Entrance~剣の章~   作:Boukun0214

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不覚

最初の試合の感想は、呆気ない、というモノだった。

 

「次からは同じ手は通用しないと思いますよ。」

 

作戦会議、というかエレナから戦い方を教わる夜のこと。

 

「他の選手は、結構情報を仕入れたりしてるものなのか。」

「ええまあ。優勝狙ってるなら当然ですね。フィルは今までこの手の大会の参加経験がありませんから情報が皆無だったのでしょうし。きっと、他の参加者は貴方の戦い方をある程度対策してくると思います。」

 

ちなみにシオンとリンは部屋の隅で読書をしている。運営から提供された部屋は二人部屋だが、ベッドが二つだけというだけで四人入ってもあまり問題ない。まあ、少し狭いが。

 

「じゃあ、次はどうしようか。結構派手に魔法は使っても問題なさそうだったけど。」

「魔法陣?っていうのでしたっけ。あれ、多分異能を開眼してる人にしか見えていなさそうでしたね。」

「異能?」

「コレのことです。」

 

エレナが自分の右目を指で示す。その色が、黒から青に変わった。

 

「フィルも使ってましたよね?」

 

異能を開眼させる······とは魔眼のことを言っているらしい。そういえば魔法という概念が発達してないんだった。この世界は。

 

「前の試合の槍使いは異能を持っていないので、きっと何もわからなかったのでしょう。観客の大半もそうでしょうし。」

「············? ちょっと待ってくれ。魔眼(コレ)って、誰でも使えるものだろう?」

「あー············フィルのいた世界ではそうだったのかもしれませんが、此方では精々、二千人に一人程度ですよ。」

「······そうなのか。」

「ええ。」

 

道理で魔法が発達しないわけだ。······私の扱う魔法の起源は、元々は個体によって違う現象を起こす魔眼を、誰でも扱えるように一般化しようとしたものらしい。魔法陣は魔眼の中に浮かぶ模様を写し取ったもので、それこそが現実を侵食する神秘を形にした物だ。つまり、魔眼がありふれたものでなければそういった発想を起こし、そして実行に移す者が現れる確率はぐっと低くなる。

 

「すまない。話を戻そう。」

「ええと、ではトーナメントの結果、次の相手は一兆鳥銃(ビリオンマスケット)ですね。」

「マスケット?」

「鉛玉を飛ばす飛び道具ですね。命中精度は大したことがありませんが、並みの鎧は砕かれます。」

「恐ろしいな。」

「まあ滅多なことでは死にはしませんよ。あの場所は殺しが禁止されているので。」

 

ルールによって殺しが禁止されていることと殺されないことは別な気がするが、あの領域だけはなにか妙な感覚がした。この世界も私のいた世界と同じルールで動いているなら、もしかしたら魔法に似た何かがあるのかもしれない。

そう、例えば、呪いとか。

 

「ともかく、明日の対策としては氷でなるべく強固な盾を作りながら間合いを積めて燃やすなり切り刻むなり潰すなりすればいいでしょう。」

「······そう簡単にいくとは思えないのだが。」

「何事も経験ですよ。正直、初参加で優勝は無理でしょうし。」

「············。」

 

いや知ってはいたが。手厳しい。当たり前か。

 

「とりあえず次の試合は火力で押しきるのもひとつの手かなと思います。何せ、仕組みがイマイチわからないんですよね。相手の。」

「見た目は軽装なのに、文字通り無数の銃を取り出して撃ってくるんですよ。銃の構造上一発撃つと終わりですけど、それがいくらでも出てくるので実質無限ですね。」

「複製の魔······異能か何かか。」

「かもしれませんね。でも、手品のタネはわかったところで対応できない事が多々ありますし、実際に起きている現象に対して策を練った方が建設的ですよ。」

「だな。どうしようか。実を言えば、氷で盾を作り続けるのはあまり効率が良くなくてな。」

「魔力を使いすぎるとどうなるんですか?」

「貧血っぽくなる。いや、対処法が時間経過しか無い分、貧血より厄介かもしれない。」

 

実際のところ、時間経過以外にも魔力回復方法はあるが魔力の概念がないこの世界に回復薬があるとも思えないので割愛する。

 

「貧血でしたら最悪血を貰えば済みますしね。」

「いや、私はそれはしないが。」

 

吸血鬼じゃあるまいし。

 

「まあその辺は人それぞれですね。」

「相手が撃ってくるのが鉛玉だってなら、炎で融かすのが楽かもしれないな。」

「そんな火力出るんです?」

「出来なくは。」

 

炎を出し続けるのは流石に無理だが、腕に炎の付与魔法(エンチャント)をすれば鉛玉を融かすくらいの熱は出る。問題は腕に玉を当てないと駄目なのと服の袖が燃えること。特に後者はな。替えがないからな。

 

「まさか金属を融かせる程の高温が出せるとは······」

 

 

と、まあ。

 

とかなんとか相談をしたものの。

 

 

 

 

 

第二試合当日。

目の前に立つのは厚手のコートでシルエットを覆った小柄な男だった。

試合開始の合図と同時に、目の前に広がった、空を覆い尽くし、私を取り囲んだのは大量の、それ以外に見えないほどの、宙に浮いた金属の筒だった。

───腕を炎で包めばなんとかなる?

冗談じゃない。この規模は聞いてない。

 

氷魔法(アイススペル)障壁(ウォール)!」

 

私の周囲を取り囲むように、とにかく厚く、八方へ壁を創る。防ぎ、切った。

見ると、壁にはもう亀裂が走っている。これは創り直さないといけない。同じ壁を創るだけなら、あと10回は可能だ。けれど防衛戦で勝てる気もしない。もうこれは、一か八か。

 

付与魔法(エンチャント)(ファイア)

 

服に炎の魔力を込める。

 

付与魔法(エンチャント)(ウィンド)装着(ドレスアップ)

 

風の魔力で、全身の肌を包む。

教わった話だが、空気の層があれば熱を遮断できるらしい。巧く行って良かった。これで服は燃やさずに済む。

ローブのフードを深く被って、出来る限りの防御力を上げる。

 

「3······、2······、1。」

 

深呼吸をして氷の壁を解除する。

同時にジャカジャカと重たい音が幾重にも重なって、また空を覆い尽くすほどの銃口がこちらを向く。

来る、第二波が。

 

私がやることは、脇目も振らずに駆け抜けること。銃に隠れて相手の位置は見えないが、あの銃の群れを抜ければ見付けられるはずだ。

 

音撃(パルス)!」

 

足音を増幅して、地面を蹴る。音とは空気の動きだ。風を纏った身体は、弾き飛ばされるようにして前に推進力を得る。

そのまま真っ正面の銃の群れに突っ込んだ。炎の熱が銃を融かし、燃やし、多少の打撲で先に突き進む。

相手は······いない?

 

「今度は人体発火マジックか。」

 

男の瞳は紫色に発光している。

やっぱり、魔眼による現実干渉。紫色は、主に非実体への干渉を表す。

 

「そちらは随分、異能の扱いが達者だな。」

 

白兵戦には自信がないが、飛び道具相手に距離を離すよりはマシだ。

まずは打撃の一発でも······

 

「────残念。」

 

額に冷たい金属の温度を感じた。

何処から取り出したのか、相手の手には長い銃身が握られていて、その先が私の頭に突き付けられている。

 

発砲音が響いた。

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