俺の誕生は突然だった。 気がつけばドラゴンで生きていて、大きな力も持っていた。
長い時間の中で生きている中で、俺は二天竜と呼ばれるようになった。 俺のライバルであるアルビオンとは、お互いに同族嫌悪で神・悪魔・天使・堕天使を巻き込んだ大喧嘩をした。
その際に三つ巴の勢力で、俺達は神器『セイグリット・ギア』に封印されたのだ。
それからだ…俺達は神器として人間に扱われるようになった。 色々な人間を宿主としてアルビオンと壮絶な闘いを繰り広げた。
俺が司る人間には『赤龍帝』。
アルビオンが司る人間には『白龍皇』と呼ばれるようになっていた。 俺達が同じ時期に神器保持者に司れば、磁石のように引き合い、そして闘いが繰り広げられる。
それらは長い年月をかけて、俺とアルビオンは人間を通して闘っていた。 最早理由など関係なかった。 お互いが出会えば、それが闘いの合図だった。
だが、俺の神器保持者はほぼ全員が俺を怯え恐れ拒絶していた。 人間にとって俺ドラゴンは仮想の生き物らしく、存在すれば恐ろしい存在と恐れられているらしい。
その為…俺は幾度人間の神器保持者に司るが恐れられていた。 神器保持者がある程度神器を扱えるようになり、俺と会話が出来たとしても誰もが心を恐怖で塗りつぶされていた。
何が悪かったのか、何がいけないのか。 回数を重ねる度に人間との接触を柔らかくしているのにも関わらずに、人間は俺を拒絶していた。 俺の声は無視をして力だけを我が物顔に使い、アルビオンの神器保持者と闘い…死んでいった。
最早俺は変わっていく神器保持者には姿は見せるが声をかけないようにした。 無駄と知っているのだから。 俺と言う存在がある筈なのに、神器保持者からは誰も俺に目を向けなかったからだ。 長い…長い間俺は口を閉ざした。
だが、神器保持者の中には変わった奴がいた。 産まれる前に俺と会話が出来た宿主がいたのだ。 白い空間で姿は黒く塗りつぶされたような人型が俺の目の前に『それ』はいた。
其奴は俺の姿を見て恐怖せず、逆に『美しい』と言っていたのだ。 それには俺の心は揺らいだ。 俺の神器保持者には口を開かないと決めていたのに、何故か其奴と会話していると楽しかった。
何百…何千年ぶりだろう。 まともに会話をしたのは…。 そして俺は蛇口を壊したかのように其奴と会話した。 時には喧嘩したが笑いあった。
時は来た。 俺の神器保持者は1人の女から産まれ落ちた。 名は『一誠』と名付けられた。 ドラゴンである俺だが宿主の人間である一誠は愛おしく思えた。 赤ん坊である一誠は、精神が何故かしっかりしており俺を家族のように接していた。
一誠には色々と疑問に思う事があるが、一誠の笑顔を見るとどうでもよく思えた。 だが、成長していく内に一誠の父親と母親は奇異な目で見るようになっていく。 それには俺は怒りを抑えられなかった。
人間は未知なる存在を恐れる。 それが我が子でも。
俺が否定や拒絶されても構わないが、一誠がそんな物を向けられると感情がコントロールが効かなかった。 しかし、一誠は優しく俺を止める。
仕方ないと
そんな一言だけで済ませた。 俺は無力だった。 最初から独り身の俺には一誠に言える言葉が出なかった。
一誠には俺以外の特殊な力を持っていた。 それは眼だった。 あらゆる力を吸い上げる眼を持っていた。 動く物の力、電力、重力、圧力などを際限無く吸ってしまう眼。
それを持っている一誠は、普通に生きていくには不便な眼だった。 力加減を間違えてしまえば悲惨な事になってしまうからだ。
試しに使ってみれば山一つ消して荒野を作り上げるほど。
本来は俺の力は戦う為にあるのだが、そんな一誠の力を抑え込む為に使った。 今までの保持者は外に向けた力だったが、一誠には抑え込む力になった。 だけど一誠は俺に感謝していた。
ありがとう、ドライグ
そんな一誠の一言に…俺の心は染みた。 本当に一誠が俺の神器保持者で心から良かったと思えた瞬間だった。
時間は過ぎていき、一誠が成長していく内に一つ発見した事があった。 俺と一誠の精神の交換が可能だった事。
最初は人間の身体には慣れなかったが、何度か身体を借りていく内に慣れていった。 俺も最初は断っていたが一誠は無理矢理でも交換してくるので諦めた。
しかし、そんな生活も悪くなかった…いや楽しかったな。 身体借りての食事など運動や色々な事を体験した。 何もかもが新鮮だった。 ドラゴンである姿の時には感じなかった色々な物を、一誠から沢山くれた。
人間は汚く外道で下等生物だと思っていたが一誠のお陰で変わっていく。
そんな俺の心が変わっていく内に、一誠の親も変わっていた。
眼の力により表情を出せない一誠と借りて出ている俺を可愛がるようになっていく。 両親は一誠の事を二重人格と思い込み、一誠と俺を同時に差別なく接していた。
俺には親と言う存在は知らない。 気づけば生きていて、闘い…そして封印されていたのだから。
そんな俺を我が子のように両親は可愛がる。 俺は表情を出せるから元々の一誠が可愛い顔付きの為により可愛く見えたのだろう。
時に叱り、時に甘え、時に笑い合う。 俺は最初の一誠の両親には良い感情を持っていなかったが、それは溶ける氷のように無くなっていく。
父親である、兵藤 玄一郎。 平凡な人間だが家族の大黒柱で生活を支えていく。 よく一誠と俺に甘える親バカな男。
母親である、兵藤 加奈子。 人間の歳では相応の見た目には見えないほど童顔。 飴と鞭の使い方が上手く、俺の時でも可愛がる女。
相棒である、兵藤 一誠。 俺の存在を否定せず本当の家族のように接する。 誰よりも近く愛せる存在で支え合いたいと思う人間。
そんな家族に囲まれて俺は幸せを感じていた。 この家族が俺の大切なものになるのは当然であった。 いつまでも幸せな時間が続けば良いのにと思っていたが、突如と変わってしまう。
父親の兵藤 玄一郎が人間では早すぎる死に。 その為に兵藤 加奈子が変わってしまった。 先の件で一誠は身体を弱めてしまう事に。 様々な事が重なる。
俺は兵藤 玄一郎が死んで、本当の親が死んだ様に泣いた。 心が壊れてしまった為に一誠を猫可愛がるようになった兵藤 加奈子見て心が痛かった。 俺の中で一つ大切なものを無くしてしまう。
だが、一誠は辛い表情をしたが弱音を吐かなかった。 兵藤 玄一郎が死んだ時は、兵藤 加奈子の側で支えて慰めていた。 弱くなった身体を鍛え直す為にトレーニングするが、最初は傷も完全に治っておらず痛みがあるのに一誠はめげなかった。
これからも降りかかる火の粉を振り払う為に、身体を少しでも動かせる為に一誠は努力していた。 眼が集めた力が身体を不調にしても、今まで通りに動かせない身体に対する不満も一誠は一言も愚痴をこぼさずにやれる事を続けていく。
どんなに辛くても悲しくても一誠は歯を食いしばり前に進む。 それを見た俺は一誠の為に支えられる存在になりたいと思えた。
ある日、いつも通り一誠はランニングしていると不思議な少年と出会う。 話せば其奴が神によって異世界から転生した奴が一誠の父親である兵藤 玄一郎を殺したと言った。
俺は怒りで我を失いそうになった。 だが、それ以上に一誠の感情を感じた俺は冷静になれた。 何処か一誠が消えてしまいそうになってそうだったからだ。
あの時、一誠が刃物で切られた時に力が暴走寸前に精神世界では奥にいた『ナニカ』が一誠を持っていこうとしていた。
駄目だ、アイツと一誠と戦わせてはならない。 嫌な予感しかしない。
そう感じた俺は表に出た。
しかし、本人曰く神から貰った力のお陰なのか凄まじい戦闘力を所持している。 元々はドラゴンである俺が人の身体を使い戦えば、まだ使い慣れてない身体は奴に傷一つ与える事すら出来なかった。 俺の我儘で一誠の身体に傷を負わせてしまい、自分では奴に勝てない事が心から悔しかった。
本当の親では無いが、一誠と一緒に育ててくれた父親の仇も禄に取れないで名ばかりの俺と言う存在が憎く思えた。 だけど、一誠は俺の事を責めずに自ら表に。
意識が切り替わる瞬間、心的世界で一誠と人の姿をした俺の前には大きな扉が現れている。 一誠は扉に近づこうとするが、俺は一誠を止めたいが扉越しからの圧に動けないでいた。 だが、俺には嫌な予感が走っている。
もし一誠があの扉を開けたら、消えてしまうのでは無いかと思えたのだから。 決死の思いで扉に向かう一誠に止めるように叫ぶが止まらずに、扉の前に辿り着くと一誠は振り返った。
悪い、ドライグ。 後は任せた
その言葉を残し一誠は自分より大きな扉を片手でゆっくり開け始める。 すると…扉の向こうから俺と言う存在がちっぽけに思えるほどの存在感が放ってきた。 両開きの扉の向こうには大きな《ナニカ》が複数閉じた眼の中で一つだけ開かれた。 そこからは俺は何も言えず動けないで、ただただ一誠が《ナニカ》に何処か優しく喰われるのを眺めるだけだった。
それからは一誠の形をした《ナニカ》、俺では全く敵わなかった転生者であったが余りの力の差に焦りの色を浮かばせていた。転生者の用いる全ての能力を持って抵抗を見せるが《ナニカ》に向けるが全てが無駄に終わってしまう。
転生者は神から貰った力で一誠を殺そうとしたが、世に出しては行けない《ナニカ》を表に出してしまった為にその企みも儚く散ってしまった。 この世から消される前には泣き叫び命乞いをする転生者であったが、《ナニカ》は無慈悲に残虐に冷血にゆっくり…ゆっくりと転生者を痛みと苦しみを与えて静かにこの世から消し去ったのだ。
転生者がこの世から消え去ると、心的世界の《ナニカ》は眼を閉じると開かれた扉が閉まっていく。
そして一誠の身体は倒れてしまい、俺は《ナニカ》の圧から解放されて放心状態になってしまったが正気に戻った時には表に出ようとした。 しかし、俺は何かに阻まれるように表に出れなかった。 そして倒れていた一誠は苦しそうに声をあげながら眼を覚ます。
《ナニカ》に喰われた一誠を見ている俺は心配していたが、一誠が意識を取り戻したので声をかける。大丈夫かと
しかし、それはもう俺が知っている一誠では無かった。
僕は誰? 此処は何処? なんで僕の中から声が聞こえるの? あなたは誰?
…俺は、また一つ大切なものを無くしてしまったのか