Entrance~剣の章~   作:Boukun0214

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氷の魔法使い

闘技大会当日。

試合形式はトーナメント。

例年として八回程度行われるが、今回は参加者がおおよそ半分少なくて七回。まあ首都の事を思えば無理もないだろう。それよりも首都の情報が未だにこの街、カーリルまで届かないのは不自然さを感じる。

何か情報を裏から管理してるような存在がいるのだろうかと考えたが、とりあえずは思考の隅に置いておく。

 

「フィルさん、くじ引きの結果、貴女の初戦の相手はトレバーさんに決定しました。」

待合室で、スタッフに対戦相手の名前を告げられる。と言われても、別にその名前を聞いてピンと来るものは無かった。当然か。

ちなみに待合室には同行者として登録されている者も入ることができるようなので、試合中、シオンはこの部屋で待っているそうだ。「闘技大会って見ててあまり楽しくないのよ。」だそうだ。私も戦いは好きではないが、その手の試合は見るのは結構好きなのでそんなものかと流した。

装備品の登録は特にないらしい。というか、奇術師(マジシャン)にそれをしても無駄というか、基本的に勝ち残れないとされている職種なので奇術師(マジシャン)は例外的に見逃されている。

 

さて、ルール、というより禁止事項は三つ。

一、相手の命を奪ってはならない。

二、試合中に他者の助けを得てはならない。

三、試合外でステージに立ち入ることを禁止する。

当然ながら、魔法を使ってはならない、何てものはないわけだ。

というわけで一回戦。

ステージは直径二十メートルくらいの円形で地面は土。周囲を私の身長の倍程度の透明な壁で囲まれている。素材については気にしないものとして、多分すごく丈夫なんだろう。その向こう側に観客席がある。観客は何人居るかはわからないが、結構な人数。ああ後、天井がないので風通しが良さそうな感じだ。

冒険服の上に、ローブを着込み、そしてフードを被っている。

「さァァァァァァァ!一回戦、第四試合はコイツらだァァァァァァァ!」

耳をつんざくような大声で司会が叫ぶ。なんだアレは。人間に可能な発声量を遥かに越えている。彼の口元に添えられてある丸い石がなにか関係しているのかもしれない。ああいうのもあるんだなぁ。

「東にはァ!前回四回戦まで勝ち残った、海から来た槍使い、トレバーァァァァァァァ!今年も期待してるゼェェ!!!」

歓声が聞こえる。

うるさい。とにかくうるさい。魔眼を使って、私の耳に届く音を気にならない程度に下げる。音に関する魔眼はこういうとき便利だ。

相手の姿を確認する。上裸で筋骨隆々と言った様相の、スキンヘッドの大男だ。武器はおそらく、背負っている大きな黒光りした槍だろう。当然、あれを振り回してくるのだろうから、受けたらひとたまりもない。

「さて反対の西は、無名の新人!つい最近冒険者登録を済ませたひよっ子の女奇術師、フィルだァァァァァァァ!!!種も仕掛けも忘れんなよォ!!!」

笑い声が観客から響いた。なるほど。こういう風潮か。

「さあ、テメェら命以外、一切合切ぶつけ合いなァ!そんじゃ試合、スタァァァァァァァトォォォォォォォォ!!!!!!」

司会者が吠えた。これが開始の合図。

ここからお互い、遠慮なしの勝負が始まる。

試合終了は、一方の戦闘不能が確認されるまで。

試合相手のトレバーが槍を構える。右手を前に、左手を後ろにして半身の構えだ。

氷魔法(アイススペル)領域(フィールド)

私はポツリ、と。一言。

私の足元に水色の魔法陣が現れ、霧散する。同時に私の立っていた周囲から円を広げていくように、氷が薄く地面を覆い出した。

突っ立っている私へとトレバーが距離を縮める為に大きく踏み出す。丁度良いタイミング。飛び出し、最初に着地する右足までギリギリ氷の膜が広がっている。丁寧につるつるの足場だ。全体重を前へと進めるために踏み出したのだから、そのまま大男は足を滑らせて前のめりにぶっ倒れる。

会場がしんとした。

直後、観客の笑い声、爆笑とも呼べる音が響く。

「おいトレバー!何しょっぱなスッ転んでんだ!」

「こっちはテメェに賭けてんだぞ!!」

「氷か!どうなってんだアイツ!」

「こりゃ大穴かもしれねぇぜ!」

と、まあこんな感じ。観客も楽しんでくれているようで何よりだ。円形のリングは氷で覆われ、石造りの様相が一変する。

風魔法(ウィンドスペル)爆発(バースト)

足元で風を爆発させ、跳躍力を補う。私の身長の三倍程度飛び上がった。結構高い。

相手の姿を俯瞰する。起き上がろうと両手をつき、尻餅をついている。武器からは・・・手を離していないか。

氷魔法(アイススペル)刺穿(スタブ)

複数の氷柱を作り、それを飛ばす。

槍を固定するように、氷柱をトレバーと槍の間にいくつか刺した。槍を体に引き寄せようとすると、太い氷柱に引っ掛かるように。

着地点は、トレバーの目の前。まだ立ち上がれないでいる男の胸に、両手を当てた。

「うおっ!」

前に、医学書で読んだ。

撃音(パルス)

大抵の動物は、心臓に大きな衝撃が来ると気絶するそうだ。

適当な音。音楽で言えば、低めのシの音。

それを心臓の位置にぶつける。

「音階は、この場合関係ないんだけどな。」

 

スキンヘッドの大男は白目を剥いて仰向けに倒れた。気絶だ。念のため心音が続いているか確かめたが、ちゃんと動いている。

狙い通り。

気付くと、観客席はしーんとしている。

そういえば今は、奇術師としてここに立っているんだったな。

なのでとりあえず、司会の方を向いて、お辞儀をした。

 

「・・・勝者は!氷の魔法使い、フィルだァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

ウォォォォォォォォォォ!!!と、観客席が盛り上がる。()()使()()という言葉に少しヒヤッとしたが、深い意味はないだろう。

こう、勝利を納めた上で歓声を浴びるのは、思っていた以上に気持ちが良い。煩いけど。

・・・それはそれとして、着地の時から、足が、とても、痛い。


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