記憶喪失の神様   作:桜朔@朱樺

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聖VS悪
屋根裏の居候


 

 

 

 

 

どさりと、まるでゴミの様に落とされた。痛みは感じなかった。いや、どこもかしこも青あざだらけで、痛みだらけで解らないだけだ。

―――いや、むしろ何もかも心から遮断していたのかも知れない。何も感じず、何も考えず、ただただそこに転がっていた。逃げようとか、助かろうなどと言う考えも浮かばなかった。

 

けれど、なぜだか、麻袋の開いた口から見えたその影にわずかばかり手を伸ばしていた。すべてを拒絶していたのに、すべてを諦めていたのに・・・その赤い外套を指先に引っかけていた。

 

 

 

 

その日、ゴミ捨てをするはずだった男は、転がしていたはずのゴミがないことに慌て、店から逃げ出した。

 

 

 

*****

 

 

 

コンコンコン

 

「・・・・・・ん」

 

その日、珍しく自宅に帰ってきていたガゼフは天井から聞こえた小さな音に気が付くと、つま先で床を叩いた。

 

トントントン

 

そしてゆっくりとした動作で部屋を出ると、召使いの老夫婦が帰ったことを確認すると、乱雑に木箱を置いている物置まで行く。

木箱は、本当にただ置いただけのように見えたが、実は天井まで上れるように計算されて置いてあった。ガゼフは足先を引っかけるくらいしかない足場を器用に上ると、天井をノックした後天板を外した。

 

「どうかしたか?」

 

真っ暗な天井裏をのぞき込むと、そこは綺麗に掃除されてちょっとした部屋のようになっていた。まだ目は慣れていないが、奥の方には簡単なベッドと書き物が出来る小さな机が置いてあるはずだ。そして、反対側には外へ出られる小さな出入り口がある。その方向から気配を感じて声をかけたが、別な気配に眉を寄せた。

 

「すまないガゼフ」

 

そこの声に目を凝らして、ガゼフは目を見開いた。

 

「―――その者は?」

「道で、死にかけていた。状態も悪い。すぐにでも治療しないと危ない状態だ」

「・・・・・・」

 

ガゼフは一瞬迷った。どう考えてもやっかいごとになるだろうとわかるのだ。それによって自分の行動で王に迷惑は掛からないだろうかと悩んで仕舞う。

 

しかし、それも一瞬のことで、ガゼフは「必要なものはあるか?」と訪ねると、衣服が欲しいと答え"ソレ"をベッドに寝かせた。

 

「―――居候の身で、図々しいとは思うが」

「気にするな、貴方は王国の民を救ってくれているのだ」

 

立場を気にして動くことが出来ないガゼフにとって、彼の行動は眩しく、うらやましい。そんな彼に感謝こそして、迷惑に思うことなどない。

 

「清潔な布と湯を持ってくる。その後なにか消化に良い物も買ってこよう」

 

そう言って下に降りたガゼフは比較的綺麗な布を探し部屋をひっくり返す。彼自身治癒魔法が使えるからポーションや包帯はいらないだろう。

・・・彼が欲していたのは家主であるガゼフの許可だけだ。ガゼフが迷惑だと言えば、神殿にでも置いてきたかも知れない。

しかし、そんなことを言うわけもない。彼が拾ってくることでガゼフも自分に言い訳が出来るのだ。

 

「立場とは、面倒なものだな」

 

そう苦笑いしながらガゼフは見つけた布と湯を持って再び天井へ上った。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

「無理です!」

 

悲鳴を上げるように怒鳴るエンリに、村長、いや、元村長は苦笑いする。ただいまカルネ村村長の代替わり中である。

 

「無理無理無理!!あたしなんかが村長なんて出来ない!!」

「大丈夫お前さんなら大丈夫じゃて」

「いきなり老人言葉使ってなだめないでください!そんな年じゃないでしょう?!」

「まあまあ、エンリも落ち着いて」

「そ、それならゴウン様が村長になった方が」

「それは無理」(キッパリ)

「何でですか!?あたしよりよっぽど!!」

「あのなエンリ、あくまでもここは人間の村なの。アンデッドの俺が村長じゃモンスターの村になっちゃうでしょ?」

 

しかし、エンリは往生際悪くアインズを見上げている。気持ちはぐらぐら揺れ動くが、結局は顔を背けることで事なきを得た。

 

「だいたい王国の監査官に村長ですってこの骸骨顔見せられないでしょ」

「ううう~!」

 

今度はンフィーレアにも助けを求めるが、困ったように説得してくる。裏切り者と睨みながら、エンリは四面楚歌の状況に泣きそうだ。みんな最近なんだかコソコソしていると思ったら・・・ハメられた!!

 

「ただの小娘の私には無理だよ~~」

「大丈夫だって、村長だって元はただの村人その1だったんだから」

「―――ゴウン様も言いますな。まあ、その通りですが・・・」

「大丈夫だよエンリ!僕も協力するから!!」

「え~~~」

「俺も協力するから、困ったときは相談に乗るぞ?」

「ゴウン様がいるなら・・・」

「・・・・・・僕は戦力外なのエンリ?」

 

ガックリしているンフィーレアを気にすることなく、エンリは未だに渋っている。

 

「だって、私より頭がいい人もいるし、経験ある人の方が―――」

「そういう奴の方が実は頭が固いんだぞ?若い方が発想力あるし、女性の方が実はタフで強いしな」

「む~~~~」

 

コレは何を言っても畳みかけてくる気だとエンリは気が付く。味方を作らないといけないとニニャの顔を思い浮かべる。アインズの冒険者仲間だが、女性で幼い妹がいると話すとすごい親身になってくれたエンリの親友である。

 

(ニニャならきっと私の味方になってくれる!!)

 

そう思って時間をもらったが、結局ニニャにもニコニコと言いくるめられ、エンリはカルネ村の新村長となった。

 

 

 

*****


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