Entrance~剣の章~   作:Boukun0214
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闘技大会前日の幕間

「ええと、そっちの茶髪のが奇術師(マジシャン)のフィル、黒いのが剣士(フェンサー)ね。」

 

受付で参加登録を済ませ、部屋の鍵を渡された。

部屋はひとつの廊下にいくつも並んでいる。私とシオンの部屋と、エレナとリンの部屋は隣だ。

公式の大きな大会ということもあり、闘技大会のスタッフは身なりも整っていた。与えられた部屋も、しっかりと鍵がかかる上に大きくて清潔なベッドが与えられている。これだけで十分なくらいだ。

 

闇魔法(ダークスペル)(トラップ)盲目(ブラインド)

内側から鍵をかけた上で、念のため、鍵の破壊を条件に魔法を仕掛けておく。半日程度視界を奪う出力だ。まあ発動しないことを祈ろう。

「フィル、何それ?」

「まあ念には念を、と。空き巣対策だ。」

「魔法って便利なのね。他には何ができるの?」

シオンは前から興味があったのか、時々私が魔法を使うところを眺めていたりする。普段は魔力の消費を抑えたいので火を起こしたりする程度だが、今日はあとは食事と睡眠だけだし、良いか。

「例えば・・・氷魔法(アイススペル)造形(メイク)。」

頭に、詳細に果実の形を思い浮かべる。右手の上に魔力の形を頭に浮かべた通りに集めていく。現れた魔法陣は、空気に解けて光となり、また一ヶ所に集まり、果実の形の氷を形成した。

「こういうこともできる。」

少し集中力もいるので難しいが、見た目としてはこの魔法が一番分かりやすい。

「わぁ!触って良いかしら?」

頷くと、シオンは人差し指で氷の塊を突っついた。

「これは溶けたりするの?」

「維持も可能だけど放っておけば溶ける。」

ちなみに維持をするには微量ながら魔力を消費し続けないといけないので、氷魔法は一瞬だけ何かの形状が必要な際によく使う。

「こういうのって、私でも使えるのかしら。」

「・・・わからないが、試してみよう。」

 

随分前の事に思えてしまうが、この服を買ったときに仕込んだ、数枚の紙を取り出した。場所は主に背中や手首、肩、胸等。

「魔法を使うには、本来は魔力というものは必要ないんだ。」

魔力とは言うなれば生き物が持つエネルギーのようなもの。体力の一種だと思えば良い。

「本当に必要なのは代償。その魔法を使うに当たって、()()()()()()()()()だ。」

手首に仕込んでいた紙を取り出す。

手のひらに収まる程度の大きさの紙。そこには、とても簡易的な魔法陣を書いてある。

「まず、この紙に書いてある魔法は氷魔法(アイススペル)。それも形式を指定してないから、ただ氷が出現するだけのものだ。」

腰に射していたナイフを右手に持ち、左手の親指に刃を滑らせる。痛いが、これは我慢だ。

血が一滴、二滴、三滴。魔法陣の中心、そのシンボルに落ちる。

瞬時に、魔方陣が水色の光を放つ。

パキンと音がして、紙の上に雑多な形の氷の小山が現れた。

「と、こういう感じ。もしかしたら、シオンの血でも反応するかもしれない。」

確証はないので曖昧だ。

そこで、部屋に備え付けてあったメモ用紙とペンを使って、試しに風魔法(ウィンドスペル)の、一番単純な魔法陣を書いてみた。

「この魔法は、風を起こすだけのものだ。」

「ここに、血を?」

正直エレナが一緒にいたらできそうにないことだが。

「少しだけでいいから、慎重に。」

ナイフを渡して、指先を傷付けるように示す。よりも前に、ナイフの刃に人差し指を、えいっと滑らせた。思っていたよりこの姫、思いきりが良い。

「これで垂らせばいいのね?」

そうして一滴、二滴、、、三滴。

紙片に染み込んだ赤い液体は、数秒待てど、ただその染みを広くするだけだった。

「・・・駄目か。」

「そっかぁ。残念ね。」

傷薬と細く切った包帯をシオン渡す。

やはりこの世界の住民には魔法が使えないのか?私は別に魔法の仕組みには詳しくはないので、特に考察も続けようがないが。ただ、精霊、つまり魔法使いの命に宿る存在はあくまでも魔法行使においての魔法陣を描く、代償を支払う、という行程を簡略化してくれるモノだ。要するに、魔法陣を紙に描き、代償として血を捧げるという行為で魔法を行使する行程は完了している。

いや私は専門家ではない。前にいた世界では、その専門家と縁があったのだけど。

彼は今元気だろうか、なんて。

「フィル?」

「ああいや。残念だったな、と。」

シオンの不思議そうな顔で思考を打ち切った。私はよっぽどおかしな顔をしていたのだろうか。

「・・・そういえば。シオンの武器って、なんなんだ?」

咄嗟に、でもないが。話題を変えようと出たのはこんな言葉だった。

「私の武器はね、エレナなの。」

特に間も開けずに、やや苦戦しつつ利き手人差し指に包帯を巻きながら彼女は答えた。

「エレナが?」

「本当はね、王族は代々自分の武器を持たないしきたりで。っていうよりも、エレナが使ってる鎌、あれが本来、人間の王が使う武器。それを勇者という役職の者に貸しているって感じね。」

まあ、どうせ私にはあんなおっきな武器、振り回せないけどね。と続けた。この武力主義の国の王族が非武装なのは驚いたが、成る程。常に勇者が共にあればそんな必要もない。いや。彼女の場合はその魔眼が一等級の性能を持っているから、武器が必要ない、の方が近いか。

「あとほら、私が襲われても、基本は眼の異能で潰せば死ぬし。そうでなくてもエレナが助けてくれるから。」

彼女の眼の力。生まれつきの才能とも呼べる超自然の能力は重力操作。故に彼女の暮らしていた城は所々がボロボロで、エレナも口の上では姫より城の修復経費を気にしていた。

実際に私も、己の体重をそれこそ十倍にされでもしたらそのまま地面に伏して圧死する他ないだろう。あいにくそんな負荷に耐えられる体は鬼属くらいのものだろう。いや、無理か。城で普通に潰されていた。

それこそ、先手を打つくらいしか勝ち目はなさそうだ。だとすれば時間への干渉だったりが。

「私よりも闘技大会に向いているんじゃないか?」

「バトルロイヤルならまだしも、一対一じゃちょっと。視界に入らないと潰せないし。」

包帯を結ぶのに苦労していたので、私が身を乗り出してシオンの人差し指に結んでやる。ほそっこい指。正面切っての戦闘は無理か。

「フィルはどうするの?何か作戦ある?」

「ああ。それはいくつか。とりあえずは魔法を小出しにしていくつもりだ。」

私も賞金がかかっているとなれば手を抜くことはしない。とはいえ、こういった場には慣れていないからどうなることか。

「あ、隠さないんだ。」

奇術師(マジシャン)の奇術だと押し通せば問題ない。と思う。」

「貴女って結構雑よね。」

「たまに言われる。」

実際、この世界も()()()()()()の許容はあるのだろうし、あまり気にしてもいないのだ。

それにしても、いけない。今日は何かと思い出す。思い出してしまう。

 

「すまない。私は一度寝る。何かあったら起こして欲しい。」

「わかった。」

備え付けのベッドに寝転ぶ。気温は快適で、毛布を被らずに目を閉じた。

明日から闘技大会か。

賞金はしっかり確認してないが、エレナが旅の路銀としてあてにするくらいはあるのだろう。

どこまで行けるかもわからないが、私は強くなくてはいけない。そう決めた。



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