ガールズ&パンツァー リトルアーミーⅡの小説   作:ドツェドスフエロスキー

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第2話

「ちょっと、なによこれ!!?」

 

 エミはメイド服姿で校門に立たされていた。ろくに活動をしていなかった戦車道部は経費を打ち切られていたので、募金活動を行なっているのだった。

メイド服を着ているのは瞳なりのイメージアップの作戦らしいが、効果があるのかは疑わしい。

 

「さすが本場ドイツのメイド服姿は違うね!」

 

 同じくメイド姿になった瞳は満悦そうに言った。

 

「メイド服の発祥はイギリスよ!」

 

 もはやツッコミ所が多すぎて、エミは対処しきれなくなっていた。

 オファーを受けてはるばるやって来た学園艦は今まで見た事もないような不良の巣窟で、戦車道部は廃部寸前、活動資金も満足に出ず自分達で募金をやる始末。

 エミは、今からでも協会に掛け合って転校先を変えてもらおうとも思ったが、不良にビビって尻尾を巻いて逃げ帰ったとなっては、自分のプライドが許さない。

 とにかく一日でも早く活動を再開させる以外に道はなかった。

 

 そんな時、二人の目の前にピカピカに磨かれた一台のピックアップトラックが止まった。車から降りてきたのは、小学生くらいの双子だった。

 

「あっれー?戦車オタクじゃん、なにその格好。」

「もしかして早期解散の件考えてくれたのかしら?」

 

 いかにも意地悪そうな、顔が瓜二つの双子が嫌みったらしく、クスクスと笑っていた。

 彼女らの名は柏葉姉妹。瞳の話によると学園長である親の権力を盾に、傍若無人な振る舞いで有名らしい。

 姉妹は自動車部の部長も務めていて、戦車道部の敷地を狙ってさまざまな嫌がらせをしていた。

 

「ここで問題を起こしたら、本当に解散させられちゃう。」

 

 瞳がエミの耳元でささやいた。エミはすでに臨戦体制だったが、なんとか自制して平常心を保とうとした。とにかくここは相手の挑発にのらずやり過ごすしかない。

 

「あら~、初めて見る顔ね。」

 

 姉妹は二人の方に歩みより、品定めをするかのような目つきで睨んだ。

 

「エ、エミちゃんは助っ人でドイツから来てくれて・・・」

 

 穏便に済ませようと瞳が取り繕う。しかしそれを見透かしたように双子の片方が言った。

 

「バッカじゃないの?そんなもの乗るためにわざわざ来るなんてご苦労なことね。」

 

 双子の片方が喋って、それを聞いたもう一方の双子がクスクスと笑った。

 

「それに比べて私たちの美しい車を見てみなさいよ。生産性と合理性を極めた洗練されたすばらしいデザインでしょ。」

 

 双子の片方が自慢げに言って、それを聞いたもう片方がニヤニヤ笑った。

 

「「まあ、無駄にうるさくて油くさいだけの粗大ゴミに乗ってる物好きには、難しすぎて理解できないでしょうけどね!」」

 

 双子はシンクロするかのように声を合わせ、自分の言った言葉でゲラゲラと笑った。

 

「バツンッ!」

 

 その時、瞳は何か太いゴムのようなものが切れる音を聞いた。それは生まれて初めて聞く、堪忍袋の尾が切れる音というものだった。

 瞳が気づいた時には、エミは姉妹に重戦車のごとく詰め寄り、左右それぞれの手で姉妹の頭を鷲掴みにしていた。

 

「「ぎゃあああああああああ!!」」

 

 双子の悲鳴が同調(シンクロ)して美しい調和音(ハーモニー)を奏でた。

 

「さっきから黙って聞いてれば、ベラベラとよく口が回るじゃないこのドッペルゲンガーズが!」

 

 エミはそう言いながら双子の頭をアイアンクローでじりじりと締め上げた。

 廃部を確信した瞳は、エミちゃんのDoppelgängers(ドッペルゲンガーズ)の発音が上手だなぁなどと感心し、現実逃避をしていた。

 

 

「・・・いいじゃない。だったら比べましょうよ!戦車と車どっちが優れているか、レースで勝負よ!!」

 

まだ怒りが収まっていないエミは、地面で転げて回っている双子を指してこう言い放った。

 

「なっ」

 

 自分達が一番得意とするレースで、しかも戦車道部にケンカを売られた柏葉姉妹もすっと立ち上がり、エミに負けじとこう叫んだ。

 

「「いいだろう!ただし負けたら戦車道部は即廃部、お前ら二人は退学だからな!」」

 

「上等じゃない!私たちが勝ったら、今後戦車道部の邪魔は一切させないわよ!」

 

 エミは「退学」という言葉を出されても一瞬も怯むことなく声を張り上げた。瞳はええっ!?とした表情で見守っていた。

 

「それじゃあ明日この時間に勝負よ、逃げるんじゃないわよ!」

 

 姉妹は車に乗り込むと、悪役のような捨て台詞を残し走り去った。

 

 

 

 

「……ごめんなさい、瞳も退学になっちゃうかも。」

 

ーー小屋に帰る頃にはエミは冷静さを取り戻し、自分のしでかした行為に後悔し顔を伏せていた。

 戦車は総重量数十トンにもなる鉄の塊だ。最高速度は整地においてティーガーⅠでせいぜい時速40km。自動車とどちらが速いかは比べるまでもない。

 

「あとは細かい調整だけだったし、明日までには間に合うよ!」

 

 瞳はさっそく作業服に着替えて、手慣れた様子で整備に取りかかった。部員が離れてしまっている間、なんと瞳はずっと一人で修理していたというのだ。おかげで今ではエンジン音を聞いただけで調子が良いかわかるらしい。

 

「今日はありがとね」

 

 戦車の内から瞳の声が聞こえた。

 

「私だけじゃ結局このまま何もできずに解散だったと思う。決着が早まってドキドキするけど、エミちゃんには感謝だよ」

 

 ガチャガチャという作業音と共に、瞳は独り言を呟くように続けた。

 

「いろいろあって今はこんな状態だけど、きっとみんな本当は心の中で『戦車道がしたい』って思ってると思うんだ」

 

「……できるだけ考えないようにしてたけど」

 

「本当にこのままチームがなくなって、みんなとの居場所もなくなって、戦車道ができなくなっちゃうのは……」

 

「やっぱり嫌だよ」

 

 いつの間にか作業の音は止まっており、戦車の中からは微かにすすり泣くような声が聴こえるたような気がした。

 

「私がそんなこと絶対にさせるもんですか!」

 

 瞳は戦車部を復活させるために今までたった独りで頑張ってきた。その想いをこんな所であっけなく終わらせたくない。

 エミには長年の間に培った戦車道の知識と経験がある。いかなる時も戦車乗りとしての道を示すまでだ。

 

 

 

 

 

 

ーー翌日、決戦場所の校庭はちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。中央には学園祭用の大型モニターや放送席が用意され、ギャラリーも集まっている。

 柏葉姉妹の例のピックアップトラックもすでに準備が出来ている。

 

 瞳が一晩で突貫工事した鐘虎は、気休め程度だがレース仕様になっていた。

 軽量化として、予備の履帯や牽引ケーブルはもちろん雑具箱(ゲペックカステン)、発煙弾発射機、対人用榴弾発射機、前照灯、通信アンテナ、無線機、排気管カバー、エアクリーナー、主砲同軸機関銃、車載機関銃、機関銃用弾薬背嚢、泥除け(フェンダー)、ヘリスコープ、キューポラ、ハッチの蓋、外側の転輪、座席シート、斧、スコップ、シャベル、ハンマー、ツルハシ、バール、懐中電灯、消火器、鉛筆削り機、留め具などなど・・・外せる物はすべて外した。

 特にハッチなどの装甲パーツは一つ数キロも重さがあるので馬鹿に出来ない。部品を極限まで外してスカスカになった鐘虎は、戦車というよりも自走砲の様相を呈していた。

 

「ボロさに研きをかけてきたわねー!」

 

 柏葉姉妹はゲラゲラと笑っていたが、作戦を悟らせぬためエミ達は終始一言も喋らなかった。

 

「スタート10秒前!」

 

 開始のカウントダウンが始まった。両者は一列に並び発進に備える。

 

「スタート!!」

 

 そしてレースが開始した。

自らが整備員でありドライバーでもある柏葉姉は、素晴らしいアクセルワークとクラッチ操作でエンジンの動力をすばやく動輪につなぎ、一寸のロスもなく車を発進させた。

 対して鐘虎はスタート地点からまったく微動だにしない。

 

「エンスト?それとももう故障しちゃったのかしら~?」

 

 両者の距離はみるみる内に離れ、柏葉姉妹はすでにトラックの第一コーナーに差し掛かっていた。

 

「では教育してやりましょう」

 

砲手席に座っていたエミは一言つぶやきニヤリと笑った。

 

「なかなか追って来ないわね」

 

 さすがに様子がおかしい事に気づいた柏葉妹がバックミラーに目をやると、砲塔がこちらを向いていた。

 まさかと柏葉妹の脳裏に悪い予感がよぎった瞬間、砲口から閃光がきらめき、コンマ数秒遅れて爆音が襲いかかってきた。

 砲撃音は学園内に響きわたり、校舎の窓ガラスに割れんばかりの衝撃波を叩きつけた。

 放たれた榴弾は姉妹のすぐ横を通り抜け、数メートル先に着弾した。衝撃で横転しそうになるが、バンドル操作でなんとか立て直した。その轟音にギャラリーが興奮して声援をあげる。

 

「頭おかしいんじゃないの!? 私たちを殺す気!!?」

 

 姉妹は可能な限りの大声で叫んだ。しかし声は届かす今度は姉妹のすぐ後方に着弾した。姉妹の車はその爆風で映画のアクションシーンのごとく高く飛び上がった。

 

「レースだからって、油断したわねぇ! 『撃ってはいけない』とルールに定めなかったアンタ達が悪いのよ!」

 

 鐘虎は故障したのではなく、十分な射程距離になるまで待っていたのだ。瞳は躊躇しつつも次弾を装填し、エミが軌道を修正して狙いを定めた。車体が軽くなったせいで照準が安定せず、狙い通りに着弾しないが、そもそも当てる必要はないので問題はない。

 

「馬鹿か!? 車相手に撃つなんて、ルール以前の問題だろ!!」

 

 姉妹は逃げながら涙声で必死に叫んだ。しかしその声は砲撃音でかき消された。ついに三度目の砲撃で姉妹の車はバランスを崩し生け垣に衝突した。

 

「戦車発進!」

 

 エミは相手が沈黙した事を確認すると、広くなった戦車内をするりと抜けて操縦席に乗り換えた。

 鐘虎は力強く発進すると、生け垣にぶつかりエンストしている姉妹の車を横目に、敵陣地を蹂躙するかのごとく猛烈な勢いで追い抜いた。

 

 当日発表されるコースついては、おおよそ見当がついていた。姉妹の乗るピックアップトラックの性能から考えて、せいぜい山道を利用したダートコースだろう。

 なので瞳が整備をしている間、エミは自動車部が日頃練習に使っている山道を調べた。

当日使われるであろうコースをいくつか推測し、その周辺の地形を調査して、鐘虎の性能で走破できる丘陵や山林などの最短経路を割り出していった。

試合前の現地調査は戦車道の戦いにおいて基本中の基本だ。そのおかげで鐘虎は何事もなく円滑に突き進んだ。

 

 やっと復帰した姉妹は猛烈な勢いで距離を縮めるが、その度に強引な近道で距離を離す。急勾配の丘を駆け上がり、雑木林を踏み倒し、時には砲撃で障害物を破壊して、文字通り道なき道を突き進んだ。もちろん木などを倒して道を塞ぐのも忘れない。

 

「ゴール!!」

 

 わずか僅差でエミ達が勝利した。姉妹の車はゴール手前で先の砲撃で空いた穴にはまり、その隙にゴールしたのだった。ギャラリーから歓声が巻き起こっていた。

 

「こんなの無効だ!もっかい勝利しろ!認めないからな!」

 小学生のように駄々をこねて泣き叫ぶ柏葉姉妹。

 

「あらあら、負けてべそかいてるの?」

 

 この上かつてない爽やかな笑顔で歩み寄るエミ。

 

「戦車は時代遅れだっけ?鉄の塊?上等よ!」

 

 エミは再び二人の頭を鷲掴みにし、面と向かってこう言った。

 

「戦車なめんな!」

「「くそー!覚えてろよ!」」

 

エミの気迫に怖じけづいた柏葉姉妹は、捨てゼリフをはいて逃げていった。あまりにも様になっているエミの姿に、瞳はお腹を抱えて笑っていた。

 

「エミちゃんってさ、やっぱり悪役似合うよね」

「どういう意味よ!?」

 

 いつの間にかエミもつられて笑っていた。

 その時、レースの中継をしていた大型モニターが突然テレビ放送に切り替わった。きっと生徒の誰かがいたずらしたのだろう。

 テレビではちょうど戦車道ニュースが放送されていて、エミ達と同学年の選手がインタビューを受けていた。

 エミは目を見開いた。そこに映し出されていたのは、かつて小学生時代の幼馴染み、西住(にしずみ)みほの姿だった。

 

 「全国大会優勝だって。本当にすごいよね。きっと自分の戦車道見つけられたんだね。」 

 

 エミは彼女の姿を見た瞬間、あの頃の記憶(シーン)が鮮明によみがえった。

 

 

『自分の戦車道はまだ自信がないけど、

これからたくさんの戦車道と出会って答えを見つけようと思う。

だからお互いに自分の戦車道を見つけたその時に・・・』

『また会お!』

 

(ずっと先を歩いていると思ってたのに、気づいたらおいて行かれちゃってたな。)

 

「待っててみほ、私もすぐに見つけるから。」

 

エミはモニター向こうの少女にむかって、そうつぶやいた。

 

「……で結果は?」

 

「鐘虎が勝ちましたよ!いやぁ久々に聴いたけどやっぱいいッスね、88mmの砲撃音はー」

 

 戦車倉庫のある一室。

 女生徒の一人が、まだ興奮も冷めやまぬ様子でレースの詳細を報告してた。

 それとは対称的に報告を聞いている相手は、表情一つ変えず頬杖をつきながら気だるそうにイスに座っている。

 彼女の周りには手下と思われる数名の女生徒が取り巻いている。

 

 報告を一通り聞き終わると、彼女はいきなり片手で玩んでいた胡桃を粉砕した。

 

「ひいっ」

「俺の戦車を勝手に使いやがって、けじめが必要だな」

 

 彼女の名は山守音子(やまもりねこ)。抗争中の戦車道部二大派閥の一つ山守組の(ヘッド)でありキャプテン候補の一人だった。

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