その個性は神の名を持つ鉄槌に 作:職人無双も悪くないと思う
人は生まれながらにして平等じゃない
そんなことは家系や立場、才能、先天性の病気や体質など大なり小なり存在するのは当然の話であって、平等だといえるのはせいぜい子供にとっては生まれるまで『生まれてきた先がどのような環境なのかわからない』ということぐらいだろうか。
つまりは子供は親を選べない、ただそれだけの話。
ここ百年ほどはその不平等の才能と立場の格差が絶望すら覚えないほどに広がってしまった。
事の始まりは中国で生まれたという『発行する赤子』のニュース、その時を境に世界中で人に宿った「超常」が公に発見され、原因もわからぬままに時が流れて世の中に浸透していった。
いや、これは浸透ではなく浸食であったのかもしれない。
「超常」は「日常」に
「
今では「超常」とされた特異体質をもつ人は世界人口の八割にも及ぶといわれている。
この「現実」を前にして真っ先に壊滅的なダメージを負ったのが医療機関と警察、取締、防衛機構だ。
ヒトというのは「超常」が世界を侵食する前でも全てを明らかにしたわけではなかったが、それまでは大きく違いが出るものではなく積み重ねてきた歴史から大まかな対応と装備、設備などをを画一化することができていたはずだった。
それが「超常」によって一人一人が『別の種族』ともいうべき差を生み出していた。
犬とクジラは同じ哺乳類でも同じ対応はできない。
水や霧は網では捕まえられない。
呪いや催眠は禁止されていても証明できない。
生身でも銃の効かないような肉体には生半可な捕縛術は意味を持たない。
数え切れないほどの種族に細分化されたといえるこの事態に医療機関は白紙からの始まりを余儀なくされ、警察はその力を失った。
警察の力を失った『法』の鎖はその形を保てなくなり意味をなくした。
『法』とは『国』の根幹であり、その鎖が崩壊した以上は『文明』は『民の認識』でのみ保たれることとなる、そこにあるのはもはや街単位の『集落』でしかないのだ。
『国』の守りを失った『集落』はその身を守るために自然と別の守りを求めることとなり、それはかつての『
そう、それが現代における『ヒーロー』とその対となる『
「えー、皆さんももう三年生ということで、これから進路希望調査のプリントを配ります」
四月の初めごろ、週末で午前中に行われる放課後前のHRで進学先の希望調査が始まった。
三年生の私たちはこのあたりから進学や就職の方向をきめて動かなくてはならない、いや、本当になりたいならもっと小さいころからそれを求めるか見切りをつけて別の道に目を向けなくちゃいけないのだからある意味ではこの調査に意味はないと思う、ああ、いや、もう決まってないと危ないから今調査するのか。
「とは言っても皆さんヒーロー科志望でしょうけどね」
先生のその声に応えるように私の周りの生徒たちが各々の個性を強調しながら手を挙げる。
個性とは正にその個人の特徴のようなものなのだからその光景は賑やかだとしか言いようがない。
(でも、そんなに十人十色な世の中でも顔をそろえたように目を向けるのはヒーローなのよね、男子も女子も)
みんな、よくそんなに元気よくヒーロー科なんて物騒な道をまず志そうと思うのか私にはよくわからない。
ヒーローなんてものは役割だけを考えれば、『個性の武装化許可資格』を持った『傭兵』なんだからまず第一に持たなきゃいけないのは大体が『暴力』のはずなのに明らかに向いていない人も手を挙げている。
「高校からは専門の道が分かれることになりますから、よく考えて自分の進みたい道と個性に合った進路を決めましょう、このプリントは次の週末の朝までに提出してください」
つまりは朝ではなく今配られるこのプリントは自分の夢に見切りをつけろっていう最終宣告なんだろう。
「煉? あんたはこの進路調査どうするつもり? まさかみんなと同じように馬鹿みたいにヒーロー科に入りたいっていうわけじゃないでしょう?」
HRが終わってさっそく帰ろうとした私に対して周りが声をかける何てことはまずないのだけど今日は相談の意味もあってか珍しく声をかけられた。
彼女は目野内切絵、ヒーロー至上主義に偏りがちな昨今、極めて珍しい現実主義で私にとっても数少ない友人だ(むしろ彼女以外に友人といえる人がいない気がするけど)。
「ヒーロー科は正直私には無理かな? 家の方針がヒーローには向いてないし、キリちゃんこそ進路どうするの?」
「私は近くの高校の普通科にでも進むわよ、この目ってカッターがなくてもいいから便利だけど、できることって地味なのよね」
地味かどうかはともかく切絵の目は危なっかしいからやり方はしっかり考えてほしい、面倒だからって1か0かで使うと刃傷沙汰とか目じゃない惨劇になるし。
「あんたの個性なら大抵のところには入れると思うけど、私がいないとすぐ絡まれるんだから気をつけなさいよ?」
わかってる、この世界が私にやさしいことなんてありえないんだから。
帰り道、私は今日の夕食に使う食材を買いに街に行く、自宅近くの基本的に商店街には行かずに遠回りでも海岸近くのスーパーで買う。
商店街の食材のほうが安いけどある理由から私はそこに行けない、特に賑わってるだろう今の時間帯は自宅にも近寄れないから日が落ちるまで砂浜にある公園で時間をつぶすことにしている。
この公園は地元の人は潮の流れでゴミが流れつきやすいうえにそれに便乗するように粗大ごみを捨てる人も多いから危なっかしくて地元の人はほとんど寄り付かないし、特に奥のほうなんて来る人はいないからこんなところに秘密基地みたいなものを作っていても誰も気づかない。
ここで何をしているかというと、別に何でもないただのガラクタいじり。
初めは隠れて暇を持て余した末に目についたものを分解していただけだったんだけど、私は凝り性だったのか、それだけで収まらなくて使えそうなものを修理し始めてしまっていた。
直したら直したで、今度は放置するのがもったいないので鉄パイプや車の荷台にかかっていたりするシートなどを使って倉庫を作っていた。
今では私一人なら住みついてもなんとかやっていけそうな部屋にまで成長してしまっている。
……外見はそれでもガラクタだけど(カモフラージュでやったわけではない)。
食材を冷蔵庫(冷却材が漏れていないようだったので圧縮機を自転車にくっつけて無理やり冷やせるようにしたクーラーボックスになっている)に入れてつなぎに着替える。
今日は電気コンロでも分解しようかと思う、一日の中で一番楽しい時間はここにいる時間かもしれない。
こうして私の日常はひっそりのんびりと進んでいく。
そう、日常ならここで家に帰って食事のあと宿題と寝る前の運動をすれば終わりだったんだけど……。
「どうしてこうなったの……?」
家が焼け落ちてた、商店街ごと。
そこから零れ落ちた人は何を思うのでしょう?