記憶喪失の神様   作:桜朔@朱樺

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帝国観光

 

 

 

急ぎの用事もないし、観光してみたいとモモンは"漆黒の剣"と共に帝国を訪れていた。

ランクも上がり、報酬も増えたことで、そろそろ質の良い防具が欲しかったので他国との貿易が盛んな帝国にわざわざやってきたのである。帝国と王国は戦争中ではあるが、冒険者なら結構簡単に入国できるものらしい。戦争に加担しない前提があるからこその自由さだが、モモンはいろいろ心配になる。スパイとかだったらどうするんだ。

 

まあ、それは置いといてここからどうしようかと話し合う。ペテル達は買い物もしたいしニニャは帝国の魔法学院や研究施設に興味がある。帝国の冒険者組合も覗いてみたいと希望が次々と浮かんでくる。しかし、滞在できる時間は限られているので結局効率よく手分けして用事を済ませようという話になった。

 

モモンは誰と帝国を回ろうかと考えた。

 

初めての帝国だしお城を見てみたい気もするし、他国の冒険者組合はどんなものだろうと気になる。しかし、やはり魔法詠唱者(マジックキャスター)としてなら帝国魔法省も捨てがたい・・・。いやいや、遊びに来たわけではないのだし、買い物を手伝うべきだろう―――と、思ったがルクルットがやっぱりアンデッドだから墓場が気になるか?(笑)とかいうので手伝いはなしにした。

 

 

 

 

*****

ニニャと帝国魔法省へ。

*****

 

 

やっぱり魔法詠唱者(マジックキャスター)として、最先端の魔法と言うものがみたいのでニニャに同行することにした。日々新しい魔法を作り出す場所だと聞けば、行かないわけにはいかないだろう。ただ、学園の見学は問題なかったが、近衛兵に魔法省自体の立ち入りは禁止されていると言われてがっかりした。―――まあ、国としても重要施設だから当たり前だが。

めぼしいスクロールを買ってペテル達に合流しようかと話していると、突然 ザ・魔法使いなじいさんに声をかけられた。こちらがオリハルコンの冒険者と見ると、何の用か聞かれ、魔法省の見学に来たが断られたことを話すと、ザ・魔法使いはあっさりと近衛兵に話を付けて通してくれた。

魔法省の案内をされながら話をよく聞いたら、なんと帝国最強の魔法詠唱者(マジックキャスター)で魔法省の最高責任者のフールーダだった。何でもオリハルコン級のニニャと話をしたいらしい。

 

「若いのにそこまでの位階の使い手とは」

 

タレント能力でニニャの魔力を見抜いた老人に、ニニャは魔法適正のタレント持ちなので、比較的早く魔法習得できるのだと説明すると「ほう」とフールーダの目が少し剣呑な光を帯びた。

 

「・・・羨ましいことだ。私のタレントもそれであったら」

 

続く言葉を飲み込んだフールーダは、目を閉じた。

 

ニニャと同じタレントであったなら、もっと早く今の域まで到達できただろう。そして、もっと魔法の研究を先に進められたかもしれないと寿命が迫っているフールーダはニニャに嫉妬した。

 

しかしとフールーダは頭を振る。今は若造のタレントを羨んでいる時ではない。フールーダの目的は横にいる戦士である。

実はフールーダは我が師が望んでいる人物を献上すればさぞ喜んでいただけるに違いないと、下心満載で二人に話しかけたのだ。誘拐はさすがに出来ないが、つながりを持ち、後々絡めていけばいいとフールーダはモモンにチラリと視線を向ける。

すると、モモンはなぜか天井を見上げていて首を傾げてしまう。

 

「何か気になるものでも?」

「ああ、いえ。変わった警備の仕方だと思いまして」

 

何の話かと問えば天井を指さされ―――

 

 

 

 

「天井に忍者を配置っておもしろいなぁと」

 

 

 

 

 

言われて見上げても、どこにも忍者などいない。が、フールーダがすぐさま不可視化を看破する魔法を使えばまさに天井に張り付く忍者がそこに居た!

 

「曲者じゃ!!」

 

すぐさまフールーダが<電撃>を放つが、雷より早く忍者がそれを避ける。そして不可視化を解いたらしいそいつは華麗に着地するとすぐさま走り出した。弟子達が突然現れた忍者に驚き、慌てて捕縛しようとするが風のようにすり抜けられてしまう。警備兵が慌てて出口を固めると、忍者は急停止しすぐさま踵を返すと鉄板で固められた窓に向かう。

鋼鉄の扉の窓をこじ開けるのは不可能だ。たとえ可能だといても破るのに時間がかかると、誰もが思ったが―――

 

忍者は腰に差していた二本の短刀を抜き去ると光の早さで切り裂いた。

そしてそのまま腕をクロスさせて窓を破ると、そのまま町へとけ込んでいくのを警備の兵や弟子たちは呆然と見送ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

帝国の重要施設でもある魔法省にスパイが入り込んでいた事に周りは大騒ぎとなった。盗まれた書やアイテムを確認し、他に仲間がいないか警備兵や弟子達が走り回る。怒号が飛び交う中、ぽつりと取り残されたモモンとニニャは顔を見合わせた。

 

「あー・・・、忙しそうですしお暇しましょうか」

「そうですね」

 

面倒ごとに巻き込まれないうちにと、モモンとニニャはコソコソと魔法省を後にした。

 

 

 

 

*****

 

 

 

「そんなことがあったんですか」

 

無事仲間と合流して、魔法省での出来事を報告すればペテル達はこの騒ぎの原因はこれかと驚いた。今や帝国中に騎士たちがうろついていて、件の忍者を探しているのは明らかである。ペテルが顔を出していた冒険者組合にも来たらしい。―――忍者が冒険者の可能性もあると疑っているのだろうが、組合がそんな仕事を冒険者に斡旋するわけがないだろうと怒りを露わにする。やるとしたらワーカー連中だと突っぱね実力者ならこいつらだろうと何チームかの名をあげる。

 

「だが、いくら奴らだって魔法省の侵入自体不可能だし、そんな依頼を受けてただじゃすまないことぐらいわかってるはずだ」

 

組合の人間の言葉に頷く者は多い。あの最強の魔法詠唱者(マジックキャスター)が管理している場所にのこのこと忍び込むバカなどいない。仮にできたとしても、帝国を敵に回すのだ。どれだけ金を積まれたってそんなリスクを負うようなバカはいない。―――となると他国のスパイであることが濃厚である。まあ、暗殺集団の可能性もあるのだが・・・。

 

それでも何か情報があるかもしれないからと、騎士たちは教えられたワーカーの所に行った。

途中、たまたま外で飲んでいたらしいワーカーと遭遇したようで話を聞く、・・・というか言い争いになっているのをペテルは見た。

 

「あー、市場の方にも来てたなぁ。せっかくいい買い物してたってぇのにさ、お陰で相手に逃げられちったよ」

「おそらくは無許可であったのであろう。始終顔を隠していたである」

 

そういって見せてくれた防具やアイテムは質が良く、なぜあんなところで売っていたんだと疑問になる位である。

 

「・・・ま、それぞれ事情ってもんがあるんだ。深く詮索はしなかったけどよ、やっぱ人間って嫌だな。別の奴が相手の足元見てタダ同然で買いたたこうとしてたもんだから頭にきちまった」

「相手の高慢さはそれが有り余るほど、一度痛い目に会うべきである」

 

同感とばかりにダインが頷くのだ。それは相当な奴だったのだろう。

 

「しかし、どうする?こんな騒ぎじゃ国境越えるの難しそうだけど―――」

「あ、それなら大丈夫です。通行手形をフールーダさんから頂いてますんで」

「なんでまた?」

「まあ、忍者を見つけてくれた。お礼とまたニニャと話したいということでした」

「お?ニニャに玉の輿のフラ、グゥっつ?!」

「ルクルット黙れ」

 

ニニャの重い一撃がルクルットの鳩尾に決まる。日に日に扱いが雑になっている気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

ある隠れ家での会話

*****

 

「ふーむ、思った以上に難航してますねぇ。やっぱり人間種に化けられる人がもうちょっと欲しいな」

「そう言っても、殆どのメンバーが必要ないからって変身能力取ってませんよ?」

「せめて幻覚系魔法を持っている人を見つけられたらな~・・・と、お帰り~首尾どうだった?」

「あ~、お城の前まで行ったんですけどやっぱり門前払いですわ。当たり前だけど・・・、皇帝の周囲を窺うのはやっぱ普通じゃ無理だわ。警備頑丈」

「冒険者としての情報はあんまし・・・やっぱランクが低いとだめだな」

「となると、やっぱり隠密機動NO1の忍者さんが一番期待ですな~」

「あ、ごめん失敗しました。たまたま来ていた冒険者に見破られまして。たぶん警備死ぬほど厳重になります」

「何やってんだよ~~~」

「情報は何より大事なんだよ?場合によっちゃ命に関わるんだからまじめにやってください!」

「「「は~~~い」」」

「全然気が入ってない・・・」

「でも皇帝に悪魔が付いてるって噂、嘘じゃないかなぁ?ここ数日見てますけど影も形も見えない」

「まあ、冒険者内の噂だったし信憑性は全然だしね。でもそれがホントだったらやっぱあの人だと思う」

「うんうん。あの人だったらやりかねないね。てか、王国の赤マントの勇士もさぁ・・・」

「あー・・・、どうする?二人一緒にすると面倒だよ?むしろほっといたほうがよくない?」

「でも所在ははっきりしとかないとね。ところで、封印されたアンデッドの方は?それもわからずじまい?」

「そっちはばっちり確認済み。ただの死の騎士(デスナイト)だったよ」

「なんだよ伝説のアンデッドとか言うから死の超越者(オーバーロード)かと思ったのに」

「いやーでも仮にあの人だったとしてもそう簡単に捕まらないと・・・」

「ほんとに思うか?」

「・・・う~ん」

「ただいま~」

「おかえり~ってどうした?やけに機嫌いいな生産班」

「いやね。いつも通り安く買いたたかれそうになってたんだけどさ!オリハルコンの冒険者が助けてくれてしかも規定通りの値段でアイテム買ってくれたんだよ!やっぱ人間捨てたもんじゃないわ~」

「結構高めのアイテムも買ってくれたからさ、ノルマ達成したぜ!!」

「それはよかった!じゃあ、それを資金に本格的に動こうか」

 

「そう言えば墓場の噂聞いた?ハゲだかズラだかの秘密結社が邪神の召喚に成功したとかしないとか」

「ただの噂でしょ」

「それがさー、信者を若返らせたって噂があってさ・・・。超位魔法ぽくね?」

「あれって経験値消費するタイプだろ?そんなショーもないことに使うわけ・・・いや、自らの設定を崩さないためにやりそうな人はいるな」

「邪神設定とか嬉々としてつくりそうだよなぁ」

 

そう笑いながら歩いていく者達の影はことごとく人の形をしていなかった。

 

 

*****


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