ガールズ&パンツァー リトルアーミーⅡの小説   作:ドツェドスフエロスキー

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第3話

「やっぱり普通っていいわね~」

 

 エミは幸せそうに自分の机に頬擦りしていた。まだ新築の匂いがする校舎に新品の机と椅子、最新式の電子黒板に、快適な温度に調整された空調・・・。教室には考えうる限り最高の設備が備えられていた。

 

「それやるの、もう三日目だよ」

 

 瞳はあきれたように笑った。

 

「まあ無理もないか。初めて見た時、この世の地獄かって顔してたもんね。」

「……初見で驚かない方がおかしいわよ。」

 

 ベルウォール学園。

『私立鐘壁(しょうへき)女子工業高校』を前身とし、「建築」をあらわす"壁"と「工業」をあらわす"鐘"を校章(シンボル)とする、敷地を取り囲む外壁と巨大な鐘楼が特徴的な工業高校であった。

かつては他の学園艦の例に違わず少子化の荒波で廃校の危機に迫っていたが、現学園長である柏葉政子(かしわばまさこ)の運営方針により外国語学に力を入れた普通科の設立を推進し、旧校舎に隣接する形で近代的な学校施設群を建設、学校名を現在の『私立ベルウォール学園』に改名して国際的な進学校へとイメージの転換を図る。

 この大胆な改革が功を奏して、20000人程度だった生徒数を現在の30000人規模にまで増加させる(ちなみに大洗女子学園の生徒数は中高合わせて18000人)。

 しかしそれとは対称的に工業科にはほとんど注力せず、さらに旧校舎の壁を撤去しなかったため、同じ学園内にありながらその壁を境に治安が大きく分かれていた。

 

「最初エミちゃんは間違って工業科の方に行っちゃったんだよね。」

「あんなの学校案内のパンフには載ってなかったわよ?」

 

 パンフレットには、楽しそうに授業を受ける普通科の生徒の写真や詳細が事細かく紹介されていたが、工業科についてはほんの少し、最低限の情報しか書かれていなかった。

 

「学園長は工業科嫌ってるからね。学園のイメージが下がるからあまり表に出したくないんだよ。

でも生徒同士はけっこう仲が良いんだよ? 普通科の子が壁の抜け穴を通って遊びに行ったり、工業科の子が()()()()こっちに来て学食食べたりとか。」

 

 4時間目の授業が終わり、二人は中庭で昼食をとっていた。目線の向こうには高くそびえ立つレンガ造りの壁が見える。エミは売店で売っていたサンドイッチを、瞳は家から持ってきた弁当食べた。瞳の弁当箱は年頃の女子とは思えぬ重箱のような大きなサイズだった。

 

「去年まではちゃんと活動してたっていうけど、今はなんでこんな事になってるの?」

「実はうちって昔はけっこう強くて、荒々しさと力強さを象徴したようなチームだったんだって。」

「んで、そんな百戦錬磨のあらくれどもをまとめるリーダーを決めなきゃなんだけど……」

「なんだ、隊長決めでケンカになってるわけ?そんなの簡単に……」

 

「決まらないんだなぁコレが」

 

 突然そんな言葉が聞こえると、声の主はエミの手に持つサンドイッチにパクリとかぶりついた。

 

「う~ん、さすが本番ドイツのサンドイッチは一味違うねぇ」

 背後にいたのは先日保健室で会ったサイドテールの少女だった。隣には背の高いパーカーの子もいる。

 

「サンドイッチの発祥はイギリスよ!で、何か問題があるの?」

 エミは昼食をつまみ食いされ少しムッとしたが、いちいち怒るのも大人気ないので、サンドイッチ一口分に見合う話を期待して彼女を促した。

 

「今年はズバリ!隊長候補が二人いるんだよね。」

 

 彼女は両手を腰にあてて偉ぶった態度で話し出した。口にパンくずが付いているので全然様になってない。

 

「一人は電光石火の喧嘩早さとクルミをも潰す握力で相手に喰らい付く"鐘壁の血に餓えた白鮫(ヴィルヘルム・アーモンゲート)" 山守 音子(やまもり ねこ)

もう一人は冷酷な笑みを浮かべクルミすら砕く握力で暴力を振るう"鐘壁の冷酷なる微笑の灰色熊(ベルンハルト・ケッセルリンク)"の 土居 千冬(どい ちふゆ)。」

 

「クルミと握力が被ってるわね。」

「この二人がメチャ強でさ、重戦車好きな上に極度の負けず嫌いなわけよ!」

 

 喜多の語りはだんだんと拍車がかかり、落語家のような身振り手振りの演技を交えて話し続ける。優も合いの手を入れる。

 

「しかも前隊長が後継者を決めずにいきなり転校しちゃったもんだから、

 チームの指揮はまとまらず、その後の惨敗の歴史と言ったら、聞くも涙、語るも涙の……」

「ちょっと待った!」

 

 キリがなさそうなので、エミは話に割ってはいった。

 

「状況は把握できたけどどういうつもり? 私達に突然内部の事情を話すなんて。」

 

 長年の戦車道の経験からか、彼女たちから何か思惑を感じ、エミはいぶかしそうな顔で聞いた。

頼みもせずに色々と情報を教えてくるというのは、裏に何かがあるに違いないからだ。

 

「いやー、実はさぁ」

 

 さっきの様子からは一変、サイドテールの少女は身体をもじもじさせながら答える。

 

「アンタらの奮闘ぶりと久しぶりに動いてる戦車を見たら、また乗りたくなっちゃって」

 

 一息つくと決心したように彼女は言った。

 

「……あたしたちも仲間に入れてくれないかな?」

 

 さっきまでのおちゃらけた態度とは打って変わり、緊張と不安が入り交じった真剣な面持ちになっていた。彼女達の中にも瞳一人に修理を押し付けてしまったという罪悪感があったのだろう。

エミは瞳の顔を見た。エミの視線に気がつくと、瞳はニッコリと笑った。

 

「まあそういう事なら歓迎するわ」

 

 それを聞いた二人は緊張が解けた様子でほっと肩を撫で下ろした。

 

「話しかけるタイミングずっと探してて疲れたわ~、あたしは喜多(きた)でこっちが(ゆう)ね。」

 

 再び(せき)を切ったように再び話し出す。喜多はおしゃべりが好きな明るい性格らしい。優は口数が少なかったが、喜多の話にコクンと相槌したりニコニコと笑ったりして無愛想という訳ではなかった。

 

「でさ、私達みたいに戦車の砲撃音を聞いて、目覚めちゃった子けっこう多いらしいのよ。」

 

 喜多の背後から、工業科と思われる柄の悪そうな生徒達が近づいている事にエミは気づいた。

 

「中須賀にはみんな期待してるよ、ウチらじゃあんなバケモノ共どうにもならないし!」

 

 そう言って喜多はアハハと笑った。その背後では柄の悪そうな上級生達が喜多を睨んでいた。

 

「……ちょっと面かせや」

 

 有無を言わせず半ば強制連行される形で四人は連れていかれた。

 

 戦車倉庫の一区画、ベルウォール戦車道二大派閥の一つ通称「山守組」と呼ばれるチームの縄張りがそこにはあった。

「山守組」はリーダーである山守音子を筆頭に、常に彼女の側にいる側近四名と他十数名で構成されていた。エミ達四人はそのメンバー十数人に取り囲まれ、中心で正座させられていた。

正面奥には、ファー付きの黒いロングコートを着た山守音子その人が、かったるいそうに足を組んで座っていた。

外見はマニッシュな黒髪ボブショートで鋭い目つき、尖った八重歯が相まり、確かに鮫を連想させるような荒々しい印象を受けた。

 

(ちょっと、なんで向こうから?)

(少なくとも歓迎されてはいないよね)

(・・・短い人生だったなぁ)

 

「おい」

 

 音子のドスを効かせた低い声が響いた。

 

 「「「はいっ!」」」

 

 四人全員が一斉に答えた。

 

「お前ら何で呼ばれてたか、分かってるよな?」

 

 音子は鋭い目で四人を睨んだ。

 皆目検討がつかなかった。誰も何も答えられず、わずかな間沈黙が続くと

 

「聞こえねぇぞ!!」

 

 痺れをきらした音子が倉庫全体に響くような大声で叫んだ。四人はヘビに睨まれたカエルのように硬直していた。

 

「ったく小春(こはる)

「はい」

 

 仕切るのが面倒くさくなった音子は、けだるそうな素振りで、後の進行を部下に任せた。

周りに並んでいた側近の一人、「小春」と呼ばれた少女が前に歩み出た。彼女は書類を挟んだ画板を抱え寸分の狂いもなくまっすぐ起立していた。

黒髪は左右対照にきっちりと束ねられ、制服はわずかな乱れもなく、ボタンもネクタイもしっかりと留められ、スカート・ソックス丈も学校の規定どおり、学校案内の写真にでも使えそうな一寸の隙もない完璧な服装だった。

しかし柄の悪い工業科のメンバーの中においては、逆に異質に見えた。

 

「ゴホン、それでは・・・」

 

 まさに生徒会の書記のような均整の取れた口調で彼女は解説を始めた。

 

「中須賀エミ・柚本瞳、あなた方二名の罪状は、チームの所有物である戦車を無断で使用し、勝手にチームの存続を賭けて自動車部と争った事です。」

「なっ」

 

 あまりにも独善的な言い分に、エミは立ち上がり反論した。

 

「アンタ達こそ何勝手な事言ってんのよ!瞳一人に整備を押し付けて、自動車部にはいいようにやられて、なのに自分たちは遊んでただけじゃない!!」

「押し付けたんじゃねぇ、一時的に普通科(カタギ)(ソイツ)に預けてただけだ!」

 

 音子の側近の一人、木刀を持ち特攻服を着た女生徒が反論した。

 

「それに自動車部(あんなの)は所詮口先だけなので、適当にあしらっとけばいいのです」

 

 小春が付け加えた。

 

「・・・とにかく」

 

 判決を言い渡す裁判官のような口振りで小春が話を続けた。

 

「結果がどうであれ、あなた達の無許可での行為は許されません。これからあなた達四人には、山守さんから罰を言い渡してもらいます。」

 

「あのぅ、私と優は関係ないんじゃ・・・」

「静粛に!異議は認めません」

 

 小春が喜多をキッと睨み付けた。

 

「私達になにをさせる気!?」

「お前らにはなぁ・・・」

 

 音子はくぐもった声でゆっくりと告げる。部屋にいる全員が固唾を飲んで彼女を注視する。

 

「今日から“一週間”、昼に“アンパン”を“買”ってきてもらう」

 

 

 

   !?

 

 

 

「へ・・・・!?」

 

 音子を除く、その場にいた全員の時が止まった。

 

「山守さん、なに考えてるんですか!」

「そうっスよ姐さん!けじめにならないじゃないスか」

「あぁ?お前らが自分の一番嫌いな事させろって言ったんだろ」

「あはは!さすがヤマモーわかってるぅ」

「・・・・・」

 

 音子の一言で場の重い空気が一気に崩れた。動揺する部下たちと呆気にとられているエミ達四人。

 その時入り口の方向から、目にも止まらぬ速さで何か小石のような物が投げつけられた。小春の顔に当たる瞬間、音子はその物体を即座に掴み粉砕した。

 

「相変わらずバカの象徴をやってるわねぇ」

 

 そこに立っていたのは、一人の女生徒と数人の部下。流れるような長髪に足下まで伸ばしたロングスカートと指ぬきの皮グローブ。

いわゆる女番(スケバン)と呼ばれる伝統的な装いをした彼女こそが、ベルウォール戦車道二大派閥の一つ「土居組」のリーダー、土居千冬であった。

 

「クルミは投げるもんじゃねぇ、俺の部下に当たっちまう所だったぞ」

「あら残念ねぇ、私からのプレゼントなのに」

 

 二人は互いを睨み付けながらゆっくりと歩みよった。

 

「なんであなたが隊長(ヅラ)して、その子に話をつけているのかしら?」

手前(テメェ)こそ、勝手に俺の倉庫(なわばり)に足いれてんじゃねーぞ」

 

 エミ達を置き去りにして、今にも殴り合いを始めそうなリーダー二人。まわりの手下たちもヤジを飛ばして盛り上がる。

 

「ああなったら相討ちになるまで止まらないぞ!巻き添え喰う前に逃げよう、中須賀っ・・・」

 

 喜多と優は慣れたように身を伏せて逃げようしていた。

 

「って呑まれてるの!」

 

 しかしエミはかつて経験したことのないこの状況に我を失なっていた。

 

「エミちゃ~ん、しっかりして!戦車やるんでしょ~!」

 

 瞳は涙目になりながら放心状態のエミをユサユサと揺さぶった。

 

(ハッ戦車!?)

 

 エミは瞳の呼び声で正気に戻ったが、それと同時にある感情が湧き始めた。

 

(よく考えたら、いったい誰のせいでこんな思いを・・・)

 

「エ、エミちゃん?」

 

 エミはゆらりと立ち上がり、渦中の二人に歩みよる。

 

(だいたいこのケンカだって戦車道とまったく関係ない・・・)

 

 怒りの感情がふつふつ沸き上がる。そしてエミは肺活量の限界まで息を吸い込み、一気に吐き出した。

 

「ふっざけんなーーーーっ!!」

 

 大声が倉庫内に響き、すべての視線がエミに集まる。

 

「アンタたち仮にも戦車道の隊長やろうってんなら、戦車道で勝負しなさいよ!」

 

 音子と千冬の二人は取っ組み合いの手をパッと離して、鋭い視線をジロリとエミに向けた。

 二人は邪悪な微笑みを携え、ゆらゆらと近づく。

 

「・・・お前、言うじゃねぇか」

「立派な覚悟ねぇ、この子自分が何を言っているか分かってるのかしら?」

 

 音子が鋭い八重歯を見せて笑い、千冬も熊のようなギラギラした目で微笑む。

 

「御託はもう聞き飽きたわ! 戦車ぐらい用意してあげるわよ! それで勝負して隊長を決めたら、その後はきっちり活動を再開してもらうわよ!」

「おもしれぇ!だったらこの喧嘩、お前に預けてやるよ」

「一週間待ってあげる。でも用意出来なかったら分かってるわよねぇ?」

 

二人はニヤリと笑った。

 

「ハンパな戦車(モン)持ってくるんじゃねぇぞ!」

「それでは楽しみにしているわ」

 

 そう言い残して彼女ら二人と手下たちは立ち去った。

 

「エ゙ミ゙ぢゃ~ん、よがっだぁ~生ぎでだぁ~」

 瞳は鼻水を垂らして泣きじゃくりながらエミにすがりついた。

 

「あの二人によくあんな事言えたね」

 

 遠くから見守っていた喜多たちも歩みよってきた。

 

「それよりティーガーしかないんだろ、どうすんの!?」

「まああてはあるわ」

 

エミは不本意そうな顔で渋々言った。

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