妖怪というのは人間が恐れる存在である。人を食うという話だけでも十分強いのだが、人とは比べものにならない力を持っているという。逃げることもできずもし出会ってしまったら最期。来るかもわからないこんな絶望感が私たち人里の人間を悩ませている。
といってもいつもこんな事を考えているわけでもなく。ぼーっとしている時にこんな事を考えてしまい、悪寒を感じるのだ。夜中になり人里も寝静まり出したような時間帯なのだから手持ち無沙汰にもなる。……よく考えるとどの時間帯でも手持ち無沙汰か。もうそろそろ今日も寝ようかな今日も何もなくて幸せな一日だっ…
「わっ!」
……振り向いた先には傘を持った少女が精一杯体を使って驚かしていた。いつの間に入ってきたかもわからないし暗かったせいもあり反応することが全く出来ずその場に少し動けなくなる。
「……あ、あれ?」
少女は少し戸惑って私の様子を伺っている。驚かしたはいいものの逆に心配になっているのだろうか。
「だ、大丈夫だよ。ちょっと驚いちゃっただけだから」
「本当!?驚いてくれたの!?」
……え?
「やったやったぁ!お兄さんありがとう!」
え?いやいや、どういう事だ?驚いただけでこんなに感謝される事なんて初めてだ。
「喜んでもらえて良かったよ。でも勝手に人の家に入るのは良くないから気をつなよ?」
「え、あ、ご、ごめんなさい。」
「まぁ、せっかくお店に来たんだからお客様だ。少し何か飲んでいくかい?」
「あ………えっと、じゃぁ……緑茶で」
急にしどろもどろになったな、悪戯したかっただけかもしれないけど。驚かされてそのまま帰られると少し癪なので、少し私の相手になってもらおうかな。
「ところで、名前を教えてもらってもいいかい?私の名前はアオヤっていうんだ」
「え、えっと、私は多々良小傘って言います。小傘……でいいです。」
おどおどして私の方を見ている。怒らせてしまったと思っているのだろうか、もう少し続けてみよう。
「そういえばさ、小傘は博麗神社って知ってる?どうやら山の中にあるらしいんだけど、そこの巫女さんと知り合いなんだけどよくここに来てくれるんだよね」
なんとなく博麗神社の話題を出す。人里の人が知ってるような話題で自分の知っているのがそれくらいだから仕方ない。すると小傘の顔がだんだん真っ青になり、手が小刻みに揺れて湯飲みの緑茶の水面に波紋が浮かび上がる。
「あ……え……?」
何も言わずにニコニコしていると逆に小傘の顔が険しくなっていく。今にも泣き出しそうでちょっと気がひける。すると
「ご、ごめんなさい!ただちょっと驚かせたかっただけなんです!だから、だからあの人には言いつけないで……ぐすっ……」
と言いながらしくしくと泣き出してしまった。我ながら、完全に大人気なかったと少しだけ反応してしまう。テーブルに突っ伏してる小傘の肩をポンポンと叩き、
「大丈夫、言いつけないよ。怒ってもいないから泣きやんで?」
「ほ、本当……?」
目の周りを少し赤く腫らしながらこっちを見てくる。見た目に比例した子どもらしい表情に罪悪感をひどく感じた。
「本当だよ、そんなに怖がらなくていいから」
「はぁ、良かった……退治されちゃうのかと思って……」
ん、退治される?人が退治される事はないよな……という事はまさか、妖怪?衝撃的な事に気づきこっちも少し動揺する。
「小傘は……妖怪なのかい?」
「一応この傘の付喪神なんですけど、妖怪って事であっていると思います。あ、でも全然そんな大きな力なんか持っていなくて、だからこうやって驚かすくらいしか出来ないんです」
付喪神も妖怪に入るのか、と思いつつその小傘が持っている傘を見る。一つ目に口から大きな舌でている紫色っぽい番傘の様な傘だ。正直これだけで怖がる人は人里でも少ないだろう。
「いつもはその傘で驚かしているのかい?」
「はい、そうですよ?一つ目に大きなベロって怖いと私は思うのに、人里の人は全然驚いてくれないどころか可愛いって言う人もいるんですよ?はぁ……」
驚かせる事が生き甲斐の妖怪なのだろう。話の様に人を食べる様には見えないし本当は妖怪はこういうのが多いのだろうか。
「そういえば、アオヤさんって本当に霊夢さんと知り合いなんですか?」
「あぁ、たまに飲みに来てくれるよ。また来たらもしかしたら会えるかもしれないよ?」
「あんまり進んで会いたい人ではないですよ……巫女なんですし、妖怪は退治されちゃうかもしれないので」
「巫女ってそんなに強いのか?人と妖怪じゃやっぱり力の差があると思うんだが」
「別に直接危害を加え合うわけではないので、あんまり腕力とかって関係ないんです。弾幕勝負だと別の才能が必要なので」
弾幕勝負?直接危害を加えない?一体どういう事だ?妖怪は人を襲ったりするんじゃないのか?
「えっと、もしかしてスペルカードルールって知らないですか?揉め事を解決するための手段で人と妖怪が対等に戦える様にしたものでそれがこの世界でのルールなんです。人里では確かに知ってる人って少ないかも……」
小傘は常識かの様に言っているがそんなこと今まで一度も聞いた事も見た事もないのだ。でもこれであの二人の言っている事がやっと理解できた様な気がする。
「そっか、いろいろ教えてくれてありがとう。人里の外の事は全然知らないからそういう事には本当に驚かされるよ」
「はい、驚いてもらえたなら私も嬉しいです」
小傘の場合今のは別の意味も含まれている気がするな。何というか、こうしてみるとあんまり霊夢達と話してるのと変わらず、妖怪が少し身近なものの様に錯覚してしまう。
「それじゃぁ、今日はこれで失礼しますね。えっと、アオヤさん、また来たら驚いてくれますか?」
「そうだな、また来たら驚いちゃうかもしれないな。」
驚かしに来るのを堂々というのはどうなんだろうとは思うがそれは言わない方がいいだろう。
私の言葉を聞いて小傘は喜んだのか鼻歌交じりに帰っていった。今度、霊夢か魔理沙に色んな妖怪の話聞いてみるか。不思議が出会いに自分の興味がそそられているのがなんだかむず痒かった。
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