ここに来るのは三度目になる。
まさかこんなに短期間に来ることになるとは思っていなかったが。
今日は旅の準備をしに、ペーパー街に来ている。
相も変わらず人が多い。ただの商店街というだけでなく、都心部に近いのがその原因なんだそうだ。言われてみれば、人混みの向こう側に城壁が見える。城はあそこにあるのか。少し見てみたい。
それは今度の機会にしよう。今は、旅に必要なものを揃えなければ。ちなみに、当然ながら代金はライカ持ちだ。申し訳ないが、この世界のお金を持っていないので致し方無い。素直に甘えよう。これを気にするのは何度目だろう。どこかで日雇いの仕事等あればいいのだが。
「まずは上着かな。隠しポケットがあるやつ。それとある程度のお財布をふたつ。」
「二つ?」
「うん。ひとつはダミー。もうひとつを隠しポケットに入れておくんだ。旅人のスリ対策の基本だね。」
「なるほど・・・。」
ライカが衣服を扱っている店に入っていった。上着はローブじゃ駄目なのだろうか。
「いらっしゃい。お兄さん、今日はどんなのをお探しで?」
「この子に、動きやすい旅人用の服とかお願いできるかな?」
「その嬢ちゃんは旅人かい。最近多いんだよねえ。新しく旅人になる若者が。流行りなのかねえ。」
「流行りかは知らないけどね。確かによく見かけるかも。」
「だろう?で、こんなのどうだい?女性物で、胸の裏側のところに隠しポケットがある。ちょっとローブ脱いでくれるかな?」
店の女店主が、ライカと何気なく会話をしながらてきぱきと服を取り出して広げ、私の肩に別々のサイズを合わせていく。比べるのもどうかと思うが、武器屋のところとは偉い違いだ。いや、そんな店だらけだったら普通に困る。
「うーん、ちょっと大きいか。あ、お嬢ちゃんはどんな
「えっと・・・」
「あー、彼女はまだ
あとで聞いた話、通常、旅人は旅人の連盟に入って、戸籍で管理されるらしい。ここで、自分の戦い方、もとい戦闘職を決めて登録するそうだ。これに入っているとなにかと国からの補助を受けられる代わりに、有事の際は戦争に参加しないといけないとのこと。
私は戸籍がないから気にしなくていい。というか、そもそも入れない。しかし、一応入らないといけないことにはなっているが入らない人もかなりいるそうなので、別に不自然でもないそうだ。
「うん。これなんかどうだい。きっと似合うよ。それにしてもほっそいねえ。こんなので戦えるのかい?」
「まあ、彼女はトリッカー向きだから。。。」
「じゃあ、
「火を出したり、氷を出したり、そんな感じかな。」
「なるほど。ならこれでいいね。動きやすいし、ポケットも多いから色々と仕込めるよ。それに防火防水なんでも来いさ。」
この世界に魔法はない。でも、いいな。これからはそう名乗ろうか。居候では締まらないから。あと私が名乗りたくない。そのくらいのプライドはあっていいだろう。
「どう?」
「あ、ああ。じゃあ、それで。」
「オッケー。いくら?」
「2400ソルね。まいど。」
・・・高価い。"ソル"とは、この国の通過だそうだ。
確か、前に買い物に来たときのパンは1斤で50ソル位だったはずだ。48倍・・・。それとも、食物の物価が安いだけなのだろうか。それに、私が見てきたのは十数日程度だが、やはり彼が仕事らしい仕事をしているのを見たことがない。でもお金には困っていないと言っていた。
考えないようにしていたが、気になるものは気になる。
「ああ、そうだ!
「どうする?」
「あ、いや。手袋は持ってる。」
店主が、わざとらしく他の商品もすすめてくる。
抜け目ない。さすが商人と言ったところかもしれない。お陰で考えていたことが吹き飛んだ。そこは感謝しよう。手袋は確か、
「ああ、あと。お財布だ。なにか手頃なのある?」
「仕込みのやつなら、こっちで十分かねえ。」
「あ、じゃあもうひとつはそっちの革のやつで。」
「あいよー。」
結局、旅人用の上着と小さな財布を2つ買って貰って店を出た。旅に必要なもの。あとは何があるのだろう。こんなことならその手の本を読んでおけばよかった。その手の知識は任せっきりだったが、これからも全部そうというわけでもないだろうし。先の備えで読んでおこうとは前々から思っていたし、良い機会だから、この世界の文化を調べがてらライカに図書館にでも連れていって貰いたい。というか、純粋にこの世界の本を読んでみたい。明日にでも頼んでみようか。
「・・・うん。まあ、ひとまずはこれで良いかな。他に必須ってほどのものはないし。」
その後はいくつか店をまわり、"マッチ"と呼ばれる火を起こす道具や、しなやかで折り畳めるのにとても丈夫な金属(?)で作られた水筒、あとは非常用の傷薬と包帯を買った。
「どうする?まだ日が暮れるまで時間があるけど。観ていきたいところとかある?」
ライカのこの質問に、私は当然ながらこう答えた。
「なら、図書館に行ってみたい。・・・いいか?」
「いいよ。ちょうど近くに良いところがあるんだ。」
案内されたのは、この国の城の内部。ペーパー街に来たときに目にはいった城壁の向こう側。ライカは門番と面識があるようで、普通に入れてしまった。
『グラディエルム国王立図書館』
一人で立った入り口の、豪勢な装飾をされた名札の文字をたどる。一般人立ち入り禁止の文字が私の頬をひきつらせる。
「あ、僕はちょっと用事があるから行ってくるよ。図書館の中にいてね。」
ライカよ。
ここまでは求めていない。