記憶喪失の神様   作:桜朔@朱樺

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ぷれあです!

 

広い部屋に一人きりだった。

大きな円卓に41の席があるというのに、埋まっているのはたった一つだけだ。まだ誰か来るかもしれないと待ち続けたい。しかし、時間がないと重い腰を上げて―――ふと、ソレを見上げる。

一度も使わないのは可哀想かと手を伸ばしてそこから持ち出した。

 

 

 

 

薄暗い玉座の間に、孤独な王様が最後の時を迎えようとしている。

走馬燈のように楽しかったことを思い出しながら、シンボルマークを指さし仲間の名を―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブオオオオッ!!」

「うわあっ!?」

 

デスナイトの絶叫に意識を取り戻し、慌てて鍋を火から離す。しかし、鍋の中には炭が出来上がっていた。

 

「うわぁ・・・・・・やっぱり無理か」

 

調理中火にかけている間に意識が飛んでしまうので、デスナイトにいい頃合いに声を掛けるように言っておいたのだが―――失敗したようだ。

 

「もっと早く声を掛けてもいいんじゃないか?」

「ゴウウウ・・・」

「え?掛けたけど反応がなかった?じゃあ、せめて鍋を―――。俺ががっちり掴んで離さなかったのか」

 

ちょっぴりデスナイトに八つ当たりしたら、困った顔で説明された。デスナイトもデスナイトで何とかしようと努力したらしいが、結局はレベル差がありすぎてどうにもならなかったようだ。

 

こうなるとお手上げである。料理は断念するしかなかった。

 

「あー、もったいない。せっかくご近所に分けてもらったのに・・・」

 

炭となった元食材を捨てながら、アインズはため息を吐く。しかし、意識が飛んでいる間の記憶がない。まさに切り取られているようだなあと、黒こげの鍋を悲しげに見つめていた。

 

 

 

*****

 

 

 

カルネ村は今日も平和である。

大人達は畑仕事に出かけているが、ゴブリンやオーガが手伝ってくれるので仕事はすぐに終わってしまう。そうなると後は家の仕事や巡回の仕事だけである。

仕事が終わったゴブリンやオーガは、ご褒美に果実水を凍らせて雪のように砕いたシャーベットをもらってご満悦である。アイスクリームもうまいがシャーベットもうまい。

 

さて、大人達が仕事に行っている間、小さな子供達はどうしているかと言えばアインズが相手をしていた。子供の相手は村の大人が代わる代わるしていて、今日はアインズとエンリの番であった。

 

いつもはマジックアイテムを遊び道具にしてるのだが、今日は天気もいいし川まで遊びに行こうとエンリに提案された。川で魚を捕ったりできるし森で木の実を見つけておやつ代わりに出来るから、それにアインズがいることで危険なモンスターが来ても大丈夫だからと言う理由である。

アインズとしては護衛用のスキルもないからちょっと渋ったが、まあハムスケも連れて行けばいいかと了承した。

村の外に遊びに行くのも情操教育に良さそうである。

 

しかし、ついて早々アインズに問題が発覚した。

 

大量の水が流れる川にアインズが恐怖を覚えたのである。

覚えてはいないのだが、アインズが鈴木悟という人間で生きていた世界に人が入れる川もなければ、清浄な水を溜めておく事すら困難であった。大量の水などお目にかかったことがない。

それでもお湯を張った湯船に恐怖を覚えることはないのだが、問題は延々と流れていく川だ。

 

流れる水の力は強い。

もし、足場が不安定な川で転倒してしまったらどこまで流されてしまうのだろうか?アインズは骨である。浮かぶことなく川底に沈んでしまうだろう。恐ろしくて足がすくんでしまった。

 

 

しかし、子供たちは慣れたようにキャッキャッと川遊びに夢中である。危ないと思いつつも器用に川を歩いていく子供にアインズは尊敬すらしてしまう。

そんなアインズの様子に気が付いたエンリが、なら私が手を引きますよと誘ってくれた。

 

皆おもいおもいに好きなことをしている。川に入ってハシャぐもの、釣りをするもの、丸くなっているハムスケに寄りかかって昼寝するもの。

アインズもエンリもそこまで手が掛からない子供らに安心し、はじめての川に挑戦することにした。子供が足を滑らせて流されたとき、助けにいけなかったらシャレにならない。

ローブを腰のあたりまでまくり、ズボンを膝上までまくり上げると靴を脱いで恐る恐る川に入る。

 

「ひぃっ、ぬるぬるする!?」

「川石に藻が生えてるんですよ。滑りますから気をつけて」

 

そう言って笑顔で手を引くエンリだが、ペースが速くてアインズは焦ってしまう。

 

「ちょ、まっ!!ゆっくり―――ひゃぁっ!!」(ちょっと滑った)

「大丈夫大丈夫」

「だ、大丈夫じゃ―――、ふ、深いぃぃっ」(まだ脛当たり)

「まだもう少しいけますよ」

「む、無理ぃぃぃっ!!動かないでぇぇぇっ」(半泣き)

 

必死にエンリの手にしがみつくが、当のエンリは笑顔である。冷静な部分は大の大人がなにをやっているんだと呆れてしまうが、怖いものは怖いのでしょうがない。

足下に集中しないと滑ってしまいそうで、言葉数もだんだんと減ってしまい。「ひぅぅっ」だか「はうっ!!」だか、情けない声ばかり出ていた。

 

「ほら、もうここまで来ましたよ?」(結構深めのところ)

「ちょっと、休憩させ、て」

「大丈夫ですか?ここから本番ですよ?」

「うう・・・、大丈夫じゃない・・・」

 

ここから補助なしで川を歩かなければならないのに、アインズはすっかり意気消沈していた。いや、たしかに川の中は気持ちいいのだが、絶えず流れてくる大量の水や不安定な足下が恐ろしい。

 

いつまでも覚悟が出来ないアインズにエンリは困った顔をしていたが、荒療治をする事にした。

 

「えいっ」(手を離した)

「ああああっ!!エ、エンリエンリィィィッ!!」

「大丈夫ですよ、すぐ慣れて気持ちよくなりますって」

 

徐々に遠ざかっていく命綱にアインズは泣きそうである。優しく微笑み見守っているエンリが今だけは悪魔のように見えて仕方がない。

とりあえず川岸まで戻らなければならないのだが、足を踏み出そうとしても不安定な川底に泣きそうである。摺り足の要領でジワジワと進んでいると、なにやら向こうで子供らの歓声が上がった。

何だろうと思いつつも今はそれどころではないので、とにかく足下に集中していた。

 

「ゴウン様~、みてみて!でっかいの釣れたよ~」

 

どうやら子供が大物をつり上げたようだ。足場を確保して見てみると―――、何というか太くて長い魚を抱き上げて自慢げにしていた。

魚と言うよりはウナギっぽいか?とアインズは思ったが、現実では絶滅したドジョウを巨大化したような姿に近い。

そしてビチビチと跳ねる巨大なドジョウを、生の魚類など見たことのないアインズは気持ち悪いと引いてしまう。表面がヌメヌメしているし、目玉がギョロリとしている。これがモンスターなら平気なのだが―――。

 

若干腰が引けつつ、子供にすごいな~と褒めていたら・・・子供の手からドジョウが逃げ出した。

 

ただ、川の中に逃げたのならソレでよかったのだが、勢いよくジャンプしたドジョウは―――アインズの襟元から中に入り込んだ。

 

「ひょあああああああっっっ??!!!」

 

ローブの襟から入り込んだソレは大きく開いた鎖骨の隙間から内部に入り込んだ。自分の中に長くて太くてヌメヌメしたものが入り込んだのでパニックを起こす。しかし、暴れれば足下が滑って転ぶので動くことが出来ない!!

 

「うひぃっ!!ヌメってるヌメってる!!―――っ!!うあぁぁっ!!変なところに入るなっ!!」

 

取りだそうにも肋骨が邪魔で手が入らない。隙間だらけの体のくせにと腹が立つ。内側から触る事なんてないので、奇妙な感覚に鳥肌が立つ。・・・いや、肌なんてないのだが。

 

「俺は籠じゃないぞ!!」

 

そんなことを怒鳴っても中のモノは出てこないどころか下に下がってきて、最終的には骨盤のあたりに収まってしまった。冷たくヌルヌルする感触にぞわわわっ!とアインズは震えてしまう。

泣きそうになりながらローブをまくり上げれば、ズボンのところでこんにちはしている巨大ドジョウと目があった。あまりの気持ち悪さに固まっていると、エンリが慌てて助けに来てくれた―――が。

 

「ゴウン様!」

 

ガシッ!とドジョウの首根っこを掴むとズボンからそいつを引き抜いてくれた。慣れたようにビチビチと暴れるドジョウの首を絞めると「大丈夫ですか?!」とエンリが心配そうにアインズを振り返る。

 

申し訳ないことにアインズはエンリに礼を言うことも出来ず、ただただ真っ白になっていた。

 

 

 

――――――その後しばらくアインズは家に引きこもっていた。

 

 

 

*****

 

 

 

いま、ンフィーレアは一世一代の大勝負をしようとしていた。

ゴブリン達の協力の下、今彼は恋人のエンリと二人っきりである。晴れて恋人になれたのは良いが、いい雰囲気に成れば決まってアインズが邪魔しにくる。そのため今の今まで進展は一切ないのである。

 

しかし、今はアインズは家に閉じこもり(理由をエンリから聞いて思いっきり同情してしまった。当のエンリは全く理解していなかったが)ンフィーレアを邪魔する者はいない。―――と、ジュゲム達に急かされて現在誰もいない倉庫にいる。

誰も入ってこれないよう、表ではゴブリンが見張っていてくれる。ここまでされて何もしないなど男ではないとンフィーレアは生唾を飲み込み覚悟を決めた。

 

 

 

―――結果、エンリにより押し倒されて現在に至る。本当なら、男らしくエンリを優しく押し倒し、くっ、くく口づけをしようとがんばったのだが、所詮もやしっこには無理であった。

 

ああ、僕はここで初めてを迎えるんだね・・・・・・。

 

などとドキドキしながら目をつぶるンフィーレアを不思議そうに見つめているエンリ・・・、それを見ている怪しい影があった。

 

「ふじゅんいせいこーゆーはダメっすよー」

「ほわああああっ!!!???」

「あれ?ルプスレギナさん、こんなところで何をされているんです?」

「んー、サボリっすw」

 

そうゴソゴソと、藁の中から這いだしてきた美女、ルプスレギナ・ベータ。彼女は最近この村にやってきた新たな村人である。

 

「て言うのは冗談っすvお仕事が一段落したんでちょっとお昼寝をしてたんすよ~」

「何も、こんな倉庫の藁の中でしなくても・・・」

「本能的にここの方が落ち着くんすよ」

 

ルプスレギナは人間の美女に見えるが、正体は人狼である。何でも、前住んでいたところに正体がバレて追い出されたそうだ。それで新たな住処を探してここに流れ着いたという。

 

最初は人間として村に入れて貰おうとしたのだが、人間不信のカルネ村だったので早々に正体を明かしたのである。

 

「てか、人間じゃないって解ったとたんの手のひら返しが笑えたっすねww」

「何の話です?」

「こっちの話っす。ところで二人ともここで何やってんすか~?」

「倉庫の在庫点検です。そろそろ補充しなきゃならないのが有りますので」

 

へ~~、とにんまりしながらンフィーレアを見ると真っ赤な顔で明後日の方を向いていた。

 

「よかったら手伝うっすよ?」

「いえ、ここで最後でしたから」

 

そりゃ残念と笑いながら体に着いた藁をはたき落とすと、さっさと倉庫を出てしまう。そのときに「うおっ!!なんであんたが?!」というゴブリンが驚く声が聞こえてきた。

 

 

 

「ゴウン様~、ンフィーとエンリちゃんのイチャイチャを邪魔してやったっす!」

「よくやった」

 

褒めて褒めてとばかりに尻尾を振り回すルプスレギナの頭を撫でてやる。なぜか彼女はアインズに懐いているのだ。最初は戸惑ったが、ンフィーレアの邪魔をしてくれるので速攻採用した。

 

たぶん骨だから気に入られてるんだろうなぁ。などとアインズは思い込んでいる。

 

 

 

*****

 

 

 

帝国の一角で老舗の商人の元に、他国から来たという親子が取引にやってきていた。

南にある都市で豪商だったという歳のいった男が、こちらでも商売を始めたいとここいらの顔である男に挨拶をしに来たのである。

 

お近づきの印にと渡された品はどれもなかなか手には入らない品ばかりであった。商売敵が増えるのは遠慮したい男だったが、優先的に取り引きすると言われればコロッと態度を変える。

これほどの質のいい品を比較的やすく取り引きできるのであれば、利益は十分である。

 

しかも、帝国での取引は主に隣にいる娘がするという。

帝国に置く拠点の店を娘に任せようと言う男に、少々不用心ではと聞いたが護衛兼執事はそこいらの悪漢が束になっても適わないほどの手練れであるとのことだ。

さてどの程度と軽く実力をみようとして、逆にこちらの用心棒を投げ飛ばされたときはなるほどと納得した。

 

「たしかに娘に一つの店を任せるのに少々不安がありまして―――、帝国の豪商である貴方様に助力いただければと」

 

そう言うと、用心棒を投げ飛ばした執事が横につき銀の盆を差し出した。もちろんその上の袋を受け取り、中身を確認すると思わずニヤケてしまう。

 

「娘への教授料です。厳しく指導いただければ」

「うむ、まあ、新しい土地に不安であろうから困ったことがあれば私を頼ってもらっていいぞ」

「ありがとうございます」

 

娘が微笑みながら会釈をする。おっとりした箱入り娘のように見えるが、中身はしっかりしているようだ。男が今まで見知った中でダントツの美貌とお辞儀した際に強調された豊満な胸に、男はこれから楽しみだと鼻の下をのばした。

 

 

 

 

 

「では、セバス殿とソリュシャン殿は帝国でアンダーカバーを作ったのち、情報の収集をお願いします」

「了解しました。しかし、モモンガ様が居られる王国でなくてよろしかったのでしょうか?」

 

商人の姿から元のドッペルゲンガーの姿に戻ったパンドラは、セバスの質問に軍帽をちょいっと上げて答えた。

 

「王国は少し質が悪いですからね。信用を得るのなら帝国の商人の方が都合がいいのです」

 

それに、王国は最近監視が厳しいですからね。とパンドラはため息を吐く。犯罪者の摘発に熱を入れていて、こっちまで巻き込まれてはシャレにならない。

 

「しかし、商売するための品はどこから持ってくるのでしょう?まさか宝物殿からですか?」

「そんな訳ないでしょう」

 

もっともな質問をソリュシャンが首を傾げながら言う。しかし、パンドラは少しムッとしたように答えた。

 

「ナザリックの資産は基本的に動かしませんよ。基本的にはこの世界で調達した資材を鍛冶長ほか生産スキルを持つ僕達でアイテムに加工します」

 

スキルで有れば、時間経過とともに回復する。コレならナザリックの資材を使わずに済む。

 

「資材獲得のため、ユリ殿エントマ殿とほか、デミウルゴス殿のスキルで召喚された悪魔達が動いています。資金が出来れば、傭兵モンスターも使えますので、出来れば商業にも手を抜かないで頂ければ幸いですね」

「なるほど、解りましたわ。・・・ところで、捕食の件はどこまでよろしいのでしょうか?」

 

ソリュシャンの声に力が篭もっている。彼女にとってもコレは重要なのだろう。

 

「―――先も説明したとおり、基本的には人間を捕食するのは極力控えるようお願いします。その人物が利用価値が出来る可能性も有りますし、モモンガ様とどこかでつながっている可能性も有りますから」

 

そうパンドラが言えば目に見えてがっかりしたようだ。

 

「・・・しかし、消えても問題なさそうな者はかまいませんよ。犯罪者にもはや助からないだろう者、浮浪者など誰も気にも止めないものなら許可しましょう」

「ありがとうございます」

 

とたんに花が咲いたように笑ったのを呆れたように見た。

 

「セバス殿もくれぐれも目立たぬようお願いします」

「わかっております」

 

そういってお辞儀をするセバスだが、この帝都に来てからいろいろ目立っている。自覚はないのだろうが、早々に色めいた視線がセバスに集中していた。それはソリュシャンも同じ事であるが、彼女はあしらう術を知っているので心配はしていない。

 

「―――八方美人というのも考え物か」

「? なにか問題でも」

「いいえ別に」

 

しっかりしているこの二人ならまあ、大丈夫だろうとパンドラは気を取り直す事にした。問題は・・・。

 

「ところでナーちゃん―――失礼、ナーベラルの方はどうしてます」

「ああ―――、まあ、何とかしますよ」

 

頭の痛い問題にパンドラは遠い目をした。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

死にそうな目にあった"フォーサイト"は今、解散するか継続するかの瀬戸際に立たされていた。

 

「はぁー、アルシェの抜けた穴は大きいよなぁ」

 

あの事件から戻った後、アルシェが家庭の事情でチームを抜けたのである。まあ、前から聞いていたことであるので揉めることもなく、随分とあっさりとした別れであった。

 

「いっそのこと請負人(ワーカー)をやめるって言う選択肢も有るじゃない」

「まあなぁ、やめてひっそりと隠居するのも一つの手なんだけどさぁ・・・手持ちが心許ないんだよな」

 

思いがけず手に入れた白金貨だったが、他のチームと山分けし諸々の負債を支払ってしまえばほとんど手元に残らなかったのだ。

 

「まあ、家庭を持つとかなりの資金が必要となりますしね」

「・・・おい、なんで俺とイミーナを見るんだよ」

「今は大丈夫でも、後々家族が増える可能性も有りますし」

 

もはや完全にバレた二人の関係であるが、ロバーデイクは冷やかしている訳ではなく二人を純粋に祝福しようと今後の二人を心配しているのである。

 

「―――しかし、危険な請負人(ワーカー)を無理に続けるのもどうかと思いますしねぇ」

 

実際、他の請負人(ワーカー)達は早々に田舎に引っ込んでしまった。まあ、あんな事があったのだから当然である。

 

「だからといって、今更まともな職に就けるとは思えないぞ?」

「まあ、いろいろ恨まれてたりするしね」

 

そうなると、請負人(ワーカー)業を辞めるのも難しい。闘技場で稼ぐ手も有るが、やはりアルシェが抜けた穴が痛い。

 

「はあ、地道にアンデッド退治でもして小金を稼ぐか」

「―――悪いんですが、しばらくはアンデッドは見たくないです」

「あたしも」

 

もはやトラウマである。さてどうしたものかと悩んでいると、請負人(ワーカー)が入り浸る宿屋に不釣り合いな少女が入り口に立っていた。

キョロキョロと当たりを見渡し、ヘッケラン達を見つけると迷い無くまっすぐ向かってくる。

 

その姿が、何となくアルシェと重なった。

 

「失礼します。仲間を募集している"フォーサイト"とは貴方たちでしょうか?」

「ん?お嬢ちゃんは誰だい?」

 

わざわざ"仲間を募集している"と聞いてきたのだから、希望者なのだろう。しかし、見た目にはそこいらの貴族の令嬢に見える。どう見ても請負人(ワーカー)初心者である。・・・が、アルシェの件もあったので聞くだけ聞こうと促した。

 

「私は、シズ・デルタ。あなた方"フォーサイト"の仲間を希望します」

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

「ええっ!?ペテルさんとツアレさん結婚するんですか?!」

 

なにやら報告があると呼ばれて来てみれば、ペテルが照れくさそうに村長であるエンリにツアレと添い遂げると宣言した。

驚きはしたが喜ばしい報告に、エンリはハシャいですごいすごいとツアレの手を取った。

 

「おめでとうございます!ツアレさん」

「ありがとう、ございます」

 

ちょっとうつむきながらも頬を染めるツアレ。ソレを見て、ペテルを小突き回す漆黒のメンバー。

 

「俺らに何の相談もなくいきなり結婚たぁ。ペテルも偉くなったもんだなぁおい?」

「ていうか、いつの間にツアレさんとそう言う関係に?全然知らなかったんですけど?」

「モモン殿は少しニブ―――、いやいや、愛というものは静かに育むモノである。言いふらすような事ではないのである」

「ソレにしたって手が早いだろ?もう子供がいるっつーんだから」

 

ルクルットがちらりとツアレの腹を見るが、しかしすぐに視線をはずした。

 

「いやー、お前も父親になんのかよ~。少しはその御利益を寂しい俺にも分けてくれよな~~~」

 

バシバシと背中を叩くルクルットにペテルは少し困ったように笑っていた。

 

 

 

 

*****

 

 

 

エ・ランテルに出てきた一行は仲間の結婚祝いにあれこれと露天を物色していた。しかし、色事に全く縁のないモモンはなにを贈ればいいのかさっぱりわからなくて途方に暮れていた。

 

「えー、結婚祝い、結婚祝い―――、って、どうすればいいんだ?」

 

呆然としながらつぶやけば、ニニャが心配そうに声を掛けてくれた。

一通り見て回り、店の店主とも相談しながら構想をまとめていたモモンだが、―――なにやら自分にはオカシナ噂が有ることに気が付いた。

 

「なんで俺の娘が結婚するって話になるんだ?!」

 

結婚祝いと言うと、ほとんどの店の人が娘さんにですね?と聞き返してくるのである。娘どころか結婚もしていないモモンは仰天した。

いったいどう言うことかとニニャに聞けば、どうやらエンリとモモンは親子関係だと思われていると聞いてさらに仰天した。

 

「どうしてそうなった―――」

「だって、モモンさんエンリに恋人が出来ただけですごい落ち込んでいたじゃないですか。ソレが娘に恋人が出来た父親そっくりだから―――」

「・・・私としては、歳の離れた妹のように思っているんですが」

「いやー、年齢的に娘のほうがしっくりきますよ」

 

ニニャの何気ない言葉にモモンは<心臓掌握>された気がした。

えーえー!この歳になっても子供がいないほうがおかしいんでしょうね―――っ!!

などと内心ヘソを曲げまくっていたが、でももしかしたら息子の一人や二人いたかもなーなんて考える。

 

 

 

 

ダインとルクルットに合流してみると、なにやらルクルットが機嫌良さげに髪飾りを眺めていた。

 

ツアレの結婚祝い―――にしては少々彼女には似合わないデザインに思えて首を傾げると、ダインがこっそり教えてくれた。

 

「少し前に冒険者登録した美女にご執心なのである」

 

何でもとんでも無く美しい魔法詠唱者がエ・ランテルの冒険者組合に来たらしい。付き添いで男が一緒だったらしいが、顔立ちが似ていたのでおそらく兄妹か何かだろうと思ったそうだ。

しかし、美女だと思って甘く見てはいけない。ちょっかいを出しにいった男達を素手で叩きのめし、氷のように冷たい目で見下した。

 

骨を折られたが、付き添いの男が慌ててポーションを使ったので大事にはいたらなかったし、どう見てもちょっかい掛けた男達の自業自得だったので騒ぎにはならなかった。(ただし、何人かはMに目覚めた)

 

そんな恐ろしい女に見込みなどなさそうだが、彼女はどうやらモモンのファンらしい。仲間のルクルットにぐいぐい話を聞いてきた。

 

「まー、ルクルットの性格故、彼女から舌打ちと毒舌は絶えなかったのであるが―――」

「わかってねーな!あれは照れ隠しだって!」

「・・・この有様である」

 

ルクルットに春が来たらしい。ニニャは呆れたような半眼になっている。

 

けれど、その後問題を起こして姿を消してしまったそうだ。その問題というのは・・・スリの手を潰したそうだ。

ソレを見て、付き添いの男が彼女を抱えて走り去っていったという。

 

「―――結構な問題児じゃないですか・・・」

「まあ、相手が悪いから今回は不問って事になってるけど、やっぱりいろんな意味で心配だから今度来たら、私たち"漆黒の剣"に面倒見てほしいと組合長が・・・」

 

本当にいろいろな意味で心配だろう。しかし、登録したばかりと言うことはまだ銅クラスのはずだからなにも世話をアダマンタイトに頼まなくてもと思ったが、第三位階の魔法を使えるとことかなりのじゃじゃ馬に他の冒険者では手に余るだろうと予想されたのだ。そこで漆黒の剣に白羽の矢がたった―――というよりも、モモンに熱を上げているようなので、モモンの言うことなら聞くだろうと投げたのである。

 

「モモンさんグッジョブ!」

「・・・もんのすごい前向きですけど、ルクルットさん見向きもされてないじゃないですか。私に嫉妬するとかないんですか?」

「だってモモンさん骨だし、どうにもならないじゃないっすか!なら俺にもチャンスが有るってもんだ!」

 

何だったらモモンさんがこっぴどく振って、俺が優しく慰める。そしてルクルットの良さに気が付いた美女がそのまま俺と・・・ムフフフフ。

 

などと気持ち悪く笑うルクルットにみんな引く。

 

「・・・あー、ソレでその美女の名はなんと?」

「たしかナーベと言ってました。詳しいことは組合長が説明してくれると思いますよ」

 

南方の顔立ちの異邦人のようです。と、クネクネと気持ち悪いルクルットを置いてモモン達は歩き出す。

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

ネムは綺麗な花を見繕いながらプチプチと摘むと、昔母親に教えて貰ったとおりに編んでいく。幼い手では母のように上手くは出来ない。所々ほつれてしまっているが、それでも花の冠が出来上がる。

なかなかの出来栄えに誇らしげにしていれば、横ではブチブチと不器用に花の根までつみ取る大きな手があった。

ネムが教えたとおりに編もうとしているようだが、力加減を間違えてちぎってしまったり、花を握りつぶしてしまったりと上手く行かない。

いびつな冠は、ボロボロで土がついている。あんまりな出来に作った本人は体を丸めて落ち込んでいるようだった。

 

ネムが大丈夫だよと、自分の花冠を高い位置にある頭に乗せてあげた。

高すぎて上手く乗せられなかったが、引っかかったようだからまあいいよねと、ネムは笑う。

 

「あたしもはじめは上手く作れなかったもん。練習すればすぐに上手くなるよ!」

 

そう励ますと、猛獣のようなうなり声が返事をした。少し疑っているような声だが、ネムが摘んだ花を差し出せば戸惑い気味でも恐る恐ると花を受け取った。

そうして今度は倍の時間を掛けて花を編んでいく。その様子を離れた場所から見ていたツアレは、奇妙でありながら微笑ましいと微笑を漏らしていた。

 

生きる者の敵と教えられていたアンデッドが、大きな体を縮込ませて花を編んでいる姿はあまりにも不自然で似合わない。けれど、可愛らしく見えてしまうのは彼を恐れないからなのか。

小さな女の子と花畑でせっせと花環を作るデスナイト。その大きな背中に上ろうとしているやんちゃな子供達がいたが、困りながらも落ちないようにあまり体を動かさないようにしているのがわかる。

アンデッドがみんなそうなのかと思ってしまうが、アインズが特別で、彼が作り出したアンデッドもまた特別なのだと、妹に教えて貰った。

 

笑い声が空から聞こえてくる。見上げれば三人ほど飛び回る子供達に、必死に追いかける妹の姿。

アインズが貸し出している<飛行(フライ)>のペンダントは子供達の格好の遊び道具である。はじめはアインズが付き添いの時にしか使わせてもらえなかったが、村の大人が飛ぶことに慣れたことで、大人が付き添うことで使用を許可されるようになった。

 

いざというとき<飛行(フライ)>で知らせに走ったり、逃げたりする練習にもなるからと貴重なアイテムをポンと貸し出すアインズは、本当にこの村が好きなのだろうとツアレは思う。出なければ高価なアイテムを貸すどころか見せることもしないだろうから。

 

先を飛ぶ子供達が付き添いのニニャを挑発する。彼女はまだ飛行(フライ)を覚えて日が浅いので少しスピードが遅い。―――ソレにしたって、アダマンタイトの冒険者を挑発するとは、度胸がある子供達である。

案の定ちょっと本気になったニニャに全員捕まり、別の子供と交代させられた。

 

余りに穏やかな日々に、今までのことは悪い夢だったのではと思うことがある。思い出すことすら苦痛であるあの日々の証拠はたしかにこの体にあるのだが―――。

 

「ツアレお姉ちゃん」

「ガウッ」

 

呼ばれて振り返れば、ネムとデスナイトが大きな花環を盛っていた。

 

「あら、大きな花環ね」

「デスナイトが作ったんだよ!あたしの体よりおっきいんだよ!」

 

ネムの言葉に胸を張るデスナイトだが、まだまだ花びらよりも緑の茎の方が多い。しかし、そんなことは言わずにすごいですねと褒めればさらに体を反らしている。そのまま行くとひっくり返るのではと心配になるが、身体能力が並ではないのでいらぬ心配である。

 

「でね、これツアレお姉ちゃんに!」

 

そう言って差し出された花環は丁寧に編み込まれ、ツアレの頭にぴったりとハマるサイズであった。

 

「えへへ、けっこんおめでとう!!」

 

ネムの言葉に瞬き、その意味に言葉が出なくなった。

 

「お母さんがね、けっこんはとっても幸せなことなんだって言ってたんだよ!お父さんとけっこんして、おねえちゃんとあたしが生まれてとっても幸せだって言ってたの!」

 

ツアレお姉ちゃんが幸せになるのが嬉しいとネムが見上げてきた。そんなネムをツアレは強く抱いた。ツアレが感激したのだと思ったネムが笑う。

そんな二人を見ているデスナイトは、自分の花環もツアレにかぶせようとしたようだが、ツアレとネムを囲うようにすり抜けてしまう。そんな結果に残念そうに、でもいっかとばかりに満足すると子供らに手を焼いているニニャの手伝いに歩き出した。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

「ナーベラル・ガンマ殿、盗人の手を潰すことはいけないことではないかもしれませんが自重してください!!貴方は秘密裏にモモンガ様の護衛をするという大役に抜擢されたのですから!!」

「下等生物を叩き潰すのがそんなに悪いことなのですか?」

 

ナザリックの一室で、正座しながら小首を傾げる冒険者ナーベに、パンドラはため息を吐く。

 

「大通りのど真ん中でが問題なんです。人間と敵対した場合、人間に紛れ冒険者をしているモモンガ様が組合に依頼されて、貴方と敵対する可能性もあるのですよ」

「おのれ・・・、下等生物の分際でモモンガ様を使おうなどと―――」

「そこではないでしょう?とにかく、貴方は目立たずにモモンガ様のチームに入り込み、影ながら御身を護衛する役目なのですよ?その貴方がトラブルを呼び込みモモンガ様のご迷惑になる可能性もあるのですからね?」

 

そうパンドラが言えば、ナーベラルはしゅんと肩を落とす。

彼女もモモンガを困らせることは本意ではないのだ。反省しているようなナーベラルに、パンドラも出来れば護衛役を変えたくない。

只でさえ、ナザリック全土の大騒動を経て、ナーベラルとルプスレギナに護衛役が決まったのだ。守護者という重要な役目により、ナザリックから動かせないと言って階層守護者―――特に色ボケ二人をねじ伏せて何とか大人しくはさせたが、ナーベラルに問題があるとわかればまたもや護衛役の争奪戦が勃発するだろう。

 

二度とあんな面倒な目に遭いたくないパンドラは大きくため息を吐いた。

 

「とにかく!私がフォローできるのはここまでですからね?!隠れてナザリックと連絡なんて取っていてはモモンガ様から不信感を持たれてしまいますし、我々がモモンガ様をのぞき見などという不敬は取れません!ですからガンマ殿はご自分で考えてモモンガ様をお守りしなくてはなりません!」

 

パンドラの言葉に、さっきまで落ち込んでいたナーベラルの目が鋭くなり、真剣に聞き入っている。真面目ではあるのだが不安でパンドラの胃に穴が開きそうだ。

 

「まず、人間を見下すのを表面上だけでもやめてください。今はモモンガ様が庇護している存在です。―――まあ、主人のペットだと思えば貴方にはわかりやすいですかね」

 

人間を友人といったらナザリックの者は反発するだろうからあえてわかりやすい表現を使った。主人の愛玩動物と認識すれば、興味なかろうが気持ち悪かろうが邪険にはしないだろう。

 

「次に、不敬を働いた者を即殺すのはやめてください。何かの役に立つかもしれませんから捕まえるだけにしておくこと!」

 

まあ最悪、誰も見ていないところで有ればいくらでも殺して貰ってもかまわないのだが、後処理が大変である。

 

「まあ、この二つさえ守れば後は何とでもなりますかね。後は一番大事なことは、――――――貴方の命に代えてもモモンガ様もお守りすること」

「はい、それは十分承知しております」

「―――まあ、いろいろ言いましたが、要はモモンガ様の不利にならなければ本当はどうでもいいことです。モモンガ様の身に危険が迫れば先の言葉は忘れてもかまいませんから」

 

パンドラも、人間をそこまで守ろうとは思っていない。ただ、モモンガが気に入っている人間が死んだりしたら、主人が悲しむだろうなと思うから忠告するのだ。主人と天秤に掛ければ即刻切り捨てる程度だが。

 

(そこんところをデミウルゴス殿やアルベド殿は理解してくれたが、ほかの者はあまりにもモモンガ様の周りの人間を軽視しすぎだ)

 

ペットが死んで長らくナザリックにも来れないほど悲しんだ至高の御方もいるのであるから、そこら辺の理解もして欲しい・・・。

 

ナーベラルにはトコトン言い聞かせたので、そろそろエ・ランテルに戻すことにする。・・・・・・不安で胃がキリキリするが時間もあまり掛けられないから仕方がないとパンドラは納得することにした。

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

 




勝ち組
ナーベラル モモン時の護衛。
ルプスレギナ カルネ村での護衛。

情報収集役

セバス・ソリュシャン 帝国近隣表側の情報担当、資金集め担当
シズ 裏側の情報収集担当。

資材集め担当

ユリ・エントマ 種族的に人間世界での生活に向かないため
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