リハビリ中なので内容には目を瞑ってほしいな
昼時の屋上。今、ここで花丸を覗くAqoursメンバーと光助は昼食を食べたいた。
「今日も飯が旨いな」
光助は梨子の母が丹精込めて作ったお弁当を頬張る。特に唐揚げがよく下味が染みて、絶品の一言であった。
「そんなに美味しいの?」
千歌はそっと光助の弁当箱に箸を伸ばす。
だが、そんな単純なことは既に見抜かれている。光助は届かない高さに弁当箱を持ち上げる。
「交換ならいいよ」
「わかった」
光助は鬼ではない。
「ちょっとちかっち?」
すると、千歌は今さっきまで使っていた自分の箸で卵焼きを掴むと光助の目の前に差し出す。
「ほら、口開けないと食べられないよ」
「でもこれってさ!?」
光助は顔を赤くし動揺する。このまま食べれば所謂千歌との間接キスになる。男女を理解できる大人や逆に理解ができないが故に問題と思わない子供ならばどうということはないこと。しかし、過剰に異性を意識してしまう思春期の若者、ましてや男なら責任問題にまで発展する。
「あ、あーん」
無自覚なのかわざとやっているのか。どちらにせよ、この危機を問題なく切り抜けるのは素直に好意を受けるしかない。
光助は震えながら差し出された卵焼きを食べさせてもらう。
「どう?」
「お、美味しい」
口の中に卵焼きの甘さが広がる。少しだけ砂糖の混じったそれは大変美味しい。だが、砂糖とは違った別の甘さが一際、中で主張する。
ふと、目の前の千歌に目をやる。笑顔が眩しく、思わず目をそらしたくなる。
「あーん」
「ちかっち?」
千歌は目を瞑って、口を開ける。
「ほら、早く食べさせてよ」
案の定、千歌は本来の目的の唐揚げを要求する。それもわざわざ食べさせる形で。
「な、なら箸を貸してくれないか!」
「なんで?」
「それは……」
このまま光助の箸で食べさせればまたも間接キスになる。しかし、思い返せば千歌の箸は既に光助が口をつけている。
四面楚歌と言ったところだ。
「間接キスになるから?」
明らかに動揺する光助の背後から曜がオブラートに包むことなく答えを言い当ててしまう。
「……ふぇ!?」
次第に事の状況を理解した千歌は自分の箸と光助の唇を交互に目をやる。そして、次第に顔が真っ赤に染まっていく。
「あわわわ! 私!」
「間接キスくらい気にすることでもないと思うけど」
激しく動揺する千歌を不思議そうに曜は眺める。
「き、気にするよ! だって、こうちゃんだよ!」
「光助君も気にしているの?」
「そりゃあ……ちかっちだし……」
二人の言い分を曜はぽけっとした様子で聞く。
曜にとって二人は大事で大切な親友だ。手を繋ぐことも肩を組むことも悩みを打ち明けられることも平然とできるくらいの関係性だ。
だが、千歌と光助はおそらくそれらが出来ない。仲が悪いからではなく、お互いを特別に思っているからだ。
「そっか……二人はそうなんだね」
心に針が刺さるような軽い痛みが曜を襲う。
「梨子先輩、どうしたの?」
ルビィは三人のことを苦しそうに見つめる梨子に声をかける。きっと話に混じれなかったことに疎外感を感じていると思っていた。
しかし、光助を真っ直ぐ見る瞳を見て、感じ取ってしまう。
「大丈夫だよ。ルビィちゃん」
梨子は精一杯の笑みを浮かべ、ルビィを安心させようとする。
「それなら千歌ちゃん。私の唐揚げ食べなよ。同じ味だから」
梨子は自らの頬を軽く叩くと自分の弁当箱から唐揚げを取り、千歌の弁当箱に入れる。すると、千歌は赤い表情で笑みを浮かべ喜ぶ。
「ど、どうしよう」
ルビィは驚きを隠せない。千歌と梨子は光助が好き。そして、光助は千歌のことが好きだと。
アイドルが恋愛など言語道断。それがマネージャーなら尚更。だが、アイドルでもスクールアイドル。多感な思春期の少女に恋をするなと押し付けるのは無理なことなのはわかる。
「このままじゃ……」
「助けて欲しいずら!」
今のAqoursに関係性にルビィが不安を覚えたその時、息を切らした花丸が現れる。
「花丸ちゃん!?」
「た、助けて欲しいずら!」
内浦の空に花丸の助太刀を求める叫びが響き渡る。