記憶喪失の神様   作:桜朔@朱樺

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再会

 

 

 

王都に向かう際にとデミウルゴスの使者から豪華な馬車を貸されたのだが、どう考えても盗賊共の格好の的としか思えなかったので辞退し、普通の荷馬車で向かうことにした。

 

普通であれば貴重品を持っているとどうしても緊張するものだが、モモンが持っていれば安心と漆黒の剣も余計な力を抜いて旅を楽しんでいた。

 

「私、王都初めてなんですよね」

 

武器や防具類を買うために帝都にはいったが、自分が暮らす王国の主要都市に行くのは初めてのモモンはちょっとワクワクしていた。帝国では騒ぎがあってエンリやネムへお土産も買えなかったのでの今度こそはと意気込んでいると、反対に表情を堅くしているニニャに気が付いた。どうしたのだろうと声をかければ、暗い顔を上げてモモンを見上げる。

 

「昔、・・・貴族に姉を連れて行かれたんです」

 

何というか、人を殺しそうな物騒な光をその目にたたえているニニャに驚くが、詳しく事情を聞いてモモンも怒りが沸いて来た。それがエンリだったらと思うと、その貴族は100回殺しても生ぬるいと思う。時折ニニャが黒かったのはこのためかと納得もする。

漆黒の剣のメンバーは全員知っている話らしい。モモンに言わなかったのはタイミングもあるが、モモンの力を利用してしまいそうだから言いづらいのもあった。

確かにモモン―――アインズの力だったら貴族ごときから簡単に取り返せるし、復讐だって成し遂げられるだろう。が、モモンに頼り切るのもよくないと自制していたのだ。

 

「私もかなり力を付けましたし―――、今なら豚の一匹や二匹ぐらい」

 

物騒なニニャの顔に、むしろ利用して貰った方がいい気がするとモモンは若干引く。仲間が犯罪者になって欲しくない。

 

「普通に告発じゃだめなんですか?」

「無理ですよ。衛兵とかも貴族から賄賂貰っているから我々の言葉には耳を傾けませんよ」

 

そこまで腐っているのかこの国。と、モモンがない眉をしかめる。ガゼフみたいな王国兵はマレなのかとちょっと失望した。―――富裕層が兵を私物化する話をどこかで聞いたことがあるので、堕落した国にはありがちなのかも知れない。

 

「―――もし、お姉さんを助けるにしてもどういう方法で助けるつもりですか?」

「二人で暮らしていける十分な資金をためたら、豚小屋に私の使える最高位魔法をぶち込もうかと」

「おまえそんなこと考えてたの?!」

 

どこまで考えているか問いかけてみれば、もはや実行してもおかしくないほど計画を練っていた。

犯罪者になる覚悟まで完了していたと聞いてルクルットは仰天する。ペテルも目を見開いてニニャを見ていたし、馬の手綱を引いていたダインも思わず振り返っていた。モモンは頭を抱えてしまう。だめだこの娘。

 

「いやいやいや!!もっと他に方法あるだろう?!」

「どんな方法が?いくら考えても国が腐ってれば貴族を追い落とすことは不可能ですよ」

 

ニニャに言われてルクルットも黙る。冒険者ごときがなにを言ったところで貴族を優先されることが目に見えるからだ。そうなると、ニニャが思い描いていた方がよっぽど可能性がある。が、やはり仲間が犯罪者になるのは悲しい。ダインがなにか言いたげにしているが結局言葉が見つからず、重い空気が流れるが、モモンが冗談混じりに提案してみる。

 

「じゃあ、たとえばその貴族の館に強い骸骨モンスターが現れて娘を浚ってしまうというのはどうでしょう?」

 

モモンの提案に漆黒の剣は全員顔を上げる。

 

「モンスターが人を浚うのなんて日常茶飯事ですし、強いモンスターなら貴族も諦めるかも」

「でも、モモンさんが討伐対象になりますよ」

 

そもそも元村娘のために救出隊やら討伐隊を出すとは思えないが、モモン―――アインズに迷惑はかけたくない。

 

「んー、じゃあ襲撃するモンスターをでっち上げて、そのモンスターを討伐するというのはどうです?」

「? しかし、ソレではニニャのお姉さんは貴族に渡さないといけないのでは?」

「ふっふっふ、私これでも交渉には自信あるんですよね。法外な報酬をふっかけるんですよ。ソレで支払いを渋ったら、じゃあそちらの娘さんをくださいと言う。裕福な奴ってプライド高い癖に金払いが悪いから高確率で娘を引き渡します。あ、勿論仕方がないという雰囲気は作ってくださいね。目的が娘と知れたら色々と言ってきますから」

 

見事に悪どいマッチポンプ作戦にペテルも感心してしまう。これだとチームの信用は落ちるだろうが、ニニャの姉を連れ出すことはできる。が、

 

「それだと奴隷売買と言われかねませんかね?」

「―――じゃあ、嫁にしましょう。婚姻だったら合法でしょう?」

「モモンさんがお姉さんと結婚するんですか?」

「あー・・・、さすがにスケルトンとは結婚できませんし・・・、ルクルットさんどうです?」

「んーニニャのねーちゃんかー。ニニャと違って巨乳ならイッテェッ!?」

 

ルクルットの脛にピンポイントでニニャの杖の先が突き刺さる。効果は抜群だ!!

 

「ルクルットだけには姉さんは任せられない」

 

いまだ身悶えているルクルットを無視して、ニニャはモモンに綺麗なオメメで見上げてきた。

 

「襲撃するモンスターには貴族をギッタギタにするよう言ってくださいね!むしろ死んでもかまわないです!!」

「・・・・・・・・・いや、ただの冗談ですよ」

 

いや、どう聞いても本気だったと男性メンバーは思う。実用性がある作戦なのでいつか本気で実行する日が来るだろうとペテルは苦笑いをもらし、ダインもニニャが犯罪者にならないならと笑った。

 

 

――――――が、もはやそんな必要は無いことは今の時点では誰も知らなかったし、もっと早く実行してれば良かったと思うのも先の話であった。

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

変だと思ったのは王都に入ってあたりが夜に沈んだ頃だった。何とか関所が閉まるギリギリに滑り込み、貴族の館を訪ねるのは明日にしようと宿で一息付いているときだった。

王都がやけにピリピリしているのを感じて、窓を開けて王都の街を見渡したときだった。

 

「――――――戦闘だ」

 

アンデッドであるアインズの目に、わずかに炎が上がるのが見えた。常に<暗視(ダークビジョン)>が発動しているから気づけた異常である。そして、その炎に照らされた影が異様な姿をしているのにも。

先日討伐した悪魔を思い出す。アレの仲間が他にいたとしてもおかしくはないと、アインズは<上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)>でモモンに変わると、アイテムボックスから羽のネックレスのアイテムを取り出した。

 

「ペテルさん、王都内で戦闘が起こっています。モンスターの可能性もあるので現場に向かいます」

「王都内で戦闘?!」

 

モモンの言葉にペテルは慌てて横から街を見渡す。人間の目にはなにも見えないが、モモンが嘘を付くとは思っていないペテルは地図で場所を把握するとすぐさま仲間を集めると振り返る。

 

「戦っている者がいるので私が先に飛んでいきます。皆さんは後から現場に来てください」

「わかりました。くれぐれも無理はなさらないように!」

 

そう言ってペテルが部屋を飛び出すのを横目に、モモンは窓から飛び立つ

 

「<飛行(フライ)>」

 

アイテムの力で飛び上がると、夜空に紛れて現場に急行した。そして眼下に広がる光景にモモンは顔をしかめる。

 

冒険者らしい姿の他に、やはり悪魔の姿が見えた。あれはなかなか強いモンスターだ。山羊の頭蓋骨にハ虫類の鱗としっぽを持ちコウモリのような翼を持った悪魔―――、アインズにはどうというモンスターではないが、モモンでは少し手こずる相手である。しかし、だからといって冒険者を見捨てる選択にはならなかった。

―――中に幼いと言ってもいい娘がいることが、村の養護者としては見逃せなかった。

 

魔法詠唱者だろう赤いフードを被った少女に襲いかかる悪魔の間に降り立つと、少女を背にして悪魔の大金槌を受け止める。

 

「大丈夫か?」

「え? あ、は、はい!」

 

戸惑ったような声は年齢が解りにくく変質されていた。けれど、線の細さからネムよりは上だが、エンリより下だろうと思えた。モモンはギロリと悪魔をにらみつける。

 

「―――か弱き少女に手を挙げる不届き者が!我が剣の錆にしてくれる!!」

 

ニニャの姉の件を聞いた後のせいもあり、女子供に手を挙げる存在に負の感情が蓄積されていたモモンは見栄を切って悪魔と対峙する。

その後ろでは何百年も生きた国堕としと呼ばれた吸血姫がキラキラした目でモモンを見上げていた。

 

 

 

 

 

 

3メートルもある巨体が繰り出す攻撃をモモンは危なげなく避けながら、大剣で斬りつけていく。イグヴァルジの指導により剣の腕は以前より遙かに向上していて、厳しい指導と嫌みに耐え抜いた結果、戦士としての体裁を何とか整えられるようになっていた。もはや、力任せに体大剣を振り回す子供のゴッコ遊びではない。

 

大金槌と剣の間から火花が散る。鱗は堅いが傷つけられないほどではない。相手の力も相当だが、此方の筋力の方が上だ。―――といっても骨に筋肉などないのだが。

しばらくすればペテル達も遅れて到着し、少女、イビルアイの傷ついた仲間の治療に入っている。弓矢や魔法の援護射撃もあり徐々に追いつめていたが、突然絶叫を上げると炎を後方に向けて放った。

 

「チィッ!!」

 

狙いは防御が低い後方かとモモンは後ろに飛ぶと、一番前にいたイビルアイを庇った。

 

「せ、戦士様!!」

「ぐぅっ!!」

 

アンデッドの弱点である炎の攻撃にモモンはヘルムの下の顔をしかめた。しかし、その程度である。少し熱い鍋の蓋を素手でつかんで思ったよりも熱かったと驚いた程度である。目の前の存在と、仲間に被害がないことを確認するともう一撃叩き込もうと振り返った瞬間だった。

 

横からすさまじい衝撃を受けて吹っ飛んだ。何事だと目線を向ければもう一体。

 

(え、援軍かよ畜生!)

 

さすがに2体の相手となるとキツい。真の姿を現せば雑作もなく倒せるが、余計なギャラリーの前ではそれは出来ない。このまま戦うにしてもペテル達のレベルは上がっているとは言え、やはりまだ未熟である。

 

(あ"―――っっ!!!完全戦士化の魔法使えれば一刀両断できるのに!!)

 

その魔法を使えば魔法職から戦士職にレベルそのままでシフトできるのであるが、そうすると魔法で作ったこの鎧が消えてしまい結局スケルトンの顔を晒すことになるのだ。―――前々から予備の鎧を作ろうかと考えていたが、さっさと作るべきだったと後悔した。

 

新しく現れた悪魔がもう一体の悪魔になにかの思念を送ると、2体ともモモンに向かってくる。強い奴から始末しようってのかと剣を構える。

 

「はっ、モテモテじゃねぇか!俺にも相手を寄越せよ!」

 

先ほどまで傷ついていた戦士らしき者が、元からいた悪魔に刺突戦鎚を叩き込む。そちらに意識を向けたらしい悪魔に、もう一体の新しく来た悪魔が諫めるように唸るが、すかさず繰り出したモモンの攻撃に振り返った顔を前に戻した。

 

「助かります。が、本当なら皆を連れて逃げてほしいんですが」

「へっ、恩人見捨ててしっぽを巻いて逃げたんじゃ女が廃るぜ!」

 

―――え?と思わず呆気にとられて女戦士を凝視してしまい。モモンは強烈な一撃を受けてしまった。

 

「おいおい、なにやってんだ色男!」

「―――今のは、貴方が悪い」

 

無いはずの脳が揺さぶられた気がして頭を振ると、気を取り直して悪魔と剣を交える。今はあの戦士が男だろうが女だろうが関係ない。まずはこの悪魔をどう倒すかである。支援魔法や援護射撃も飛ぶが、今度はなかなか突き通せない。

 

だんだんイライラして来てモモンはめんどくさい!と結局正体を晒そうとしたときだった。

 

―――一陣の風が吹き、女戦士が相手していた悪魔が薪のように真っ二つに切り裂かれた。ゆっくりと左右に倒れていく悪魔の体。そこから絶えず赤い血が吹き出して―――いや、アレは風にたなびく赤いマントだ。ズンッと悪魔の体が地に落ちると、赤いマントの男は立ち上がり剣に付いた血を払うように横に振る。

皆、呆気にとられた。ソレもそうだろう今の今まで手こずっていた悪魔を一撃で屠ったのだ。・・・・・・だが、ソレよりも何よりも驚いたのはその男が人間ではないことに皆声が出なかったのだと思う。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

モモンは彼が味方だとなぜか思った。見た目は蟲のモンスターであるが、まるで正義の味方のように現れたその姿。モモンはなぜかその背後に正義光臨の文字が出ている気がしたが、頭を振ってもう一度目を向けるとやはり幻だったらしくその背後にはなにもなかった。

 

(そうだよな、本気で背後にそんな文字が浮いてたらどんな顔すればいいか解らないからな)

 

ちょっとホッとしたモモンと対峙していた悪魔は、仲間が倒されたことに気が付き大鉄鎚を振り下ろす。それを全く危なげもなくやり過ごすと、彼は女戦士の腰を抱いて後方に飛んだ。

 

「後は私にまかせて」

 

悪魔から距離を開けると顔を真っ赤にしている女戦士を置いて、走り出す。悪魔の攻撃をすべて紙一重でかわすと、悪魔に向かって剣を振り下ろした。が、悪魔の大金槌に阻まれ、しかも剣は悲鳴を上げて砕け散った。

 

「耐久性が持たなかったか」

 

もとよりボロボロであった剣にチッと軽く舌打ちすると、そのまま悪魔の胸部に向かって強力な蹴りを繰り出した。ただの蹴りであったがその衝撃はすさまじかったらしく、悪魔は涎を吐き出しヨロメいた。それでも、大金鎚を振り上げて尚も襲いかかろうとするので、彼は身を引き体制を立て直そうとしたとき。―――その蟲の顔の横に剣が投擲された。彼は驚くこともなく、たやすく黒い大剣の柄を掴むと投擲されたGなどものともせず、そのまま横一線になぎ払い悪魔の胴を真っ二つに引き裂いた。

 

「いい剣ですね。助かりました」

「いえいえ、お役に立てて良かったです」

 

ズンッ、と2体目の悪魔が地に倒れたのを確認すると、彼は血糊を払い感謝しながらモモンに剣を返した。やはり味方だなとモモンが納得すると、―――後方でおとなしくしていたはずのイビルアイが憮然とした顔で彼を睨みつけていた。

 

「―――なぜここにいる」

「何故って・・・、普通に通りがかっただけですよ。ちょっと近くに用事がありまして」

「たっち!てめこの野郎!!せめて人に化けてから助けに入れ!!」

 

なにやら突然裏路地から鬼の形相の男が飛び出してきて蟲人の彼、たっちを罵倒した。その後からは少年兵と冒険者らしき男と、女性が一人。

 

「しかし、ブレインさん人に化けるにはMPを消費しますし、そんな時間ももったいないでしょう」

「その昆虫顔を晒されたら後始末が大変だって言ってんだよ!!てめぇはアイツを失脚させる気か?!」

 

全く意味が解っていない風のたっちに、ブレインと呼ばれた男がそう言うとその顔面に頭突きを繰り出した。が、逆にダメージを負ったらしい自身がひっくり返り、たっちが慌てて回復魔法を当てていた。

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

王都の赤マントの勇士の噂はエ・ランテルでもちらほらと囁かれていたが、あまりにも人間からかけ離れた話ばかりだったので、皆眉唾物だと信じていなかったのだが・・・、その顔を見て漆黒の剣は納得した。

何だろう、異形種の中で人間を助けることがブームなのだろうかと、チラッとモモンを見てしまう。

まあ、ブームでも気まぐれでも何でもよかった。そのおかげで自分たちは何度も助けられているし、ニニャの姉は助かったのだ。姉と抱き合ってわんわん泣くニニャを見てペテルは口をゆるませながら鼻を啜った。

 

経緯は省かれたが、たっちがニニャの姉ツアレを保護していたのだが、八本指という犯罪組織に浚われたのを救出し、六腕という凄腕の犯罪者をボコボコにした帰り道に、悪魔と戦闘しているモモン達を見つけて助太刀したのだという。

 

―――助けて貰ってなんだが、もう少し正体を隠した方がいいと思う。ブレインの苦労が偲ばれる。

ニニャの「皆殺しにしてくれれば良かったのに」という物騒な空耳をスルーして、改めて感謝の意を伝えれば、逆にビックリされた。まあ、ふつうは人ではない者を怪しみ、なにか裏でもあるのかと疑うだろうが、仲間にアンデッドがいる漆黒の剣は割とすんなりたっちという人物を受け入れられる。

 

「・・・何というか、ここまで素直に感謝されるなんていつぶりだろうか?」

 

ペテルと握手を交わすたっちの表情は解りにくいが、雰囲気で嬉しそうだと感じた。これもモモン効果だろう。彼も表情が全くないスケルトンだから。

 

そして、今度は悪魔と戦闘になった経緯を蒼の薔薇から話を聞こうとした時、ブレインが不機嫌に割り込んだ。

 

「場所を変えるぞ、兵士達もこっちに向かっているはずだ。見つかっても面倒だからな。あと、お前はいい加減顔隠せ!」

 

いつまでも顔を晒しているたっちにいつ野次馬に見られるか気が気ではないとブレインは苛ついていた。

 

「えーと、じゃあこれを貸しましょう」

 

そう言って、モモンが懐から取り出したのは、なんだか血の涙を流しているようなマスクだった。とりあえず顔を隠せれば何でもいいと、礼を言ってたっちが受け取って顔に被ろうとした。が、何度試しても装着できなかった。被ったと思ったらするりと脱げてしまうマスクにたっちは困惑気味である。

 

「? あの、かぶれないんですが」

 

そして、それに何故か精神ダメージを受けるモモンは、よろけながら別のアイテムを探して「・・・じゃあ、・・・これどうぞ」と別の仮面を取り出した。今度はすんなり装着できたし、時間もなかったので何故最初のマスクがかぶれなかったのは謎のままになった。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

蒼薔薇が、悪魔との戦闘になった経緯は八本指の幹部と言える人物のアジトを襲撃しようとしていたのだが、そのアジトがあの悪魔に襲われていたのだという。

 

「まあ、悪魔を飼い慣らそうとして失敗したんじゃね―――したんじゃないんですかね」

 

何故か男言葉を直して佇まいを直すガガーランに皆首を傾げる。

 

「あの、ガガーランさん調子でも悪いんですか?」

「そんなことありませんよ、童・・・クライム君」

 

おほほと笑うガガーランに何というか、背筋がぞわっときた。違和感バリバリだ。初対面のモモン達でさえもそう思うのだ。ブレインも刀に手を置いて警戒している。それを呆れたように見ているのは彼女の仲間の少女ティアだ。

 

「ガガーラン、気持ち悪い。乙女にならないで」

 

しかし、ガガーランは知ったこっちゃないらしく、ただ一人に熱い視線を送っている。―――その相手は全く気が付いていないようだが。

 

 

 

ガガーランという人物はほとんど女を捨てて戦士として生きていたのだが、ある日そんなガガーランを変える衝撃の事件が起こったのである。

それはラナー王女からの秘密の依頼で危険な物だった。さすがのガガーランもその時は命の危機を感じたのだが、そこへ颯爽と現れガガーランをお姫様だっこして助けた者がいた。―――それが噂の赤マントの勇士、たっち・みーだ。

 

自分より強いどころか、抱え上げる男さえいないと思っていたガガーランには衝撃だった。ある意味人生初の出来事に恥ずかしさと悔しさからたっちに悪態を付いたのだが意にも介さず、優しく地面に降ろしてガガーランの顔の擦り傷を魔法で癒しながら言ったのだ。

 

「可憐な女性を護るのは男の役目ですから」

 

その瞬間ガガーランは目の前の男に堕ちたのである。たとえ種族が蟲だろうと関係なく惚れたのである。それまで男前だったガガーランはたっちの前では乙女になってしまい。必死に取り繕うようになったのだ。

それにラキュースはめでたいことだと素直に祝い。イビルアイは呆れ、ティアとティナは爆笑したのだが―――。

 

「―――恋する乙女が増えた」

 

もはや笑えないとモモンにぴったりくっつくイビルアイを見てティアはどうしたものかとため息を付いた。

 

 

 

 

 

「そこに我々が異常を感じて助けに入ったわけです。あまりお役に立てませんでしたが・・・」

「いいえ!モモン様だったらあんな悪魔の一匹や二匹時間をかければ倒せましたよ!」

 

興奮気味にイビルアイがモモンに迫るが若干引き気味である。何でこの子こんなに近いの?助けを求めようと周囲を見渡すと、何故かニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべているルクルットと目があった。

 

「やー、モモンさんモッテモテ~」

 

ダインもダインで微笑ましいと生温かい目線を送るだけである。ニニャとペテルはツアレを休ませに他の部屋に行っているので、助けはこない。

 

「まあ、何にしても悪魔は倒したから問題は解決。後は八本指の情報がどれだけ残っているかだよな」

 

ブレインの言葉にクライムもうんうん頷く。協力してくれた元オリハルコンの盗賊もたっちを警戒しながらも事件がうまく終わりそうで安堵していた。

 

 

 

 

―――が、そううまくはいかなかった。

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

王都に悪魔が次々出現し始めた。発生源は倉庫街や商会のある地域、そして一部貴族の館がある区画だった。そこをグルリと炎の障壁が囲い、そこから悪魔がわき出している。障壁の外の住民は避難しているが、中の住民は忽然と姿を消していると報告が上がっている。ちなみに難を逃れた貴族は早々に自分の領地へと馬車を飛ばして逃げていた。

 

緊急事態として王城にすべての冒険者が集められて対策会議を行っているが、なかなか芳しくはない。まさか都市の中心に悪魔がわき出すなど、誰も思っても見なかったのだ。悪魔がどのように沸いて、どれだけいるのか検討も付かないのだ。誰が、何の目的で?憶測ばかりが飛んで話がまとまらない。

 

ラナー王女の推測も確証を得られない。今選べる選択は二つだ。王都を捨てるか、戦うか。しかし、王都を捨てるのも一時的な解決にしかならないでしょうとラナーは言う。

 

「王都を捨てれば当然悪魔に占領される。そして、そこから悪魔が王国全土を侵略しないと誰が言えますか?」

 

王都を足がかりに悪魔が王国を、いや、世界を侵略する可能性は非常に高い。ならば広がる前にたたかねばならないとラナーは悲痛な面もちで言う。冒険者達も互いの顔を見合わせて、意を決っしたように頷いた。

 

はじめから選択肢は一つだけ、生き残るために戦うのみだ。しかし、悪魔と戦う作戦はあまり勝ち目がなさそうなものだ。

防衛戦を張り、そこをラインに冒険者が悪魔を討伐、傷ついたら防衛ラインまで撤退し、回復、そしてまた戦場へと戻る。その繰り返しだ。その間に、アダマンタイト級の蒼の薔薇が悪魔の発生原因を発見し、取り除く。

それ以上の作戦は誰にも考えられなかった。誰の脳裏にも死ぬかもしれないという考えが浮かんでいるなか、黙って話を聞いていたモモンは王国戦士長のガゼフの元まで進む。誰もが、何かいい考えでもあるのかと期待した。

 

「戦士長殿、少し話を聞いて貰ってもよろしいですか?」

「ああ、モモン殿。何か良い考えがあるのなら何でも言ってくれ」

「ここでは少し話しづらい内容なので・・・すみませんが別室を用意していただいてもよろしいですか?」

 

もちろん盗み聞きはなしで。というモモンの言葉にちらりとラナーを見やるガゼフに王女はコクリと頷いた。

 

そうしてガゼフとモモンが部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくすると、廊下からカツカツと規則正しい足音が聞こえてくる。人数としては十数人だろうかと、感覚鋭い盗賊職の冒険者が予想するより早く、扉が勢いよく開かれた。

そこに現れた人物をこの場に集まった者は誰も知らない。

 

―――いや、蒼薔薇のメンバーだけが目を見開き、頬をひきつらせた。

 

「まったく、王国は考えていた以上に愚かだ。あまりにも哀れで同情してしまう」

 

嘆かわしいと頭を振り、ツカツカと冒険者達の前にでるとその顔を見渡した。その時、ラキュースの顔を見て少し顔をしかめたが、何事もなかったように前を見据えると地図を広げているテーブルをバンと叩き宣言した。

 

「貴様等に悪魔の狩り方を教えてやろう異教徒ども。貴様等のちっぽけな信仰心を神に捧げよ!!」

 

そう法国の特殊部隊陽光聖典隊長ニグンは声高らかに叫んだ。

 

 

 

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