今日は朝から猛男が変だった。登校から始まり、授業中、下校と猛男がずっとスナを見ていた。なぜ授業中も見ていたか知ってるのかだって?…特に意味はない。
「おい猛男、授業中は携帯使うなよ」
「すまんな、大和からメールが来たのでな」
「そうだったか、それはすまんな」
「?」
変だった猛男はさておき、今日も今日とて何もなく、穏やかな1日が終わった。
「お兄ちゃ〜ん、病院どうだった?」
「特にねえよ。もうじき取れるってさ」
「よかったね〜」
「興味ないなら聞くな」
インターホンが鳴る。
カメラを見ると白い何かがカメラの前にあった。
猛男か。
『猛男、近いんだよ』
『おお、すまん』
俺はドアを開け外の様子を伺う。
「なんだよ」
「八幡、ちょっと出るぞ」
「なんで?」
「いいから来い」
「はいはい」
「行くぞ」
「スナもか」
「なんでかね」
俺たちは少し歩くと懐かしい場所に着いた。
「うん。いつ見ても、ケツだな」
「「…」」
急に何言い出すんだ、こいつ。
「これは男のケツだな。男だよな」
「お前が思うんならそうなんじゃねえ?」
「なんで気がつかなかったかな?十年も見てるのに」
確かに言われてみればケツっぽいが、男とは限らないだろ。おい、猛男のせいで男のケツにしか見えねえじゃねえか。中学の時の修学旅行で、大浴場だったためクラスの男子全員で入ったが、なぜかその光景がフラッシュバックした。
「スナ、お前は彼女いるのか?」
「どうしたんだよ今日は?」
「いるのか?」
「いねえよ」
いねえのに振ってるのか。まあスナにも考えがあるんだろう。
「どうしてだ。お前もてるのに」
「……なんだろう…だるい」
「「!」」
「付き合って何すんのか考えたら、だるい」
だるいだと!さすがモテる奴は悩みのレベルが違うな。
「お前、金玉ついてるのか?」
「ついてるよ」
「じゃあなんで女子に興味ないんだ」
「興味ないなんて言ってねえだろ」
「じゃあ興味はあるんだな?」
「まあ」
「ようし分かった!」
そう言って猛男はねじって頭に巻いていたタオルを解いて、肩に置きキメ顔をする。
「脈アリだ!」
「……なんの話だ?」
「なあこれ俺いる意味ある?」
「さあ?」
スナは相変わらずです。
俺たちは来た道を戻る。ちょうど日が沈みかけていて、とても綺麗だ。
「スナよ、お前に忠告だ。女子がだるいなら、今後一切モテそうな行動を慎め。いいな?」
「そんな行動、とってるつもりじゃないけど」
それなのにあんなにモテるのか。いいなあ。
「そうだとしてもだ」
「俺からも頼むわ」
「返事は!?」
「は〜い」
「ハイだっ!」
「はい〜」
「はい〜じゃねえ!」
翌日、今日も元気に登校しました。相変わらず包帯は取れないけど、もう少しの辛抱だ。しかし、期待に胸を膨らませていた高校生活も、数日経てば、こんなもんかと思える。眠くなる時間帯に英語の授業はキツイ。うつらうつらとしていると、
「寝ないでね〜」
慌てて目をさます。よかった、俺にじゃなかった。つか猛男、そのデカさで寝てるのがばれないと思ってるのか?少しの間があり、携帯のバイブオンがした。音の主は、猛男の携帯だった。授業中の携帯は感心しませんぞ。
そして放課後
「行くぞ。二人とも」
「は?」
「こっちだ。急ごう」
「だから、なんで俺らも?」
「俺は帰っていいか?」
「ついたな」
しぶしぶ猛男と一緒に公園内に進む。噴水のあたりに大和さんを見つけた。
「あ、こんにちは」
「こんにちは」
「うす」
「うん」
俺らは挨拶を交わすとこないだ座ったベンチにこないだと同じ座り順で座った。そして、大和さんの持つ箱から一つずつチョコレートケーキのようなものをもらう。
「これがザッハトルテか!うまい。こんなうまいチョコレートケーキ、食ったことない」
「よくそんな食えるな。太るぞ」
「運動するから大丈夫だ」
「食って動いたら、それ力士だろ」
「ふっ、力士か。照れるぜ」
「褒めてないだろ」
「俺なんか買ってくるけど、何がいい?」
「うちも一緒に…」
「いいよ」
「俺が代わりに付き合うよ」
そう言ってスナと俺はベンチから離れた。俺たちは歩きながら
「この付近に自販機あったっけ?」
「どっかにはあるだろ。それに急がなくてもいいだろ?少しでも二人きりの時間を長く作ってやろうぜ」
「そうだね」
そうして俺らはあてもなくひたすら公園内をうろついた。
なんとか自販機を見つけ、適当に決めて戻る。
「はい」
「ありがとう」
「どうぞ」
「あっ、ありがとう。お金…」
「いいって。いつもケーキとかご馳走になってるし」
「ううん。うち、こういうのちゃんとしないと気持ち悪いから」
いい子だな。小町に見習ってほしいもんだ。まあ、かわいいからおごりにしちゃうんだけどね。
日も暮れて、俺たちは解散することにした。
「じゃあ、ごちそうさま」
「うん!あっ、ええと、またメールとかしてもいいかな?ケーキの好みとか聞きたいし…」
「おう、いいぞ」
そう言って猛男は俺と砂の背中を叩く。
「二人のメアドも教えてやれ!」
「えっなんで?ていうかいいの?」
「俺はいいけど」
「まあ、別にいいが」
「じゃあ」
そうして俺たちは互いにメールアドレスを交換した。
「大和!またな!」
「うん!また!」
「気をつけて帰れよ!」
「うん!」
「声でけえよ」
何気なく上を見ると鉄骨が今にも切れそうなワイヤーで吊り上げられていた。そして、悪い予感は的中し、ワイヤーが切れ、大和さんのすぐ後ろに縦に落下した。ゆっくりと鉄骨が大和さんのいる方向に倒れる。
「大和!」
猛男が叫び、大和さんが叫び声をあげる。
(間に合え!)
そう願いながら俺たちは大和さんに向かって走る。先に着いた俺は、大和さんの服をつかみ、強引に後ろに引っ張った。だが、鉄骨が予想以上に長く俺も大和さんも下敷きになると思った。覚悟して目を瞑り、鉄骨を背に大和さんを庇うように覆いかぶさる。しかし、いつになっても鉄骨が俺たちの上に来ない。不思議に思い、後ろを振り返るとそこには俺たちに覆いかぶさったスナがいて、さらにスナの背後には鉄骨を必死に抑える猛男がいた。
「くっ、うう。はやく!いげ!」
「分かった!」
そう言って俺は大和さんをスナに任せ、猛男と一緒に鉄骨を支える。だが、鉄骨の重さは凄まじく、今にも潰されそうだと思った。だんだんと姿勢が低くなっていく。
(ここで終わりなのか?俺はいいとしても、大和さんにとっては良くない。あの子と猛男には幸せになってもらいてえ。せめて猛男だけでも生かさねえと)
そんなことを考えていると、少しだけ鉄骨が軽く感じられた。後ろから気配がするので振り返るとそこには逃したはずの二人がいた。
「気をつけてよ。こいつらじゃなかったら死んでるから」
「!」
猛男も気付き驚きの表情を浮かべる。
「うち……実は……結構、力…あるし」
顔を赤くして必死に鉄骨を支える大和さんを見て、猛夫は叫びながら鉄骨を勢い良く持ち上げ横に投げた。鉄骨が地面に倒れた音が響いた。
「猛男くん!怪我!」
見ると猛男の頬から血が出ていた。
「ああ、これくらい「待って!あるかな、あると思うんだよ。…あった!」
そう言って大和さんは、猛男の頬に可愛らしいデザインの絆創膏を貼った。
「なんかいっつも助けられてるね、うち。……ありがとう」
そう言って彼女は微笑む。いい雰囲気だ。
「あっ、比企谷くん、砂川くん、本当にありがとう!」
あんたらが幸せそうで何よりだ。
その後の猛男は、再び奇行に走っていた。電柱にぶつかったり、看板に挨拶をしたり、マンホールにはまったり。さらに俺たちの呼びかけには、まるっきり反応をしなかった。
「猛男、猛男。」
「おい猛男」
「ブタゴリラ〜、おっさん顔〜」
それは悪口になってないか?
「……大和さん」
猛男が立ち止まりゆっくりとこちらを見る。
「の今日のケーキ。あれ、美味しかったな」
「そうだな」
「そうか、よかった」
「うん」
そうして俺たちの今日も終わった。
今回は短めです。感想などお待ちしております。
ありがとうございました。