数十年後
霊術院での生活が一年が過ぎるとリオと夜一は飛び級で卒業した。六年制であるため周りが少し大人びて見えるがリオは父親と同じ空席だった十三番隊の“三席”へ、夜一は二番隊へ入隊した。
そしてその三年後喜助は卒業し、夜一のいる二番隊へ行った。その頃はリオは十三番隊の隊長になっており、夜一は席官になっていた。護廷十三隊の隊長になるには『“隊首試験に合格する”』か『“複数の隊長からの推薦をうける” 』『“隊員二百人以上の立会いのもと現隊長を1対1の対決で殺す”』のどれかを満たせば隊長となれる。リオは夜一の「なぜリオは隊長より強いのに隊長をやらせないんじゃろうな?」という何気ない言葉からリオは殺し合いを選び当時の十三番隊の隊長から隊長の座を奪いとった。前隊長は粗暴な性格であったため、リオが隊長となり、新たな“十三番隊を築くため”という都合の良い解釈をされたため、図らずしてリオが隊の垣根を越えて慕われるようになった。
「ねぇ浮竹...。書類とか仕事はもうないの?」
リオはハンコを押され、大量に積みあげられた書類が机の端に置かれている。浮竹はリオと同時期に卒業し、十三番隊に入隊し後に十三番隊の副隊長になった。年下ではあるが自分より実力者で人格者(勘違い)のリオを尊敬していた。
「えぇこれで全部です。」
浮竹は周囲を確認し、他に書類がない事を確認してから返事をした。
「そう...。んじゃアディオス。」
リオは人差し指と中指を伸ばし、頭の横でチョンと振ると窓から飛び降りた。そして10メートル程ある地上にスタッと着地した。浮竹はそれを見て笑みを浮かべた。
***
二番隊隊舎
「ちゃ〜お。夜一と喜助いる?」
リオは日中は換気のために空いている窓から二番隊の隊舎のホールで手を振りながら尋ねた。すると二番隊の隊士の一人が今日は二人とも任務に当たっていると答えた。礼を言うとリオは久々に稽古をつけてもらおうと鉄斎に地獄蝶で連絡をしたが、忙しいようだった。卯の花は幼い頃遊ばれた記憶があるので苦手でそこそこ成長する頃には鍛錬以外で会った事がなかった。
「ん〜。一人じゃ暇だから屋敷に帰るかな...。」
二番隊の隊舎から出て、藤堂家の屋敷へ帰ろうと思った。護廷十三隊に入隊してから四楓院の屋敷から出て、藤堂家の屋敷へ戻ったのだ。
「でしたら私の屋敷へ来るのは如何ですか?藤堂隊長...。」
聞き覚えのある声にリオはピタッと立ち止まった。そしてゆっくりと声の主を見るとニコニコしているお淑やかそうな女性がいた。そしてその女性は唯一リオが苦手な人だった。斬術の師匠で同じ隊長である“卯の花 烈”だった。リオは顔をピクつかせかろうじて返事をした。
「いっ、いや〜。なんだか急用がな〜。あったような気が...」
目を右側にそらしてさりげなくこの状況から抜け出そうとした。だが卯の花はニコニコしたままリオの逃げ道を塞いだ。
「あら?それは女ですか?今から用事を作るのであれば女である私のお誘いを受けるべきでは?」
卯の花は逆らえない笑みでリオを圧迫しながら、完全に口答えができぬ状況に追い込んだ。リオは頬肉を痙攣させながら静かに口を開いた。
「はい...。」
そしてニコニコ微笑んでいる卯の花に腕を組まされ、卯の花の屋敷へ連れていかれた。
***
卯の花の屋敷
「リオは何かしたい事がありますか?」
二人は和室でお茶を飲みながら、今から何をするのかを話し合おうとした。リオは少し考えて提案した。
「それでは久し振りに手合わせでも?」
リオは卯の花と斬術の鍛錬をしたいと思ってはいたが、幼少期に植えつけられたトラウマと上下関係からか卯の花を無意識に避ける傾向にあった。無論卯の花はそれを見抜いており、それをからかうためにリオに近づいていた。
「それはもう必要ないでしょう。貴方の斬術は私よりも上です。」
(ですが...。剣八の名はあの子に相応しい。剣八とは剣に生き、剣に死ぬもの。リオは斬術だけでなく鬼道、歩法、白打の才も持つ。この子を剣のみに縛りつけるのは酷でしょう。)
「それでは少し早いですが、夕食の用意をしましょう。休んでいてください...。」
卯の花はリオから空になった湯飲みを回収すると、襖を開けてゆっくり閉める時にリオは礼を言った。
そして一人になった所でリオは幼少期に卯の花に植えつけられたトラウマを思い出してしまっていた。
***
数十前(リオ 7歳)
「リオ...。今日の鍛錬も良かったですよ。」
卯の花は鍛錬を終えて汗を拭きながらリオに今日の鍛錬の事を告げた。稽古を開始した二年前と比べるとリオは遥かに成長し、今では冷汗をかくのも少なくない。最近はリオの成長が楽しみなのだ。
「ありがとうございます。ですがまだ私は貴方の剣にはまだ及びません。」
リオもまた汗を拭きながら返事をした。鉄針を使う余裕は与えなくなったが、未だに力の差を見せつけられている事をリオは素直に認めているのだ。
「確かにそれは事実ですね。ですが詰め込み過ぎるのは良くありませんよ。戦いを楽しむ事です。それが剣の道を極める最大の近道であると私は考えます。“好きな物こそ上手なれ”でなく、“上手だからこそ好き”なのです。私は貴方との戦いは楽しいですよ。」
卯の花の持論にリオは興味深そうに頷きながら納得した。
「そうですね。ですが私は卯の花殿の剣だけでなく、生き様を知ることに剣の極意が隠されているのではと考えます。」
すると卯の花は右手に顎を添えて少し考えている様な仕草をしている。そしてリオを見てある提案をした。
「でしたら一月ほど私の屋敷へおいでなさい。」
その提案を聞いてリオはすぐさま同意し、屋敷に帰り、父親に報告をした。諒影は少し涙目になっていたが、息子の意思を尊重した。
(もしかすると特殊な訓練や習慣による卯の花殿の剣の強さの一部を掴めるやもしれぬ。)
そしてこの一月の合宿がリオに卯の花のトラウマを植えつけることになるとはリオは思いもしなかった。