申し訳ありません。
詩羽先輩2話です。
よろしくお願いします。
電話をして数十分、詩羽先輩のマンションにやってきた英梨々と恵に手分けして散らかっている部屋の片付けと、詩羽が起きた時に食べられるように簡単な食事を用意してもらった後、詩羽に手を握られて動けない倫也の元に再集合した。
詩羽のマンションに来る途中、恵も今の詩羽の現状を英梨々から聞いていたので、今の詩羽の現状を目の当たりにしても僅かに動揺しただけで、すぐに片付けの方にとりかかってくれたのでかなり短時間で終わらせることが出来た。
英梨々と恵に倫也が詩羽にあってからのことを話し、それから英梨々からも倫也の知らなかった2ヶ月の詩羽の状況を聞いた。
英梨々達が来てから話し終わるまでに3時間は経ったが、詩羽は一向に起きる気配がなく、英梨々が言うには
「多分、安心して熟睡するなんてここ1ヶ月くらいなかったんじゃない?相当のことが無いと起きないわよ?」
ということらしい。
今の詩羽はとても穏やかな顔をして寝ているため想像もできないが、過酷すぎる環境に身を置いていた詩羽が自分の手を握っているだけでこんなにも安心してくれていることに倫也は嬉しく感じ、穏やかな笑みを浮かべる。
それはいつもの童貞キモオタ優柔不断難聴系主人公である倫也からは想像も出来ないような相手を思いやったものであり、それを見ていた英梨々はもちろん恵までもが心を揺さぶられるものであったが
「よくもまぁ私たちがいる前でイチャイチャとぉ…」
「仕方ないよ英梨々、それに今日は霞ヶ丘先輩に譲ってあげるって言ってたし」
「それはそうだけどぉ…」
「もうそこらへんは気にしたって無駄ってわかってるでしょ?安芸くんだもん」
明らかに嫉妬の目線を向けている英梨々とフラットながらも僅かに言葉の端にトゲがある恵に気づかないのは流石であろう。
寝ている詩羽との二人だけの世界に行っていた倫也が現実の元へ戻ってきた後、ほったらかしにしていた英梨々と恵に決して軽くはないいつもの罵倒をされた倫也は意気消沈だった。
あらかた言いたいことは言えて満足したのか
「私達もう帰るね」
そう言って手早く荷物をまとめる恵と英梨々
「えっ?帰るのか?」
サークルの活動で倫也の家に泊まっていくことが珍しくない2人のいつもとは違う行動に倫也が戸惑っていると、ひじょーに煮え切らない顔をしている英梨々が
「霞ヶ丘詩羽が起きた時私達がいたら話しにくいでしょ?」
そして詩羽に目線を向け
「それにこの問題は倫也じゃないと、解決出来ないから。頼むわよ」
最後に倫也の目をしっかりと見て言った。
そして慣れないことを言って恥ずかしかったのかすぐに後ろを向き、ドタドタと慌ただしく出て行ってしまった。
「じゃ、霞ヶ丘先輩のことよろしくね、倫也くん」
そして恵も英梨々に着いて行き、詩羽の家を後にした。
「んっ…」
詩羽が目を覚ましたのは恵と英梨々が彼女の家を出てからおよそ1時間後のこと。
目を覚ました詩羽が最初に認識したのは左手から伝わる温もりと見慣れた自分の部屋の天井、そして最愛の後輩の顔。
「おはよう、詩羽先輩」
「うん、おはよう。倫理くん」
起き上がろうとするが上手く力が入らない。
自然に倫也が手を貸し、起き上がらせてくれた。
「お腹すいた」
「え?」
起きてあいさつを交わし、次に出てきた予想外の一言に一瞬倫也も固まってしまうが
「朝から殆ど食べてないの、お腹すいたわ」
「あぁ、うん。雑炊あるよ、食べる?」
コクリと頷く。
倫也が雑炊を詩羽の膝の上に乗せると
「…………」
「…………」
倫也の方に向け口を控えめに開ける詩羽と、それを見てぼーっとする倫也という奇妙な構図が出来上がった。
「…………っ」
自分で食べてよ、と言おうとしたが詩羽の痩せ細った腕が目に入り、寸前で飲み込む。
お盆を自分の膝の上に乗せ、レンゲですくった雑炊を冷まし詩羽に食べさせた。
「熱くない?」
「うん」
「味は良いと思うんだけど」
「美味しいわ」
「よかった」
「でも倫理くんが用意してないわよね?これ」
「うん、加藤に作ってもらった」
「倫理くんの(もごもご)が食べたかったわ」
「ご飯ね、変に言葉を濁さないでよ」
僅かなやりとりの中で発せられる倫也の一言が詩羽の心を震わせる。
どれだけ会いたくても会えず、声を聞きたくても聞けなかった。
会ってしまえば、彼と言葉を交わしてしまえば、胸の内に必死になって堪えていた霞ヶ丘詩羽の弱い所を全て吐き出してしまうから。
そのまま倫也に全て食べさせてもらい、満足した詩羽はスリスリと身体を移動させて倫也に近づく。
「さっき路地裏でやらなかったのは部屋でというのが倫理くんの好みということ?それとも睡○?もうことは済ませちゃったの?私としては実感が無いのだけど」
「俺にはそんな性壁もありませんしもしあったとしてもこんな状態の詩羽先輩にやろうとも思いませんしただここまで運んできただけですよ!!」
彼の反応が楽しい。
「じゃあなんで私の服が着替えさせられているのかしら?あと私の部屋も片付いているわね…下着とかも転がってた覚えがあるし、私の身体の変わりに下着を弄んで己の獣欲を発散していたの?」
「英梨々と加藤にやってもらったよ!流石に女の子の部屋勝手にいじるわけにもいかないでしょ!」
2ヶ月前もこんなやり取りをした事を思い出し心が暖かくなる。
「それで私が寝てるのをいい事にやることやってたワケね」
「あの、詩羽先輩」
倫也にその美貌からは考えられないような下ネタを振りかざしていると、倫也の顔はいつも通りの呆れたものではなく、何か別の意味で赤くなっていて
「なぁに?倫理くん」
「レベルアップした下ネタで俺をいじろうとするのはわかりますけど、そんなにニヤけて幸せそうにしてたら効果無いですよ?」
「なぁっ…」
この2ヶ月、何度彼を望んだだろう、何度彼の声を求めただろう。
どんなに紅坂朱音に罵倒されようとも、作品がうまくいかなくても、彼の事を忘れる事はなかった。
だが、目の前にいるこの少年は『作家霞詩子』の1番の信者で、彼にとって自分は神だ。
それが自分の中にもあり、彼の中にももちろんあるわけで
そして今まで詩羽は自分の倫也への好意をあまり前面には出してこなかったつもりだ。(周りから見れば詩羽の思いはバレバレだったわけだが)
自分の中でしっかりとセーブしていたつもりだったし、常に余裕を持って彼をいじり倒していた。
そんな自分が、知らないうちに顔が綻んでいた?
「ちょっ…これは…ちがっ…」
倫也に指摘されて、慌てて表情を引き締めるが
「詩羽先輩」
ふにゃり
「……はっ」
ブンブンと首を振っていつもの表情で倫也を見る。
「なに?倫理くん」
「詩羽先輩?」
ふにゃん
「……………………あっ」
そのまま下を向いてなんとか顔を手で強引に直そうとする。
倫也は詩羽の頭に手を乗せ、彼女の黒髪を梳くように撫でた。
「えへへ………」
なんだこの可愛い生き物は
もしもこれが画面の中の出来事だったとしたら倫也は部屋中を転げ回っていると確信していた。
悶え転がりたいのを必死に堪え、頭を撫でてない方の手で、詩羽の手を取る。
「詩羽先輩………」
もう一度だけ名前を呼ぶ
詩羽はもう表情を隠そうとせず、そのまま倫也の呼びかけに応え顔を上げ、彼の目をまっすぐ見た。
黒く綺麗な瞳は幸福に満ちていて、目の前の愛しい彼を映す。
頬は高揚し、だらしなく緩みきっているが、いつもの大人びた表情とは違い、年相応の幸せな表情に鼓動が早くなる。
「倫也くん………」
色の良くなった唇が動き、倫也の名前を呼ぶ。
倫也に偽りない自分を見せることが出来た影響なのか
「大好き」
今まであれだけ言おうと思って言えなかった言葉がすんなり口から零れた。
さえかの10巻素晴らしかったですね。
詩羽先輩可愛すぎて悶えながら読んでました。
個人的には新幹線のホームでで倫也くんと詩羽先輩が別れた後の深崎さんの詩羽先輩の挿絵が凄く好きです。
次回の更新はなるべく早くしたいと思います。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。