いい加減、覚悟を決めるべきなのかもしれない。
握り締めた拳銃をスーツの懐に仕舞いながら、俺は溜息をひとつ、零した。
俺、日向順平は、もとはただの善良な一般市民であった。それが今では、黒スーツに身を包み裏社会で酷な仕事をこなすマフィアの一員だ。全く人生何が起こるか解らないとはよく言ったもんだ。
まぁ俺が何故、突然マフィアの世界に転がり込んだのか……はまた追って説明させて頂くとしよう。
そんな俺が現在立っているのは、マフィアとなってからイタリアに購入した隠れ家の入口の前。つい数分前に、部下から連絡が入ったのだ。『日向さんの隠れ家に不審人物が潜伏しているようだ』と。
「……ドアノブに微かな指紋……血もついてる。こりゃ当たりだな。」
懐に仕舞った拳銃を再度手に取り銃弾のセットが問題無いか確認してから、俺は誰かわからない者の血で汚れたドアノブを握り、その重い扉を開き屋敷の中へと姿を消した。
同時刻:日向の隠れ家内
迂闊だった、としか言えない。
俺のこれまでの行動を、俺自身の目で振り返ってみても、答えは同じ。
「ちょーっと無理し過ぎたかもなぁ。いや、調子に乗りすぎたのか?」
全身で息をしながら、震える脚で走り、やっとの事で見つけた一軒の家に忍び込めた俺だったが、その家の中のあまりの殺風景さと、僅かに鼻腔を掠めた硝煙と灰の香りに、俺は思わず溜息をつく。
「これは……まさか逃げ込んだ先が“同類”の巣だとは。俺もしょうがない奴だよなぁ……」
灯りをつける余裕もなくペタリと冷たい石の床に座り込み、俺は覚悟を決めて目を閉じた。
「そのうち、ここの家主が来て俺を殺してくれるはずだ……申し訳ないけど、ひと眠りさせてもらうぜ……」
目を閉じて黙り込んだ俺の耳に、小さくだが、誰かの足音が聴こえてきた。それは迷いなく、だがこちらの様子を伺うような緊張感を纏いながら近付いて来る。
どうせなら、すげー格好いい奴に殺られたいかなぁ。
最期に、そう心中で呟いた。
…………
……
「おい、何してやがる。人んちで堂々と寝やがって。」
「ん、へ……?」
床に倒れ込んでいた俺が薄目を開くと、そこには自分を覗き込む一人の男の姿があった。アジア系の黒髪に、神経質そうなつり目と黒縁眼鏡。
俺はこの男に殺られるのか。
虚ろな頭でそんなことを考えていた矢先、男は俺に背を向けて何処かへと歩き出した。
「……?」
てっきり殺されるか、良くて殴られると思っていた俺はじっとその男を観察してみる。
「チッ。暗くて顔も見えやしねぇ。」
男はそう呟くと、あろう事か部屋の灯りを付けたのだ。
「……お前……」
「あ?ンだよ。」
「殺すんじゃ、無いのか……?」
「怪我してる奴を、理由も聞かずにか?コレだから裏社会の人間は。」
まるで自分は“違う”かのようなその物言いに驚いたが、それよりも俺は、明るくなった部屋に真っ直ぐ立ちこちらをじっと見ていたその男に、俺は視線が釘付けになってしまった。
「……」
決して、男前とかイケメンとか言える見た目では無い。しかし意志を持った強い光を放つ瞳や凛と伸びた背筋は、人の目を惹く魅力をたたえている。
きれいだ、と思った。ただ単純に、本能的に。
頑張って続けていこうかと思っています。ここまで読んでくださりありがとうございました!