あの女の子が来た翌日、晴れて猛男も停学期間が終了した。ということで、高校生になって初めて三人で下校することになった。家までの道のりを歩いていると、猛男がピンクのスマホを取り出して俺たちに見せてきた。
「猛男、どうしたんだよそのスマホ。」
「なにそれ買ったの?」
「いや、昨日の子が置いてった。これから届けに行く。」
「ふーん。頑張ってね。」
「頑張れよ猛男。」
「お前らも一緒に来るんだよ。」
「なんで?」
「いいから来い!」
スナは分かるけど、なんで俺も一緒なんだよ。スナを少し先に歩かせて猛男に尋ねた。
「なんで俺もなんだよ。」
「あの子はスナのことが好きみたいでな。応援してやりたいんだ。」
「猛男らしいな。お前はいいのか?」
「なにがだ?」
「いや…なんでも。で、だからなんで俺も一緒なんだよ。」
「応援するんだ。一応お前にも知っておいて欲しくてな。」
「あわよくば協力しろってか?」
「うん。」
「…わかったよ。」
「おお!では頼むぞ。」
そんなことを話していると公園の前に通りかかった。
「ここが集合場所だ。」
「あいよ。」
公園に入り少し進むと噴水があり、その近くに佇む少女を見つけた。見覚えのある少女だった。少女はこちらに気付くと小走りでこちら側に来た。
「すいません!ありがとうございました。」
「もう敬語はいいから。多分ためですよね?高1。」
そう言って猛男はポケットからスマホを取り出すと彼女に渡した。
「あっ、はい!」
「お前が敬語なんだけどね。」
言ってることとやってることが違うぞ猛男。
「あの!これ…お礼なんですけど…。わざわざ、持ってきてもらったお礼なんですけど、よかったらその辺で座って食べませんか?」
そう言って彼女は持っている袋を胸のあたりまで上げた。
お誘いを受けて断るのは、少々いい気分がしないので俺たちはベンチに座ることにした。
ちなみに座り方は、俺・スナ・猛男・女子の順だった。
名前なんだっけあの子。
俺たちはベンチに腰掛けると、猛男の隣の子が持ってきた袋から、箱を取り出した。
昨日と似てる気がするが、気のせいか。
そこに入っていた小さい菓子を一つずつもらっていく。
「なんだこれは!めちゃくちゃうまい!なんという菓子だこれは!」
確かにうまいな。でも何だろこれ?
「マカロン!」
「うまいぞまかろん!」
なんだまかろんって。初めて食った。
「よかった〜。実は昨日のケーキも私が焼いたんだ〜。」
「!手焼きかこれ!」
レベルたけえな、おい。
「手作りな。」
「実は、お菓子得意で。」
「お菓子作るのに体力いるって本当?」
「うん!めっちゃかき混ぜるよ!」
すげえな。てか猛男、お前その子がなにか言うたびにどんどん近づいてるけど…。
見ろ、その子顔真っ赤になってんじゃねえか。
つかなんでいつの間に正面に移動してんだよ。
顔近すぎだし、会って数時間しか立ってない人と話す距離じゃねえだろ。
「猛男、近すぎ。」
しばらくその子を見たあと猛男は勢いよく立ち上がる。
「便所だ。」
女子の前で言うかそれ?
猛男が去っていった。
すると
「あの〜…」
「?」
それから少し経って猛男が帰ってきたが、頭がビチョビチョになっていた。
「頭びちゃびちゃじゃないですか!タオルあります!」
そう言って彼女は低い身長ながらも届く範囲で必死に拭いていた。
「つーか自分で拭けよ。」
と言いつつもスナはハンカチで猛男を拭いていた。
俺は何も言わず二人と同じように猛男を拭いた。
「……俺は…またケーキが食べたいんだが、作ってきてもらえないだろうか?」
「えっ!いいの?」
なんだか嬉しそうに見える。
そんなに接点が持てるのが嬉しいのか。
「うちの得意な順でいくと、次はザッハトルテなんだけど、どうかな?好きかな?」
「ああ、ザッハルテルトなら大好きだ。」
「お前今思いっきり知ったかぶりしたな。八幡は知ってるだろ?」
「おっ、おお。当たり前だろ。」
猛男、キメ顔で言うのはいいが間違ってるぞ。
ザッハトルテだぞ。
…ザッハトルテってなんだ?
そのあと少し経って、辺りもそろそろ暗くなり始めていたので、俺たちは帰ることにした。
「じゃあ次はザッハトルテで!またねー!」
彼女はそう言って歩いていくが、少し進んでは、会釈を繰り返していた。
俺たちは彼女がいなくなるのを確認してから、歩き出した。
「あの子、お菓子作る時、ハンドミキサー使わねえんだって。」
「へえ〜。」
「苦労して固まって行く感じが好きなんだってよ。」
「そうなのか。変わってるな。」
それから少し間があった。そして、
「あの子……いい子っぽいな。」
「「!!」」
俺と猛男は開いた口が塞がらなかった。
あのスナが、女の子を褒めたのだ。
俺と猛男は普段からスナに告白してきた女子がどんな風に断れているかを知っているので、とても驚いた。
どの女子もみんな泣かされたり、魂が抜けていったようになったりした。
そもそもスナが女子の話をするのは聞いたことがなかった。
あまりの衝撃に立ち尽くしていると、猛男の後ろに何かがぶつかった。
確認してみるとさっき別れた子だった。
「よかった、ハァ、ハァ、間に合った…。」
「なんだ!どうした!」
ばれないように俺は後ろに下がった
「メ…メ…メアド…メアドきいてない…連絡、できないと思って…メアド教えて!」
こんな汗だくになって息も上がりまくって…。
頑張ったんだな。
彼女は膝に置いていた手を離し、自分を仰いでいた。
そんな彼女を見てか、猛男は無言で布きれを彼女に差し出す。
「えっ?汗!?ひどい?大丈夫。すぐ乾くから!」
「使え。返さなくていいから。」
そう言って布きれを渡すと猛男は手帳を取り出しペンで何かを書いた。
そして書き終えるとその書いたページを切り取って、再び彼女の前に差し出す。
「メアドだ。」
「赤外線使えよ。」
彼女は紙を受け取ると嬉しそうな表情を浮かべた。
「ありがとう。」
そう言って彼女はまたきた道を戻って行った。
猛男って手帳持ってたっけ?
…手帳は手帳でも、生徒手帳だった。
猛男をちらっと見ると何かを決意した表情をしていた。
…こりゃ大変だな。
「お前って手ぬぐいなのな。」
「ああ。母ちゃんの趣味だ。」
手ぬぐいだったのかあれ。
いかがでしたでしょうか?ありがとうございました。