人生、というものは退屈だと考える人はどのくらいいるのだろうか。何も変わらない日常を幸せと感じない人はどの位いるのだろうか、自分の身の回りで大きな事件でも起きないだろうか、と心の隅で思う人はどの位いるのだろうか。
自分がそうでない、と思うのはちょっと変わっているからなのだろうか。今のこの状況に満足してしまっている私は向上心のない大バカ者だからなのだろうか。
私は人里で居酒屋を営んでいる。決して裕福なわけではないのだが、まばらに来るお客様のおかげで最低限度の生活は出来ている。忙しすぎるわけでもなく、窓の外の景色を覗きながらその日も平和であることを幸せを享受しているのである。
さて、今日も1日平穏無事でありますようにと暖簾を掲げ、居酒屋をまた始める。もちろん昼からもお客様は来るし来ても数は少ないので自分が起きている間ずっと居酒屋を開いていても問題は何もない。お客様が来ない間は外の景色を覗き続けている。雲一つもない晴天が自分の心を透き通っていくかのようだ。
いつものように日向ぼっこをしていると、戸が開く音がした。そちらに目をやると、1人の少女が入ってきた。見たところ大人びた雰囲気はないが子供らしからぬ落ち着きがあった。
「いらっしゃい」
いつもの営業定型文を口にする。するとその少女は席に座りながら、
「お酒、もらえるかしら。そんなに強くないのがいいわ」
これまた子供らしからない、まさかお酒を頼むとは思わなかった。見たところ巫女服のようなものを着ているけれど、まさか巫女ではないだろう
「お客さん、お酒を飲んでも大丈夫なので?」
「すまないわね、そうは見えなくて」
怒るわけでもなく、ただ淡々と返される。だとしたら同じくらいの年なのかと思いを廻らせつつ、お酒を出す。
「見た目で判断したことは謝るよ、すまなかったね」
「いいのよ、その位で怒るくらいならこんな所には来ないわ」
そのまま少女は席に着いた。なんとも冷めている、お客様が来ているのにいつもとさほど変わらない心地いい静寂が空気に染み渡る。こんな人もいるんだなと自分の世界が少し広がったように感じた。お酒を出すと、少しずつ味わうように飲んでいる、
「これだけ静かに飲む人も珍しいね。一人酒が好きかい?」
「もしそうなら家で飲んでいるわ、まぁもっとも大勢で騒ぎながら飲むのが苦手なだけよ」
少し微笑みながらそう答える少女は何というか、絵になっている。ゆっくりとお酒を飲む姿を外からの間接的な灯りとそよ風が彩って幻想的な一枚の絵の様だ。
「ところで、お酒のつまみってあるのかしら?おすすめを頼みたいわね」
「おすすめといわれると少し気がひけるな……枝豆何てどうかな?」
少し弱った様に答えると、少女は悪戯っぽく笑いながら
「私はおすすめならそれで構わないわよ」
と言う。その言葉にあどけなさを感じて心なしか顔が緩んだ気がする。昼が近づいてきたのか少しずつ周囲から活気のある音が聞こえてくるが、ここはその活気を同じ様に帯びることはなく、寧ろその音が店の中の静かさを引き立てる。
「お客さんは巫女さんかい?人里に神社があった記憶はないんだけど」
「居酒屋さんって随分私的なことも聞くのね、人里からは結構離れているのよ、博麗神社って聞いたことある?」
博麗神社……少し聞いたことがある、どちらかというとあまりいい噂ではないが。
「失礼を承知で聞きたいが、山の中に妖怪がよく訪れるという神社は聞いたことある、もしかしてそこかい?」
「あー……やっぱりそういうイメージあるのね、多分そこで合っているわ、そこの巫女よ」
少しため息まじりに巫女さんは答えた。本来は倒すべきであろう相手と共存しているというのは不思議な話だ。理由を聞くのはさすがにやめておこうか、そんなことを考えながら茹で終わり味をつけた枝豆を出す。巫女さんはそれを食べながら満足気にお酒をすすめる。
「あなたはそれを聞いても態度を変えないのね、結構これを聞いた人は怖がり出すんだけど」
「人と仲良くする様な妖怪だ、実害がある様にはおもえなくてね」
「ふふっ……本当に不思議な人ね実は神社で今宴会がやっているんだけど、ちょっと騒がしすぎたから逃げてきたのよ、まぁこうして楽しく飲めたから良かったわ」
ほんのりと顔色が赤くなっている、満足気に答えるその様子は色っぽくもあり可愛らしいものでもあった。いつの間にか差し込む光も暖かな男色を帯び始めていて、時間が経っているのを感じる。
「もうそろそろ帰らないと、皆潰れちゃって後始末はいつも私なのよ。お代はいくら?」
不満まじりにそう答えながら勘定を済ませると最後に
「そういえば私名前すら言ってなかったわね、博麗霊夢よ、霊夢でいいわ」
で、貴方の名前は?と聞かれている気がした。これだけ話していながらお互い名前も知らないというのが不思議なくらいだ。
「名前はアオヤ、良かったらまたおこしくださいね」
そう聞くと霊夢はお酒で少し赤くなった顔に微笑みを浮かべて、
「まぁ、また気が向いたらね」
そんなことを言いながら、出ていった。
片付けをしながら今日という楽しい日を幸せに感じ、外から差し込む月の光が店を優しく照らしていた。
良ければまた読んでください、ありがとうございました。