◯月×日
異変を前に、日記をつけることにした。
目を開けると幼児になっていた。
何を言ってるかわからないと思うが、俺も理解できなかった。だからこその日記をつけるなんて若者の至りそうにない奇行に走っているのだ。
まず聞こえたのは、ガシャンという何かを落とした音。次いで、キャアアアアア、という叫び声。
何だ、と不安になった。俺が何かしたのか、と疑問も持ったが、幼児から逃げようなんて馬鹿みたいだ、と思うと違う気がしたので、なすべきことがわからない俺はボーッとしていた。
結果は、俺の所為だった。
何でも、俺が立ったことに相当ご歓喜の様子らしい。俺が訊ねたわけではない。こういうのは、執事長のような奴が一人必ず説明をしているのだ。そいつから聞いた。言うには、「アシュラ様がお立ちになるのを、三年の月日、仏になった気持ちでお待ちしましたぞ!」とな。
つまり、俺は三年間立てなかったようだ。ははは、なんという無能っぷりだ。名前のアホさからも伺える。
どういう状況なのか理解は全く及ばないが、目を覚ました後の馬鹿騒ぎあって、今は落ち着き、普通では考えられないくらいに意識はクールだ。
さて、情報を集めよう。
◯月□日
兄上ェ……。
情報収集にも順序というものがある。まず、自分の置かれている身分や家族構成。次いで、世界の情勢を調べ、自身の住む国家がどのような立場であるかを知る。そして、自分の地域のことを調べる。まあ、所詮はラノベ大好きの変態高校生の戯言だ。無視してくれても問題ない。
俺は自分の中にある順番通りに、家族から調べることにした。
順序通りに、最初は両親だ。
母は知らん。どっかに蒸発でもしたのだろうか。ただ、本当に知らん。
次に父。こいつも知らん。いや、父に関しては、母親ーー俺のおばあさんに当たる人物ーーとの喧嘩で削れた大地を復興している、との事だ。しかも、その功績が讃えられてか、この家はかなりの名家であり、その副次的効果で多くのお世話役が居る。先日騒いでいたのはこいつらだが、如何して親子喧嘩に感銘を受けてお世話役になろうとしたかは全く理解できない。
兎も角、父はその仕事に忙しく余念もないために、俺たちが会うことは少ないようで、年に数回といったところらしい。勿論、最近目覚めたばかりの俺が会うことは叶っていない。
そして、兄弟だが、こいつが問題だった。
兄上、眉毛がワロス。何故だかおじゃる風。名前はインドラだってよ。神の名前を冠しているのに、おじゃる風の眉毛。はっはっはー。
しかも此奴がまた、天才なんだ。俺の兄である以上は、四歳以上なのだろうが、背格好は幼児と言っていい為、最高で七歳と言ったところだろう。その癖、漢字仮名交じりの厳しい文章をズラズラと描き殴ったり、バク転したり、水面に立ったり。
アメンボか。……いや違う。おじゃるだ!
ずうっと頭でそんなことを考えていたよ。
……しかし、この世界がNARUTOの世界とはね……。
◯月△日
NARUTO。チャクラという超能力を駆使して戦う忍者漫画。
主人公はうずまきナルト。順当にいけば、俺の転生者になるはず。
だがな、此処でゲームオーバーだ。
俺が転生者である以上はなぁ!
軽く絶望すること、二週間。本当、俺がインドラだったら、力に溺れたりしないルートに入って安全な道を辿れたのに、まさか俺が主人公の長く険しい道ルートとは。
無論、ラノベ大好きな俺だ。少しくらいは特典とかチートとかあるんじゃねえか、と考えて、何か色々と思案した。目をかっ開いて、「写輪眼!」って叫んだり、目をくわっとして、「万華鏡写輪眼!」っておらんだり。要するに、写輪眼が使いたかった。
結果は言わずもがな。やはり主人公には、才能がない設定らしい。
まあ、設定は設定だし。そう、アシュラが愛情云々で強くなったとかいうのも、あくまで設定だし。
設定というのは、ある一手が崩れた時点ですぐに崩壊してしまう砂上の楼閣。言わんとするなら、『アシュラ』の人格が『俺』という人格に変わっている時点で、設定というのは総崩れしているのだ。簡潔に言うと、当てにならん。
どうしたものか……。
兄は強いものを好む。逆説的に言うと、弱い者を嫌い、排除しようとするのだ。その辺はクレイジーサイコホモの前世というだけあるが、やはり俺のような無才の者がチヤホヤされるのも気に食わないようで、視界に移れば露骨に嫌そうにしてくる。その度に、子供か、と窘めたい俺であるが、相手は子供であった。そんな思いで優越感に浸りながら、ガキっぽい兄の態度に内心でほくそ笑んでいる。俺の方が大人だな、と。
兎も角、なんだかんだと言っても父はいつか死に、当主の座は俺か兄かに与えられる。無論、一般ピーポーの俺が乗り移った事で、俺が当主の座を得る設定はゴミ箱にダストシュートされているが、だからと言って兄を当主にすれば、強権執行で俺は排除されるだろう。そうなれば生きていけない。
しかし、当主に俺がなったとしても、原作にあるように兄は納得せず、俺と喧嘩しようとしてくるだろう。実にアホらしいが。そうなれば、幾度となく突っかかって来るだろう。想像するだけで、生きるのが面倒くさい。
結論、何方もダメ。どっちにしろ、兄は面倒くさい。
ただ、どちらのルートに走るにしても、力がなければ其処までに至れないだろう。
だから、俺は修行をすることにした。
うん、クレイジーサイコホモの先祖に目をつけられたと思ったら、俄然やる気が出てきた。
今なら、どんな拷問でも受けられそうな気がする。
テキトーな主人公強化フラグ。
さて、何処まで強化するか……。