プロローグ
楽しかったんだ―――本当に、楽しかったんだ―――
けれど、あと数分で何もかもが消えてしまう。冒険した世界も、仲間と語り合った場所も、思い出が詰まったここも―――すべて泡のように消えてしまう。
見渡せばあんなに試行錯誤をし豪華絢爛に作ったここも、ガランドウで寒々しい。
他の誰かが残っていればと思い―――そして頭を振った。
仕方がないのだ。それぞれに事情があり、これはただのわがままでしかないのだと、ギュッとギルドの証を握りしめる。
―――なのに、現実では涙が止まらなかった。歯を食いしばるほどに唇が震えた。
ギュウギュウと胸が痛くなる。楽しく、幸せだと感じていたあの日々が過去の物となる。その事実が辛くて、最後の日に来てくれなかった彼らが恨めしくて、明日から何を生き甲斐にすればいいのかわからなくて・・・。ごまかすように「明日は5時起きかぁ」と愚痴をこぼした。
もう十数秒しかない。頭の中でカウントダウンをしながら想う。
15、14、13、12、11―――
こんなに辛いのなら知らなければよかった。幸せを知らなければ絶望なんて覚えなかったのだ。
10、9、8―――
ああ、いっそのこと自分もこの世界ごと消えてしまえればいいのに
7、6、5―――
こんなに辛いのならすべて忘れてしまいたい
4、3、2、1――――――――――――
すべてを
バタバタとローブがはためいている。全身に叩きつける風の強さに目を開ける。
最初に頭に浮かんだのは美しいという言葉。青く輝く星はもはや見ることはかなわないと言われた星の過去の姿に似ていた。
その星はどんどん大きくなり、暗かった周りが明るくなっていく。白い雲を突き抜け、様々な生き物の営みが見えた。街が見える。走り抜ける動物もいる。美しい川が流れている。横切る鳥がいる。人間の集団が馬を駆っている。大きな森が見える。横には小さな村―――。
ふと、村の様子がおかしいなと思った。騎士が、村人を追い立てている。
ああ、森の中にも・・・少女が二人、騎士に追いかけられている。捕まった。しかし、素手でフルプレートの騎士を殴り逃れた。手を引いているのは妹か?ああ、斬られた。もうだめだろう。けどどうして騎士に追いかけられているのだろう?罪人か?それとも他国の侵略か?抵抗無き子供を斬り付けるような正当な理由があるのか?ああ、でも俺には関係ない。だって知りもしない赤の他人だ。
そう、俺に正義の味方は無理だ―――
その日、トブの大森林に凄まじい轟音が轟いた。