また思いつきで書いてみましたので、おつきあいいただけると嬉しいです。
「ねぇ、ネスは怒ってる?自分の居場所を奪ったモンスターを、恨んでいる?」
私の馬鹿みたいな質問に、振り返ったネスは少し驚いた表情をしていた。
言わないようにしていたのになぁ。ポーラの代わりとして生まれてきた今、よけいなことはしないようにと決めていたのに。
リリパットステップへ続く洞窟。もう深くまで進んだ。
目の前に眩しい光が見える。悪意を持つモンスターにしては、やけに美しい光。
私達は奪い返しに来た。ネスの居場所を奪ったモンスターを倒すためにここに来たのだ。
それなのになんで、ここまで来てこんな事言ってるのだろう。はじまりはどこからだっけ?昔昔の出来事?
いいえ。
それは、今朝のこと。
奪え返せばいい。……出来るものなら。
「っ!」
随分といいタイミングで、昔の夢を見た。
ばくばくと鳴っている心臓が痛い。頭が少しずつ動き出す。あぁ、夢を見ていたんだ。
ゆっくりと上半身を起き上がらせる。額から汗が滑り落ちて、頬を伝い、顎から落ちる。布団に落ちた汗はシミを作って、真っ白な生地に跡を残した。
喉が痛いくらいに乾いていて、水を飲もうと洗面所に向かった。ここは安いホテルなので、キッチンはない。自販機で飲み物を買ってもいいけれど、これからはじまる旅を考えると節約はした方がいいだろう。
プラスチックのコップに水を注いで、それを一気に飲み干した。喉がゴクゴクと音を立てる。熱くなった身体は少しずつ冷めていく。
空になったコップを元に戻すと、洗面台の鏡で私と目が合う。金色のふんわりとした髪。宝石のようなキラキラとした瞳。とても綺麗な、私のではない姿。
ポーラは、どうしてるんだろう。
頭に浮かんだ言葉に、顔を歪めた。
ずっと考えないようにしていたことが、溢れてくる。考えても今は仕方の無いことだと思っていたこと。そう逃げていたこと。
ポーラの居場所に、リンナがいる。じゃあ、ポーラはどうしている?
私に居場所を取られた、ポーラは。
確かに、夢ではあった。物語のような、漫画のような、ゲームのような、心踊る冒険を体験してみたい。叶うことないと思いながらそれは確かな夢であった。
motherは私の大好きなゲームシリーズ。その中でもmother2は本当に好きで。こんな冒険できたらなぁと思ったことだってある。
薄い液晶越しに、貴方達と冒険出来たらって。
でも違う。私はべつに、ポーラの居場所を奪いたかった訳じゃない。
ポーラをなかったことにしたかった訳じゃない……!
画面越しに見た、大好きだった少女のキャラクター。彼女は今、怒っているだろうか。私を恨んでいるだろうか。
「……だめ、よけいなことは、考えない……。」
歯を食いしばって、考えを脳に押し込む。そんなこと今考えたって仕方ない。私にはまだ何も出来ないのだから。
こんなでは隙をつくる。私は明日、ネスとリリパットステップへ向かうのだから、もっとしっかりとしなければいけない。
そう、私は明日、ネスの居場所を奪い返しに行くのだ。
「……ごめんなさい……。」
鏡に映る少女の姿は、泣きそうな顔をしている。
私はわからない。ここにいていいのか。
***
結局あの後も寝つきは良くなかったが、ベットに横になるだけでも体力は随分回復した。
ネスに渡されたフライパンは、武器にしては薄く頼りない。けれどPSIもあることだし、ツーソンの敵の強さを考えると十分なのだろう。
何より、ネスがいる。
リリパットステップへ続く洞窟を進む。深く、奥に向かって。目の前にはネスのまだ幼い背中。それだけなのに、とても安心する。貴方と出会う、まだ物語がはじまっていない、安全な家の中よりも安心するのは何故だろう。
怖い目つきをした敵がどんどん出てきて、無傷とは言えない状況だけれど、不思議と怖くなかった。
ネスは今から、自分の2番目の居場所を奪い返すことが出来るのだろう。そしておとのいしで音を記憶する。美しいメロディーを。
その手伝いを私はしているのだ。ネスの居場所を奪い返す手伝いを、ポーラの居場所を奪った私が。
それって、どうなんだろう。
口は無意識に開いた。気づいた時にはもう遅い。汚い不安は言葉として、声として形になってしまう。
「……ねぇ、ネスは」
自分の居場所を奪ったモンスターを、恨んでいる?
そして、冒頭に戻る。
こんな事ネスに聞いたって仕方ないこと、わかってるのに。
頭が縋っている。ネスに救いの言葉を求めて縋っている。
ネスの口から出た言葉が救いにならなかったら、私はどうするのだろう。その可能性の方が高いのに。だって悪いのはネスじゃない。居場所を奪ったモンスターの方だ。
ネスは決して生き物を殺さない。でもそれはネスの優しさに過ぎない。
恨んでいたって、その倍の優しさでネスがそれを留めている可能性の方がはるかに高いのに。だって目の前の彼はゲームのキャラクターなんかじゃなくて、生きている人間なのだから。
「……ごめんね、変なこと聞いて。行こ、あれがここのボスみたいだよ。」
「あっ、リンナ!」
ネスの顔を見たくなくて、正確には私を見るネスの顔を見たくなくて早足で光へと向かう。
キラキラとしたそれは近づくにつれ明確な形をチラつかせる。序盤といえどボスはボス。その圧は私の足を竦ませる。
光の向こうの瞳がネスの姿を捉える。ずるりと光は私達の前に立ちはだかり、落ち着いた声で、私達に話しかける。
『よく来た。ここは2番目の「お前の場所」だ。だが今はわたしの場所だ。』
その言葉が他人事には思えなくて、ネスに気付かれないように、できるだけ自然に目線を落とした。
私なんかがと言ったらきりがない。だから、戦う。
もう後戻りしないと決めたのだ。牢屋越しにネスが笑いかけてくれた日から、どんなエゴになっても、世界を騙し続けることになっても、私はポーラという特別な存在として戦い続けると決めた。
ネスの為に。
それでいいと思っていたし、思っている。それなのに何でこんなに苦しいんだろう。
トン、と軽く肩を叩かれた。そんなことをするのはここにはネスしかいない。私がネスの方を向くと、彼はまたあの眩しい笑顔で私に笑いかけた。
そうして、光の向こうに向き合い、子どもにしては妙にしっかりとした横顔で、話しかける。
「僕は君を恨んだり、怒ったりしている訳じゃない。ここは僕の場所であるけれど、居るべき場所ではないから。ただ、帰るべき場所のためにここが必要なんだ。だから返してほしい、それだけだよ。」
まっすぐとしたネスの瞳をみて、私は言葉を失った。
覚悟を秘めたその横顔に、私は泣きそうになる。そんな、どうして貴方は私を救うような言葉をくれるんだろう。私はポーラじゃないのに。私は、リンナなのに。
本来は貴方と関わることなんて出来ない存在なのに。それなのにどうして。
……本当に、どうして。
胸から何かがこみ上げてきて、それが目から、口から零れそうになるものだから堪えるのに必死になる。
ぐっと息を飲んで、私も光に向き合った。ネスの後ろではなく、横に並んで、目の前の光を同じように見る。
もう一度、覚悟を決める。私は相変わらずポーラにはなれない。今もこれから先もその事に苦しみながら、時に絶望しながらも私はネスの隣で、同じ未来に向き合っていく。それでいい。
それで、いいの。
フライパンを握り直す。相変わらず軽いそれは、先程よりも頼もしく思えるのは、何故だろう?
「奪え返せばいい。……出来るものなら。」
そう言ったモンスターに、ネスは少し申し訳なさそうに、それでも決意を込めた瞳で、うなづいた。
だから私も、小さくうなづく。それはネスに対してでも、目の前のボスに対してでもあるけれど、どこにいるかわからない彼女に対して、覚悟をみせたつもりだった。
ねぇ、ポーラ。私は貴方になれないけれど。
それでも。前に進むわ。ネスの隣で、後ろで、彼を支える一人として、ここに、いる。
いつか貴女がこの場所を奪い返しにくる、その時まで。