ガールズ&パンツァー リトルアーミーⅡの小説   作:ドツェドスフエロスキー

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第4話

 現在の学園長によって経営が軌道にのる前の話。前任の学園長もまた、学園を立て直すために様々な案を模索していた。

 しかしその学園長は有能だとはとても言えず、悪く言えば「活動的な愚か者ほど恐ろしいものはない」の典型例で、彼の突拍子もない計画は、学園の経営をさらに悪化させるものでしかなかった。

 その一つが、自動車や工業機械等のスクラップを「履修用教材」の名目で廉価で買い取り、生徒達に解体・転売させ学園の運営費にあてるという案だった。

 もちろんそのような計画が許される筈もなく、これが決定的な要因となり前学園長は懲戒免職される事となった。  後には無計画に持ち込んだ大量のスクラップの山が残され、生徒たちは誰に断る訳でもなく勝手に改造用の部品や製錬用の鉄屑を持ち出した。

 生徒達は各々その場所を鉱山、在庫、ジャンクヤード、宝の山、もしくは単純にゴミ捨て場と呼んでいた。

 

「やっぱりこれって戦車だよね?」

 

 それは瞳が修理部品を探していた時に、偶然見つけたものだった。

 

「砲がないから誰も戦車だとは気づかなかったんでしょうね」

「確かに戦車みたいだけどさぁ、マジでこれ修理すんの?」

「さすがにこれを四人だけで運び出すのは無理だよね……」

 

 四角い箱形の履帯が付いた戦車らしき乗り物は、スクラップの山の下方にしっかりとはまり込んでいた。

 

「ちょっと協力してもらうしかないわね。」

 

 普通科の敷地にある巨大な建物。側面には自動車メーカーのロゴと「KASHIWABA car factory 」という巨大な看板が掲げられている。ここが柏葉姉妹が仕切る自動車部の活動場所だった。

 

「はあ、この前は散々だったわ」

「この柏葉姉妹をコケにして・・・」

「「ほんと戦車なんて大キライ!」」

 

 柏葉姉妹は声を揃えて言った。

 

「コラ!そこサボるな~」

 

 工場全体を見下ろせる吹抜けの最上階から、姉妹がメガホンを使って檄を飛ばしている。

 

「自動車にこんな重い物を載せるなんて、やっぱりかわいそうだよぉ」

 

 下階から自動車部部員の声が返ってきた。

 

「うるさい、ピックアップトラックの積載量に上限は無いのよ!」

 

 柏葉姉妹はエミ達にリベンジを果すため自動車(プロシード)に特殊な炭素繊維(カーボン)と戦車砲を装備して戦闘車輌(テクニカル)に改造しようとしていた。

 

「これであの忌々しい赤髪女をギッタンギタンのぺちゃんこにしてやるわ!」

「戦車道なんかより、私たちの自動車道の方が優れてる事を見せつけてやるんだから!」

 

(その言い方だと普通の道路みたいだね……)

 

姉妹の話を聞いていた部員がそう思った。

 

「どうせならおしりペンペンしてやる!」

「アハハいいね、それ。」

 

 勝った後の話で盛り上がっている柏葉姉妹の背後にはそのリベンジを果すべき相手が立っていた。

 

「ふーん、楽しそうね」

「「え」」

 

 エミは邪悪な笑みを浮かべながら姉妹の間に割って入り、二人と仲よく肩を組んだ。

 

「ところでお願いがあるんだけど、もちろん協力してくれるわよね?」

 

 姉妹の表情は青ざめていた。

 

 PM 9:00。

 自動車部の工場の一区画でエミ達四人は、件の戦車の修理に取り掛かっていた。

あの後、自動車部にこころよく協力してもらい、戦車をスクラップ置場から引き摺り出す事ができた。

スクラップの山を掘り出してみると、なんと奥にはもう一輌戦車が埋まっており、とりあえず二輌とも設備の整った自動車部の工場に運び込む事にした。

 しかし予想外だったのは、自動車部部員たちの対応だった。活動場所の一部を占領してしまったので、部員たちとも険悪な雰囲気になると思っていたが、あの横柄な柏葉姉妹とは正反対に部員達はとても友好的だった。

エミ達四人が自動車部の横で修理をしていると、

 

「大変そうだね、お菓子食べる?」

「この機械の使い方わかる? 教えてあげよっか?」

 

 ……という感じで誰とも言わず寄ってきて協力してくれた。 彼女らの協力によりわずか半日で、車体の中からエンジンと変速機を取り出し、分解洗浄する作業までこぎつけた。

さすがに徹夜でつき合わせるのは申し訳なかったので先に帰ってもらった。

 

 深夜の誰もいない工場で四人の声と作業の音だけが響く。錆やオイルでカチカチに固まっていたエンジンと変速機を分解し、パーツ一つ一つを手作業で洗う。

 

「これでやっとギアが三枚目。あといくつある?」

「あと十枚くらいかな。でも変速機はもう一つあるし・・・」

「うへぇ、せめて修理するの一輌だけにしない?鐘虎もあるんだし」

「それはダメよ、あれは瞳が修理したのよ。瞳が乗るべきだわ」

「エミちゃん……」

「でもさぁ、さすがに一週間じゃ絶対無理だぜ?」

 

 四人はしゃがんで桶に沈めた歯車を金ブラシでゴシゴシ磨く。途方もない作業量に時々弱音を吐いたが、誰も手は止めなかった。

 

「でもあんな犬猿の仲で去年までよく活動できてたわね」

「昔は今みたいに険悪じゃなかったんだけどね。幼稚園からの幼馴染みなんだろ?あの二人」

「マジで!?じゃあ私たち単なる内輪揉めに巻き込まれてるわけ?」

「そういう事になるのかなぁ」

 

 雑談の話題は自然とチームの内部事情と過去の話になる。

 

「二人の仲が悪くなったのって、隊長がいなくなった後だったよね」

「前隊長って優秀な人だったの?」

「まあ優秀だったよ。頭も良かったし。」

「私たちが入学した後、すぐにいなくなちゃったよね。」

 

 時間はAM1:00。長時間の作業による疲労と眠気で四人の会話は散漫なものになっていた。

 

「でも二人の仲が悪くなったのって隊長が居なくなった“から”って言うより、居なくなった“せい”みたいなんだよね」

「どうゆう事?」

「なんか色々ゴタゴタがあったわけよ。まあ噂だけど。」

 

「色々って何よ?」

「そりゃあ、色々だろ。」

 

「隊長は頑張って一人でチームを支えよった。やけどダメじゃった。」

「ふぅん。」

「音子と千冬は自分たちのせいじゃと思い込んでいりよる。」

「へぇ詳しいッスねって……」

 

「!!」

 

 いつの間にか四人の隣に並んで作業していたのは山守組の側近の一人、視線(ガン)を飛ばしてエミ達を牽制してた神原(かんばら) 茉莉(まり)という名の三年生だった。

ろくに梳かしていないボサボサの長髪に、いつもダウンジャケット、×印の書かれたマスクを常着し、無口でいつもヤンキー座り、ある意味音子よりも近寄りがたい存在だった。

四人は数mほど退いたが、何事もないように話を続けた。

 

「それが今も(しこ)りになっちゅう」

「・・・隊長が決められないのはそれが原因ってこと?」

 

 エミは近づいて恐る恐る質問してみる。

 

「乗り越えるには戦車が必要やき、うちも手伝うきに。」

「……そう協力者は多い方が心強いわ、よろしくね先輩。」

 

 警戒が解けたエミはかすかに微笑み、神原に手を差し出した。二人はオイルまみれのグローブの上から握手をした。

灯油で息が苦しくなったのか、神原はおもむろに×印の付いたマスクをはずした。四人は思わず息を呑んだ。

四人の反応を見た神原は、幻滅されたと思ったのか気まずそうに答えた。

 

「音子に童顔で気迫がない言われたやき、ぎっちりマスク付けっちゅう。」

 

 えらい美人がそこにいた。

 

 翌日、気がつくとエミ達四人は柏葉姉妹の専用ソファーで眠っていた。少し仮眠を取るだけのつもりだったが、ソファーの寝心地が無駄によく、うっかり寝過ごしてしまったのだった。

 

「ちょっと、いま何時!?」

 

 エミは部長室の扉を勢いよく開けて下階を見下ろした。朝日が照らされる中、作業場には信じられない光景が広がっていた。

 

「おらー降ろすぞー」

「気をつけてよ。」

 

 そこには神原を含めた戦車道部員とその知り合いの工業科の生徒達、十数名がすでに作業を始めていた。車体を溶接し直しする者、代替部品を削り出す者、エンジンを調整する者、シートを裁縫する者……。誰かに指示されるわけでもなく、それぞれが持つ得意分野の中でそれぞれがやれる事をした。

 

「ベルウォールって腐っても工業高校じゃん?加工機械だけはたくさんあるから、みんな先輩に教えて貰ったりして自然に覚えちゃうんだよな」

「この学校じゃ板金と溶接は一般教養だよね」

「溶接なんて日常生活で一度も使った事ないわよ?」

「まあそれに私たちって落ちこぼれだし、いつ退学にさせられてもいいように、手に職だけはつけておかないとな♪」

 

 喜多が親指と人差し指でお金のサインを作りながらヘラヘラと笑った。校舎にあった派手な乗り物や機械は決してガラクタではなかった。彼女らにも堅実で(したた)かな一面があったのだ。

 「それじゃあ、私たちも参加しますか!」

 

エミ達も再び修理に加わり、作業は順調に進んだ。昼頃になると土居組の子分も噂を聞きつけやってきた。

 

「やっほーまりりん。ちふゆんが妨害して来いって言うから手伝いに来たよー。」

 

 参加する生徒は代わる代わる表れた。生徒達はやりたい仕事を勝手にやり、役目をやり終えると勝手に解散した。

 終盤の仕上げ段階になると、最初から協力してくれた自動車部と戦車道チームだけになっていた。結局チームのメンバーほとんどが戦車の修理に参加していたのだった。

 そして一週間後……

 

「出来たー!」

 

 ついに戦車が完成した。 姿を現したのは「M10 GMC」と「Ⅳ号駆逐戦車 」。

 瞳が少年のようなキラキラした目で見つめていた。

 

M10 GMC(ガン・モーター・キャリッジ)はM4 シャーマンの車体に、3インチ M7戦車砲を搭載したアメリカ陸軍の駆逐戦車で、軽量化した車体とオープントップの専用砲塔により、機動力と視認性に優れている。その反面、装甲は軽量化で薄くなり、砲塔には屋根がないため防御力は皆無に等しい。

 

Ⅳ号駆逐戦車は、Ⅳ号戦車の車体をベースに7.5 cm L/48砲を搭載したドイツの駆逐戦車。外見は所謂『ヘッツァーのお兄ちゃんみたいなやつ』で、固定式戦闘室と傾斜装甲という典型的な駆逐戦車の特徴を備える。車高が低いため隠蔽性に優れ、防衛戦闘に適している。しかしノーズヘビーなのため機動力は低い。

 

同じ駆逐戦車というカテゴリーでありながら運用思想のまったく違う二両の戦車が、ベルウォールの新たな戦力として加わった。

 

「どう?約束どおり戦車を揃えたわよ。」

「俺の部下をこき使っておいて、よく言うぜ。」

「合格点ギリギリっところね。」

 

 しかしそう言いつつも、二人の目はギラギラと光っていた。

 

「これで隊長を決めて、戦車道を再開してもらうわよ」

「ああ、もちろんいいぜ。」

「決着をつけましょう。」

 

「「ただし、この三人の中で()。」」

「は!?」

 

 こうして隊長の座をかけた三つ巴の戦いが始まった。

 

 学園艦の一区画、草木が生い茂った山林と農道が見渡す限り続いている。ここがチームがいつも練習でつかっている場所だった。

エミ・瞳・喜多・優の四人は鐘虎に乗り込み待機していた。

 

『試合開始!』

 

無線から試合の始まりを告げるアナウンスが聞こえた。優がアクセルを踏む。鐘虎がゆっくりと動きだした。今回は三輌による変則的な殲滅戦。最後まで生き残ったチームが勝者となる。

 

「それで作戦はどうするの?」

 

 装填手用ハッチから顔を出して瞳が訊ねる。

 

「なにも変更はないわ。まずは予定の地点に向かう。」

 

 エミは周辺の地形図を眺めながら答えた。M10とⅣ駆は強力な砲を備えた駆逐戦車だ。たとえ鐘虎であっても、側面を狙われたらひとたまりもない。加えて相手はこの地域を熟知している。定石通りどこかに待ち伏せて、奇襲攻撃を仕掛けてくることだろう。

 

「待ち伏せに適している場所は限られるわ。周囲を警戒しながらそれらをしらみ潰しに探すわよ。」

 

 エミはキューポラから身を乗り出して周囲を警戒する。

 

「なんかこれって昔の頃に似てるよね」

「何が?」

「ほら、小学生の時もみんなで戦車乗ったじゃん。私たちがⅣ号で、みほちゃんのお姉ちゃんがⅢ突……」

 

「えっ、アンタら小学生から戦車に乗ってたの?お嬢様なんだね~! 私なんて中学のグラブ活動の時だし、しかもその時乗ったのがなんと! サン・シャモン戦車でさ。」

「エミちゃんてね、小学生の頃はもっとツンツンしてたんだよ〜 。でもけっこう世話焼きで、今で言うところのツンデレ……」

「ああもう、うるさい!試合中なのよ、ムダ話はしないで!」

 

 突然の不意討ちで過去を暴露されたエミは、恥ずかし紛れに二人を怒鳴った。

その時突然、切り裂くような砲撃音が聞こえた。

 

「停止!」

 

 戦車を止めて耳を澄ます。続けて二発、三発目の砲音が聞こえてきた。どうやらすでに戦闘が始まっているようだ。エミ達は砲撃音のする方へゆっくりと進んだ。

 

「ちょっと何なのよ、これはー!」

 

 エミは警戒心などかなぐり捨てて大声で叫んだ。

 

「撃てぇ!!!」

「回避!!!」

 

 二輌の駆逐戦車は真正面からの撃ち合いをしていた。装填した先から次々と弾を撃ち込み、時には突撃してぶつかり合う。それはまさに不良同士の喧嘩だった。

 

「戦車道をなんだと思っているの!?真面目に作戦を考えていた私がバカみたいじゃない!!」

「まあまあ、これでケリがつくんならいいじゃん」

「いいわけないでしょ!」

 

しかし両者はエミ達が現れても、意に介さず戦いを続けている。エミ達も彼女らの戦いの行方をただ見守るしかなかった。

 

「でもこれが私達の戦車道なんだよな。」

 

 喜多がハッチから顔を出して言った。

 

「筋が通らない事はしない。でも一度決めた事はとことんやる。意見が違ったら、言い合うし、殴り合いもする。

周りから見たら無意味で野蛮かもしれないけどそ、みんなこのベルウォール式戦車道が気に入ってるんだよ。」

 

 喜多が屈託のない笑顔でケラケラと笑った。

 

「……まあいいわ、気が済むまで待っててあげる。」

 

 エミは呆れた顔で、キューポラに寄りかかりながら二人の戦いを眺めていた。

 

「くそー勝負がつかねぇ。」

 

 時はすでに夕方になっていた。結局弾切れによる不戦敗で決着はつかず、長時間の戦闘による疲労で乗員全員が力尽きていた。

 

 エミは地面でノビている二人に歩み寄った。

 

「久しぶりの戦車道はどうだった?」

「ああやっぱシビレるぜ。」

「恐悦至極の極みね。」

 

「だったらそれでいいじゃない。」

 

エミは倒れてる二人を見下ろして言った。

 

「あんた達に何があったか知らないけど、戦車が好きって気持ちは変わらないんでしょ?

だったらつまらない事に考えてないで、とっとと戦車に乗ればいいのよ。

 それでもまだ隊長がどーとか拘るって言うんなら、世界でいちばん戦車を愛してる、この私を倒してからにしなさいよね。」

 

「くくくっ」

「ふふっ」

「なっなによ。」

 

「お前なんか倒してもどうにもならねぇだろ。」

「しかも愛してるって……。」

「そっそれは、」

 

エミは二人の戦いを見ているうちに気分が高揚し、自分が恥ずかいセリフを言っていた事に赤面した。

 

「でもまあ、」

「そうね、」

 

「おもしれーじゃねぇか。」

「おもしろいじゃない?」

 

 音子と千冬は立ち上がり、声を揃えていった。

 

「「今日からお前(あなた)をマネージャーにしてやる(あげる)。」」

 

「えっ」

 

「ねぇわざと?さっきからわざとやってるの?」

「テメェこそ合わせてんじゃねぇよ!」

 

 唖然とするエミをおざなりに再び口論を始めようとする二人。

 

「ちょっと、どういう意味!?」

「雑用だよ!作戦の立案とか。」

「練習メニューの計画とかもね。」

 

「それって……」

「やったーエミちゃん!これでまた戦車道できるよ。」

「よーし、やるわよ戦車道!」

 

瞳の言葉でやっとその意味を理解したエミは、感極まり大声で叫んだ。

 

 

 ベルウォールが活動を再開したという噂が方々に広まり始めた頃、水平線の彼方の別の学園艦から新たな波乱が起ころうととしていた。

 

「ほら、お行きなさい。」

「キャッ」

 

  少女が小さく悲鳴をあげて倒れこんだ。手にしていたカップは割れ中身が床にこぼれた。しかし声の主は意に介さず、張り付いたような笑顔のまま抑揚のない声で淡々とささやき続けた。

 

「こんな言葉を知っている?『腐ったリンゴが一つのあると樽全体がダメになる』。うちのチームに出来損ないは必要ないわ。」

「でもお姉さま、私は・・・」

 

 その言葉を遮るように、澱んだ青眼が少女を睨みつけた。彼女は手にしたカップの中の、タール状の黒い液体を一口飲むと、表情を少しも変えずに少女にこう告げた。

 

「退学届けは出しておいたわ。この学園には二度顔を出さないで。」

 

そう言うと彼女は少女を残して部屋を立ち去った。

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