Fate/gap 《他世界聖杯戦争》   作:無想転生

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4ヶ月ぶりの投稿、長い間お待たせして申し訳ありませんでした。

23時を回ってますが投稿します。

今回は少し長めです。






またせたな

「宝具を使用しろランサー、様子見はここまでだ」

 

夜の工場地帯に男の声が響き渡る。

コンテナの影に身を隠していたランサーのマスターが、劣勢に陥るランサーに対して指示を下したのだ。

 

「了解です我が主よ!このランサー、必ずや貴方様の御期待に応えて見せましょう!!」

 

ランサーの威勢良く返事を返すその顔は、幸福と喜びに満ちていた。

ランサーは騎士道精神を重んじる、まさに見本のような騎士道を貫くことを望んでいた。また、本人も根っからの騎士であった。

しかし生前は、とある事情によって主君を裏切ってしまい、自らの望む騎士としての生き方に反する結果となってしまったのだ。

 

だからこそこの状況が…主人の命により、誇りを持って真剣勝負のできるこの状況が、この上なく心地よかったのだ。

 

「ーーというわけだセイバー、ここからは様子見は無しだぞ」

 

「望むところだ」

 

ランサーが笑みを浮かべて両槍を構え、セイバーも同様にそれに応える。

そしてランサーの槍の…宝具としての力を封じる布を解き、ランサーは高い俊敏性を活かして一気に駆け出した。

 

(どう来る…?どちらが宝具だ…?)

 

セイバーがランサーの持つ二本の槍を睨みつける。

ランサーの獲物は二本だ。宝具を使うにしても、二本ある内のどちらが宝具なのか…もちろん、ランサーの宝具がどういった効果を持っているのかを知るのも大事だが、何よりもまずこちらを知ることの方が、敵の攻撃に効率良く対応する上で必要な筈だ。

 

「来る…!」

 

動いた。

セイバーと接触する寸前に、ランサーは短槍を地面に捨て、紅の長槍によって空中を舞う剣を払い落とした。

 

(どういうことだ…!?)

 

セイバーが目の前の事態に疑問を抱く。

宙を舞う無数の剣を、ランサーが高速で次々と打ち落とす…それ自体はそれほど不思議なことではない。ランサーの技量ならば十分に可能だ。

 

セイバーが疑問を抱いているのはそんなことではない。

これは剣を操っている、セイバーだけにしか分からない感覚だが、ランサーの紅の長槍に剣が触れた瞬間、何故か剣を操ることができなくなる。

セイバーは剣士であると同時に魔道士だ、この宙を舞う剣も、魔法によって操っているのである。

しかしランサーの長槍に触れた瞬間、その効力は失われた。

 

これがランサーの宝具なのか…セイバーは確認する為、無数の剣による遠距離からの、相手を撹乱する攻撃から、破壊力にものを言わせた接近戦へと攻め方を変えた。

 

「換装 “黒羽の鎧”!」

 

セイバーの纏う鎧の形が変わった。

その名の通り、巨大な黒い翼を携えた鎧だ。

 

黒羽の鎧…これもセイバーの持つ、数ある魔法の鎧の中の一つだ。その効力は、使い手の攻撃力を一時的に上昇させることである。

 

セイバーは黒い翼を広げ、背丈ほどもある太刀を両手に、鎧で向上した渾身の力を持ってランサーに一撃を放った。

 

鈍く重い、金属音が響き渡る。今までよりも更に強く、剣と槍がぶつかり合ったのだ。

それ程までに力が込められた一撃だった。しかし攻撃の直後、セイバーがその内に抱いていたのは、違和感であった。

 

「拮抗している…!?」

 

おかしい…セイバーは思った。

そうだ。今のこの状況こそが、セイバーの抱く違和感の正体だったのだ。

 

黒羽の鎧は身体能力を向上させる。それはセイバーの持つ筋力とて例外ではない。

黒羽の鎧によって、一時的に上昇したパワーを以ってランサーを叩いた…にも関わらずだ、ランサーはそれを容易く受け止めていた。

ステータスを見る限り、二人の間にはそれほどの差はない筈だ、それがどうしてこうなるのか…セイバーは思考の末、一つの答えを導き出した。

 

「それが貴様の宝具か…!ランサー」

 

「いかにも、これが我が宝具“破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)”だ。

その効力は…既に察しているのだろう?」

 

ランサーの言葉の通り、セイバーの頭の中ではある仮説が立てたれていた。

ランサーが剣を叩き落とした際に感じた違和感や…黒羽の鎧の力が正常に発動しなかった事から察するに、破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)の能力は、おそらく、魔法や魔術に類するものを無効にする…といったものだ。

 

あくまで仮説ではあるが…セイバーは確信している。十中八九正解だろう。

 

…となると、セイバーにとってランサーの宝具は、相当に厄介な代物だ。

セイバーは生前、魔道士と呼ばれる…魔法を生業とする者達の一人であった。言わば魔法剣士である。

戦闘スタイルも、その高い剣の技術に、魔法を織り交ぜたものを最も得意としている。

 

キャスターとしての適正も併せ持つ彼女だが、それ故に、ランサーの持つ破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)とはすこぶる相性が悪い。

せっかく多種様々な魔法の鎧を用いていても、ランサーの槍が触れた瞬間、その効力は失われ、唯の派手な衣服に成り果ててしまうのだ。

 

これではセイバーの持ち味を十分に活かせない。

ランサーの手に破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)がある限り、セイバーの戦力は半減したと言っても過言ではないだろう。

 

「どうやら俺との相性は最悪だったようだな。しかし悪いが手加減はできん、このまま押し切らせて貰おう!!」

 

ランサーが素早く踏み込んだ。

剣兵という名は飾りではない、セイバーの剣の腕は常軌を逸している。

 

しかし、それは相手とて同じだ。

 

ランサー…真名は“ディルムッド・オディナ”。

フィオナ騎士団最強と謳われ、数々の苦難を乗り越えてきた彼もまた、一流を超えた戦士であった。

そしてその腕は、魔法や魔術もない、単純な己の肉体と武器のみでの打ち合いにおいては、セイバーよりも一歩上回っている。

 

魔法という、ランサーに勝る武器を封じられた今、セイバーが劣勢に陥る事は明らかな事柄であり…

 

そして今、セイバーの体はランサーの紅の槍によって貫かれた。

 

「ぐっ…!」

 

躱しきれなかった。脇腹をランサーの槍に抉られ、地面に大量の血が滴り落ちている。

 

「勝負ありだ!」

 

ブシャリと血が吹き出る。ランサーはセイバーの体から槍を引き抜き、今度はその首を目掛けて、真横に槍先の刃を振るった。

 

「させ…るか…!」

 

ランサーの刃がセイバーの首に触れた瞬間、セイバーは鎧を出現させ、首へと迫る斬撃を鋼の鎧を持って受け止めた。

 

頭を揺らす程の鈍い衝撃が走りる。鎧が砕かれ、金属の破片が辺りに散らばった。

しかし致命傷は避けた。口から血を吐きながらも、セイバーは剣を握り、力任せにランサーに向けて大きく振り回した。

 

ランサーが一歩後退する。

ランサーの技量を持ってすれば、この様な隙だらけの大振りな攻撃、最小限の動きで回避し、容易にその首を奪えた筈だ。

しかし彼は勝利を確信していた。それにより生まれた僅かな油断が、敵を討ち取る好機を逃させたのだ。

 

僅かに生まれたランサーとセイバーとの間の空間から、大量の武器が現れる。それらは例外なく切っ先をランサーへと向け、次々に襲いかかった。

 

「大したものだ。それ程までの重症を負いながらも、些かの気力も衰えていないとはな」

 

言いながらも、ランサーは地面を蹴って後ろへ跳んだ。

その後を剣が追いかけるが、届かない。ランサーはその高い俊敏性を活かし、剣の群れをくぐり抜け、容易にその足をセイバーの眼前に運ばせた。

 

「名を知ることができないのは残念だが…!我が主人が聖杯を掴む為だ!その命、貰い受ける!」

 

再びランサーの槍が、セイバーの首元まで迫ってきた。

次は油断しない。半端な抵抗を見せたとしても、ランサーの攻撃を止める事はできないだろう。

 

腹は抉られ、ろくに身動きはとれない。無理矢理にも動かせることはできるだろうが、そんな満身創痍の状態で勝てる程、ランサーの槍術は甘くない。

 

…だと言うのに、絶望的な状況であると言うのに、セイバーの顔には笑みが浮かんでいた。

 

(何…!?)

 

首を撥ねようとする刹那の中…ランサーは顔をしかめた。

この状況で笑みを浮かべるセイバーもそうだが、そのマスター、美樹さやかの行動もまた、奇妙だったからだ。

 

(セイバーのマスター…!?いつの間にこんなに近くまで接近していた?

しかし何故…こんな状況で、今更何をしようと言うんだ?むしろ危険が増すだけの筈…)

 

ランサーは一瞬戸惑うが、それを1秒にも満たない時間の中で頭から消し去り、まっすぐセイバーの首に刃を突き立てた。

 

(いや、この状況では何もできない!首を断ってしまえば、それで終わりだ!)

 

槍がセイバーの首に迫る。

しかし次の瞬間、それは一本の剣によって防がれた。

 

「何ッ…!?」

 

「“飛翔の鎧”!」

 

ランサーが驚愕の声を上げる。

ランサーの攻撃を凌いだセイバーは、その一瞬の隙を見計らい、豹柄の衣服を纏った姿へと変わり、驚くべき速度でその場を離れた。

 

「腹を串刺しにされて何故動けーー」

 

ランサーは見た。

先ほど腹を抉られ、内臓が飛び出そうな程の大穴を開けられていたセイバーの体が、まるで何事も無かったかのように完治していたのを…

 

「治っている…だと…!?」

 

目を見開きながら、ランサーはセイバーの傍にいるさやかの方を見た。

 

「まさか…ランサーのマスターが…!?」

 

治癒の魔術…魔術師ならば使えても不思議ではない。

しかしセイバーの負っていた傷は、それで癒せるレベルのものではなかった筈だ。

 

(常軌を逸した治癒の魔術…この少女もまた、侮れない敵という訳か)

 

「これで振り出しに戻ったな、ランサー」

 

「そのようだな。しかしこの破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)がある限り、お前は鎧の力を満足に使うことはできない。状況が不利であることに変わりはないぞ?」

 

その通りだ。いくらセイバーが傷を治そうと、ランサーの圧倒的有利には変わりない。このまま戦っても結果は同じだ。

セイバーのマスター、美樹さやかは顔を曇らせる。

 

しかしその一方で、セイバーの顔には確かな自信が現れていた。

 

「どうかな?確かにその槍は厄介だが、だいたいの事は把握した。

その槍…魔法を打ち消せるのは、槍が触れている間だけなんだろう?」

 

「・・・・・」

 

セイバーの問いに、ランサーは無言で返した。

 

「そして何より、それ以前に魔法を打ち消す為には、私に触れるという条件を満たさなければならない」

 

再びセイバーの服装が変わった。

腰には袴を…胸にはサラシを一枚だけ巻いた、これまた露出の多い格好だ。手には美しい刃紋が刻まれた、日本刀が握られている。

 

「その姿は…?」

 

「察しの通り、この姿には何の力も無い、ほとんど裸同然だ」

 

ランサーの疑問に答えるように、セイバーがそう言った。

確かに、今まで使用していたセイバーの鎧の中には、見た目はとても鎧とは思えない代物もあったが、いずれも魔力による、最低限の加護が存在していた。

しかし今、目の前でセイバーが着用している装備には、魔力が一片たりとも感じられない。ただの布切れだ。

 

しかしランサーは警戒していた。

その目に映るのは、セイバーの持つ一本の日本刀…花のような美しさを持ちながら、その刀身は、禍々しい魔力に満ち溢れていた。

 

「その剣…ただの剣ではないな…?」

 

「正解だ。今現在私が身につけている中での、唯一の魔法武具…刀の名は“紅桜”。

全ての鎧を脱がなければ、握ることすらできない妖刀だ」

 

「なるほど…防御を捨てて全てを攻撃に転じたか。だがそれでも、技量の差が埋まるわけではないぞ?」

 

「分かっているさそれくらい、だが何とかしてみせる。

それに、私にはマスターがついてるんだ。この程度の差…簡単に埋められる」

 

「ほう…言ったなセイバー、ならば見せてみろ!」

 

宣言通り、今度のセイバーには防御の二文字は存在していなかった。

剣は攻める為だけに使っている。もちろん、行動不能になり得るような攻撃は全て躱している。

しかしそれ以外は全て体で受け止め…例え血が出ようと、痛みが走ろうと、足を止めずに前進した。

 

正に捨て身の戦法だ。己の身を二の次に、敵の首だけを狙うその姿は、まるで獣のように荒々しかった。

 

無茶な戦い方ではある。しかしこの…現在セイバーが導き出した捨て身の猛攻は、元来セイバーとは非常に相性のいい戦法である。

セイバーは高ランクの“戦闘続行”のスキルを持っている。その為、致命傷になり得る傷でも受けない限り、幾度でも立ち向かうことができるのだ。

 

しかもその上、セイバーのマスターは癒しの力に長けたさやかである。負傷したところで、たちどころに治癒してしまうだろう。

言わば、滅多なことでは倒れない上に、再生し続ける鋼の戦士だ。

 

まるでゾンビのような頑丈な肉体の前に、ランサーも徐々に追い詰められつつある。

何度も槍で突き刺すが、それでも尚も重戦車のように突き進むセイバーを前に、ランサーは一歩…また一歩と後ろへ足を運ばざるをえなかった。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」

 

叫び声を上げるセイバー。その勢いは更に増し、振り下ろされる紅桜は速く、そして重くなった。

 

「ぐっ…!」

 

ランサーが歯を食いしばった。最早止められない、セイバーは完全に調子付いている。

 

だがランサーはすぐに余裕を取り戻し、その口元は柔らかくなった。

 

「なるほど、肉を切らせて骨を断つか…確かにその戦い方ならば、破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)を持っていても抑えられん…」

 

「だがなーー」と、ランサーは付け加えた。

 

「この場合でのそれは、失策だったぞ」

 

突如、ランサーは地面を蹴り、後方へと一気に跳んだ。

当然セイバーはそれを追いかける。しかし如何に最優のサーヴァントとは言えど、速度においてはランサーには及ばない。

 

ランサーはセイバーを振り切り、その足を目的の地点に着地させた。

 

(何を企んでいる…?)

 

セイバーがランサーを睨みつけた。

敵はその表情から、何か策があることは明確だ。しかし今のセイバーには、思考して立ち止まっている暇などない。

今できることはただ一つ、攻め続けることだけだ。セイバーはランサーの行動に注意しながらも、ランサーに向かってまっすぐ斬りかかった。

 

ランサーが再度地面を蹴った。今度は跳ぶためではない、地面の中に埋まっているもう一つの獲物を取り出す為である。

 

切り上げられた黄の短槍…それを包む布が解かれた。

 

「もう一方の槍も宝具だったのか…!」

 

罠だった。

サーヴァントは誰しもが単一の宝具とはかぎらない、中には複数の宝具を持つサーヴァントも存在する。だからランサーが二つ目の宝具を持っていたとしても、何らおかしい事ではない。

 

この勢いはもう止められない。完全に避けることはできないだろう。

しかしセイバーは、咄嗟の判断で僅かに体を逸らし、敵の攻撃の軌道をずらすことに成功した。

攻め続けることを選択したセイバーだったが、猪突猛進…ただ闇雲に突っ込んでいるわけではない。

ランサーの行動を見極め、直ちに行動できるように心がけていた。

 

その結果は…決していいとは言えないだろう。心構えができていようと、対応できなければ意味がない。

しかし、事前に覚悟していたからこそ、セイバーはランサーの攻撃が直撃することだけは、なんとか避けることができたのだ。

 

「くっ…!」

 

セイバーが僅かに顔を歪めた。

あくまで直撃は避けただけで、完全に避けきれた訳ではない。セイバーの剣によって軌道を逸らされたランサーの槍は、セイバーの脇腹を浅く抉っていた。

 

「止まったぞセイバー!」

 

紅の長槍がセイバーを襲う。

反撃の余地すら与えぬ猛攻…それが止まった瞬間を、ランサーは見逃さなかった。

 

しかしその寸前…セイバーに槍が突き刺さる寸前で、ランサーの槍は投げ飛ばされた一本の剣によって、はじかれた。

 

(セイバーではない…!)

 

少なくとも、今のを防げる態勢ではなかった。第一、まだセイバーは剣を握っている。剣は飛んできたのだ、これではおかしい。

 

ランサーはセイバーの…その更に背後を睨みつけた。

 

その正体はセイバーのマスター、美樹さやかだ。

魔術で生み出したのか…何処からか取り出した剣を握り、ランサーに追撃を加えんと構えている。

 

「驚いたな。高度な治癒の魔術だけでなく、直接的な戦闘能力も高いとは」

 

ランサーが賛辞の弁を述べた。

お世辞でも何でもない、自分の技を凌いだ見せた相手への、今できる精一杯の敬意の表れである。

 

「もともとこの戦いは、マスターとの二人三脚で行うものだ。

卑怯とは言うまいな?ランサー」

 

傷は治らないが、セイバーにとっては擦り傷に等しいものだ。

セイバーは一切の苦の感情も表に出さず、正面に立つランサーだけを見据えていた。

 

「あぁ、もちろん構わんさ。

だがなセイバー、それによって有利になるのは、そちらばかりとは限らないぞ」

 

ランサーは笑う。

そしてその目は、敵である二人の女剣士とは離れた、ある一点の場所を見つめていた。

 

「…ッ!換装!雷帝の鎧!!」

 

瞬間、ランサーの目線の先から閃光が放たれ、セイバーとさやかに向かって光の矢が襲いかかった。

セイバーは鎧を換装させ、自分の身を盾にして、マスターをその攻撃から庇ったのだ。

 

セイバーが攻撃の来た方向を睨みつけた。

その先にいたのは…口元を隠し、長いコートを羽織った長身の男だった。

 

見た目からして、おそらくヨーロッパ系の人種だろう。

しかしその顔は、遠くから見ていると気づかなかったが…よく見ると明らかに常軌を逸していた。

 

所々に浮き出た血管…そして充血したような眼球…隠れてはいるが、そこからチラリと見える重度の火傷…

佇まいは恐ろしく静かだが、見た目は人外のそれであった。

 

そう、この男こそがランサーのマスターである。

 

同じく聖杯戦争に参加している、もう一方のランサーのマスターである、小町小吉が艦長を務める、アネックス1号のオフィサーであり、小町小吉と同じく手術によって力を得た者…

 

名は“アドルフ・ラインハルト”。

 

受けた手術の名はM.O.手術。

そのベースは魚類型、一属一種の“電撃生物”…デンキウナギである。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「万策尽きたか?」

 

赤い吸血鬼が言った。

 

「・・・・・」

 

その問いに対して、キャスターとサイト…そのマスターである雁夜は答えられなかった。

絶望的な程の戦力差を見せつけられ、最早言葉を返す余裕すら無くなっていたのだ。

 

おまけにサイトは、通常ならばランクB相当の筋力がなければ、サーヴァントと言えどまともに扱えない、アーカードの拳銃を連発したことによって、剣も振れない程に腕を痛めていた。

 

それでも尚、サイトは銃弾を放った。

ボロボロの腕で…突き刺さるような痛みが走っても尚、引き金を引いた。

 

しかし無情にも、それは一切通じなかった。

アーカードはおろか、マスターであるブラッドレイにすら、傷一つつける事ができない。

 

ブラッドレイは弾丸を潜り抜けながら、容易にサイトの懐へと接近し、思い切り蹴りを食らわせた。

 

蹴りの衝撃で、サイトが後ろ向きに倒れる。

そして力弱い手から零れ落ち、アーカードの拳銃が地面を滑った。

 

「これは返して貰うよ。我々の貴重な武器なのでね」

 

ブラッドレイが地面に落ちた拳銃を拾い上げ、アーカードに投げ渡した。

重さは一丁で16kg…常人なら投げるのも一苦労な重量だが、吸血鬼と化したブラッドレイには関係ない。

ブラッドレイは片手で軽々と、二丁の拳銃を放り投げた。

 

「これ以上は期待できそうにないな」

 

「やはり騎士王クラスの敵とは、そうそう出会うことはできないか」

 

ブラッドレイの言葉に対し、アーカードは残念そうに…しかし楽しそうに、そう返事を返した。

 

「…というわけだ、悪いがそろそろ終わりにさせてもらおう」

 

アーカードがその赤い目をキャスター達三人に向け、ゆっくりと歩き出した。

一歩一歩…軽い足取りで進むその様は、この上なく隙だらけだ。

 

攻撃を当てるのは簡単だろう、しかしどうにもならない。

何度致命傷を与えても、たちどころに回復してしまう故、一切の抵抗も無駄と化す。

腹が立つ程の戦力差だ。

 

それでも何もせずにはいられない。

キャスターが杖を振り、アーカードに目一杯の爆発を浴びせた。

 

案の定効果はない。

顔色一つ変えることなく、アーカードは欠損した部分をそく再生させた。

 

(ここでもう…終わりなのか…?)

 

雁夜が目を閉じ、敗北を察した。

現状、ここで逆転する案など浮かばない。

 

いきなり強過ぎる敵に当たった事を恨めばいいのか…

間桐雁夜の聖杯戦争は、焦燥の中で終わりを告げた。

 

ーーと、思われた。

 

「ALalaaaaaaaaaai!!!」

 

突如、雷光が走り、轟音と大きな掛け声が響き渡る。

そして次の瞬間、キャスター達とアーカードの間を、二頭の牛と戦車が駆け抜けた。

 

「…新手か」

 

アーカードが呟く。

そしてその体は、戦車によって腕から半分を持っていかれ、深く抉れていた。

 

「双方、武器を収めよ!王の御前であるぞ!」

 

「あんたは、ライダー!?」

 

雁夜が思わず声を上げる。

突然戦いに乱入したのは、昼間に一度出会った、騎馬兵のクラスを持つサーヴァント…イスカンダルだったのだ。

 

「我が名は征服王イスカンダル!この戦いは、一先ず余が預からせてもらおう!」

 

相変わらず自分の真名を名乗るという愚挙を、堂々と声高々に行うイスカンダル。

その傍らでは、彼のマスターであるアルミンが、半端諦めたような表情で頭を抱えていた。

 

「なるほど、騎士王に続きかの征服王が相手か…

まったく、今宵の戦争は退屈させないな」

 

「ッ…巨人よりも凄い生命力だ…」

 

赤い目でイスカンダルを見定めながら、嬉々とした顔で体を再生させるアーカード。

その姿を見て、アルミンが固唾を飲み込んでそう呟いた。

 

「しかしいくら征服王の言葉と言えど、それを聞き入れる訳にはいかないな。

我々は戦いの時を楽しみにしてきた。これ以上先延ばしにされるのは、勘弁願いたい」

 

アーカードが銃を構えた。この状況下でも、構わず戦闘を続けるつもりだ。

 

「真っ向勝負を望むか。それもいい、それこそが戦の花と言うものよ。

しかし余の考えとしては、貴様達を配下に加え、共に聖杯をこの手に掴む…というのもありだと思うのだがな?」

 

「征服王からのスカウトとは光栄極まるが…それでは征服王と戦うことができない。

断らせてもらおう」

 

「私も同意見だ」

 

尚も戦意を向ける、アーカードとブラッドレイ。

それに対し、イスカンダルも引かずに交渉を続ける。

 

「無論聖杯は余が貰うが…

お前達にはそれ相応の御礼も与えるつもりだ。なんなら事が終わった後に、余自身が直々に相手をしてもいい。

余はいずれ世界を征服するつもりだ、何だって用意できるぞ?どうだ?」

 

「愚問だな、我々は聖杯にも支配にも興味はない。そして勝利にもな。

我々の目的はただ一つ、何者にも縛られる事なくただ戦う事…これのみだ」

 

ブラッドレイが剣を抜いた。その目には確固たる意志が表れている。

幾ら言葉をかけようと、それを曲げることはないだろう。

 

イスカンダルにもそれが理解できた。

これは一つの人生…ブラッドレイが生きていく過程でようやく到達した、一つの答えなのである。

 

故に、絶対に変える事はできない。

 

「さぁ、話は終わりだ。そちらも構えたまえ」

 

「これ以上は無駄か…」

 

これが退き際だ。イスカンダルは溜め息を吐いた。

とは言え、元より無謀な勧誘だったのだ。諦めるのも簡単である。

 

「このまま貴様達と競い合うのも面白かろう。

しかしながら、このまま()り合うにはちょいとばかし分が悪い…」

 

イスカンダルが手綱を握り、アーカードを睨みつけた。

 

「ここは一旦退いておこう。やるべき事を終えた後でな」

 

アーカードが引き金を引いた瞬間、再び戦車は走り出した。

 

「キャスターとその使い魔!そしてマスターよ!余の戦車に乗り込め!」

 

「なっ…!?」

 

戦車をスレスレの所で停車させ、イスカンダルがキャスター達三人に声をかける。

 

「何故…俺達を!?」

 

「話は後だ!早く乗り込まないと!」

 

当然疑問を投げかける雁夜。

しかしこの急を要する事態に、その答えを教えることはできない。アルミンは一刻も早くと、アーカードを指さして三人を急かした。

 

拘束術式(クロムウェル)。第2…第1号解放…

能力使用の限定解除開始」

 

アーカードの姿が変形していく…

そしてアーカードの使役する無数の使い魔達が地面を這い回り、巨大な魔犬が噛み殺さんと睨みつけた。

 

「嘘…何あれ…」

 

変貌するアーカードを見て、キャスターは顔を青ざめた。

 

やはり敵は本気で戦っていなかった。

そして今、逃げようとする相手を確実に仕留めようと、力を解放している。

 

ここにいても死ぬだけだ。

迷っている暇はない。サイトがルイズを抱えて戦車に飛び乗り、アルミンが雁夜の手を引っ張り、そのまま引きずり込んだ。

 

「乗ったな!?では飛ばすぞ!しっかり掴まれ!」

 

アーカードを正面に、戦車は更に激しい雷光に包まれる。

 

地面が揺れる。爆発的な魔力が、戦車の中心に集まっているのが分かる。

 

遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)!!!」

 

神獣と魔犬がぶつかり合った。

赤黒い霧が神獣を包み込み、ゼウスの雷が魔犬を焼く。

 

地獄の様なドス黒い影と、神聖なる雷が互いを喰らい合い…

そしてその末に、二頭の神獣が足を踏み出し、アーカードの使い魔達を薙ぎ払って、空の上へと駆け上がっていった。

 

圧倒的スピードで駆け去っていく戦車。

アーカードとブラッドレイの目にはもう、暗闇の中で輝く、雷光しか見えない程に遠ざかっていた。

 

「逃げられたか…」

 

「追いかけられるか?」

 

「流石にあの速度で空を飛ばれれば、追いつくことはできないな。

私もライダーのクラスで召喚されていれば、話は違ったが」

 

アーカードがやれやれと言った顔で肩をすくめ、残念そうに赤い帽子を深く被った。

 

「ならば、別のサーヴァントを探すとするかね?」

 

ブラッドレイが眼帯を付け直し、そうアーカードに尋ねる。

 

「そうだな、夜はまだまだこれからだ。寝るにしては早すぎる」

 

アーカードとブラッドレイは先ほどの問答が嘘かと思える程素早く、追跡を諦め剣と銃を収めた。

 

目の前の獲物は見逃さないが…無理だと判断すれば直ぐに次の行動に移る。

まるで狩人の様な行動パターンだ。

 

二人の吸血鬼は次の戦場を求め、飢えた獣の如く歩み始めた。

できれば出会いたくない。聖杯戦争に参加している者達にとっては、最も厄介な相手であると言えるだろう。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

少年は優秀な暗殺者だった。

いや、正確に言えば、天才的な殺しの才能を持った者であった。

 

『殺気を隠して近付く才能、殺気で相手を怯ませる才能』『「本番」に物怖じしない才能』

正に、人間相手ならば優秀な殺し屋になれる才が備わっている。

 

その才能は“とある生物”を殺す為に学んだ、暗殺術の訓練によって開花し…15歳という歳で自衛隊や、プロの殺し屋とも渡り合える程のものになっていた。

 

しかし、今回ばかりは相手が悪かった。

 

敵は暗殺者の英霊…その類においては頂点を極めた実力者だ。

 

「昼間から観察を続けていたが、やはりサーヴァントは連れていないようだな」

 

黒い衣服を纏ったアサシンのサーヴァントが、冷たい目で少年を見下した。

その手に武器は無い。素手だ。にも関わらず、少年には鋭い刃物で切り裂かれたような傷がついている。

 

(今…何をしたんだ…?)

 

足から血が流れる。少年は苦痛で顔を歪ませながら、足の切り傷を手で覆った。

 

戦闘が始まり、敵が行なったのは蹴りだけだ。

それも当たってすらいない、遠く離れた場所から空振りしただけである。それなのにだ、まるでカマイタチが起こったかのように、少年の足は切り裂かれたのである。

 

「迅速に終わらせる。標的はまだ他に13人いるからな。

お前ばかりに時間をかけていられん」

 

アサシンが動いた。

その動きは穏やかで、一切隙がない。

 

「まずい…!」

 

少年もそれに対応し、手に持っているナイフを構えた。

だが敵との実力は天地の差がある。真っ向から勝負を挑んでも勝てる可能性はない。

 

少年は記憶を探った。

思い出したのは、知…体…心…あらゆるものを学ばせてくれた、ちょっと変わった恩師の事だ。

 

殺せんせー…少年を含める教え子達は、その人の事をそう呼んでいた。

殺せんせーの生徒の一人、潮田渚は、彼の教えからこの状況を乗り越える術を導き出すべく、策を張り巡らせた。

 

呼吸…視線…表情…それらから感じ取るのは、相手の“意識の波長”。

渚は感覚を鋭敏に研ぎ澄まし、目の前にいるアサシンから意識のスキマを読み取った。

 

そこから先は、気づけば身体が勝手に動いていた。

手を伸ばせば届く所まで迫ってきたアサシンを前に、渚はまるで、倒れこむようにフラリとした足取りでアサシンに近づいたのだ。

 

あまりにも自然で、流れるような動きだ。

殺意を一片たりとも感じられない渚を前に、アサシンは攻撃できず、それどころか自分の懐に入る事を許してしまった。

 

「なに…!?」

 

アサシンは一瞬、自分の首元に毒牙を向ける、大きな毒蛇の姿を幻視した。

その瞬間だ。アサシンの意識の波長が、僅かに揺れたのは…

 

「パァン」という、大きな破裂音がアサシンの眼前で響き渡った。

 

正体は渚の必殺技、ねこだましである。

名前の通り、ごく普通のねこだましではあるが、それを極限の緊張感の中…それも気の緩んだ瞬間に行えば、相手の思考を停止させ、瞬間的に動きを封じることができる。

 

この技を渚に教えた殺し屋、ロヴロ曰く「達人であればあるほど、罹りやすい技」である。

その思惑どおり、アサシンの動きが僅かに止まった。

 

そしてその瞬間を、渚の才能は見逃さない。

渚はナイフを胸の前に構え、そのまままっすぐ、アサシンの心臓に突き刺した。

 

ーーだが、殺せない。

 

渚は目を見開き、ただ目の前の光景を眺めていた。

アサシンの心臓を突き刺した筈のナイフは、アサシンの肉を裂くことができず、逆にその刃先は折れて砕け散り、破片が地面に散らばった。

 

「殺せると思ったか?」

 

「うっ…!?」

 

アサシンと目が合った。

そして気がつくと、渚は背を地面に付けて倒れていた。

 

「俺の懐に入り込んだ事は、素直に驚かされたが…そんなもの(ただのナイフ)で俺を殺す事はできない」

 

渚のナイフを防いだのは、“六式”と呼ばれる六つの体技の一つ、筋肉の凝縮によって体を鉄の強度に引き上げる技…鉄塊(テッカイ)だ。

 

因みに渚を切り裂いた、カマイタチのような技の名は嵐脚(ランキャク)である。

 

「くっ…!通じない…!」

 

蹴りを入れられた腹を抑え、渚がアサシンを睨みつけた。

 

確かに渚の技は一級品だ。

プロを相手にしても、十分に通用するレベルだろう。

 

しかし単純な話、相手はそれ以上の存在なのだ。

アサシン…彼は幼少の頃から政府の機関に仕え、渚と同じ年頃には既に、戦場に渡って多くの敵を葬っていた。

 

その経験により積み上げられてきたアサシンの精神力を崩す事など不可能。

 

そも英霊とは、常人を軽く逸している者ばかりだ。

渚の技はあくまで人間を殺すもの、超人に通じる道理など、元より無かったのだ。

 

「多少殺しの技術を心得ているようだが…任務に支障はない」

 

アサシンは指をまっすぐに伸ばした。

六式を極めし者は、その肉体そのものが武器になる。

 

彼が獲物を持たない理由もそれだ。

剣を持たずとも相手を切り殺せ、銃を持たずとも相手を銃殺できる。

 

そう、アサシンにとって、この指先一つが、銃弾のような貫通力、スピードを備えているのだ。

 

「お前は十分に足掻いた。だからもう、死ね」

 

アサシンが再び渚に迫り寄る。

渚の技はその性質上、二度目は一切通用しないだろう。渚にはもう対抗手段はない。

 

あるとすれば、ただ一つだけだ。

 

「令呪を持って命ずるーー」

 

(ソル)ッ!」

 

一瞬消えたかと思える程に素早く移動したアサシンが、渚の右腕を足で押さえつけ、令呪の使用を封じた。

 

「サーヴァントは呼ばせん」

 

アサシンが腕を振り上げた。

ミスはない。この腕が下がった瞬間、正確無比な精度で急所を撃ち抜かれるだろう。

 

渚は目を瞑って、死を覚悟した。

 

「あれ…?」

 

しかし何も起こらない。

何故かアサシンは、一向に攻撃してこないのだ。

 

渚は恐る恐る目を開いた。

 

目の前に広がっていたのは、迷彩服に覆われた、大きく逞しい背中背中だった。

 

「またせたな」

 

バンダナを巻いた、眼帯の男が渚に笑いかけた。

男は右手に銃を持ち、左手にナイフを構え、アサシンの攻撃を受け止めている。

 

「スネークさん!」

 

「情報収集は終わりだ、さがっていろマスター。

戦闘を開始する」

 

渚を救い出し、アサシンに対面する軍人…スネーク。

彼こそが潮田渚の召喚したサーヴァント。

 

この聖杯戦争における、もう一人のアサシンである。

 

 

 






今回登場したアサシンですが、原作のONE PIECEでは覇気を使った描写はありません。

だけど再登場したし、まだ戦闘はありませんけど多分使えるだろうということで、半端妄想ですが使えるという設定にしました。


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