阿修羅転生   作:サボリ魔ー

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長いです。


阿修羅日記 終之話

 ◎月◎日

 

 依然として答えは出ない。

 俺は脳を働かせる機能を損失させた猿だったのか、と思い到ると同時に、如何すれば治るのか、と阿呆な事まで考えてしまった。

 その間、兄で頭が一杯だったのは忘れたい過去である。

 

 兄の様子を結局、あの後何度も抜き打ちのように審査した。

 時に何も語らず修行して、時に俺の名前を呟きながら修行して、時に俺の絵が描かれた抱き枕を抱いて寝て。

 少々、頭の中の様子を弄って、破壊してしまいしたかった。大々的にやっても良いかな、とも思った。

 

 しかし、兄が何故か涙を流す度に胸が締め付けられるような気分になるのだ。とても嫌な気分、と言いたいところなのだが、逆に嬉しいと感じてしまう。

 俺は変態さんだったのか、と思い到ると同時に、如何すれば治(ry

 考え過ぎるとすぐにゲシュタルト崩壊を起こす、この脳みそを如何にかしたいと思った次第である。

 

 兄は死なねば、と言っていたが、あんなに綺麗な心の兄である。何も死ぬ必要は、と思うのだが、如何やら兄にも色々とあるようだ。

 不自然極まりないが、まるで死ぬことしか頭にないとも思えるほどに兄の死への執着は激しい。怖いのは昔からだったが、優しさを知った今ではその怖さは根源的なものがある。

 

 だが、今の現状で俺にできることがないのも事実であるので、俺は今日も修行へと身を投げ込むのだ。

 修行の時が一番気が紛れるのだが、最近は範馬刃牙のように、イメージが敵になって襲いかかってくるのだ。勿論、胸一杯に広がる兄が、だ。

 いつもいつも自分を自分で殺しそうで嫌だ。

 

 

 

 ▼月▼日

 

 遂にこの日が来た。

 

 父が瀕死。

 

 十尾を抜いて、それを一から九の尾獣に分けて、尾獣として野に放ったのだ。

 十年前のこの日は俺の八歳の誕生日であり、日記をつけた日だ。そして、十年前の一ヶ月前に俺の生命力が開放し、父が悩み始めた日でもある。

 恐らく、十年前から今日を予定していたのだろう。そして、一ヶ月前に十尾を抜いて、父は昏倒した。尾獣は皆、無事に野を駆けて行くのを俺は感知した。

 

 今は、脳を働かせる機能を損失させた変態猿にでも乗り移ってるんじゃないかな?

 ん? 全尾獣。

 

 ……まあ、個として完成されている馬鹿どもだ。きっと問題ないのではなかろうか。

 

 そして、タイミング的に父は尾獣達が宿主を見つけたら目覚めるつもりだったのだろう。精神で繋がっている尾獣達を実の息子のように遊んであげる様子は微笑ましくも、ぶん殴りたい気分でいっぱいだった。

 あのジジイ、あんなにモフりやがってェェェエエエェェエ!

 

 さて、瀕死のジジイは一応、最後の仕事がある。

 それこそが、次期当主の指名である。

 

 俺は大筒木の地へと帰り、兄と顔を合わせた。

 あのツンデレ振りを見せてくれるのだろうかと期待し、それを心待ちにしていたのだが、兄の様子はおかしかった。

 俺は瞼を閉じて、視界を絶った上で転生眼を使い、兄の身辺を色々と調べた。

 結果、兄の目は濁っていた。

 

 何故かは分からない。

 いや、一つだけ思い当たる理由はあるにはあるが、早すぎるし、無理がありすぎるのではないだろうか。原作では、彼奴は俺にインドラが負けると出てきたはずで、そもそもあれは本気でインドラが自分が次期当主であるはずだ、と思い上がっていた事が原因で誑かされた筈。

 しかし、この世界のインドラはまるで別人と言ってもいいくらいに綺麗だった。だと言うのに、何処に堕ちる様子があったのであろうか。

 

 父の部屋では父が体を起こしていたが、その顔にはありありと死相が浮かんでいた。

 もうじきに死ぬのだろう、と誰にでもわかるくらいに衰弱していた。

 

「一から九、尾獣に宿主が現れた。もう憂はない。

 ……お前達を呼び出したのは次期当主の件の事だ。それぞれが信念を胸に掲げて今日この日まで精進してきたと思う。

 しかし、選ばれるのは一人。その結果だけは変えられん。故に、お前達二人の内から一人を選ばねばならんのだ」

 

 だが、意外と元気だったようで、思いの外。喋った。

 起き抜けにえらい喋るな、と突っ込みたかったが、空気を読んで自重した。

 

 俺と兄は肩を並べて座していたのだが、父がここまで言い終わった後に兄がフッとほくそ笑んだのが、まるで、自分を選ぶだろう、と思って止まないようだった。

 

 やはりおかしい、と思った。

 如何してここまで成ってしまったのか、何が起こったのか、俺は一度精査したかったが、すでに賽は投げられた。

 待ったをかけることは叶わないのだ。

 

 それでも、やはり真実を知らねば気分が悪い、と俺は色々、本当に種々様々な事を調べた。だって、俺の兄に手を出したんだから、死ぬくらいじゃあ許して上げられない。

 

「単刀直入に言おう。

 ワシの次に、大筒木の当主となるのは、

 

 

 ーーーアシュラ、お主じゃ」

 

 ジジイがそう言うと、兄は反抗しだした。

 だが、俺にとってはどうでもいいことだ。今は真相の追求である、と俺は探り続けた。

 

 答えは実に簡単で不愉快であった。単純でわかりやすい原因ゆえに、苦々しい思いで一杯だった。

 全ては、俺の所為だった。

 

 俺が開いた霊脈に巣食っているようだ、あの野郎。霊脈の力は俺の転生眼の力の進化の所為で殆どを吸い尽くしたが、その搾かす程度でも啜っていく事で、力を取り戻すのに成功したらしい。

 まっこと面倒なのは、くたばりぞこないであるな。

 

 俺がそんな事を考えていて、話を聞いていない内に話は終了したようだ。

 明日に決闘を行い、勝者を当主とするらしい。

 俺もそれを受けた。

 恐らくだが奴は、兄の体を乗っ取って復活でもしようと考えているのではないだろうか。

 

 フハハ、その時を叩く。

 

 俺の家族に手を出したらどうなるか。

 目にもの見せてくれるわ……!

 

 

 

 ∞月∞日

 

 俺は兄に勝った。

 強かった。この上ないくらいに強かった。

 

 まずは忍術だが、そもそも俺は使えない術が比べるべくもない。というか、兄は原作、アニメを問わず、陽のチャクラと尾獣のチャクラが必要な忍術以外は、全ての忍術を行使していた。

 しかも、その火力も申し分ない。一発一発に混じっているチャクラの量が馬鹿にならないものであった。

 

 しかし、相手が天才でバリエーション豊富であろうと、俺の一芸に秀でたその破壊力もさるもの。どんな物でも貫き通して見せた。いや、貫けて当然だった。

 何故なら、兄の持つ精神エネルギーは、それそのものが精神性に影響されるのだ。あそこまで濁っていて、本当の火力が出せるわけもない。現に俺は仙術すらも使わずに勝って見せた。

 

 次に身体能力だが、やはり格闘術を身につけた兄は、俺の超絶的な身体能力の攻撃を捌いて見せた。驚きもしたが、矢張りスピードに撹乱され、超威力で攻撃を食らえば精彩に欠けるというもので、次第にスピードは落ちて行き、俺のストレートを食らった。

 余りにも綺麗に決まりすぎたから、「やったか……⁉︎」とフラグを立ててしまった俺は悪くないと思う。

 

 結果、兄は生きており、俺に反撃をしようとしていた。

 原因はイザナギだ。それも、まだうちはと千手に分かれていない俺たち兄弟であるから、デメリットなどあるはずもない『完全』なイザナギだった。

「インチキ効果も大概にしろ」と言いつつも、拳を振るうスピードをあげる俺。

 

 そして、やがて兄は須佐能乎を出した。しかも、なんと小さく自分に纏うくらいに凝縮させて、だ。

 

 そこからは、普通に殴り合いだった。

 俺も蛙の仙術を発動して、蛙組手をしながらの打撃戦だ。

 山が消し飛び、海が裂けて、天が割れて、大地がヒビ割れて、森が穿たれる。そんな殴り合いだった。

 特に、俺の拳と兄の須佐能乎の刀がぶつかった時は酷かった。

 辺り一帯が更地。というか、砂漠になった。

 ああ、これが砂隠れになるのか……と妙に感慨深かった。

 

 そして、終盤に差し掛かると兄は瞳術を披露してくれたが、なんと時間干渉系の能力で、自己加速と周囲の減速をして来た。

 それに押されだすも、俺が六道仙人モードと転生眼モードを使い始めると一気に形勢は逆転した。

 

 そこからは俺の圧勝だった。

 あっという間に勝敗は決した。

 ただ、兄は操られていなければもっと強かっただろう、と思った。いや、逆に操られていなければ本気では戦ってくれなかったかもしれない。

 でも、それでも俺は操られていない兄と戦いたかった。

 

 兄は意識を取り戻すと同時に、自分の腹を切った。切腹である。

 俺には何も言えなかった。

 だって、兄の表情は悲しみで満ち満ちていたから。

 

 それでも、兄はこう言ってくれた。

 

「アシュラ、大丈夫だ。お前の強さは分かっている。自分の信じた道を突き進め」

 

 と。

 そして、兄は自分の目を抉り、俺に投げた。

 落とさないようにキャッチはしたが、如何して、と問うために、兄の顔を見れば、兄は自分の首を掻き切っていた。

 

 その時、瘴気のような何かが拡散したのを俺は見た。

 

 兄の死に悲しみはあるが、如何やら俺には仕事が最後に一つ、残されているらしい。

 

 ーーーーー

 

「インドラノ奴、意外ト役ニ立タナカッタネ」

 

 鍾乳洞とはまた違う神秘を魅せる、黄白色の洞穴の中であった。この中ではチャクラが具現化したように輝き、思い出の一欠片一欠片が舞い上がっては手元あたりを浮遊する。触れようと手をかざしてみても、軽すぎる故に触ることすら許されないままに、虚空に消えていく。

 黄白色とはいえども、光の差さない空間にあることには違いなく、水溜りの水面が揺れて発光し、それを反射する範囲以外は真っ暗闇の人の目に優しくない場所であった。

 その中にあって、琥珀色に輝くものがあった。それは、闇をも凌駕する漆黒の身を持っており、口元は裂けているが、黒さ故に境界がなく、何処からが顔のパーツなのか曖昧な生物であった。

 

 その生物はカタコトのような、聞き取りにくい言葉で呟いた。裂けた口からは喋りにくかったのだろうか。いや、固より喋る機能は必要ないと断じているのだろう。

 

「カグヤノ復活ヲ急ガナイトイケナイノニ」

 

 生物であるのに、その生物には感情があるとは思えなかった。しかし、人並みに焦りという感情を表に出している様子を見るに、人間に近い生物であるのかもしれない。

 

「インドラガ上手ク、彼奴ヲヤッツケテクレレバヨカッタノニネ」

 

 その生物、ゼツは先程まで自分が操っていたインドラを嘲った。天性の才覚がありながら、あの無才の弟に負けるというのはつまり、インドラこそが本当の無能に他ならないのだ。

 ゼツはせせら笑うと、

 

「インドラノ女ハ妊娠シタヨウダシ、モットカカリソウダケド、ドウニカ利用デキソウダ」

 

 そう漏らした。

 それはある男からしてみれば、許し難いものであった。兄を嘲り、更にはその大切な人達にも手を出そうとしている卑しいこの生物をその男は許せなかった。

 固より頭の悪い男であった。考える前に体を動かす事を旨とした脳筋であった。

 そんな男であるのだから、賞賛してもいい。よくぞここまで耐えた、と。何よりも自分を一番わかってくれた兄を唆し殺した挙句に、その兄への罵詈雑言を聞かされ、剰え兄の遺産にまで手を出そうとしたのだ。

 誇ってもいい。兄への侮辱を真相の究明の為に歯を食いしばって耐え忍んだ事を。

 然るに、真相を聞き届けた今は、忍ぶ必要はないのである。

 

「ナ、何ダッ‼︎⁉︎」

 

 そしてその時、凄まじい地響きとチャクラの奔流が押し寄せた。その程と言ったら、先程の戦闘すらも児戯に変容させてしまう絶対さである。

 この次元の強大さとくれば、最早誰にも想像し得ない領域である。いや、太陽ならばここまであるかも知れない。その質量、そのエネルギー、その赫き。

 全てが地球の枠組みを超えて、太陽という宇宙まで超越するものだ。仙人すら届かなかった領域にある。

 

 そう思い至って、黒ゼツは自分を断罪しに来たのが、神であると悟った。

 神はカグヤを許しはせず、その権威を失墜させた。ならば、その復活を目論んでいる自分もまた神に刃向かう敵だ。

 神は敵を許しはしないだろう。民を脅かし、星に危険をばら撒く存在を放って置いたりするような甘い存在ではないのであるから。

 然るに、神が自分に与えるものなど決まっている。

 

「イ、嫌ダッ!」

 

 コツ、コツ、と足を踏みならす音が大きくなる。近づいて来る。側に来る。目に映ってしまう。

 それが黒ゼツには堪らなく怖かった。拒絶したかった。恐怖以外に感情が存在しなかった。

 母の復活のためにと活動してきた。何時なんどきも母の事を一番に考えて行動してきた。

 しかし、今回ばかりはそうもいかなかった。それは当たり前の感情である。生物として存在する以上は、怖いものはある。

 それは逃げたいもので、決して迎え入れたいものではない。生きとし生けるもの全てが肯定せず、逃げて逃げて逃げ回ってでも、回避したいと信じるもの。

 

 それは死。

 

 コツ、コツ、と死の足音がする、

 コツ、コツ、と死が近づいて来る。

 コツ、コツ、と死が闇を割いて来る。

 

「イ、嫌だあああああああッ! 絶対に死にたくナイッ!!」

 

 黒ゼツは逃げようともがく。

 しかし、圧倒的な力の前では無力。もがけどもがけど、体に痛みが走るだけで、何の成果も得られない。

 それでも嫌だった。死ぬのだけはごめんだった。

 だから、体を動かす。必死に、決死に体を我武者羅に動かした。

 

 しかし、結果は無だった。

 

「お前はお終いだよ、ゼツ」

 

 死が語りかけてきた。終焉を告げて来る。

 それでも諦められない。生きる事を投げられない。

 今程に生に執着したのは無かったであろう、とゼツは妙にはっきりした意識で思う。

 そして、ゼツは死と目を合わせた。

 

 真っ白い目の上に浮かぶのは、青い蛇が己の尾を食らわんとする姿。

 

「あ、あ、あ。あ。あ。あ。あああああああああああああああああああ!!」

 

 おかしくなった。

 急に、ダメになった。

 生きたい、けれど、ダメだ。

 

 あれは生物じゃない。

 

 ゼツが、半ば諦めの念を抱き始めた時、バタンと音がした。

 後ろから響いたのだが、扉が開いたような音だった。そんなものはこの洞穴に無かったはずなのに。

 

「ア」

 

 振り返って後悔した。

 大きな扉が開いており、その中には闇を割いて出でた大きな瞳があった。

 それは自分に生への希望を思い出させたのだ。

 何故、思い出したのか。何故、思い出させるのか。何故、忘れたままでいさせてくれないのか。

 これでは、諦められないではないか。

 

「イ、嫌ダッ。死ニタクナイッ!」

 

 触手が扉の瞳より這い出て、ゼツを引きずり込もうとする。それは永遠の終わりのようで、引きずり込まれたら永遠の地獄を見せられるような、最悪の結末しかないのがわかる、最も回避して然るべき道。

 逃げる。足掻く。手で触手を振り払う。

 しかし、全てを知っているように、全部が織り込み済みなように、触手は動く。

 

「いやダァあああああ!」

 

 グッと触手に握られると、体が浮く。

 ふわりとした浮遊感は、ベクトルを持って引っ張られる。

 闇は柔らかかった。

 それだけだった。

 

 バタンと扉が閉じ、ゼツは扉の向こうへと消えた。闇に飲まれ、包まれ、やがて一つになるのだろう。

 きっとそれは、真理への到達をすら意味する事である。

 

「……兄さん。仇は打ったよ。

 

 でもどうやら、俺もこれでお終いみたいだ……」

 

 ーーーーー

 

 力が漲ってくるのがわかる。

 ゼツを消したあの瞬間からさらに膨れ上がっている。

 いや、これは上昇しているというよりも、俺本来のチャクラに戻っているといったほうがいいだろうか。

 影分身が死んでいっているのだ。奴等も本懐はあくまで影分身であったという事か。

 そして、影分身が消える以上は奴らの経験とチャクラ、手にした能力が俺に還元されていく。頭の中には、幸せな記憶も絶望した記憶も修行しかなかった寂しい記憶も混濁し、一緒くたになって駆け巡っている。

 だからこそわかるのだ。

 

 恐らく、俺の死もそう遠くないだろう。

 

 死から逃げようとは思わない。兄さんに会えるならそれでいいし、仮に逃げたとしても待っているのは所詮、人間ではない俺の何かだ。

 そんなのどっかの蟲爺だけで十分だ。俺は人を外れたりは絶対にしない。

 

 ただ、兄さんと語り合いたいという気持ちの反面、兄さんが俺に与えてくれようとした幸せを実感して、兄さんへの感謝としたいという気持ちもあるのだ。なんというか、俺の自惚れでないなら、あの兄は、俺が幸せを掴んだ所を見たいんだと思うのだ。それに兄さんが与えようとした幸せを放棄するのは少し忍びない。

 ……結局は、まだ死にたくないと思っているのかもしれない。死を覚悟していても、やはり未練はすっぱり切り離せないものだ。

 でも、既に影分身という生命が消え始めている。俺と同意存在が消え、俺の都合で呼び出した存在が消えていく。だというのに、俺だけが死を免れようなど甘い考えだ。

 

「兄さん……」

 

 俺の目がどういう色をしているのかは分からない。

 何故なら、俺は兄の輪廻眼と自分の転生眼を重ねたから。

 既に俺の目は人の知れる領域に止まってはいまい。

 ただ、それでも家族、いや兄さんの遺してくれたものを肌身離さず持って居たかった。不倶戴天の敵が実は、一番の理解者だった。だからこそ俺も、愛情の裏返しで発動する写輪眼の最高系、輪廻眼を理解したかった。

 

 まあ、その結果は輪廻眼も転生眼も超越したものだけどな。

 

「だが、……あれは真理の扉?」

 

 輪廻眼と転生眼を合わせて出来た眼で発動した能力で、兄の輪廻眼から走ってくる感覚では、閻魔のような悪魔が魂を抜き取る地獄道を発動させたものであった。

 しかし出てきたのは、【鋼の錬金術師】のエドワード・エルリックのセフィロト・ツリーの描かれた真理の扉だった。予想に反するもほどがあると思ったが、あれは即ち、俺が人外である事の証だったのかもしれない。

 

「まあ、それもそうか……」

 

 輪廻眼の司るのは『破壊と創造』、転生眼が司るのは『生と死』。

 そして、俺自身の再生能力と無限に湧き出るチャクラ。

 まさに、ウロボロス。

 

 ああ、それに俺と兄の眼が重なったんだ。

 そんなもんだろうなぁ。

 

 だったら、この眼の名前は、真理眼だ。

 真理を見たでも、真理を究明するでも、真理を既知とするでもない。

 ただただ、自分の中に真理を敷くだけ。それだけだ。

 

 

 

「さて、そろそろお終いか……」

 

 お迎えのようだ。

 まだまだ生きたいと思うし、逆に兄と語らいたいとも思う。

 

「あ、そうだ。転生すればいいじゃん」

 

 簡単な事だった。転生すれば、また生きられるじゃないか。それに、兄さんと会えるように設定すればその時間に飛べるんじゃないだろうか。

 

 ……いや、兄さんと会うと自分の今までを否定するような感じがしてダメだな。

 

 ま、その前に人間に転生できるかどうかだけども。

 

 ああでも、次の世界もNARUTOがいいなぁ……。

 

「頼んだぜ、『輪廻』眼と『転生』眼……」

 

 こんな事を半ば心で期待しながら口にする自身に対して、乾いた笑みが浮かんでくる。

 

「ハッ、未練タラタラじゃねえか……」

 

 本当、ダメだな俺って……。

 

 ーーーーー

 

 天より降り注ぐ陽射しの元に、一本の大きな大樹があった。

 それはそれは、大きな大樹であった。

 山を越え、雲を突き抜け、宇宙にも届かんとすら思える程に高く、大きく、厳しかった。見上げるほどに首が痛くなる、不親切な大樹である。

 

 しかし、人は言うのだ。

 

「これは世界の樹である」

 

 と。

 

 何故、この樹が此処まで延びたのか。

 何故、この樹がこの地に根を張ったのか。

 何故、この樹が育ったのか。

 

 何故、この樹が生きているのか。

 

 人は知らない。語ることもない。

 ただ、厳然としてそこにある真実の樹。

 

 人はこれを、『世界樹』あるいは『セフィロトの樹』と呼ぶ。

 

 母親に手を引かれた一人の少年がこの樹を仰ぎ見て、ポツリと呟いた。

 

「お父様……?」

 

 その言葉に少年の母親は何も答えない。

 ただ、これだけは、と残す。

 

「貴方のお父さんはね、凄い人だったのよ」

「……それは前にも聞いたよ」

「そうね、だけど貴方はまだ分かってないわ」

「え?」

 

 母は何も答えない。

 いつもだ。肝心な所は答えない。だから、父が消えてしまうんだ。

 少年は口を尖らせるも、母親は既にそちらを向いておらず、世界樹を真っ直ぐと見ていた。

 

「ねえ、お母様は如何して見上げないの?」

 

 先程からの疑問だった。母は、豊饒を司ると言われる世界樹の葉を見上げようとはしない。それどころか見る価値もないような樹の幹に目を向けたままである。

 何が楽しいのか理解出来ないし、こんな縁起の良いと言われる場所にまで来て、茶色の樹の幹に生えた緑苔を眺めている理由が考えられない。

 

「……。」

 

 母は答えない。

 だけど、分かった。

 何が分かったかは分からない。でも、母の涙を見たら続きを問う気などまるで失せた。

 悲しみの色もある。ただ、多分に含まれるのは愛情と慈しみ。

 自分が如何して此処まで人の心の機微に聡くなったのか、少年には分からない。

 

「……いや、まさかね」

 

 少年はペタリと樹皮に手を触れてポツリと呟く。

 

「帰りましょうか?」

「うん!」

 

 そろそろ飽きてきた頃だった少年には母親の言葉は、乗る以外の余地などないものであった。ただ、あんなにも真剣だった母がこうも簡単に、帰るか、と問うて来るのには少しだけ違和感があった。

 気まぐれなんて不確定ではないだろうし、帰らねばならない用事などは無かったはずだ。分からないが、母にはもう帰る値する程のものに成り下がったのだろう。

 そう思っていると、既に母は先を歩いていた。だいぶ距離が開けられている。

 追いかけようとした少年に声がかかった。

 

『いつ如何なる時も、耐え忍ぶ事を忘れるな。【忍】とは耐え忍ぶ者を云うのだ』

「っ!! 誰だっ⁉︎」

 

 少年は叫んだ。

 答えはない。

 すぐそこで、耳打ちされるように声を聞いたというのに、辺りには誰もいない。聞こえるのは、捲れ上がった樹皮の隙間に風が吹き込んで甲高く鳴らす音のみである。

 それ以外は何もない。

 

 一通り辺りを見渡した少年は、自分がおかしくなったのではと思ったが、沸き立つ心の暖かさを感じるに、逆上せていたのだろうか、と思う。

 少年は振り返り世界樹を見て、自分がこんな物の何処に心地良さを覚えたのか、と疑問を解消しようとする。

 

「……いや、やめた。なんか馬鹿馬鹿しいし」

 

 本当は声の主を知りたかったし、本当はこの感情の動きを知りたかった。

 何よりも、胸を占有して余りあるあの言葉の意味をもっと知りたかった。

 

「明日間! 早く来ないと置いていくわよ!」

「ごめん! 今行く!」

 

 母親の声がかかるとすぐに、少年、明日間は考えるのをやめて、母親の元へと駆け出した。

 不思議と足が軽いのは何故だろうか。いや、縁起の良い場所まで来て不審な声を聞いたのだ。これくらいの恩恵はあってもいいものだ。

 

 明日間が横まで来ると、母親はすぐに明日間の手を取って、真っ直ぐに前を向いたままで明日間にこう言った。

 

「貴方のお父さんはね、影分身っていう、いつ消えるか分からない人だったのよ」

「え?」

 

 いつもは何も語りたがらない母が、唐突に馬鹿げた事を言った。ただ、普段喋らない人の言葉は重く、それが嘘だと思えるような事は極端に少ない。

 例に漏れず、自身もだった。だが、それだとよく分かる。0歳という自我すらない時期で、一番最初に覚えさせられた感情がウザいで、何故かその時から自我を覚えて呆れさせられるくらいな程の異常な親バカオヤジ。

 だが、父が大好きだった。気色悪い構い方だったが、それが一歳には嬉しかった。

 一年で消えてしまったが、そんな余命幾ばくかだとしたら納得出来る。父を大好きだった自分はよく母の所為だと思い込んで、自分の所為だとは考えなかった。いや、思いたくは無かったのだ、自分が父が消えた理由などと。

 

『耐え忍ぶ者』

 

 正にこれか。

 苦しい中を必死に耐えて、汚い自分を忍んで。

 

 まるで母のようだと思う。

 嫌疑の目を向けても母は何も言わず、 子供である自分の悪感情の捌け口となってくれた。

 これが忍なのだろうか。だとしたら、かなり損な役回りである。

 

 ただ、これがカッコいいと思ってしまうのは、自分が青いからだろうな。

 

「お母様、僕も頑張ってみるよ」

「ええ、そうね」

 

 何が、とは言わなくても伝わるものらしい。

 やはり忍んで来た母は凄い。それと同時に今漸く気付けた自分が恥ずかしい。

 愚かしかった自分を省みるのはかなりクるものがある。

 

「こういうのを千手の誓いっていうのかな?」

「……明日間、貴方は誰に似たらそんな残念な頭になるのかしらね?」

「ええ〜」

 

 良くない傾向だと思いちょっとした冗談だったのだが、それも外れて母に馬鹿にされた。心が痛えや。

 でも、頭は多分、父からの要らない贈り物だと思う。うん、ほぼ確実に。

 

「千手、か……」

「それがどうかしたのかしら?」

「いや、お父様が良くやっていたなぁって」

「そうね」

 

「自分も出来るかな?」と明日間は笑い、「……お父さんの子なら出来るわよ、きっと」と母親が返す。

 あまり感情の変化のない母に明日間はムッとするが、文句を言ういつもとは違い、『忍』という文字が脳裏によぎった。すると急に、思考がクールになっていった。

 外部から影響を受けた気がするし、自分の意思が制御を離れているようで、なんか嫌だな、と明日間は思う。

 しかし、明日間はそれが、何処か誇らしく思えたのであった。




真理眼・地獄道
対象を片手で掴み、問いかけを行う。
この時、対象者の背後に真理の扉が現れ、少しでもアシュラの気にくわない所があると投げ込まれる。

嫌にあっさりとしつつも、最後の一強化は忘れずに入れて、意味深なエンドをする序章。
作者にはこれが限界でした。
しかも、原作キャラクターと名前の被ったっぽい『明日間』なんて入れてごめんなさい。他に良いのが無かったんです。そして、鋼の錬金術師ぶっこんですみません。
インドラの戦いは注意書きに書いてあった通りだから良いにしても、二人とも死ぬって言うバカな展開でごめんなさい。

因みに、明日間とインドラの子供は、二人共が何故か相手が親の仇であることに気付いて、喧嘩を始めます。どうしようもないね。

今後は、原作まで前日譚を書いて行こうと思います。
今後とも精進しますので、応援よろしくお願いします。
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