俺こと比企谷八幡は今、スナの家にいる。理由は一つ。勉強するためである。俺の部屋は誘惑だらけで、とてもじゃないが勉強を進められる気がしない。それに、話したいこともあった。
「大和さん大変だな」
「なんで?」
「だってよ、猛男と二人きりになれないから距離も縮められねえだろ」
「まあでも、少しずつでいいんじゃない?」
「猛男に言うか」
「なんて?」
「これからは一人で行けって」
「かえって怪しまれない?」
「それもそうか」
「てか、八幡。なんでそんなにお前が急ぐんだよ」
「あそこまで猛男好きって女子いねえじゃん。だからなんか心配になってよ。大和さんもいい子だからついな」
「まあ、そうだね。でも俺たちがいろいろやっても、結局は本人次第だしさ」
「そうだな。ん?スナ、ここってどうやんの?」
「ああ、これは……
そんな感じで俺たちが勉強していると、スナの家のドアが勢い良く開きドタドタとやかましい足音と共に見慣れた奴が来た。
「スナ!お前大和になんかしたか!?」
「何も」
「何も!?」
「……今日は入るぞもないんだな」
「てかお前いつから大和さんのこと呼び捨てで呼び始めたんだよ」
「そんなことはいい!なら、どうして大和はお前の話をしたら泣くんだ!」
「今日会ってたのか?」
「そうだ!メールで呼び出されて公園であったんだ!」
大和さんって意外と行動派だな。
「泣く?」
猛男はすごい勢いでスナの肩をつかむ。目は少し潤んでいる。……なんでお前が泣きそうなんだよ。
「お前を好きだからだろうが!バカヤロー!!」
猛男がバカみたいにデカイ声で叫ぶ。
「近い近い」
そうして猛男は崩れる。
「ていうかバカはお前だ、猛男」
「ん?」
「大和さんがお前を好きだからだろ」
言っちゃってるじゃん。一応内緒って言ってたのに。
「は?」
猛男は信じられないって表情をしている。まあ、無理もないか。
「とぼけるな!お前だ!」
「お前だよ」
「違う!お前だ!」
「なんでだよ」
「お前がかっこいいからだ!スナ!お前はかっこいい!」
「大丈夫。お前もかっこいいから」
えっ、何これ。なんで大和さんが泣いたって話からお互いかっこいいって言い合ってるの?俺は?俺については?
「もうめんどくさいから全部バラしていい?」
「どうぞご自由に」
「お前、大和さんにスマホ届けたあとトイレ行っただろ?あの時俺たちもういろいろ聞いてたから」
『あのー、お友達、彼女とかいるのかな?いるよね!あんなにかっこいいんだもん』
『いない』
『嘘!?』
「いないよ』
『ホント?』
『隠せるようなやつじゃない』
『猛男に彼女できてたら、俺たちはすぐ気付く。そんぐらいあいつは分かりやすいんだ』
『そっか……。そしたら私好きになってもいいかな?もうさ、ダメ。こないだのとかかっこよすぎだよね。あんなの、好きになっちゃうよね』
「……お前をか?」
「猛男、スナの話聞いてたのか?」
「だってよ!大和がうちに来て、お前が帰ろうとした時、いやそうだっただろ!あれは、もっとお前と一緒にいたいって顔だった!」
「だったら、八幡引き止めなくてもいいだろ?」
「スナ目当てだったら俺に『どっかいけ』っていう視線送るだろ?」
過去に何度あの視線を送られたことか。……ちょっと潤んできた。
「多いほうが緊張しなくて済むと思ったんじゃねえの?」
「スナの方ばっか見てただろ!」
「お前が近いから目をあわせらんないんだろ」
「思い出してみろ猛男。こないだ俺とスナでジュース買い行ったろ?やけに遅いと思わなかった?」
「……確かに遅かった。」
「あの時俺たちは、わざわざ遠回りで行ったんだよ。そんで帰る時も同じルート。それもお前と大和さんを二人っきりにするためにな。」
「俺はお前に人を見る目を養えと言いたい」
猛男が少し沈黙する。
「……お前は大和をいい子って言ったよな!好きじゃねえのか?」
「いい子じゃん、一緒にいてもお前を好きって話しかしないし」
付き合っていないはずなのに大和さんは嬉々として猛男とメールしたとか報告してきた。猛男のことをどれだけ好きかがわかった瞬間だった。
「お前、八幡と一緒で昔から女の趣味悪かったもんな」
「おいスナ、なんで俺もなんだ。今は猛男の話だろ?」
「お前と八幡が好きだった女子って全部同じだったしな」
「そうなのか?」
言われてみれば、中学の卒業式の時告白しようとした女子がスナに告白しているのを見たが、いつも俺の隣には猛男がいた。……気があうな!
「お前らが好きだった女子、みんな影でお前らの悪口言ってたしな」
「そうなのか!」
初耳だ!……あれ?また目が潤んできた。
「お前らはホント見る目ねえよな」
「……」
「誰でも、友達の悪口言うやつと付き合いたいとか思わないだろ」
そうか、それでスナはずっと断ってきたのか。そして俺と猛男はスナの肩を掴んだ。
「「スナ!お前、男だな!!」」
「金玉ついてないとか言って悪かった!間違いなくついてる!」
「下手すりゃ倍あるんじゃねえのかお前!」
「ああ、ついてるついてる。でも倍はない」
冷静に突っ込むなよ。恥ずかしいじゃねえか。
「しかし、やっぱり大和が俺を好きだというのは信用できん」
「まあ自分の耳で聞かねえと難しいわな」
ドアが二度ほどノックされ、ドアの向こうから声がした。
「ちょっといい?」
「何?」
ドアを開けて入ってきたのは、スナのお母さんだった。
「大和さんって子、来たけど?」
「「「!!」」」
「隠れろ!」
「どこに!?」
全員がある方向を見る。俺たちは皆考えたことは一緒だった。
「ゆっくりしていってね」
「有難うございます」
スナのお母さんは行ったようだ。
「こんにちは」
「こんにちは」
「ごめんなさい、急に押しかけて」
「座れば?」
そう言われた大和さんはベッドの隅に腰掛ける。
(猛男、つらくねえか?)
(バランスが悪い。八幡、もう少し大和がいる方に行ってくれ)
(分かった)
なるべく音を立てないように移動する。
(どうだ?)
(オッケーだ)
そう、俺と猛男は隠れる場所にスナのベッドの下を選んだ。幸い汚れてはいなかったが、猛男がでかすぎてベッドの足が床についていない。だから、座られると大変なのだが、案の定、座られてしまったので必死にバランスを保つため、奮闘中である。
「……砂川くん、うち…猛男くんの前で泣いちゃった!どうしよう?猛男くんすごい困った顔してた。どうしよう」
「なんで泣いたの?」
「猛男くん、なんかすごい砂川くんのこと進めてくるんだよね。遠回しに断られてると思ったら、ちょっとつらくて」
(お前、んなことしてたのか)
(……)
「で、どうする?諦める?」
「!……諦めたくない。頑張る。猛男くんみたいな人もう会えないと思うから」
「まあ、なかなかいないだろうね」
「もう好きになっちゃってるから、もうすごく」
「もう一回」
「へ?」
「もう一回言って」
「好きだから」
「誰が?」
「猛男くんが」
「もう一回、ちゃんとわかるように言って」
「うち、猛男くんが好きだから!」
「念のためもう一回」
「猛男くんが好きなの!」
スナの足が見える。
「だってよ。ほら、お前も告れ」
「へ?」
そう言われた猛男は、ベッドの縁をつかみゆっくりと持ち上げて、大和さんの前に姿を見せた。
「ひどい!砂川くん、言わせた?」
「自分の耳で聞かないと分かんないみたいだから」
そして、改めて大和さんと猛男が向き合う。
「好きです!初めて会った時からです!」
「好きです!初めて会った時からです!」
カップル成立だ。おめでとう。
「スナ、この問題って……」
「ああ、これは前言ったやつを……」
そして翌日の放課後。俺とスナは二人と一緒に公園にいる。なんで?普通付き合ったら二人きりでいたいって思うだろ。
「はい、これ」
そう言って大和さんは俺とスナに箱を一つずつくれた。
なんだろ?箱を開くと中にはケーキが入っていた。いつぞやのザッハトルテみたいな小さいものではなく、綺麗な上に凝っているデコレーションがされた、店頭で売ってるぐらいの大きさのケーキ1ホールだった。
「大和からのお礼の気持ちだそうだ」
「砂川くん、比企谷くん、ほんとうにありがとう!」
「なんで俺の名前知ってるの?鉄骨の時も言ってたけど」
「あっ、猛男くんが教えてくれたの。呼ばれるの嫌だった?」
「いや、そういうことではない」
こういう時はどう言えばいいんだ。ケーキにでかでかと
『私たち、幸せです。ありがとう』とチョコペンで書かれている。
「えっと、どういたしまして」
「ありがとう」
「あっ、私の友達で、すっごいいい子がいて、写メあるけど」」
「幸せを分けてくれようとしなくていいから」
「俺も遠慮する」
「そっか〜」
「寂しい事いうなお前ら」
「寂しくねえよ」
「そうそう」
「俺たちは幸せなお前を見てるほうがいいから」
「お前ら……うおおお」
猛男は雄叫びをあげて、俺らに抱きつく。ケーキ置いといてよかった。
「……お…い、猛男、……くる…し」
「はな………せ」
「うおおおお」
しばらく俺らは、羽交い締めにされた。
いかがでしょうか?感想などよろしくお願いします。
ありがとうございました。