ガールズ&パンツァー リトルアーミーⅡの小説   作:ドツェドスフエロスキー

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第7話

「私はお姉さまが大好きです」

 

 彼女が言った。

 

「霧姉さまは本当はとても優しい方なんです、戦車道をされる時もすごく楽しそうで。

 でも三年生になったある日、卒業したら家業を継ぐ事が正式に決まって、

 その日以来、人が変わられたようになってしまいました。

 私、戦車道が大好きだった頃の優しいお姉様に戻って欲しい……」

 

「だったらその気持ちを戦車道で伝えなきゃね」

 

「どうすればいいんですか?」

 

「ぶちのめすのよ」

 

 

 

 

第7話『名門・バレンタイン軍団です!』

 

 

 

 

「……はは、まさか西グローナからの転校生だったとはねぇ」

 

 エミはメンバーに先ほどの経緯(いきさつ)を話した。

 

「ったく、その(くれぇ)しっかり把握しとけよ。ドジっ子か?」

「うっさいわね!あんたに言われたくないわよ!!」

 

 エミは顔を真っ赤にして地団駄を踏んだ。

 

「……まあそういう訳なんで、とりあえずそれだけだからヨロシク」

 

「ちょっと、ヨロシクで終わらせないで下さい!その子、あの隊長()の妹なんですよね!? 本当に信用していいんですか?」

「そうだぜ、こっちの作戦でも漏らしたらどうすんだよ?」

 

 案の定、一部のメンバーから不安の声が上がった。渚に悪気はなかったものの、結果的に身内である事を隠していた以上、多少疑われるのは仕方がない。しかもあの姉なら尚更だ。

 ざわざわと他のメンバーにも動揺が広がる。

 

「別にいいんじゃネェの?」

「そうね、何も問題ないわ」

 

 二人の声が騒めきをかき消した。

 

「そうだね、どうせ突っ込んでドンパチするだけだし?」

「隠すほどの作戦なんてないしねぇ」

 

 他のメンバーも二人の意見に同調し始めた。あっさりとチーム全体が容認する雰囲気に変わった。

 

「わ、わかりました。山守さんがそう言うなら私も信じます」

「自分も、姉さん達が良いんなら問題ないっス」

 

 最後まで疑っていた一年生たちもしぶしぶ納得し、とりあえず騒ぎは収まった。

 

 

 

「……あ、ありがとうございました」

 

 メンバーが解散し戦車に乗り込み始めると、渚は早足で二人に駆け寄りお礼を言った。

 

「まあ、気にすんな」

「あとの信頼は自分で勝ち取りなさい」

 

 二人は振り向きもせずに戦車に乗り込んだ。

 

(なにカッコつけてんだか。でも今回は先輩たちに助けられちゃったわね……)

 

 

 

 

 

「それではエミさんお願いします!みんな本場のドイツ語が聞きたいんだって」

 

「し、仕方ないわね、それじゃあ……

 

 

Panzer vor(パンツァーフォー)

 

 

 エミの声を合図に四輌の戦車が一斉に走り出した。

こうして新生ベルウォールチーム、最初の試合が始まった。

 

 

 

「今回はウォータードリップで淹れてみました!」

 

 モカは魔法瓶からコーヒーを注ぎ、キリマンジャロに手渡した。

 井戸の底のように冷えて澄み切った黒い液体が、わずかに気化して深く芳醇な香りを放った。

 低温でゆっくりと抽出する事で熱による急激な酸化を抑え、水溶性の成分のみが抽出された雑味のないコーヒー本来の味。

 冷たさと共に深みのある苦味が舌を刺激し、さわやかな甘酸っぱさが口に残った。

 コーヒー豆が果実である事を認識させられるような、甘い芳香に、調和の取れた強い苦味と酸味。

 その香りは鼻腔を満たし心を落ち着かせ、その味は体内を循環し神経を冴え渡させる。

 

「コーヒーのあるところに平和と繁栄あり」

『……エチオピアの格言ダナ』

 

 キリマンジァロは戦車の上でコーヒーを飲んでいた。モカは至福の表情でそれを見守っている。

 

 

「それでは、戦車前進」

 

 彼女が席に座り号令を発すると、横一列にずらりと並んでいた西グローナの戦車隊が一斉に走り出した。

 

 今回の試合は、ご近所迷惑にならないように、河原のような広い場所でやろうという事で、河原になった。

 河原と言っても、河の土手から土手までの距離が、約二千メートル以上もあるような広大な河川で、梅雨などの特定の時期以外の水量は少なく、そのほとんどが干潟のような泥地か、小高い雑木林になっており、まるでナイル川湿地帯の様相を呈していた。

 ベルウォールチームは、その乾いてカチカチに固まった泥地を突き進んでいた。

 

「いよいよだね!」

「この緊張感!たまんないねっ」

「……過去の試合では、西グロはブラックプリンスとバレンタインが主力だったみたいね」

「バレンタイン?」

「三人乗りのイギリス戦車よ」

 

 バレンタイン歩兵戦車は、主に北アフリカ戦線で活躍したイギリスの軽戦車で、マチルダⅡの簡易量産型といったところだ。

 装甲はマチルダよりも薄いにも関わらず、速度は同程度。

 しかし生産性に優れていたため、大戦時のイギリスで最も多く作られ戦車だった。

 

「2ポンド砲では大した脅威にはならないわ。どこかで機会を狙って、ブラックプリンスをけしかける気でしょうね」

 

 そんな風に会話をしていると、M10から無線が聞こえた。

 

『マネージャー♪敵車輌発見』

 

 前方を見ると、二輌のバレンタイン戦車が並走していた。

 

「二輌だけってあからさまに陽動っぽいよね」

「構わないわ。火力と速度で上回るわよ」

 

「砲撃開始!」

 

エミが全車輌に指示を出した。

 

『よしきたッ』

『アイヤー!』

『ククク……』

 

 ベルウォールが一斉に攻撃を開始した。敵の二輌は攻撃を避けながら走り続ける。

 逃げる敵車輌を追い続けていくと、見通しの良い開けた場所にたどり着いた。

 そこにはブラック車のブラックプリンスと、二輌のバレンタインが防御陣地を作り待ち構えていた。

 

「私達が先行するわ、他は後について来て!」

 

 鐘虎がゆっくりと前へ進んだ。

 陽動だった二輌が加わり、計四輌のバレンタインが一斉に砲弾を浴びせた。

 しかし鐘虎はその砲撃を物ともせず、前進する。

 鐘虎の後方から後続車が攻撃を開始し、早々とバレンタイン二両を撃破した。

 

「フラッグ車を盾にするなんて、大胆な奴らですね……」

「余程の自信があるのでしょうね、後退しましょう」

 

 西グローナはあっさりと陣地を放棄し、後退し始めた。 

 

『待てオラーッ!』

『逃がさないアルよ』

 

 ベルウォールが再び追撃しようとしたその時、上空から砲弾が襲いかかってきた。

 激しい空爆とともに、周囲にいくつもの爆煙が巻き上がり、大量の土砂が降り注いだ。

 

『な、なんだ、何が起こった!?』

 

「砲撃!?いったいどこから……」

 

 周囲を見回すが、舞い上がった砂埃のせいで、ほとんど何も見えない。

 その時、一筋の閃光がエミの真横を通り、前方にいたT-34に直撃した。

 ガンッという金属を叩いたような命中音の後、しばらく火花が出ていたかと思うと、いきなり爆発して砲塔が真上に吹き飛んだ。

 

『アイヤ〜!!』

 

『中文研の奴らがやられた!』

『ど、どこから撃ってるんです!?』

『何も見えねぇぞ!』

 

 各車状況がわからず乗員が動揺し始める。

 

「まずは一両、上出来よモカ」

「当然です」

 

 彼女は撃破した事を確信した。

 榴弾による長距離からの大量爆撃と、視界がない中での17ポンド砲による精密射撃。

 敵はさぞかし驚ている事だろう。

 この気を逃すまいと、彼女は次の目標を見定めようとした。

 

 しかし彼女の予想に反して、鐘虎が煙の中から飛び出してきた。

 

「このまま正面から突撃してフラッグ車を仕留めるわよ!」

 

 予想外の行動にバレンタインの対応が遅れた。エミはその隙に、フラッグ車との距離を一気に縮める。

 

「発射!」

 

 鐘虎が砲撃、しかし砲弾は外れブラックプリンスの横を通過した。

 

「椛代、合図したらハンドルを右にきって」

「了解」

 

「渚、砲塔を左に旋回。すれ違いざまに撃ち抜くわよ!」

「わ、わかりました」

 

 

 エミは砲塔から顔を出し、相手が攻撃するタイミングをうかがった。

 

「今よ!」

 

 エミの声を合図に鐘虎が大きく方向転換、敵の砲弾は手前に着弾した。

 そのまま一直線にブラックプリンスに突撃する。

 

「撃て!」

 

 ギリギリすれ違う瞬間に発射を指示、しかし砲弾は砲塔をわずかに掠めただけだった。

 

「うわーおしい!」

「ここで決着をつけるわよ」

 

 エミは旋回して敵の背後に回り込むように指示した。

 しかしブラックプリンスの旋回速度がわずかに上回り、鐘虎の姿を照準に捉えた。

 

 砲弾が放たれ、弾は装甲板に当たって弾かれた。車内には稲妻が直撃したような轟音が響き渡った。

 

「ちょっと、今のマジやばくね!?」

「こ、鼓膜が破れるかと思った……」

 

 初めて体験する大口径砲の威力に、皆が動揺を隠せない。

 

「大丈夫、いまのは偶然よ」

 

エミは皆を落ち着かせようと、穏やかな口調で諭す。

 

「ブラックプリンスの装甲は厚いけど、その分動きは遅いわ。

 だからこうやって距離をとって動きまわっていれば、滅多に当たらな……」

 

ガキンッ

 

 その時、砲弾が再び鐘虎の車体を掠めた。

 

「で、でも砲の威力がある分、砲弾自体も重いからそんなすぐに装填は……」

 

バキィィン!

 

 今度はさらに大きな音が響いた。

 外を覗くと、砲塔側面に付けてあった予備の履帯が、粉々に吹き飛んでいた。

 

 

「フンッ!」

 

 ハワイ・コナが37.5ポンド(約17kg)にもなる砲弾を持ち上げて、砲身の中へ一気に押し込んだ。

 モカはまるで砲塔とダンスをしているような華麗な手さばきで砲撃を行った。

 

 西呉王子グローナ学園では、学歴を問わず優れた能力を持つ生徒たちを受け入れていた。

 ハワイ・コナはレスリングのフリースタイルの選手でもあり、生きた人間を相手にしている彼女にとっては、弾を装填する事など朝飯前だった。

 同じくモカは元クレー射撃中学国体選手であり、その経験が砲手の仕事に存分に生かされていた。

 この二人の力によって、ブラックプリンスのポテンシャルは飛躍的に向上していた。

 

 

「撤退!撤退!」

 

 並々ならぬ装填速度と命中精度。このまま撃ち合えば確実に負ける。

 そう判断したエミは瞬時に退却を指示した。

 

 

「奴ら逃げましたね」

「早い逃げ足だこと、でも間違いないわ」

 

 キリマンジァロは逃げるベルウォールの姿を見送っていた。

 

「……渚はあのフラッグ車の中にいる」

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