。あと、ごめんなさい。」
背丈は私より少し低い。なので、向こうが顔をあげるまでその容姿がわからなかった。フードの中には、真っ白な髪と、果実のように紅い瞳の少女がいた。アルビノ、と言うのだったか。人間属の中でも特に希少で、日の光に弱く短命。少し汚れているが、その肌も雪のように白く、奥に血の紅が浮き出ている。
「さて・・・普通なら、ここから兵士に突き出すところですけれど、貴女、名前は?」
「・・・リン。」
「それではリン、貴女、腕に覚えは?見たところ長剣を持っているようですが。」
さっきまで気付かなかったが、背中にこれまた黒い鞘に入った剣を背負っていた。本人の白に対して装備品の類いが真っ黒なのは何かのこだわりだろうか。
リンと名乗った少女が頷くと、エレナが話を続けた。
「闘技大会に出ませんか。勿論、賞金を得たら私達にも分けてください。その代わり、当面の食料と宿くらいは提供しますよ。」
おそらく、この条件を飲まなければ兵士のお縄にかかるので実質拒否権はない。やや気の毒ではあるが身から出た錆だ。
「・・・その通りに。」
「ええ。じゃあエントリーしに行きましょう。そこの茶髪の彼女も出る予定なので、二人して頑張ってください。」
「え?」
待った。勝手に話が進んだぞ。
確かにエレナは出れないし、シオンを出すのはエレナが許さないだろうし、消去法としては私が残るのだろうがどうやら私にも拒否権はなかったらしい。
「あー、えっと、フィル、という。よろしく。」
声を出してしまった手前なんとなく自己紹介をしてしまう。それにエレナが続けた。
「申し遅れました。私はエレナ、そっちはシオンです。」
「リン、よろしくね。」
シオンがローブの少女に手を差し伸べる。その握手に、リンは応じた。悪人、というわけではないのだろう。まあだが手慣れてるような気がするので常習犯ではありそうだが。実際私は気付かなかったし。これで隠密行動ができたら盗賊とかできるのではなかろうか。
「とりあえず、闘技場に行きましょう。参加表明をすれば宿が取れる筈です。」
「あれ、シオンとエレナは出場しないのでは?」
「参加者一名を一枠として、その同行者一名までが同じ宿に泊まれることになってるんです。」
「じゃあ私とフィル、リンとエレナが同じ部屋になるのかしら。エレナ、リンと仲良くね。」
「・・・そう、ですね。」
シオンの提案には一理ある。エレナとしてもまだ素性のあまり知れぬリンとシオンを同室にするよりは私とシオンを同室にする方が良いだろう。・・・ついでに、姫様への過保護を少し改善する機会にすれば良いのではなかろうか。本人は不服そうだが納得しているし。珍しく形の良い唇を尖らせているがそれに言及するほど野暮でもない。
「・・・申し込みに行くなら、今日の日没が締め切りのはずだから、早く行った方が。」
リンがぼそぼそと言う。
反射的に太陽の位置を確認したら、既に正午は過ぎている。それでも日没までにそこそこの時間は残っているだろう。
「今日まででしたか。道は覚えているので、案内します。行きましょう。」
やや速足でエレナが歩き出した。それに全員が続く。狭い路地を抜けて、近道らしい道を行く。
この一部始終で、私達四人の女旅が始まることになるのだが、それはもう少し先の話だ。