白子と黒猫の誓い   作:ニルドアーニ四世

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両親の愛

 

 

 

護廷十三隊四番隊隊舎のすぐ側にある死神専用の病院である女性が新たな生命をこの世へ産み出そうとしていた。女性の名は藤堂雪奈(せつな)...。“護廷十三隊13番隊隊長”藤堂諒影の妻である。長く漆黒の宝石のような髪色、そして見る者全てが見惚れる程の妖艶な美女であった。だが当人はそんな容姿とは裏腹に心優しく慈愛のある人物で皆から好かれていた。彼女は幼馴染と同時に初恋の人である最愛の夫と結婚し、まもなく二人の愛の結晶を天から授かった。雪奈は子を授かると同時に死神を引退した。彼女は元四番隊の副隊長であったため、そのコネでこの病院で出産をする事になった。

 

夫の藤堂諒影は妻の手を握って我が子がこの世へ生を受けるその瞬間を見届けようとしていた。まだ子の名前は決めていなかった。二人はこめたい想いが多過ぎたため名前を一つに絞れなかったのだ。ならば子が産まれてから決めようと二人で話し合ったのだ。

 

やがて破水し、雪奈の身体は子を産む用意をした。雪奈は自分が今まで受けた痛みの中で最も強力なモノを感じた。鼻からスイカを出すとはよく言ったものだ。正直、この痛みから今すぐ解放されたい...。だがその感情は愛する夫との子をこの手で抱きたいという気持ちには到底敵わなかった。

 

数時間経っても一向に子が産まれる気配がない。助産師に聞くと稀に見る難産だという...。細身の雪奈の身体は赤子を産むのに不向きであると言われていたが、ここまでとは誰も予想していなかった。

 

諒影は何度も妻を励まし、共に乗り越えようと妻を鼓舞するとようやく白い髪のようなものが見えた。ようやく姿の片鱗を見せた我が子を愛おしく思ったが少し違和感を感じた...

 

 

 

 

 

 

 

“我が子から一切霊力を感じなかったのだ”

 

 

 

 

本来、死神の子はみな個人差はあるものの親の霊力の強さを受け継ぐ。隊長格である二人の子が霊力を一切持っていないのはおかしい。いや、むしろ霊力を持たないのはおかしいどころか異常だ。

 

霊力が死神と比べると非常に弱い人間でさえも誰でも霊力を持っている。だがこの子からは何も感じない...。

 

これは大変危険だ。この尸魂界では人間の住む現世と比べてはるかに霊子が強いのだ。それは死神だからこそ耐え得る濃度であり、ただの人間が尸魂界に来ると霊子に押し潰されるのだ。おそらく霊力が強い雪奈の体内に居たから霊子の影響を受けなかったのだろう。

 

 

 

 

つまりこの世に赤子が生を受けた瞬間、人間以下の霊力の赤子は霊子に対応できず死ぬ。元医療のエキスパートである雪奈はその事を理解し、静かに口を開いた

 

「貴方...。この子をお願い...。」

 

雪奈のこの言葉は母親としての無償なる愛と絶対の決意であった。

 

「何を!」

 

諒影は大声をあげるが、母親の目は微塵も揺らぐ事はなかった。

 

「何も言わないで...貴方の夫で、この子の母親だもの...。この子が死神として生きていける手段が一つだけあるわ...。」

 

雪奈の提案を考えると瞬時に理解した。これは禁術であり、下手すれば雪奈が死ぬ

 

「まさかお前!自分の霊力を与える気か⁉︎」

 

諒影は目を見開いて声をあげた。

 

「...そうよ。この子は霊圧の噴出口が生まれつき閉じている。だったら私の霊圧で無理やりこじ開ける。」

 

確かにそれでは何の問題もない。霊子に対応できない理由が霊圧の噴出口が閉じているのなら、それを開けば何の問題もない

 

「雪奈!死ぬんだぞ!子はまた産めばいい。私を一人にしないでくれ!」

 

諒影は妻への愛故子を見捨てようと提案をした。だが妻はそれを良しとはしなかった。

 

「貴方...この子の前で二度とそんな事言わないで、それにもう一人じゃないわ。この子がいる。お願い...産みたいの...。」

 

涙目になりながら、雪奈は夫へ懇願した。こうなった雪奈は止められないと思った諒影は助産師の顔を見た。

 

「...先生。」

 

諒影もまた噛み殺したように助産師に頼むと、二人の意思を尊重したのか、頷いた。

 

「わかりました...。ですがこれは禁術であると同時に成功する確率はかなり低いですよ。それに雪奈様が霊力を与える適量を一度でも誤ればこの子は生きられません。それに雪奈様の霊圧に無防備な赤子が耐え得るかもわかりませぬ。それでもやりますか?」

 

愚問であると思いつつも、助産師は雪奈の顔を見た。

 

「えぇ。この子が未来を歩めるのなら」

 

まず雪奈がすべき事は子を産まない事だった。なぜなら子は外の世界では生きられぬからだ。そして母親の霊圧で子の噴出口をこじ開ける前に自分の霊力が子と適応できるかを確かめるためにラップ程の薄さの霊圧を加える。適応するのであれば、少しずつ霊力を強め、この子の両手首にある噴出口をこじ開けこの子本来の霊圧を引き出す。理論上可能ではあるが、雪奈が与える霊力は強過ぎても弱すぎてもダメなのだ。そしてそもそも霊力が適応しなければ全てに意味がないのだ。

 

 

 

雪奈は霊圧をまるでラップのように細めてこの子を覆う。そしてじっくり時間をかけて強めていった。拒否反応がないところ適応が可能なようだ。そして両手首を中心に少しずつ加えていく。

 

 

 

そしてその時はやってきた。赤子の噴出口が開いたのだ。その場に居合わせた者達の喜びは一瞬だった。突然何者かの強力な霊圧が病室を...いや尸魂界に轟いた。その霊圧に耐えられなかった助産師は気を失ってしまった。見知らぬ霊圧は雪奈の体内にいる赤子からだった。喜ばしい事だが、今はマズい。

 

通常の死神の出産は母親の霊力より子の霊力が強い場合がある。そのため母親は霊力を蓄えてなければ、母体にダメージを負う場合がある。だが雪奈は霊力を子に与えたため、通常の半分程度しかなく、そしてその“赤子本来”の霊圧が強過ぎるのだ。すでに隊長格に匹敵する程の高濃度の霊圧。今の妻の霊圧を遥かに上回っている。これではこの子の霊圧に耐えきれず内側から焼き尽くされる。

 

それなのに雪奈はこの子に霊圧を与え続けた。今度は弱々しくでなく、全力で与えた。正確には母親の霊圧を吸収されるのに抵抗せず、むしろ与え続けたのだ。

 

この子は強力過ぎる霊圧では無防備なこの子自身を内側から殺してしまう可能性があった。だから雪奈の霊圧により、この赤子に霊圧を与えながら、己の霊圧でクッションの役割を担せようとしたのだ。無論母体の霊力が減るにつれて母体へのダメージを大きく受ける。

 

「この子が生きるために、私は死ぬわ。この子を...」

 

お腹を摩りながら、最後の願いを愛する夫に伝えようとすると、雪奈の願いは遮られた

 

「ふざけてんじゃねぇよ。俺の霊圧も使え!お前もこの子を死なせねぇ!」

 

諒影は雪奈の腹に手を当てて霊力赤子に注ぎ込んだ。二人で子に霊圧与え続けた。すると赤子の霊圧がゆっくりと収まり始めた。どうやら放出され続ける赤子の霊圧は二人の霊圧を注ぎ込んだ事により、押さえこまれ、赤子自体が自分の霊圧に慣れたようだ。

 

雪奈は霊力をほとんど与え、諒影はおよそ半分の霊力を赤子に与えた。そして一安心をする間も無く、この赤子を産もうと力んだ。

 

 

 

 

1時間後、この世に赤子は生を受けた。まるで天使の歌声のような元気な産声を聞いた二人は涙を流して喜んだ。だが雪奈は突然、口から大量の血を吐いた。どうやら赤子の霊圧により、内部が損傷を受けたようだ。

 

「雪奈ッ!」

 

白い布に包まれた赤子を雪奈に見せていると血を吐いたのだ。シーツは赤く染まった。

 

「お願い...。この子を...。」

 

諒影は素早く丁寧に赤子を渡すと慈愛を感じさせるような幸せの笑みを浮かべて泣く赤子を見た。

 

「この子はリオ...。藤堂リオ。私にとって貴方とリオがこの世の全てよ...。」

 

 

(さようなら貴方...。この愛しい子をお願い

さようならリオ。もっと一緒に居たかったけど、貴方の母親で幸せだったわ...)

 

 

慌てている諒影とは裏腹に雪奈は静かに残り僅かの灯火の時間を産まれた我が子に注いだ。そしてそのままゆっくりと瞳を閉じた

 

 

(あぁこれが母親としての幸せ...。もう何も思い残す事はないわ。)

 

 

「雪奈?...嘘だろ?...雪奈ァァァァァァァッッッッ!」

 

妻の最期を目の当たりにし、天を仰いだ諒影だったが、心の奥底にある誓いを刻み込んだ

 

 

(雪奈...。見ててくれ...。君はこの子を死神にしたがってたな。俺がこの子を守る。そしてこの子が死神として“守るに相応しい尸魂界”を支え続けよう。)

 

 

 

 

 

 




霊圧、死神の出産云々はあまり描写がなかったので捏造しました。
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