とある魔術の禁書目録(真理の扉)   作:まーぴん

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第十七章

 

???

 

悪を総べる魔王を倒す力。

 

そんなものを持った勇者は多分幸せだろう。

 

特別な力を持って生まれてきた事が、ではない。

 

自分の持っている力は何のために使うものなのかを知っており、また、それが世間に広く認められているからだ。

 

故に彼または彼女は道を間違えることはない。どれだけ強大な力を持っていたとしても、魔王のように恐れられる事もない。たとえ道を間違えようとしても、別の生き方を許さない。それはとても窮屈だけど、同時に安定した成功の道のりを約束してもらっているとも言える。

 

 

一方で。

 

そういう風に都合の良いお膳立てをしてもらえる人間の、なんと少ない事か。才能はある。それを開花させるための条件は非道な事ではあったが、整っていた。だがしかし、大抵の力を持つ者はそれが何のために、どこに向かって振るわれるべきかを教えてもらえないものだ。

 

目的はない。

 

ただ力がある。

 

そんな存在が、外界へ放たれたらどうなるだろう。

 

指向性も方向性も持たず、それでいて魔王を瞬殺させるほどの力が無秩序に振るわれるとしたら。

 

 

 

 

『彼』は前者でもあり、後者でもあった。

故に歪んだ。

 

期待が彼にとってどれほど重い物だったのか人間は知るよしもない。当人しかわかるはずがない。

 

人間に散々持ち上げられたあげく、いざ、人間がその力に疑問や不安を持ち、見捨てられたとしたら。

故に彼は歪んだ。

 

決定打は力を狙われ、その仮定で大切な理解者を失ったことだった。

 

彼は歪んだ。

 

救う力だと信じてきたモノが、破壊の力であったと、明確に変わった瞬間だった。

 

 

 

 

『彼女』は最初から後者であった。

歪むことを恐れた。

 

生きる道を歩むために与えられた力ではなかった。

人間の善悪で言う、悪の部分によって力が与えられた。

 

目的はない。

 

憎く恐ろしい力がある。

 

今の彼女を、外界の人間が、知人が見たらどういう目で見るのだろうか。

 

歪みたくないと彼女は自分を捨てた。

 

既に歪んでいるとは知らずに。

 

 

 

 

 

彼の名は上条当麻。

 

記憶を失い、前者でも後者でもあった人間。

 

彼女の名はーーー。

 

自ら、記憶を消し前者であろうとする人間。

 

 

今回の話はそこに帰結する。

これは、自分が力を持ってしまった理由すら知らない者を中心に、彼と上司とクラスメイトと、拡散していく記憶を遡る物語だ。

 

 

 

 

前夜祭

 

学園都市で非道な出来事から子供を庇うように逃げる。結果、命を投げ捨てることになり、暗闇で目を覚ましていた。

「………私は死んだのかな………?」

 

 

暗闇の世界で魔神の慣れ損ない、上条は上ノ恵に向かってこう告げる。

「『心の傷』を癒すことは出来ない。でも、少しだけ手助けをすることは出来る」

 

 

同じく右手に異能の力を宿す彼。元の居場所に帰れなくなった彼は上ノ恵の家で一つ一つ紐解いていく。

「何かを願ったからだと思う。あの世界に来れるだけの何かを」

 

 

右手に謎が深まる上ノ恵に、忍び寄る影が一つ。彼女は彼を助手と呼ぶ。

「さて、本題に入りたいのだが…どこまで我々『魔術師』について知っている?」

 

 

学園都市に住む上ノ恵は、魔術という信じがたい情報を得る。

そんな彼女は彼らを取り巻く、見知らぬの相手と交戦することになる。そう、不死身の。

「ふふ、やっと、やっと、やっと!!!!来てくれたのですね……お待ちしてましたよ上条当麻」

 

 

一方その頃、上条当麻の登場により、世界はまた動き出し始める。

「あの化け狐の勘が正しければ、僕たちの取るべき対処は彼を……」

「上条ちゃんから連絡が来たんだよ」

「最大の戦力を集め、世界を跨ぐぞ」

「警戒体制を整えておけ。流れが変わるぞ」

 

 

アレイスターという彼らの敵。その敵達の実験動物だったという童女のこころ。

「主に力なしと思えばいつ何時、牙をむくかわかりやせん」

 

 

そして。

鳩から手紙を受け取り、一人どこかへ行く上ノ恵。

「こころ、上条さんや博士には内密に……いや、遅くなるとだけ伝えといて」

 

目的の場所まで走る上ノ恵、彼女の顔色はどんなだったのか。それを偶然、クラスメイトは……。

「あれって……上ノ恵?」

 

 

 

色々な思惑があって。

様々な人物が動いていた。

 

上ノ恵という人間の本番が始まる。

 

 

 

 

ついでに、どこかでちっこい上司は一言。

「報酬は甘いものだな」

 

 

 

 

夜八時過ぎ。

第七学区、研究所通りの前。

息の荒い、血相を抱えた女性が暗い路上を走っていた。

研究員ばかりが辺りを歩いているが、走っている私には誰も目もくれていない。

 

 

彼女は路上のすぐ先にある『立ち入り禁止』と記されている大きな研究所で止まる。

息を整え、灯りも点いていない研究所を見渡す。

 

「あの時と何にも変わってない……」

 

入り口を塞ぐヘンスを乗り越えると、彼女は身を隠すように直ぐに壁にもたれ掛かり、慎重に進みだす。

 

最初に差し掛かった問題は、研究所に一つしかない入り口である。灯りがついてる雰囲気はなく、中に入って直ぐに誰かが待ち伏せている可能性は薄いと思う。

 

普通なら、そう思っていた。

だが、私は『独りでこい』とここに呼び出されている身である。入り口が一つしかないのなら、ここから入ってしまっては何が待っているか、自分の存在にも気づかれてしまうのでは。そもそも、ここに来るまでの間にもう勘ずかれているのでは……。

 

 

「(ここまで来たんだ。もう、考え迷うのはなしでいこう……)」

ガチャリ

 

 

そっと

 

そっと、取手を回し、慎重に開けて中に入っていく。

 

 

 

今さらだが、鍵は掛かっていなかった。

 

そもそも立ち入り禁止と記されているここには誰も居ないのではという疑惑さえある。

 

 

入ってすぐ、明かりを照らされたり、襲われたりすることはなかった。

 

そして、また、慎重に歩き出す。

 

 

 

入って、すぐ中央に二階へと進む大きな階段があった。

手すりを触りながら、慎重に……。

他にも道があったが、私はここの階段を登る。

 

階段を登った先にはまた、扉がある。

 

私は入った時と同じように慎重に開ける。

他にも進む道の選択肢はあるが、私はここに入る。

 

 

私は知っているのだ。ここを……。

 

そして、思い違いでないのなら、私が行かなければならない場所を。

 

 

ピタピタと小さく足音をたてて、小さく歩く。

額から汗が流れていく。

警戒と怯えが伝わるような、そんな顔色をしているのだろうか。

 

「帰って晩御飯を作らなくちゃね……うん」

 

 

こんなこと、さっさと済まさなくては……。彼女はまた、扉の前で停止する。

フフっと、不安の余り笑みさえ出てきた。

扉には飛び散ったような血痕が付いている。

暗くてよく見えないだけで、床も恐いことになっているのかもしれない。

 

 

扉の隙間から、灯りが点いて………。

汗がポタポタ垂れていく。扉を開けると脅かしてくる、わかっていても怖いお化け屋敷だったらどんなにましだろうと……。

 

彼女は扉を……そう、開けるんじゃない。

「(破壊しよう……そうしよう……)」

 

扉に向かって右手を掲げ、手を広げる。

 

 

ここにきて、彼女はフと思った。

ここまで怯えるのは何でだろう?

前あった出来事も当然、恐ろしいものではあったのだ。が、ここまで私が怯える理由はないはずだ。

私が当の本人ではないのに。

 

「(いや、思い過ごしかな?)」

 

今さらだが、彼女の右手は万能であり、手から火が出たりと五大元素を司る未知の右手であり、打ち消すことも可能である。

 

彼女のとった行動はというと……。

 

 

鋼鉄で出来た二メートルほどの太い棒状の物を勢いよく扉に倒すことだった。

 

バキバキ!!

 

大きな音と共にモロに扉は破壊される。

 

 

 

そして

 

 

 

そして、彼女は……。

 

 

 

 

 

『……やっぱ……きちゃったか……ほんとにバカ……』

 

でも、ありがとう。

 

 

彼女は彼を、彼の存在を確認する。

 

「……うさ……?」

 

人の何だろうか?グチュリと何かを踏んずけた。

人のどの部分の肉なのか。

手足がそこら充に落ちていた。

血まみれだった、何もかもが。

バケツには目玉が山積みだった。

 

そして、壁に貼り付けられるように彼は……。

 

 

「宇佐………!!!」

 

駆け寄ると彼がデカい釘ような物で貼り付けられていることがわかった。

 

「宇佐……ど、どうして……!!何をすればいい!!?」

 

血まみれで、裸で拘束されている彼は、釘で拘束されて、うまく動かない手で何とか上ノ恵の頭に手を置き……。

 

「ふだんはきんぱつって……よぶくせによ……」

 

へへ、と彼は笑うと視線を横のドアに移す。

 

「おれの……おれの他にも、拘束されてるヤツがいる。アイツらを全員…助けなくちゃならねえ」

 

シューシューと薄く呼吸をする金髪の彼は悔しそうな顔をし、上ノ恵の頭をポンポンと叩く。

 

「ほんとならにげてくれ……っていいたかった。でも、もう出遅れなんだ……。『木原追究』だ…。アイツはもう、おまえを逃がさないつもりだ」

 

彼は続ける。血をポタリと垂らしながら。

 

「……くぎ………この釘をさ……はずしてくれ……」

 

なんでもいい。なんでもいいからどうにか外してと彼は言う。

 

「ちからがさ…出ないんだこの釘のせいで……」

 

上ノ恵は無言で頷く。

 

そして、くぎを引っ張るために手を駆ける。

 

 

 

だが、

 

 

 

 

「………気にするな……。いつもいってるだろ?おれは不死身だからよ……いたくもかゆくもないさ」

 

 

唇を噛み締め、目に涙を溜めている上ノ恵は

「……わかった」とおもいっきり……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十秒くらいだったが、とても長い時間だった。

 

 

 

何本も太くギザギザした釘が刺さっていた金髪ピアスは全部抜いてすぐ、傷が一瞬で塞がった。

 

「ふーっ……これでアイツをぶちのめせるな……」

 

とりあえず、恥ずかしいから何か着るな?とスッポンポンの彼は落ちていた自分の制服を着る。

 

「(なにもかも見られたわ……)」

 

こういうのって下半身はズボンとか履いてて見れないもんじゃないのかよ……、と重いため息を金髪は吐く。

 

「……今度は一人で戦うなんて言わねえぞ?

なあ……上ノ恵……?」

 

「え、あ、………そうだよ」

 

「大丈夫か?具合悪いっつってもこの惨劇じゃあな」

 

「そ、そうだね……そうだよね」

 

「お、おいおいホントに大丈夫か?」

 

遂には頭を抱え込み、酷く頭痛に襲われている風に見える上ノ恵に金髪が駆け寄る。

 

「ああ……頭が……!!!!」

 

「(わたしはしっている)」

 

「(わたしはわたしじゃない)」

 

「(わたしはここで)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死 ん だ

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………」

 

 

……………!!

 

 

………!!!

 

 

 

「上ノ恵!!!!」

 

「………っっ!!!」

 

「しっかりしろ……」

 

「あ、………わたし」

 

 

ここで、この場所で何かがあった。

 

宇佐の時とは違う。

 

何かを思い出した気がした。

 

あそこに、

 

この場所に

 

 

生気の感じられない表情をした私がいた。

 

 

 

 

「………もう、大丈夫……みたい」

 

頭痛が、少しね?と上ノ恵は立ち上がる。

 

「心配させんなよ……」金髪が言うなと上ノ恵に頭をチョップされる。

 

「それで、」

 

辺りを改めて見渡す。この地獄のようなこの場所を。

 

「それで、どうするの?」

 

金髪ピアスは頷き、ドアの方を指差す。

 

「この奥に『木原追究』がいる。俺を一年前にも実験のサンプルにしたアイツが」

 

「………そう、いるんだね」

 

「さっきも言ったが狙いはお前だ上ノ恵」

 

「わたし?」

 

「アイツは言ってたよ『全てを奪ったアレイスターのおもちゃ……上ノ恵を俺が手に入れる』…と」

 

え?

 

真っ白になった。

 

 

「………いま、アレイスターって……言った?」

 

どうして、ここでその名前が出るの?

 

 

「俺もよくわかんねーけど、とりあえずだ。人質を取られてる」

 

「人質?」

 

「俺の他にも拘束されてるヤツがいるって言っただろ?それを知れば上ノ恵は必ず独りで来ると、あのくそじじいは言ってたよ」

 

それに、他にも研究員がいた。

 

知る限りじゃアイツを含めて三人だ。

 

 

「ーーーー……おい、聞いてるか上ノ恵?」

 

「知れば必ず独りで来るって……どういうこと…」

 

「深い意味はないだろ。上ノ恵だったら人質を見捨てないって、それだけだろ」

 

「…………」

 

色々と引っかかる。

 

そもそも、どうしてこんな事を?

 

私が端から狙い?あの時は金髪だった。

 

 

 

なぜ、こんな手間の掛かったことを?

 

襲うタイミングならいつでもあった。

 

私はこの部屋に金髪とアイツがいるのだと思った。

 

 

何だろう……雲行きが変だ。

 

 

私に何を求めているの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャリ

 

 

 

「………」

 

 

 

入り口にて

 

 

 

「………誰か……いる?」

 

 

 

人影があった。

 

 

 

「か、上ノ恵……いる?」

 

 

 

 

 

 

 

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