「上がり悩んでいるな」
パソコンの画面にはスクールアイドルの協会が運営しているサイトが映し出されていた。
「せっかく、花丸ちゃんとルビィちゃんが入ってきてくれたのに……」
先日。Aqoursに新たなメンバーとしてルビィと花丸が加入した。
二人ともとても個性的で可愛らしい少女であり、ランキングが上がると思っていた。
結果を言うならランキングは上がっていたが、予想程高くなかった。
「まぁ、入ってきてくれただけで、少しでも上がっているんだ。新曲が出れば、上がると思うよ……多分」
「そうね。これから五人のフォーメーションとか考えないと」
ランキングがあまり上がらなく落胆する千歌とは裏腹に光助は安心していた。
たった二人が加入しただけで、ランキングが上がったのだ。
この調子で新曲も発表できれば、きっとランキングも急上昇できるはずだと光助は考えていた。
「それなら、早速練習しようよ!」
ならば、善は急げと言わんばかりに千歌は早速練習をしようと全員に促す。
相変わらず突っ走る千歌に全員は和やかに笑う。
「それじゃあ、着替えて屋上に行こう」
「それなら俺は出ていかないと」
練習が始まるとなると、部室はAqoursメンバーの更衣室になる。
男子である光助が居続ければ、牢屋行きである。
クーラーボックスを肩に下げ、タオルやストップウォッチなどの器具を持ち、一足先に屋上に上がろうと光助は部室を出る。
「ちょっと待って。誰かいる……」
すると、体育館と校舎を繋ぐ渡り廊下からこちらを見る誰かがいた。
誰だろうと光助はマジマジと見ていると気づかれたらしく、それは慌てて物陰に隠れてしまった。
しかし、完全には隠れておらず、頭のお団子が出ていた。
「あそこにいるのは誰だ?」
「あれは……」
光助が茂みに隠れている猫を凝視するように誰か眺めていると花丸が部室から出て、その団子を見るやハッと声を出して驚く。
すると、その声に驚いた誰かは団子を隠して、無駄に大きい足音を立て、逃げてしまった。
「ちょっと待つずら〜」
「待て!どうしたんだよ花丸ちゃん!」
誰かを追いに花丸は行ってしまう。
一体、何なんだと光助は花丸を連れ戻すために、駆け出していった。
♢♢♢
「しかし、あれは誰なんだ」
花丸の追いついた光助は一体どうしたのだと理由を聞く。
「多分、善子ちゃんずら」
「善子?」
「まるのお友達で……不登校の子です」
「なるほど。ん?あそこに……何かいる」
すると、ふと光助はとある物に目をつける。
それは何の変哲もないタンス。
「あの中に?」
誰がどう見てもあの中に人など入っているわけがないと思うだろう。
しかし、光助はタンスの中から黒い霧のようなものが漏れ出しているのが見えるのだ。
恐る恐る、タンスの戸を開けてみる。
「本当にいた」
「な、何よ!」
タンスの中には膝を抱える善子が威嚇する子犬のような目で光助達を見ていた。
「お前は……あの時の」
特徴的な髪型のお陰で、光助は思い出した。
タートル初戦。そして、ゴウダメ戦の時に瓦礫に押し潰されそうになったところを助けたあの少女だ。
「それより、この子が善子ちゃん?」
「違うわ。私はヨハネよ!」
「は?」
光助は口をあんぐりと開け、呆然とする。
ハーフや帰国子女ならばヨハネという名前でもおかしくなさそうだが、見た目は外国人ぽくはなく、鞠莉のように変なイントネーションもない。
だが、根本的に突っ込むなら、まずヨハネは男性名である。
「くっくっく!私は堕天使ヨハネよ!あなた達はみたいな下界の人間達とは……」
訳の分からないの言葉を多用し、聞いてる光助は痛い奴だと思わざるを得ない。
高校生になっても所謂、中二病というものを患っているのかと光助は呆れてものも言えない。
「善子ちゃん!やっと学校に来たんだね!」
「そ、それより!ずら丸!」
「どうしたの?」
「あの……クラスのみんなは何か言ってなかった?」
「花丸ちゃん。よし……ヨハネちゃんは何かしたのか?」
「自己紹介に時にヨハネとか紹介して……」
「なるほど。事故紹介ってことか」
確かに高校デビューの時、ましてや自己紹介で恥ずかしいミスをすれば、誰だって学校に行きづらくなるに決まっている。
かと言って、本当に学校に行かないのはどうかと思うが。
「あのね、善子ちゃん。クラスのみんなは何も言ってなかったよ。むしろ、来てないことに不安だったり、心配してたよ」
「本当に?」
「うん」
「本当に本当に?」
「うん」
花丸の言葉を疑う善子。だが、善子の不安と裏腹にクラスメートは心配していた。
「よかった〜。まだいける!まだやり直せる!」
変に思われていないと安心した善子はガッツポーズをして喜ぶ。
「しかし、よしk……ヨハネちゃん。やり直すと言ってもどうするんだ」
「そう。そのためにはずら丸の力が必要なの」
すると善子は真っ直ぐ花丸に指を指す。
「まるが?」
「ずら丸!明日から私を監視しなさい!」
「監視⁉︎」
「そう!私は気が緩むと堕天使が出してしまうの。だから、それを止めて欲しいの」
確かに善子の言う通りならば、常に誰かしらのストッパーがいれば済む話だ。
「わかったずら。善子ちゃんの頼みなら受けるよ」
しかし、花丸は二つ返事で了承した。