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GirlsSide2でラスボスこと紅坂朱音と詩羽先輩の編集者である町田さんが話しているシーンから今回の話が浮かんできて書いてみました。
冴えカノの中でも特に人気が高いと思う詩羽先輩がヒロインです。
原作の方のあのヘタレヤンデレ具合がたまらないっすよね。
楽しんで頂ければ幸いです。
夕方午後4時。
仕事を終えたサラリーマンがちらほらと自宅に帰るのも見えるその時間、地下鉄から降りる1人の美女がいた。
艶やかな黒髪を腰の辺りまで伸ばし、見事なプロポーションと端正に整った顔ですれ違った人が男女問わず振り返るような美人であるが、自身から近寄るなオーラを辺りに撒き散らし、自分のパーソナルスペースを確保していた現役女子大生ラノベ作家にして、今年発売の『フィールズ・クロニクル』シリーズのシナリオ担当にして、倫也が立ち上げた『blessing software』を約3ヶ月前に脱退したペンネーム『霞詩子』こと、霞ヶ丘詩羽である。
だが、今の詩羽はある別の理由で周りにいる人からは近づかれなくなっている。
今日も『フィールズ・クロニクル』の打ち合わせを終え、フラフラと幽鬼のような足取りで改札をくぐり、駅前のロータリーに出ようとした時、外は電車に乗る前とは違い、土砂降りの雨が降っていた。
当然傘など持っている訳なく、わざわざコンビニで傘を買うのも億劫だったため、そのまま雨の中に繰り出そうとした時
「おかえり、詩羽先輩。そのままだと濡れちゃうよ?」
詩羽に傘を差し出したのはここ2ヶ月、いくら聞きたいと願っても自分の取り巻く環境によって声も聞くとこも出来ず、顔も見れなかった詩羽の最愛の男の子だった。
その声を聞いた途端、身体が自然に動き
「倫也くんっ………」
この2ヶ月で少しばかり背が伸びたその胸に倒れこむように飛び込んでいった。
さかのぼること約1日
「明日と明後日…いや、もう今日と明日ね、今日の夕方から明日1日、それだけで良いから倫也は霞ヶ丘詩羽と一緒に居てあげて」
英梨々と恵が仲直りしてから約2ヶ月、ほぼ毎日恒例となったの紅坂朱音の愚痴を無料通話ソフトのテレビ電話で聞いていた倫也のところに英梨々がそんなことを言ってきた。
「え?なんでだ?英梨々が俺を誘うならまだわかるけど、詩羽先輩と?それに先輩今はシナリオの方で忙しいって」
「いいから!!今は何も聞かないで。とにかく明日の午後4時に霞ヶ丘詩羽がいつも使ってる駅で待ってること!!いい!?」
「お、おう…」
「時間が変わるようならあたしのほうから連絡するから。頼むわよ」
いつになく英梨々の表情が真剣なものであったので、倫也は頷くしか出来ずにいる。
英梨々とは学校でも同じクラスであり、こうやって毎日のようにテレビ電話もして顔を合わせている訳だが、詩羽は大学生であり、この2ヶ月はそうそう会うことは出来ずにいて、メールでのやり取りが殆どだった。
そして最近は忙しいのか、そのメールさえもあまりしていない詩羽と倫也であったが、詩羽とは恋のライバルである英梨々の口から詩羽と会うように促されるのは滅多にないことで、それに加え
「ちょっと最近のあいつ、見てられないのよ…」
最後にぽろっと本音を零した英梨々の顔があまりにも悲痛で、言い切れない不安を抱いた倫也は、英梨々に言われた通りの時間に詩羽を待っていたのである。
いきなり抱きつかれた倫也はいつも通り戸惑い、顔を赤くする前に異変を感じた。
抱きついてきた詩羽の腕が2ヶ月前より明らかに細くなっていたのである。
「倫也くん....倫也くん....」
聞こえてくるのは自分の名前を呼ぶ詩羽の声、だがそれは今まで倫也が聞いたこともないような種類の声で、言葉の間に堪えきれない彼女の嗚咽も混じっていた。顔を倫也の胸に顔を押し付けていたのもつかの間、倫也の顔の方を向いた詩羽の顔に倫也は息を呑んだ。
頬は随分とこけ、作家という昼夜逆転の生活をしているにしても酷すぎる目のクマ、元々白い詩羽の肌は青白くなり、大きな黒い瞳からは決して人前で見せることのなかった大粒の涙がつたっていて、本当にあの霞ヶ丘詩羽なのかと思わず疑ってしまう程に酷い顔をして、弱り切った詩羽がいた。
紅坂朱音の納得する内容にするため、己の全てを使い、限界を超えてフィールズクロニクルのシナリオと己の作品である純情ヘクトパスカルを書いていた詩羽、紅坂朱音が詩羽の担当編集である町田苑子に言ったようにクリエイターとして死んでしまうかもしれない、そんなところまで追い込まれていた。いくら読者を手玉にとり、柏木エリを引き抜くためのものだったとしてもあの紅坂朱音のお眼鏡にかなった天才化け物クリエイターである霞詩子でも実際はまだ大学1年生の女の子で、ラスボスからの重圧、書く前にも倫也に不安を漏らしてしまった学園ハーレムモノ、いささか年頃の女の子に抱えさせるには大きすぎる重圧がジリジリと綿縄のごとく詩羽の精神を蝕んでいったのである。
書くときは倫也が英梨々のシナリオを書いた時に味わったクリエイターの闇を常時発動、その天才的な能力を持ってしても紅坂朱音の求めるクオリティに届くにはギリギリのラインであり、必死になって書いたものを全没にされることも少なくなかった。
それと並行して自分の作品である『純情ヘクトパスカル』の執筆、それも今年中にあと一冊、年頃早々に一冊出さなければいけない。
『フィールズ・クロニクル』の仕事を受けてしまったのは詩羽であり、紅坂朱音に強要されたわけではない。そして商業作家である以上、元々の本業であるラノベの刊行を遅らせることも出来ず、それこそ毎日死ぬ思いで文章と付き合っている。詩羽自身も自分のことなど二の次にして作品と向き合っているため、自分がいまどんな顔をして普段の生活をして送っているのかがわかっていなかった。
ちょくちょく詩羽と会っている英梨々も紅坂紅音の出す絵のクオリティにするためそれこそ毎日倫也に愚痴りまくる勢いで絵を完成させているのだが、彼女の画力はもはや異次元の域に達しており、本当に紅坂紅音を倒す勢いで上達していた。それも詩羽が追い込まれる原因の1つであったのだが、詩羽との1番の違いは間違いなく、英梨々には毎日受け皿となってくれる倫也がいたことであろう。
詩羽としては年下であり、自分の信者である倫也に頼ることなどは自身のプライドが邪魔して出来なかったのもあるが、倫也に頼る余裕がないほど彼女は追い詰められていた。
2週間ぶりくらいに英梨々が見た詩羽の顔はまさに「死人」のようだった。
そして自分の絵を見た時に詩羽の表情が更に険しいものになり、あのラスボスからもストーリーに関してはえげつない程のプレッシャーをかけられているのも知っていた。
その上、最近詩羽の出すストーリーが紅坂紅音に一切受け取られていないことも。
このままでは彼女が壊れてしまう...そう思った英梨々は倫也に助けを求める。
今の彼女を救うことが出来るのは倫也だけだと、そう信じて。
「っ!!ごめんなさい倫理君、それにしてもなんでここにいるのかしら?」
詩羽自身も自分がとった突発的な行動に驚いたらしく、倫也から離れ、涙を拭いながら倫也にとっての『いつも通りの霞ヶ丘詩羽』でいようとするが
その声は嗚咽で途切れ途切れであり、声にも明らかに余裕が無かった。
「詩羽……先輩……?」
変わり果てた詩羽の姿を見て、倫也は動揺を隠せない。
「何かしら?貴方がここにいるなんて偶然…なわけないわよね。まさか私と会えずにために貯めた性欲がが遂に耐えきれなくなって、この雨の中ビルの裏路地で無理矢理襲おうって魂胆なの?」
聞き慣れたはずの下ネタも今日は明らかに覇気がない。
「ど、どうしたんだよそんな痩せ細ちゃって…メールじゃ大丈夫って言ってたのに…」
「ええ…だから大丈夫よ…今から倫理君とホテルに行って朝までヤれる……くらい…に…ね…」
突然詩羽の身体が揺れ、倒れそうになるのを倫也は慌てて支える。
支えた身体は、ビックリするくらい軽かった。
「あぁ、ごめんなさい倫理くん、そしてありがとう」
「この2ヶ月どんな生活したらこんなになっちゃうんだよ!?明らか大丈夫じゃないだろ!!」
倫也が大きな声で問い詰めるとビクッと身体を強張らせた後、
「なんでそんなに怒っているのかしら?別にいつもどおりでしょう?」
あまりにもあっさりといってしまう。
倫也は詩羽が自分の状態を本当にわかっていないことに気づく。
そして、心配をかけないように『倫也にとってのいつもの詩羽』を必死になって演じているということも。
英梨々に言われたことなど関係なく、今の詩羽の状態を倫也が見逃すことはなかった。
詩羽に自分が持っていた傘を持たせ、詩羽に自分の背を向けるようにしてしゃがむ。
「ほら、先輩」
「別に普通に歩けるわよ…さっきのはちょっと躓いただけで…」
「ただ立ってるだけで躓くなんて聞いたことないけど?」
倫也の有無を言わせぬ妙な迫力に詩羽は渋々倫也の背にもたれかかる。
やはり、軽い。
「重い?」
「そんなことあるわけないだろ」
完全に倫也に身をまかせると、詩羽は倫也の身体の熱を感じることができ、最近全く感じることの出来なかった安心感に包まれて
「すぅ………すぅ………」
数十秒も経たずに、詩羽が握っていた傘が支えを失い、地面に落ちた。
自分の背中で眠ってしまった詩羽を背負いながら詩羽のマンションに行き、半分寝ている詩羽から部屋の暗証番号を聞き、鍵を開けもらい、詩羽の家の中に入ったが
綺麗好きの詩羽の家が荒れに荒れている。
あちらこちらに栄養ドリンクやコンビニ弁当のゴミが散乱し、とても詩羽の部屋と思えない様だ。
まるで本人の状態をそのまま表しているかのように。
とりあえず自分の背で気持ちよさそうに寝ている詩羽をベットに寝かせ、部屋の片付けをしようとすると
「倫…也くん?どこ…?ねぇ…やだぁ……」
眠っている詩羽からそんな言葉が漏れる。
つぶっている目から涙が溢れ、誰かを探すように手は空をもがく。
「1人に……しないで……」
倫也はすぐに詩羽の手を取り、優しく語りかける。
「大丈夫ですよ、詩羽先輩。俺は、ここにいます」
普段の倫也からは考えられないような言葉がかけられるが、こんな状態の詩羽を見れば羞恥など気にしていられなかった。
目の前の今にも壊れてしまいそうな大事な先輩のことしか今の倫也の頭にはない。
倫也が手をそっと握り、頭をゆっくり撫でていると、詩羽はまた静かな寝息を立て始めた。
今の詩羽に何が起こっているかはわからない。だが英梨々が倫也を詩羽の元へ行かせた理由はわかった気がする。
目が覚めた詩羽に聞きただしても簡単には教えてくれないだろう。
だからできる限り情報を集める必要がある。
だから倫也は自身に助けを求めた人物に助けを借りることにした。
詩羽に握りられていない方の手でスマホを操作しある人物に電話をかける。
何回かのコール音の後、その金髪幼馴染は電話に出た。
「あっ英梨々か?悪いけど今から恵連れて詩羽先輩のマンションに来てくれ、話はそれからする」
詩羽先輩もまだ大学1年生なんだよなぁ…町田さんいいこと言うなぁ…詩羽先輩愛されてるなぁ…と思いながら原作を読んでて、でも詩羽先輩壊れちゃいそうだなぁ…ともあのラスボスさんの発言からも感じることができて、でも壊れる前に倫也くんがなんとかしてくれないかなぁ…という妄想全開で書いてみました。
まだ続きを投稿していくので楽しみにして頂けたら嬉しいです。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。