横浜市内で虎が逃走中。
武装探偵社に所属する異能力者、太宰治と国木田独歩は懸賞金70億と噂の虎を捜索していた。
或る日の夕刻、鶴見川のほとりで太宰が出会った白い髪の少年……中島敦は、自らを虎に狙われていると言う。
相棒である国木田の金銭で少年が所望する茶漬けをたらふく食わせ、信用を得たところで本題の虎探しについて触れたところ、本人がそう証言したのだ。
太宰には、すでに虎の正体が誰なのか分かっていた。
倉庫に少年を誘い少し意地悪な質問をする。
虎は君自身なのではないか……と。
少年は満月に感化されたのか、月明かりを浴びて、白く美しい獣の姿に変貌した。飢えているのか、太宰に襲いかかってきた虎を異能力で元の人間の姿に戻す。
気を失い、倒れたところを太宰が受け止めた。ちょうど、抱きしめるような形になって……。
「男と抱き合う趣味は無……」
ふに!
太宰がそう言いかけたところで、違和感に気付く。太宰が抱きしめている少年……の胸には、僅かながら膨らみのようなものがあり、それはいわゆる少女であることを主張するものであった。
抱きしめている身体の感触は、細身ながらしなやかである。
そういえば、白い髪に潤んだ大きな瞳は少年にしては愛らしすぎるし、虎化した時も肉球は薄いピンク色で、虎というより室内飼いの子猫のようだった。
男性的な格好をしている所為で男だと思い込んでいたが、これはもしかして……いや間違いなく……。
「キミ……女の子なの……?」
太宰が尋ねるも虎少女の意識は戻らず、少女を抱きとめた状態で呆然とする太宰に、駆けつけた国木田をはじめとする武装探偵社の同僚達が、虎少女の処遇について聞いてきた。
「その子どうするんだ? 懸賞金付きの指定猛獣だぞ……」
もし、虎少女を行政に引き渡したらどうなるのだろう?
最悪射殺。
良くてサーカス……。
探偵社の面々が、虎の今後を話し合っていると、超推理の乱歩さんがおそろしい未来を推理し始めた。
「その子、女の子でしょ? ホワイトタイガーって貴重だし、多分赤ちゃんを産まされるんじゃないかなあ……子虎可愛いし、いろんな動物園が親子で引き取りたがるから、その虎少女の未来は安泰……」
赤ちゃん?
どこぞのオス虎と……?
今、自分が抱えている少女が……?
太宰はいつも様々な女性をナンパしている、自他共に認める女好きだ。
そんな女好きの自分が、今日出会ったばかりの1人の少女に特別な感情を抱くことなんか、あり得ないはずだったが……何故かこの少女を他の男(しかも虎)に渡すと想像した瞬間に、嫉妬心のような感情が一気に暴発してしまい、つまり自分はこの少女に一目惚れしてしまったのだと気付いた。
そうと決まれば、今後の行動はただ一つ。
「結局、その子どうするんだ?」
国木田の2度めの質問に対する答えは、太宰の中で決まっていた。
「私がキミに就職先を斡旋してあげるよ! ついて来てごらん」
自分が虎になる異能力の持ち主であることが分かり、取り敢えず太宰さんに保護された。親切な太宰さんは、僕に就職先を紹介してくれるんだとか……。
青空の下、横浜の街を太宰さんに連れられて歩くこと数分、たどり着いた場所は役所だった。
何故役所?
そして、手渡されたのは一枚の薄い紙。
いわゆる婚姻届というものだ。
「はい。ここに名前を書いてね」
婚姻届の『妻』の欄を指差す太宰さん。
もちろん『夫』の欄には、太宰さんの名前。
突然の展開に混乱する僕。
「あの……これって?」
僕の質問に太宰さんは、
「うん。永久就職だよ!」
アッサリした解答。
それってつまり……。
「私のお嫁さんになるの……イヤ?」
と、超イケメンの太宰さんに優しく微笑まれたら、落ちない者はいないわけで……。
めでたく永久就職が決まりました。