マスターとサーヴァントとの出会いは後日になります。
開戦
聖杯戦争1日目の夜。
この架空世界の時間で言う、深夜0時を回った暗い都市外の河川敷で、早速戦いが始まっていた。
キィン!キィン!と、何度も何度も刃のぶつかり合う金属音が響き、その度に火花が飛び散った。
どちらも得物は剣。それも両手で二本の武器を扱う二刀使い。
互いに息は上がれど、受けた傷は全くのゼロ。
両者の戦闘技術はほぼ拮抗していた。
一方は色黒で、白い髪に赤い服を身に纏った若い男…もう一方は黒髪に黒い口髭、眼帯をつけた初老の男である。
赤い服の男の手から、パキリという音が聞こえてきた。
激しい攻防の末、赤い服の男の剣が砕かれたのだ。
「アーチャー!」
赤い服の男のマスターと思われる少女の声が響く。
アーチャーは慌てない、冷静に、素早く一瞬にして新たな剣を創り出し、眼帯の男の追撃を防いだ。
(劣化した模造品とは言え、“干将・莫耶”をただのサーベルで何本も叩き折るとは…!)
アーチャーの振り払った剣が空を切った。黒い刀身が眼帯の男の頭の上を通過する。眼帯の男が姿勢を低くし、アーチャーの攻撃を躱したのだ。
とは言え、アーチャーの攻撃はこれだけではない。
更に二撃、三撃、四撃と、流れるような動きで連撃を浴びせた。
しかし、それすらも眼帯の男は防ぎきったのだ。
アーチャーの攻撃を見切って避け、剣で受け流した。
「アーチャー‼︎」
再び少女が叫ぶ。
今度は心配からの叫びではなく、援護射撃によってアーチャーを巻き込まない為の声かけだ。
その言葉を聞いたアーチャーは、その意味を一瞬にして理解し、直様後ろへ飛び退いた。
前方に突き出された少女の手から、赤い閃光が放たれる。
赤い閃光は真っ直ぐ眼帯の男へと突き進み、そのままぶつかり爆散した。
粉塵が舞い散り、眼帯の男の体を覆う。
手応えはあった、しかし警戒を解くことはできない、少女達は巻き上がる粉塵を凝視した。
粉塵の中から足音が聞こえてきた。
不安が的中した、眼帯の男はまったくの無傷、その手に持つ剣で、少女の放った赤い閃光を叩き落としていたのだ。
「これが魔術か…サーヴァントと言い、別の世界というのは驚くべきことばかりだな」
眼帯の男が楽しそうに笑みを浮かべながら、ゆっくりと二人に近づいた。
「あの体勢からガンドを弾くなんて…厄介なサーヴァント……じゃないわね、あれ」
「あぁ、恐ろしいことにな、奴はサーヴァントではなくマスターのようだ。
気をつけろよ凛、奴のサーヴァントも近くに潜んでいるようだからな」
「サーヴァントと正面から渡り合えるマスターって…あんた一体何者よ」
凛と呼ばれた少女が苦い顔で、眼帯の男を睨みつけた。
宝具を使っていないとは言え、アーチャーとまともに打ち合えるその身体能力と、英霊に勝るとも劣らない威圧感。
ステータスやサーヴァントの気配を隠す宝具を持っていると言われた方が、まだ説得力がある。
「私かね?ふむ…私には名前は無いが、生前は“キング・ブラッドレイ”と呼ばれていたよ」
温和な笑みを浮かべて話すブラッドレイ。
優しそうな老人の顔にも見えるが、先の戦闘力を見た後で、しかも敵同士というこの状況、恐怖しか感じられない。
「キング…ねぇ…随分と御大層な名前じゃない」
「一応これでも、一国の王に相当する位にいたものでな」
それを聞いた凛が更に後ろへ退がった。一国の長など、本当に英霊へと至っていてもおかしくない存在だ。
「…アーチャー、全力でいきなさい。そうしたら勝てない敵ではないわ」
「奴のサーヴァントはこっちを伺っている、それに何らかの方法で他のマスターが我々の戦いを監視しているかもしれない。できればこちらの戦力を知られたくはないのだがな」
「私は何も、宝具まで使えって言ってるわけじゃないわ。
芸達者なあんたなら、宝具の使用もせずに、かつ相手に勝つ事だってできるでしょ?」
「フッ…随分信用されたものだな」
「あんたと組むのも二度目だからね」
二人が笑みを浮かべながら、互いの目を見た。
そう、相手がいくら武芸に富んでいようと、所詮は唯の人間、宝具もスキルも何も持たない、魔術もろくに使えない状態で、様々な宝具を創り出せるアーチャーに勝てるわけがない。
そう確信していた。
「ほぉ、宝具を使わずに勝つ自信があると?
そこまで言われると、私も年甲斐なくムキになってしまうな」
そう言ってブラッドレイは、己の左目に付けている眼帯に手を掛けた。
「あいつ…何をする気なの?」
凛が首を傾げてそう言った。その瞬間…
黒い眼帯が宙を舞い、高速で移動するブラッドレイがアーチャーに切りかかった。
「何っ⁉︎(さっきよりも速い…!)」
反射的に剣を構えるアーチャー。
さっきよりも数段重く、速い一撃が両の腕に響くのを感じた。
常人では反応するどころか、目視すら不可能な程の踏み込みの速さ、アーチャーはそれを寸前で防御し続けている。
流石は英霊と言ったところだろう。しかしこれはあくまで、“防御はできる”というだけだ。
逆に言えば防御だけで精一杯なのだ。
その猛攻の前には反撃すら許されない、腕を振るおうとすれば、剣の柄で押さえつけられ、蹴りを放とうとすればそれよりも素早く踏み込まれる。
戦闘技術はほぼ互角だと思われていたが…とんでもない、少なくとも、剣技においては完全にブラッドレイの方が勝っていた。
「私はね、君達サーヴァントのような、強力な宝具を持っている訳でも、魔術師のように魔術を使える訳でもない。
そんな私が何故、サーヴァント相手に一人で戦えるか分かるかね?」
アーチャーと剣を交えながら、ブラッドレイはその左目をゆっくりと開いた。
「君達に宝具や魔術があるように、私には“最強の目”があるのだよ」
「…なるほど、全力を出していなかったのは、お互い様だったというわけか」
ブラッドレイの左目に刻まれたウロボロスの紋章を睨みつけながら、アーチャーは己の中にあった、ほんの僅かな慢心を咎めた。
もう少し上手く書けないものか…