カラクリ使い
博士と助手と不良品
「そんな厄介事に自ら関わる必要はない。それに罠だったらどうする」
学生の本分は勉学だろうに……。科学実験でよく見るような容器に得体の知れない液体をスポイトで垂らしながら上条や上ノ恵に背中を向けながらそんなことを言ってきた。
実験でお馴染みの調合ミスによる爆発モクモクを顔で浴びている博士の言葉である。
付け加えると、ここは上ノ恵の新居である。
「その、人造人間とかいうヤツの本拠地に、そんな易々と簡単に足を踏み入れる事が出来るとも思えないしな」
わかったら、休み明けテストに向けて対策でもするんだな……。と博士が言い終えた直後。
「はい。その『人造人間』です。ただいま参上つかまつりやした」
聞き覚えのない声を聞き、やっと振り返った博士は面識のない人物と目が合う。
怪訝な顔をする博士に上ノ恵が言う。
「えーと、これはですね。……その飼うことになりまして」
「捨ててこい」
三十分ほど前の事である。
気味の悪い噂が流れてても可笑しくない、古びた建物に足を踏み入れる人影があった。
そこは、学園都市にいる学生の能力向上や学生のメンタルケア(精神医療)を表向きとした医療開発の病院であり、実験場の施設であった。
だが、それは過去の話であり、ここは今や廃墟となっている。
「ここが、彼女の言っていた医療開発の施設だよね」
「そうなんじゃねえの」
「だといいけど」
上ノ恵は改めて辺りを見渡した。
「医療という響きが全然ピンとこないのは、私だけかな」
「そうですかね?」
私は寧ろ落ち着きますよ?と木原恥芽が口笛混じりに言う。
「まあ、殺風景っていうよりは…」
と、宇佐…事、金髪ピアスが上ノ恵を見て、途中で言葉を区切る。
そう。私は怯えているのだ。
それは、廃墟と病院のダブルコンボで科学的に証明できない『あれ』に怯えているのではない。
人造人間と名乗る、人として扱って良いのか分からないモノの襲撃に怯えているのではない。
上ノ恵は残念な事に、女性としての感受性がなく、『キャー怖いー』などとは決して言わない。
彼女はアドリブに強く、拳を握りしめて立ち向かう、男勝りである女性である。
なら、何に怯えているのだというと、
この、廃墟の病院にはあちらこちらに『血』が飛び散っているのである。幸い、人影は今の所見当たらない。
上ノ恵は未知の『あれ』に対してではなく、殺人的な事件の臭いに対して怯えているのだ。
『今日、昨日の出来事ではないな』
指で血をなぞりながら、一年以上はたってると上条は言う。
『この血の量から察するに、少数による血ではないのは確かだな』
血が何かの演出だったなら良かったんだが、大体の痕跡から察するに、ここで実際に派手な銃撃があったのは確かだ……。と、銃の痕跡がそこらにあると上条は壁や床を触れながら呟く。
それを感慨深く見る木原は言う。
「ほほぉ…転校生は一般人とは思えない発言をしますね」
そう、ただの一般人ではないのだ……。と上ノ恵は心の中で呟く。
「まあ、この、よく分からない人をただの一般人と認識して扱うのは間違ってるとだけ言っとくよ」
一応、嘘ではないだろう……。と上ノ恵は適当な事だけ言っておく。
「同じ親戚なのに、まるで他人事のようだけどね」
「…あー、まあ、」
再確認だが、上条当麻と上ノ恵ハルは偽りの親戚で、学校での上条当麻の名前は上ノ恵アキという偽名である。そういう設定でクラスメイトには通している。
「難しい関係なんだよ…察して」
エントランス(受付)をしばし、見渡したあと、上ノ恵たちは廊下を警戒しながら少しずつ歩く。
当然、廃墟であるここは、電気が通っていないので、真っ暗である。
彼女……女性の容姿をした人造人間の話では、自分や仲間たちはここで製造されていて、15のモルモットがいる。付け加えるなら、不良品を入れて16である。
そして、その女性の容姿をしたモルモットの一人は、敵と称す上条当麻につく、上ノ恵ハルの情報を得るために攻撃をしてきたのである。
そう、上ノ恵たちの目的はあくまでも、自分たちを襲った相手に対する視察である。
「相手の本拠地?にしたって、やっぱ、誰もいないのかな……」
ゆっくりと歩く上ノ恵たちは廊下を抜け、最初の世界にエントランスとは違う広い受付にたどり着く。
血が辺りに付着しているのは変わらない。改めて警戒しながら上ノ恵たちは歩く。
その、歩こうとした時だ。
『………………』
黒い羽織をした人形見たいな者が受付に寄りかかっている。
「……ッッッ!!!」
声はおし殺しているが、さすがにびっくりしたのか、ビクッっと跳び跳ねしまった。
ビクッと跳び跳ねてしまったのは金髪だけであるが。
「こ、こんな所に人形があったら誰でもビビるだろ……」あー、こんなんダメだろ……。と金髪ピアスは受付にもたれ掛かっている人形を覗きこむように床へ座る。
『………おい』
「……ん、なんだよ転校生」
『……そのパターンは……多分、』
『動くぞ』
『はい。あたしは動きますが……』
ウアアアアァァァ!!!と悲鳴をあげる金髪に対して、「そういう、フラグは建ってたからな」と上ノ恵がポツリと呟く。
「お客様とは、大変珍しいですね」
壁に寄りかかる、瞳が真っ黒な事から表情が伺えない『それ』がゆっくりと立ち上がる。
「モルモット、シリアル番号15からの情報はうかがっているでござんす。上条当麻及び、その仲間たちがここの施設に足を運ぶ可能性があると……」
「と、言うことは貴女もその仲間たちなの?」
「仲間、ですか。機能を通じて情報を得れるだけのモルモットとしての関係であって、あっしには仲間はいないでござんす。あろうことが、私には他のモルモットと違って主すらいないポンコツでございます」
「ポンコツですって、それじゃあコイツと同じでさぁ」
「おい、俺のことじゃねえだろうな?」
木原に食って掛かろうと睨み付けている金髪ピアス。
「……じゃあ、貴女はここで何をしているの」
「何を…?………『何も』でござんすが」
「………」
上ノ恵は敵の本拠地に足を運び、血の臭いがするこの廃墟にかなりの警戒心を済ましていたが、今、自分の目の前にいるこの、モルモットと称される少女に対して危害を感じとれずにいた。それどころか、同情のような感情さえ、覚えている。何か言葉を掛けるべきかと上ノ恵が口を開こうとしたとき、上条当麻が先に言葉を投げ掛ける。
『主と言ったな…。それは、学園都市統括理事長『アレイスター・クロウリー』の事であってるか?』
「アレイスター…私の主ではございませんが、他のモノ達の主であることには間違いありませんが……」
言い終えた『それ』は一人の人物の方をしばし、見て言う。
「………コイツは驚いた。まさか、『
『いや、正確な情報だよ』
話を戻すが、それで、お前は敵なのか…?この廃墟には他にも敵はいるのか?と上条当麻は言う。
「あっしは一人でございますよ。随分とここの出入りを確認はしてはいませんが、貴方達が一年ぶりのお客様であることは間違いないと思います」
なにせ、と、童女ような彼女は間を開けて言う。
「ここは『人体錬成』を行う施設でありやしたが、あるとき、私達とは桁外れの化け物が生まれてしまいやして、地獄の晩餐会が行われたでござんす」
彼女は続ける。
「それは、また、恐ろしい悲劇であり、ここに居た全てのモノを破壊尽くしては、それを食し、自分の血肉に変えては人の原形が変わっていく。これを地獄と言わずして何と表現していいのやら、ただ、実験場と称されるに正しい光景ではあったと思われますがね。」
あっしは地下室で拷問の最中でしたので、ヤツにはバレませんでしたが……。と付け加える。
「それがここで、人を見た最後の光景でありやすが、お気に召されやしたか」
「……うん、話してくれてありがとね」
上ノ恵は少し微笑みながら童女の彼女にそう言った。
「それで、貴女はこれからどうするの?」
「はて、これから……ですか」
『何も』ない。捨てられた身ですから……。と言う。
「それに、この都市に『上条当麻』がいるのであれば、未来も全て、意味のないモノになりやすでしょうし」
それはどういう…と上ノ恵が言う前に
『そうは、ならない。そのために帰って来た』
まだ、帰るつもりはなかったんだがな……。と上条は言う。
『お前に問う。モルモットと言う仲間たちの一人に 第一位の『ベクトル』と第三位の『レールガン』を使う奴らがいた。お前もそうなのか』
「15号の事ですか。モルモット達はそれぞれ何かをモデルとして量産されてきやした。15号は第一位と第三位の能力を無理やり与えられ、あっしはと言うと……
『人工』と『天然』。開発によって持っている能力と、拷問によって意図がなく生まれた『原石』と唱われる能力が備わっていやす」
なら、お前は強いわけだ。上条は童女の前まで歩き出す。
そして、手を。
かつて、自分が差しのべられた、小さな手と同じように、カラクリのような表情が感じられない少女に。
俺たちとこい
力を貸してくれ
★☆★☆
「戦力になるから拾った……ね」……小さな手の彼女は間を取り、言う。
「これ以上金がなくなったらどうするつもりだ……。助手の貯金はもう、ないんだぞ。誰が私を養う!!」
新居にて、「威張るな」と上条に諭される。
「まあ、博士。この娘が言うには自分には金が掛からない、とのことらしいですよ」
「それは、人造人間…だからか?」
博士の質問に対して、上ノ恵も童女の方を見て返答を促す。
「はい。あっしに費用入りません」
童女は続ける。
「施設で一人、食べれるものは何でも食べやした。いざとなれば、コンクリートだって食べて見せてございましょう」
「いや、食事は摂るのな」と人造人間は食事をしないものなのかと思っていた上ノ恵は童女に突っ込む。
「主のご命令とあれば、外でだって生活致します」
ただ、まあ……。と童女は続ける。
「主に力なしと思えばいつ何時、牙をむくかわかりやせん……夢々お忘れめさらないように。あっしがあなたたち二人を常に見ていることを」
上条当麻の方は心配はなさそうでございますが……。と上ノ恵の方を『クスクス』と笑いながら童女は背中を向ける。
「あれ~…とんでもないの拾って来たんじゃないですかな……今ならクーリングオフ(契約解除)聞くかな…」
こんな、娘だっけ……。と上ノ恵は『博士、…主変わらない?』恐いんですけど。あの娘恐いんですけど……。と助けを求める。
「……生活費用は上ノ恵負担で頼むぞ」
博士の許可はこの後すぐ、取れました。
「と、まあ、彼らは施設に足を運びいれまして。そこにはあんたのかつての実験動物がいらっしゃってましてね」驚きましたよ……。まあ、驚いたのは友人だけですが、と彼は異質な建物の中で彼に言う。
男性にも女性にも、子供にも大人にも、聖人にも罪人にも見えるその『人間』は、喜怒哀楽のどれも説明できない顔で話を聞いていた。
「『原石』の彼女を取られるのはさすがに厄介じゃありませんかね。『アレイスター・クロウリー』?」
「何の障害にもならないさ」
それにしたって、あの施設で食い忘れがいたとは……。
彼は楽しみが増えたと、その場を後にする。