今日、俺こと比企谷八幡は病院に来ている。大和さんと猛男が付き合いだして二週間ぐらいだろうか。今日は、二人きりというわけでなく、互いを互いの友達に紹介するということで、遊ぶそうだ。ちなみに俺は誘われたのだがいけなかった。正直行きたくなかったので結果オーライだろう。とうとう、俺は包帯を取っていいことになった。頭がスースーする。やはり頭には何もついていないほうがいい!
「あいつら大丈夫かな。スナはいいとして、猛男はなんか言われてねえかな。まあ、大和さんの友達らしいからいい子か。……でも、いい子の友達はいい子ってわけじゃねえときもあるからな。人付き合いって大変だな」
病院からの道はさほど遠くないので歩いて帰ることにした。……少し人からの視線が気になるな。道行く人が俺を見ていく。無理もないだろう、俺の額には少々傷の跡が残り、変に包帯を巻いたせいか、前髪が両脇に寄っていて、その傷が丸見えなのだ。恥ずかしいがしょうがない。少し進むと、俺より少し前に一人の少女が立ち止まっていた。そして、俺を見るなり、
「あっ!ヒッキーじゃん!」
(……俺じゃなかった。こういう自意識過剰なところは高校に入っても治らんな)
俺は止まらずに進み続ける。そして彼女の横を通り過ぎようとした時、
「ちょっとヒッキー!」
そう言ってその子は肩を掴んできた。
「……え?ヒッキーって俺のこと?」
「他にいないじゃん!」
「つか誰?」
「ひっどい!」
「へ?」
「同じクラスじゃん」
「?」
「同じクラスの由比ヶ浜結衣!」
「はあ」
「まさか覚えてない?」
「存じ上げませんね」
「自己紹介で結構頑張ったのになあ」
「いや、俺いなかったし」
「なんで?サボり?」
「違う、病院に居たんだよ」
「ふーん、じゃあこれから覚えてね!」
「お…おう」
「じゃあ、あたしもう行くね!」
「あ……はい」
そう言って俺とは逆方向に彼女は走って行った。
(そういえば犬連れてたな。ちょうどあんくらいの大きさの犬だっけ。まあ、いっか)
俺はまた歩き始めた。
ある程度歩くと、ふと読みたい本の新刊が出ていたことを思い出した。ちょっと来た道を戻ることになるが新刊が読みたいという気持ちのほうが勝ったので、本屋に行くことにした。
「ええっと、……あった」
俺は目当ての本を手に入れ、少し早足で帰る。
結構歩いただろう。思った以上に距離があった。あれ?こんな遠かったっけ?まあいい。この川が見えたらもう少しってことだ。早く帰って読まねば。そんなことを思いながら歩いていて、ふと橋のほうに目をやると小さい女の子が橋の手すりによじ登ろうとしていた。
(……保護者らしい人はいねえか。この時間帯だから人もまばらだし、どうしてあんな小さい子が一人なんだ?………一応声かけとくか)
そんなことを思いながらその女の子のいるとこまで向かう。俺が向かっている間にその子は手すりに登り終えていた。そして、女の子が登れたことが嬉しかったのだろう。
手すりの上で万歳をしていた。しかし、勢いよくやりすぎたせいで足を滑らせ川に落ちていった。
「やば!」
俺は荷物を捨て、後を追うように川に飛び込む。
(正直、泳ぎは普通だが、猛男に振り回されて毎日を過ごしたから、体力には自信がある。追いつける)
俺は必死に泳ぎその子の元に向かう。俺が泳いでいる間に少しずつ彼女の浮き沈みの頻度が少なくなっていく。
(マズイ!間に合え!)
さらに泳ぐペースを上げ、なんとか彼女の手を掴む。
(掴んだ!)
俺は急いで自分まで引き寄せ彼女の顔が胸のあたりまで来るようにして、彼女に声をかける。
「……落ち…付け。ハァ、ハァ、大丈夫だ。ゆっくり呼吸しろ」
彼女は最初パニックになっていたが、やがてゆっくりと呼吸を始めた。しかし、まだ流されている途中だ。あまり体力は残ってないし、何より担いで歩けるほど俺はでかくねえ。したがって、流れに沿ってゆっくりと川岸まで行くことにした。
「いいか、上を向いて力を抜け。」
「…………なに?………どう?」
「上を向いて」
彼女は首を横に振る。
「怖くない、俺がいるから。上を向いて」
彼女は怯えながらも上を向く。俺は彼女の頭を手で支えながら、足だけで後ろ向きに進む。それから少し経って、無事川岸に着いた。大勢の人が俺たちに駆け寄ってくる。
「君!大丈夫か?」
「凄いよ君!」
「救急車!念のため誰か呼んで!」
俺は疲労がどっと押し寄せてきて一歩も動けずにいた。
「ハァ、ハァ、ハァ、その子は、ハァ、大丈夫ですか?」
「ああ!大丈夫だ。息もしている。ただ少し震えているから念のため病院に連れて行く。君もだ」
それを聞いて安心した俺は息を整えることに専念した。
「君さっき来たよね?」
「ええまあ」
「君はさあ、自分をもうちょい大切にしなさい。人助けはいいが、下手すりゃ二人とも死んでたかもしれないぞ?ただまあ、よくやったよ、君は」
手厳しいことを言われ、褒められて複雑な気持ちになった。特に異常はないということなので、帰ることにした。だが、あの子が気になったので、病室を教えてもらい見に行くことにした。
「ええっと、302、302………ここか」
ドアを開ける。
「失礼します」
そう言って病室に入っていく。
「もう!どこ行ってたの!?心配したんだから!」
「沙希、病院よ、静かにしなさい」
「ごめんなさい」
「……心配したんだから!」
そう言ってベッドの上にいる子を誰かが抱きしめるところを見てしまった。無事そうなので、気づかれないように去ろうとするとベッドの上の俺が助けたであろう子が俺に気づき、俺に向かって、
「お兄ちゃん!」
「「「!!」」」
「ええっと、その、どうも。……あの、大丈夫ですか?」
「あなたが助けてくださったんですか?」
「そうだよ!このお兄ちゃんが助けてくれたの!」
「そうでしたか!なんとお礼を申したら……。本当に、ありがとうございました」
「ありがとうございました」
そう言って二人が深々と頭を下げてきた。見たところこの子の親御さんのようだ。
「顔を上げてください!無事ならよかったです」
「何かお礼を」
「いえいえ結構です、結構です!」
「何かさせてください!」
「いえいえ、本当に大丈夫なので」
その後何回かこのやりとりが続いた。そして、病室にさらに人が来た。
「お兄ちゃん!なにやってんの!」
「小町、静かに。八幡、あんたまたなんかしたの?」
「いえ、その〜」
「お母様ですか?」
そう言ってその子の母親と父親が、その子を連れて少しこちら側に寄ってきた。
「ええ、あなたは?」
「申し遅れました、私はこの子の母です。」
「そちらのお嬢様にうちの愚息が何かしでかしたのですか?八幡、謝りなさい」
「いえ、息子さんが川で溺れていたこの子を助けてくださったんです」
「うちのがですか?」
「ええ!本当になんとお礼を申し上げたら……」
「そうだったんですか。……八幡、あんたはいつかやると思ってたよ」
「さっすがお兄ちゃん!小町は信じてたよ!」
(ホント調子いいなこの二人)
「ですので、何かお礼を」
「いえいえ、とんでもございません!お気持ちだけで十分ですので」
「いえ是非」
「いいんですよ」
「そうですか……。本当にありがとうございました。何かありましたらいつでも」
そう言ってお父さんであろう人が名刺を母に渡す。母はそれを受け取ると鞄から自分の名刺を出し渡す。
(ここでやることじゃないでしょ)
そしてその後俺たちは、あの子の家族に見送られながら病院を後にした。
家に着いたら安心したせいか、川から上がった以上に疲れがきた。
「もう寝るか」
そうして俺はベッドにダイブすると意識が遠のいていった。
翌日、登校中に俺はあることに気づいた。猛男が若干黒くなっている。気になってしょうがなかったので、スナに聞いてみた。
「なんであんなに黒いのあいつ?」
「昨日行ったカフェで火事があってさ、それで取り残された人を助けた後に爆発と一緒に出てきたから」
「なるほど、……それマジ?」
「うん、マジ」
「らしいな」
そんなことを話しているとあっという間に学校に着いた。
「比企谷!おはよー」
「おう、おはよう」
「包帯取れてんじゃん!よかったな!」
(いいやつだなこいつ)
「まあな」
「これで昼休みとか遊べな!よろしく!」
「おう」
(あいついいやつだな、アフロだけど)
そんなことを考えていると肩に手が置かれる。置かれた肩の方を見ると
「おはよう!ヒッキー!」
「おお、おはよう」
満足そうな顔を浮かべたその子は自分の席に上機嫌で戻っていった。
「おい、比企谷」
「ん?」
「いつから由比ヶ浜さんと仲良くなったんだ!」
「なに!」
「なんだと!」
「どういうことだ!」
俺は何人かの男子に囲まれた。
「えっと……」
「比企谷。昨日なにがあったか、詳しく聞かせてもらおうか」
「なんで昨日?」
「お前は昨日まで由比ヶ浜さんと一言も話してなかったじゃないか!まさか、すでにその前に何かあったのか!」
「おしえろー!」
そして、今日一日中俺は質問責めされた。
いかがでしたか?感想などお待ちしてます。