19時から21時と言いましたが、今度からは19時から22時に投稿します。
まぁどっちみち過ぎてるんだけどね。
空を駆けるイスカンダルの戦車。
そこに乗るのは、この宝具の持ち主である征服王イスカンダルに、そのマスター、アルミン・アルレルト。
そしてキャスター、ルイズ・ヴァリエールにその使い魔、平田才人。キャスターのマスター、間桐雁夜である。
しかし姿が見えるのは、イスカンダル、アルミン、雁夜の3人だけだ。
五人で戦車に乗るには多すぎる為、才人とルイズが霊体化している為である。
「何故…俺達を助けたんだ?」
落ちないように必死に戦車に掴まりながら、雁夜が先程のアーカード戦についての疑問を尋ねた。
「なに、惜しいと思ったまでよ」
「惜しい?」
「キャスターの使う、虚無の魔法とやらは威力範囲共に優れておる。
それに小僧の方もなかなかの根性よ、ここで失うには惜しいと思った。だから手を貸したまでだ」
「だからって…」
ライダーの答えは単純だ。
自分のお眼鏡に叶ったから生かした、それだけだ。
しかし聖杯戦争の性質上、いつかは敵になる相手だ。
強いと思ったのならば、逆に倒せる時に倒しておこうと考えるものではないのか…
そう思い、雁夜は納得できずにいた。
「他に理由を付けるとすれば、今は少しでも多くの戦力が欲しい…っていうのもあるかな」
雁夜の顔を見て、その心情を察したのか、アルミンが横からそう言い足した。
「戦力だと?」
「貴様も見ただろう。
アーカードとやらの異常な再生能力を。あの仕掛けを解かねば、奴を敗ることはできん」
確かにそうだ。雁夜は先の戦いを思い出した。
切り落としても、爆発させても、バラバラにしても吹き飛ばしても、アーカードは全て何の支障もなく再生させていた。
規格外の存在が多いサーヴァントの中でも、更に異常である。
「余が聖杯に貰った情報の中にも、アーカードという名の英霊はいなかった。何故なのかは分からんがな。
だが貴様は…奴の事を色々と知ってたようだが?」
ライダーが横目で尋ねた。
確かに雁夜は戦闘中に、アーカードが生前やっていた事についてを述べていた。
「俺も断片的にしか知らない。
ただキャスターによれば、奴はイギリスのとある機関に所属する、吸血鬼でありながら吸血鬼専門の殺し屋だったらしい」
「…なるほどな。
しかしますます分からん。聖杯から与えられる情報にはそれほど変わりはないはずだ。少なくとも、参加しているサーヴァント全員の情報を、皆が共有している筈…
何故余とキャスターとの間で、これほどまでにアーカードについての知識にズレがあるのだ」
「…俺にも分からない」
それはキャスターも同じであった。
雁夜が霊体化しているキャスターに尋ねたものの、それについては「分からない」としか返ってこない。
彼女曰く「何故か頭の中に浮かび上がっていた」といことらしい。
「とにかくだ、あなた達は僕達の手によって救われた。
当然ここは、僕達に協力しておくべきなんじゃないだろうか」
アルミンが言った。
一見、相手に懇願しているかのようにも聞こえるが、優位に立っているのはライダー側である。
実際は頼みではなく、強制に近い。
「なるほどな、そうやって俺達に恩を売る。というのも目的の一つか」
「悪い話ではないだろう。
あのままでは死んでおったところを助かったんだ。それに貴様達にとっても、あの吸血鬼共は厄介な存在であろう?」
「・・・・・」
雁夜は考え込んだ。
ライダーの言う通り、アーカードは厄介この上ない。再度戦ったとしてもまず勝てないだろう。
いやそれどころか、次に出会った場合は逃げる事すらできるかどうか、怪しいところだ。
それにどの道、いつかは倒さねばならない相手である。
聖杯は求めていない。しかしアーカードやブラッドレイのような、危険な存在を野放しにする訳にはいかない。
あの少女に危険が及ぶ前に、何としても倒さなければならないのだ。
(まだ無事だろうか…桜ちゃん)
「考え込んでいるところ悪いが、しっかりと掴まっておけ!
敵に攻撃されているぞ!」
ライダーが叫んだその瞬間、雁夜の頬を一本の矢がが掠った。
「なっ…!?」
「この腕前…アーチャーのクラスのサーヴァントで間違いないな」
ライダーはそう呟き、手綱をしならせ更に前進した。
その瞬間、怒涛の勢いで、矢の群れが絶え間なく放たれた。
戦車が纏う雷の盾で矢を撃ち落とし、それを潜り抜けてきたものをキュリプストの剣で叩き落とす。
「見えるか坊主?あそこにいるのが狙撃手だ」
「あそこ…?」
アルミンがライダーの目線の先を見つめた。
サーヴァントであるライダーとは違い、性別や衣服までは暗くて確認できないが、確かに人影が一つ、街灯の明かりで僅かに見る事ができた。
「また来るぞ!掴まれい!」
ライダーが手綱を引き、戦車を加速させた。
音速で放たれた紅蓮の矢が、戦車の後部をスレスレで通過する。
「危なかっーー」
ギリギリだが躱しきれた。そう思った瞬間、紅蓮の矢は軌道を大きく変え、再び戦車に襲いかかった。
「奴め、厄介な矢を所持しているようだな」
ライダーが巧みに戦車を操り、何とか矢の追撃を躱し続けるが、何度躱しても矢は軌道を曲げ続け、まるで獣の様に戦車を追いかけて来る。
おまけにアーチャーは休む事なく弓を射続けている為、無数の矢が雨の様に降りかかってくる。
「防戦一方だな、このままでは拉致があかん」
ライダーが眉根を寄せてそう言った。
何とか耐え凌げているが、絶え間なく襲ってくる矢の礫に、追尾機能を持つ紅蓮の矢だ。
いつまで耐えられるか分からない。
「さて…どうしたものか」
ーーーーーーーー
時間は少し遡る。
アーチャー…エミヤはマスターである凛の命令通り、千里眼を用いて拠点の近くにいる敵を監視していた。
気づかずに通り過ぎてくれるならそれで良し、無駄な戦闘は避けたいと思うのはアーチャーも同じだ。
だが自覚のありなしには関わらず、こちらの拠点に近づいてくれば、奇襲を仕掛けてでも追いかえさなくてはならない。
アーチャーは数キロにも渡る視力で見渡しながら、両手に弓を構えた。
「あれは…」
見つけた。巨大な車輪を携えた戦車に、それを引く二頭の牛だ。
すぐにアーチャーはいつでも弓を射てる様に、息を潜めながら矢を投影して、弦を引いた。
しかしまだ射たない。
戦車に乗っているサーヴァントは、霊体化している者を含めると三騎もいる。
対してこちらは一だ。セイバーが加勢に来てくれたとしても数で劣っている。安易に手を出すべきではないだろう。気づかずに去ってくれるのなら、それが一番である。
だが相手はサーヴァント。
アーチャー同様、幾多の戦場を渡り歩いてきた彼らの研ぎ澄まされた感覚の前では、なかなか予定通りには事は運ばない。
「気づかれたか…!」
ライダーと思われるサーヴァントが此方を見下ろした。
そして目が合う。
ここまできたら射つしかない。
アーチャーはその、引き絞られた弦を解き放った。
当てるつもりはない、先ずは威嚇だ。
アーチャーが放った矢は、マスターも思われる男の一人の頬を掠めた。
これでサーヴァントの方も、マスターの身を案じて一度引き返してくれるのなら何よりだが…
「…やはりそう、上手くはいかないか」
アーチャーは再び弓を構えた。
敵は尚も接近を試みるつもりだ。
「厄介な戦車だ」
矢を射っても射っても、そのほとんどが戦車の勢いに押し負け、弾き返されている。
辛うじて敵に届きうる矢も、その乗り手に弾かれ効果はない。
「ここは、攻め方を変えるか」
そう呟き、アーチャーはおもむろに剣を投影した。
しかし唯の剣ではない。昨夜投影した
「精々、逃げ回って遠くに行ってくれ」
紅の矢が音速を超えて放たれた。
放った矢は、北米の英雄ベオウルフの振るったとされる剣…
矢として使用されたこの剣は…例え弾き返されようと、射手が健在である限り、まるで猟犬の様に敵を仕留めるまで追いかける魔弾へと変わる。
真っ暗な空の上で、荒々しい巨大な雷光と、狂った様な紅い閃光が、まるで追いかけっこをする様に疾走している。
ライダーが何とか躱そうとするが、
「ダメ押しだ!」
その状況を見上げながら、アーチャーは更に矢を放った。
一発一発に魔力はあまり込めていない、相手に圧力をかける為の弾幕である。
「さて…どう動く?」
敵の行動を鋭く観察しながらも、アーチャーはその手を休ませず、矢を射ち続けた。
ーーーーーーーー
『助けられてばかりじゃいられないわ。ここは私達が何とかする』
どこまでも追いかけてくる紅い矢と、絶え間なく放たれる矢の弾幕の中、霊体化しているキャスターがそう言った。
「何とかするって…何か策があるの?」
『要はあの紅の矢、弾いても避けても追いかけてくるから厄介なんでしょ?
だったら粉々に破壊しちゃえばいいのよ』
アルミンの問いに、キャスターがしれっと答える。
破壊すべき的は音速を超えて飛び回る宝具だ、それができれば苦労はしない。
しかしキャスターの顔には、確か自信が見て取れた。
「ほう、なかなかいい面構えだ。
ならばやって見せよキャスター!」
「言われるまでもないわ!
行くわよサイト!」
「あぁ!」
ライダーの言葉に続き、キャスターとサイトが霊体化を解いた。
そしてサイトが戦車から空中へ飛び出して行き、迫り来る紅い矢をデルフリンガーで叩き落とした。
その衝撃により、紅の矢は一瞬だけバランスを崩して減速する。しかし無意味だ、
矢は再び態勢を直し、勢いを取り戻しつつあった。
だがキャスターは、サイトの作りだした一瞬の隙を見逃さなかった。
キャスターは僅かに減速した矢に杖を向け、こう唱えた。
「
キャスターのいた世界で使われる魔法…四つの系統魔法のどれにも当てはまらない、失われた属性“虚無”。
その数少ない担い手であるキャスターの放つ爆発は、全力で撃てば大軍…いや対城宝具にも匹敵する、広大な範囲と高火力を誇る一撃へと至る。
そして強烈な爆発は紅の矢を飲み込み、粉々に破壊した。
「よくやったキャスター!後は余に任せよ!」
二頭の神牛は加速し、急降下し始める。
「さらに接近して来たか…!」
敵は完全に戦闘態勢に入ってしまった。
正直な所、戦闘は避けたかったが…もうそんな事も言ってられない。敵サーヴァントは二体、不利な状況だが戦う他はないだろう。
「
その詠唱と共に、アーチャーが
「これはちときつそうだな…!
坊主!これで今日二度目だが、宝具の真名解放をする!耐えられるか!?」
「大丈夫だライダー!僕の事は気にせずやってくれ!」
「それでこそ我がマスターだ!だが、無理はするなよ!」
戦車が轟音をあげ、纏う雷光が眩い程に激しくなった。
同時にアーチャーも構える。
太陽のように輝く雷光に、爆発的に高まる魔力。
間違いない、敵は宝具を使用するつもりだ。アーチャーはそれを理解した。
「来る…!」
嵐の如き荒々しさを身に纏い、戦車は一気に駆け出した。
巨大な轟音と、閃光が町中を包み、響かせた。
アーチャーの
Aランク以上の宝具同士の衝突。
空間を歪める剣とゼウスの雷を纏う神牛…その二つは、想像を超えた衝撃を辺りに生み出した。
アーチャーは襲いかかる閃光と風圧から身を守りながらも、目を細めてその中心を覗き見た。
そして直ちに双剣を投影する。
宝具と宝具がぶつかり合った爆心地から、ライダーが雄叫びをあげて突っ込んで来たからだ。
「ALaaaaaaaaaaaaaai!!!」
迫り来る戦車に向け、アーチャーは両手に持つ干渉・莫耶を放り投げた。
二つの剣が回転しながらライダーに襲いかかる。しかしライダーの操る戦車は、それを軽々と潜り抜けた。
即座にアーチャーは干渉・莫耶を投影、そして投擲する。
だがその二本もライダーには当たらない。
しかしアーチャーの顔には、焦りの色は一切なかった。
何故ならば、アーチャーの攻撃は未だ続いているからだ。
アーチャーは三度目の投擲を行なった。
しかし今度は投げず、剣としての本来の使い方で、ライダーに斬りかかった。
当然黙って斬られるライダーではない。
ライダーはキュリプストの剣を持って、アーチャーの剣撃を迎え撃った。
戦車は今も荒々しく疾走してはいるが、先の
三本の剣が激しくぶつかり合う。
筋力で劣るアーチャーがそうなれるのは、彼の技量故か、二人の剣撃は拮抗していた。
しかしここで、ライダーは自らの身に迫る異変に気がついた。
左右後方…それぞれの死角から、風を切る音が近づいてくる。
これこそがアーチャーの放った布石だ。
干渉・莫耶…それは互いに引き寄せ合う夫婦剣。その性質を利用したアーチャーの投擲は、剣がまるで吸い込まれるように相手へと襲いかかるものになる。
これこそが、先の剣の性質と、魔力ある限り無尽蔵に剣を複製できる、アーチャーの魔術を必須とした絶技、鶴翼三連である。
死角からの投擲と、アーチャー自身の斬撃による三連撃、正に回避不能の連撃だ。無論ライダーでも、無傷で防ぐのは容易ではない。
しかし幸いにも、ライダーには一人味方がいた。
そう、キャスターのサーヴァントであるルイズだ。
「後ろは任せなさい!」
キャスターが再び杖を振るい、爆発魔法を起こして、後ろから迫り来る剣を撃ち落とした。
「良い援護だキャスター!」
ライダーがニヤリと笑った。
そう、一人ならば完全に防ぎ切るのは難しい攻撃でも、二人ならばずっと容易く対応できる。
ライダーが足を軽く踏みならした。
その足音に反応した二頭の神牛は、互いに対称的に左右へ振り向き、雷を放出する。雷は勢いよく空中を駆け、アーチャーの剣を弾き落とした。
これにて、アーチャーの放った三連撃は二つが防がれ、残る一つ…アーチャー本人だけがその場に残った。
「弓兵にして剣を使うばかりか、なかなか味な技を使う!
先の放出といい、芸達者な奴だのう!」
「多芸なのが唯一の取り柄でね」
賛辞を送るライダーに対して、アーチャーが余裕を持った態度でそう返すが、状況はアーチャーから見れすこぶる悪かった。
宝具の投影品も、アーチャーの持つ様々な技も破られ、おまけにさっき空中から飛び降り、一時離脱した筈のもう一人のサーヴァントまで帰ってきた。
距離はそれほど離れていない、サーヴァントの足ならば直ぐに追いつける程度だ。こうなることは最初から想定できていたが、できれば先の攻撃で、ライダーだけでも負傷させておきたかった。
現場三対一だ。三体のサーヴァントをたった一人で相手にしなければならない。
その上ライダーの宝具…おそらく神大に近い紀元前のものだろう、相当な神秘を秘めているのが分かる。厄介な代物だ。
「せめて味方にもう一人いれば…」
ライダーから距離をとり、そう小さく呟いたアーチャー。
と、ここで、幸運Eという低いステータスではあるが、運良く彼の元に、救いの手が差し伸べられた。
駆け抜けるは青い閃光、その手に握られる風の太刀によって、サイトの体が弾かれた。
「セイバーか!」
「激しく魔力がぶつかり合っていたので来てみれば…どうやらその判断は正しかったようですね」
アーチャーが思わず声を出した。
現在は手を組んでいる青い剣兵…アルトリア・ペンドラゴンが、援護へと駆けつけてくれたのである。
セイバーは剣を構えたまま、凛とした顔つきでライダーを見た。
「まさかあなたまでここに来ていたとはな、征服王」
「そういう貴様は騎士王ではないか!」
ライダーとセイバー…両雄が互いを睨み合う。
しかしその口元には、お互いに笑みが含まれていた。
今回はここで終了です。
ではまた次回