その個性は神の名を持つ鉄槌に 作:職人無双も悪くないと思う
まさか家に帰ったら我が家がなくなってるとは思わなかった、いやここ駅前の商店街の近くだから人が多い分近所の『
焼け落ちてるのは商店街を中心にだから、そっちで火か爆発を扱う『
(……やっぱりまだ嫌われ者扱いだなぁ)
それの意味する周囲のこの家の扱いを飲みこんでまだ無事な家財がどれだけあるのか、家に入ることにした。
二階建ての我が家は屋根の上に燃えた何かが落ちて広がっていったみたいで二階は全焼してたけど一階の方は比較的無事だったので重要なものは大体無事だった。
でも電線が切れてたので冷蔵庫の中は先に処理しておかないととんでもないことになりそうだ、冷凍庫は全滅してた。
幸い私にはガスは要らないのでそのまま断熱材の無いフライパンをもって焼けるものはさっさと焼いてしまうことにする。
――――私の個性は発動型の熱操作系統と変形型の増強系統の複合型という特殊な混ざり方の個性を持っている。
多個性のように言われることもあるけど、本当にただ混ざってるだけで、厳密には一連の流れとして全く違う二種類の変化が目に見えるだけの話である。
例えるなら、人体で言えば消化器系、車で言えばエンジンを充電専用にしたタイプ(シリーズ方式と呼ばれる)のハイブリッドカーのようなものだ、これについてはあまり主流ではないし、厳密にいえば発電機を内蔵した電気自動車なので名前としては廃れてきてるわけだけど――――
個性を使ってさっと炒めたら生き残ってるタッパにつめて、学校にもっていく教材と生活拠点の移動のための準備をすることにしたのだった。
週の初めの休みの日に拠点を倉庫部屋に移すついでに木材を買ってきて軽く小屋みたいなものを作った翌朝、そこに寝袋で寝てた私は起きてすぐに怪しい二人組を見つけた。
というよりこの公園にわざわざ入ってくるような奴は怪しいやつだと思って間違いないと思うのでゴミ山の裏から覗き込んでみることにした。
一人はそこらじゅうどこにでもいるような少年で、軽自動車並みにでかい業務用冷蔵庫をロープでくくって引っ張ってる。
うん、全く動いてないね、というよりもっていくにしてもあれはまだ早いと思う、どういう理由で引っ張ってるのかは知らないけど、増強系でない限りはあの歳でアレはない。
で、もう一人はその冷蔵庫の上に座ってる、デカい、というよりあれオールマイトじゃないの?
さすがにトップヒーローの顔ぐらいは知ってる、でもなんでこんなところにいるのかはさっぱりわからない。
さすがに引っ張り切れなかった少年がなぜこうなったのかと疑問の声を上げれば、オールマイトが出した答えは少年が器じゃないから? トレーニングしないと四肢が爆散する? というよりこれ普通に機密情報だと思うんだけど、オールマイト声大きすぎるよ。
なんでもそれ以外にもオールマイトは少年をヒーローに仕立てるつもりで、その始まりの活動としてここの掃除をしようってことだった、もったいない。
で、流石に隠れたままでばれるとまずいのでこっちから出ていこうと思う、何もしてなくてもここにいるのは絶対勘繰られるし、もうそろそろ学校行かないといけないし。
「ここで何をしているんですか?」
「ッ!?」
紙束を渡したあたりで話が途切れたので、当たり障りのないように声をかけてみる、おお、オールマイトが焦ってるよ、うん、不審者にしか見えないもんねお互い、そしてあなたはさっきから秘密しゃべりすぎてるもんね?
「君はいつからここにいたのかね!?」
「昨日からずっとですけど? この奥に小屋立てて寝袋で泊まり込んでました、あ、この場所をいつから覗いてたかという意味ならそっちの人が冷蔵庫引っ張ってた辺りからです」
紙束を持ったまま固まってる少年を指さしながら答えておく、オールマイトの顔はいつものスマイルが引きつって面白いくらいに青白くなっていた。
時間もなかったので、紙束にあるプランに入ってる時間にまた会って話しましょうってことで別れて来た学校では街にオールマイトが現れたっていう話題で持ちきりだった。
なんというタイムリーな話題と思いつつもキリちゃんから詳しい話を聞いてみると、商店街でヘドロのような奴が優秀な爆炎系の個性持ちの子に人質のような形でへばりついたせいで近所のヒーローじゃ対処できなくてそこらじゅう火の海に、そこに無謀な真似をする子が襲われそうになったところでオールマイトがどこからともなく現れて拳圧で二人を救助、その余波が上昇気流に変わった刺激で降り出した雨が火の海になっていた商店街を鎮めてしまったというわけだ。
さすがトップヒーロー、拳一つで二つの問題を解決した挙句に天候まで影響を及ぼすとか訳が分からない、昔の漫画にいた拳一つで地震を相殺する男と同じくらいに訳が分からない。
そしてなるほど、その『
残念なことこの上ない。
家のことをキリちゃんに心配されて泊まっていかない? って提案されたけどそこまでお世話になるわけにもいかないしあの公園とキリちゃんの家は学校を挟んで正反対の場所なので本当は甘えたいところだけど今日のところは我慢して公園に行くことにする。
公園では既に少年がゴミ掃除を始めていた。
「オールマイト、差し入れですよ」
「むっ、すまないね」
いつもより少なめの買い物をしたついでに買ってきたスポーツドリンクと昔仕事中の軽食に使われていたとかいうチョコパイやバナナをオールマイトに差し出す。
特に疑問もなく受け取ってもらえるってことは私の素性を知ってるわけでもなさそうだ。
「朝の続きなのですが」
「うむ、なぜあんなところにいたのだ? この惨状で誰もいないと聞いていた筈なのだが」
話を聞くために少年も休憩に入って水分補給をすることにしたようだ、まだ筋肉の付き方からして鍛えていたわけではなさそうなのでそのあたりの加減も難しいだろう。
「はい、私も先週までは暗くなるまでここの奥で少しゴミをいじってから帰るだけだったんですけど……」
家が商店街の近くにあったせいで先日の敵が暴れた影響で家がボロボロになったことを告げると二人とも気まずそうな顔で目が泳いでいた、二人ともその現場にいたのは話から聞いてますけどそれは二人のせいじゃないですよね?
「まぁ、そういうわけで、以前から寝泊りと弁当の材料置き場程度にしか使ってなかった家は置いといてこっちに住むとこを変えてしまおうかなって思い立ったんですよ、あそこで生活してても近所の人とは冷め切ってますし」
「でも、なんでまだそんな状態になってるんですか? 確か、『
少年がなかなかに深いとこに突っ込んできたなぁ、まぁ、普通に考えれば確かにおかしいんだけど。
「君は見事に他人の地雷踏み抜いてくれますね」
「え!? いや、えっと……ごめんなさい」
「まぁ、いいですけど、私の家はちょっと周りに嫌われているのでそういう手続きや作業は後回しにされてしまうんですよ」
私の言ったワードに反応したのは表情を正したオールマイトの方だった。
「君の家はもしかして、朱空なのかね?」
「はい」
反応を見る限り、少年の方は知らない様子、こんなコアな方向で有名な家系なんて普通は知るはずがないからしょうがない
「遅れましたが自己紹介を、朱空家の一人娘の『朱空煉』です、どれだけの縁になるかはわかりませんが以後お見知りおきを」
「どうしてそんな扱いなんですか?」
少年の疑問は至極当然な話だけど
「それはだね、少年、彼女の家は『
「実際のところ、悪さをしたくて名乗ってるわけじゃないそうですから、必要な主張のためにヒーローという枷は邪魔だったっていうだけらしいですよ」
あまりにもあんまりな言葉に少年は唖然として固まってしまっている、ヒーローが花形職業となってるこの世の中でヒーローの肩書きが邪魔なだけじゃなくて『
「ヒーローに憧れて生きていられる人はいいでしょうけど『ヒーローに捨てられても生きているヒト』はそんな幻想を持てないんですよ」
「ヒーローに、捨てられて?」
「誰が好き好んで『
少年はまだよくわかってはいないようだけど彼も見ているはずなのだ、先日の敵がどのような扱いで回収されたのか、それを見る一般人のがどんな目だったのか。
「そろそろ話がそれてきましたね、そんなわけで私の家は親が帰ってくるまでどうしようもないので、ここで寝泊まりしたいんですよ」
「むぅ……」
もうひと押し必要かなぁ、せっかく小屋まで造ったんだしもうあきらめてほしいんだけど。
「何なら彼の特訓の手伝いくらいはしますよ? 粗大ごみの回収は彼のためにならないので直接じゃないですけど、監督役は多いほうがいいんじゃないですか?」
あ、オールマイトの顔が渋くなった、ミスしたかな? 特訓を見られたくないっていうのならもう遅いと思うんだけど。
「朱空君、君の小屋に案内してもらえないかね? そのあたりなら外から見えにくいのだろう?」
いきなりなんなのかと思ったけど何か必要なことなんだろう、ゴミ山の奥の奥にある小屋に案内する。
なぜなのか聞いてみても「手伝うのなら見せなければいけないものがある」との一点張りで詳しくは教えてくれなかった、小屋が見えてきたあたりでオールマイトの全身から蒸気みたいなのが噴き出してくる。
その蒸気がオールマイトの全身を覆って見えなくなり、霧が晴れたその場には。
「……はい?」
先ほどまでの大男とは思えないほどにやせ細り小さくなったオールマイトだった。